だんだん風越 2021年5月24日

プロジェクトを評価するとは?

大作 光子
投稿者 | 大作 光子

2021年5月24日

前編「あんなこんななテーマプロジェクトの設計」を書き上げてから時間が経ってしまいました。5月20日は第5回(2021年度はじめて!)のアウトプットデイでした。保護者や関係者のみなさんにはオンラインで観ていただくことになりましたが,子どもたちがテーマに出会い,そこから自分の問いをもち深めていった過程と成果を伝えることができました。続々とフィードバックも届いており,ありがたいことです。

さて,子どもたちとの「プロジェクト」や「探究」でどんな世界をみたいですか?どんなことに挑戦しましょうか。「探究的」な活動にとどまらないために,どんな事を核に据えたらいいのか。プロジェクト設計を丁寧にしつつ,子どもたち自身が探究者としての自分を鍛えていくために何を委ねるのか。風越のスタッフはこんな事を考えながらプロジェクトをつくっているのですが,後編では,これらの事を考えるための一助として,プロジェクトの公正な評価と記録について書いてみます。

評価するのはなんのため?

 風越では年に2回,子ども,保護者,スタッフの三者での面談を行い,教科などの学習の記録とともに,子どもが風越で学んだことを自分でプレゼンテーションします。その際に,教科・領域を横断しながらも子どもの主体的な問いを核にして進めるプロジェクトをどのように評価(アセスメントの意味で使います)したらよいのか、ということもスタッフでよく話題にします。

 評価する理由の一つは、学び手である子ども自身のふりかえりに対してスタッフが価値づけるためです。子ども自身がプロジェクトを通して学んだこと、できるようになったこと、嬉しかったこと等々に対してスタッフから評価をすることで、自己評価の妥当性を高め、学びを価値づけることに繋げます。このようにして、子どもが苦しんで、楽しんで、主体的に学ぶことに肯定感がもてるようにエンパワーすることはスタッフのおおーきな役目。

 もう一つは、スタッフ自身のためです。協同的で創造的なプロジェクトを通じた子どもたちの喜びや学びに対して責任を保つためです。こうした評価のために、各プロジェクトでは,教科に紐づく学習領域・内容の記録とドキュメンテーションを共通に作成しています。まずドキュメンテーションについて,その実践と意義についてご紹介します。

ドキュメンテーションの意義:〜子どももスタッフもアセスメント〜

 ドキュメンテーションは、保育現場で実践されてきた、実践をありのままに記録する方法です。大豆生田啓友氏によると、その原則は,1)エピソードの記録と写真で構成されるもの,2)子どもの具体的な姿,子どもの心・育ちが伝わる記録,3)子ども,保護者,地域の人も見ることができ対話を引き出す記録,4)保育のふりかえりや計画づくりができるもの,5)保育の力が高め合えるもの(『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』p.10.)とされています。

 2020年度3ターム目のテーマプロジェクトから、各プロジェクトでスタッフのインストラクションに対する子どもの反応、子ども同士のやりとりやそれに対するスタッフの解釈を記録することにしました。これらは子どもたちに共有されることはもちろん、子どもの了解を得て保護者の方へもtyphoon(コミュニケーション・プラットフォーム)を通じてお知らせしています。このことで、アウトプットデイ(映像に遷移します)に参加した時に”プロジェクトのプロセスを理解したうえで成果を聞き、質問することができてよかった”という,参観者からの声がありました。

貼り出されたドキュメンテーションを眺めるスタッフ。2021年1月からはファイルにまとめる形式に変更した。

 ただ,ドキュメンテーションの記録と活用方法は,試行錯誤が続いている,というのが正直なところ。一つは記録をする時間の問題。プロジェクトの最中にスタッフ一人が記録してきたのですが,そうすると子どもにどっぷり関わることが難しくなります。これはスタッフの悩みどころ。5・6年Aの「森とつながる」プロジェクトでは,グループごとに子ども自身が持ち回りでドキュメンテーションする,という試みをしていました。ただ,子ども自身の時間を奪ってしまうという悩みもあります。
 もう一つは,活用方法です。先の大豆生田氏にヒントを得るなら,ドキュメンテーションを通じて子どもたちの姿を読み取りや省察をおこない,スタッフの行動・姿への省察に繋げることができるのかなと考えています。ドキュメンテーションがなかった時も,それは日々行われていていましたが,具体的なエピソードや記録と合わせてプロジェクトをふりかえり,次の時間にむけた準備や中期的な今後の見通しを持つことの助けになりそう。2021年度1ターム目のテーマプロジェクトの途中,スタッフ研修の時間に他の学年のドキュメンテーションを一通り読みながらフィードバックをするという,プロジェクトチューニングにひと役買うことはできないかと試みました。ドキュメンテーションの活用の方法には,もっと可能性がありそうです。

他のラーニンググループのドキュメンテーションを読みながらプロジェクトへのフィードバックをする様子

これぞ!子どもの姿をみる多様な評価

 学習指導要領解説「総合的な学習の時間」(*1)には信頼される評価の方法であること,多様な評価の方法であること,学習状況の過程を評 価する方法であることの3つが重要とされています。私たちのテーマプロジェクトでは,どのような場面でどのような評価をしてきたのか,いくつか事例を紹介します。

<3・4年 全体性たまご>

 2020年度の実践「風越学園でまちをつくろう」というプロジェクトでは,中間自己評価を「全体性たまご」(*2)という方法で実践していました。”自分がやっている事(探究している事)への経過(現在地)がわかるといいな”というところから,たまごの中に子どもが学んだと思ったことを,それぞれの項目の大きさで表しながら書き出します。文章で表現できていなくてもOK。子どもたちが表したキーワードからむーちゃん(村上)が主要なテーマを拾い上げて子どもと対話していきました。全体性たまごを使った評価は,評価であると共に次のフェーズに移るための発散としての位置づけでもありましたね。

<5・6年B マインドマップとルーブリック>

 2020年度の実践「風越タイムマシン」では,プロジェクトのはじめにルーブリック(*3)を示して探究に取り組み,学びのふりかえりとして,ルーブリックで自己評価しました。ルーブリックの7つの観点は,それぞれ「自分への愛」「仲間への愛」「情報活用スキル①収集」「情報活用スキル②まとめ」「情報活用スキル③発信」「歴史への愛」「世界への愛」。4つの尺度(S,A,B,C)から選んでそれはそれでよかったのだけど,子ども自身がなぜその評価だと捉えたのか,特に深く考えずに自己評価する子もいるだろうことから,子どもたちは尺度を選んだ理由を書いて,スタッフと面談をしたそう。とても丁寧に子どもたちの学びを知ろうとしていました。

スタッフのさんだー(山田)は,”評定のための評価ではなく,子どもがプロジェクトの経験をどう捉えているか”という,子ども理解のための文脈だったのだと話してくれました。また,プロジェクトを進めるために,スキルが示されているルーブリックは相性がいい気がするとも言っていました。要求されているスキルを知らないことが原因でYahoo!知恵袋を引用するということが起きるが,ルーブリックに示されていることで目指して欲しい姿・行動に繋がっていたと。一方で,「愛」という抽象的な概念や姿勢・態度がルーブリックの観点に対して”それをSにするために努力させようとするのは違うと思うなぁ”と,素直な違和感を語ってくれて・・・,さんだーいい探究者だなぁ〜。

プロジェクト前

プロジェクト後

子どもの自己評価として,もう一つ,プロジェクト前後にマインドマップを書いていました。プロジェクト事前は,テーマの発表があった時点で書いたもの。事後,子どもたちは最初に書いたマップなど忘れていて,こんなにも枝葉が広がった絵を描きました。プロジェクトを通じて,この子の知識や経験が豊かになったことがうかがえると思います。

<7・8年生 心情曲線と探究スキル>

 2021年度7・8年生のテーマプロジェクト「人間とチョコレート」では,甘いチョコレートが作られるまでの人間の知恵や社会の裏側について迫りました。子どもたちは自分の問いをもち,その問いを解決するために探究した結果,アウトプットデイが終わっても実験を続けている人もいます。
 振り返りでは,スタッフから発信された内容が書かれたワークシートが配られ,その先,自分がどのような問いに出会い,悩み取り組んできたのか,使えるようになった探究スキルは何かを意識しながらワークシート中央部に書き出しました。なかには問いを2回変更した人も。問いをもつって難しい。表現するって難しい,そんな声がいくつも聞こえてきました。

 ワークシート上部には,自分の取り組みに対する心情の起伏を表し,その理由を書き込んでいきます。当然ですが,各人のグラフは全く異なります。私たちスタッフはこれを元にして,これまで見えてきた子どもの姿との差異を読み取り,これからの子どもとの関わりに活かしていくでしょう。

探究したことと,その時の心情曲線を描いたワークシート

 ここまでテーマプロジェクトの事例を紹介しましたが,昨年度から,インタビュー,ルーブリック,絵(マインドマップ,全体性のたまご)など多様な評価方法を試行錯誤して,子どもの姿をみようと努めてきました。評価の本質は,学び手である子ども自身が学習者としての自分を自分で高めていくために在るのだと思います。そのためには,やりっぱなしの評価ではなく,その内容に対してスタッフが面談などの方法で価値づけたり,助言をしたりして,子どもに返していくことが絶対必要。そうやって互いの信頼関係をじっくり築いていきながら,風越での時間を充実したものにしてほしいなと考えています。

プロジェクトで「◯◯」に挑戦する!

 改めて、学校での学びをプロジェクトで挑戦する意義・・・そこには,探究を通して、今の子どもたちの20年後,30年後のどんな姿を想像しているのでしょう。今年度プロジェクトを通じた学びを大胆に実践するなかで考えたいことがたくさん出ています。

例えば、3・4年生、5・6年生・・・・と発達段階に応じて、プロジェクトで大事にしたいことの共通項と特徴を考えることが必要そうだなといった事。

 最後に,私はプロジェクトで挑戦するのは、Fun×Deep Learningの世界ではないかと考えています。深い学びって,奇想天外,わくわくドキドキ,混乱・葛藤を迫るようなテーマに出会い,学習者自身が自分で切り開いていくもの。
 ぜひ全国の学校で実践されている先生方が日々実践されている、プロジェクトを通じた「◯◯」への挑戦を交流して、よりよい学校教育の実践を創っていきませんか???風越がそんな船であるように、舵とりをするプロジェクト・コーディネーター(と勝手に名乗った)がいたらいいのかなと。とっぴんぱらりのぷー。


(*1)文部科学省「小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編」
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16/1234931_013.pdf

(*2)井庭 崇, 宗像 このみ, 「『全体性のたまご』によるデザイン技法:全体から分化させるワークショップとプレゼンテーションのつくりかた」, 7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs(AsianPLoP2018) , 2018

(*3)ルーブリック
学習の度合いを示す数段階の尺度と,それぞれの段階に対応するパフォーマンスの特徴を記述語で表した評価基準表である。必要に応じて,各段階に対応するパフォーマンスの事例を添付することで,学習者にとっては,より目指すべき姿や特徴を理解することが可能になる。

<詳しく知りたい人は以下もご参照ください>
・ギップス.キャロライン.V.著,鈴木秀幸訳. 新しい評価を求めて:テスト教育の終焉. 論創社,2001
・西岡加名恵,石井英真,田中耕治編. 新しい教育評価入門:人を育てる評価のために. 有斐閣,2015
・トムリンソン.C.A., ムーン.T.R.著, 山元隆春,山崎敬人,吉田新一郎訳. 一人ひとりをいかす評価:学び方・教え方を問い直す. 北大路書房,2018
・大豆生田啓友, おおえだけいこ著. 日本版保育ドキュメンテーションのすすめ. 小学館, 2020

大作 光子

投稿者大作 光子

投稿者大作 光子

本は親子をつなぎ,友だち同士をつなぎ,自分自身をエンパワーしてくれる。ライブラリーでは,せんせいと子どもたちがどんな風につながっていくのだろう?自由な読書と学びと連動したメディアの活用の可能性を探り続けてきた,動ける(からだを動かすことがすき)司書教諭です。

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