スタッフインタビュー 2021年1月11日

自分もつくることで、見えるものがある。(羽田 鋭)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2021年1月11日

「最近、はたちゃん楽しそうなんだよね。」と、かぜのーと編集部の辰巳さんから聞いて、今回インタビューをすることになった羽田(はたちゃん)。軽井沢東部小学校から派遣として2年という期間をもち風越学園にジョインした彼が、この9ヶ月で何を感じ、考え、今を過ごしているのか。じっくり話を聞いてみました。(編集部・三輪)

優越感の裏にあった劣等感

__ はたちゃんは、軽井沢東部小学校から派遣されてきているんだよね。

そうです。東部小の校長先生に、「石山先生(れいかさん)が西部小から風越にきているのと同じような話があるんだけどどう?」って声をかけてもらって二つ返事で「お願いします」と。

というのも、東部小学校って単級の各学年一クラスずつしかない学校で、異学年の交流という面では、風越学園と相性よく連携して研究できるのではないかなと思ってたんです。だから、校長先生にはずっと言っていたんですよ。「もし東部にも話がきたら、ぜひ僕に行かせてください!」って。

__ 実際、風越きてみてどうですか?

話をいただいたのが2020年の3月で、開校前ギリギリというところではあったんですけど、風越に来れると決まった時は浮き足立ってましたね。それこそ本の中で知っていたような人たちが実際にいる現場で一緒に働けるなんて思っていなかったので。ちょっと優越感じゃないですけど、自分すごいところに来れたぞって。

外の人たちに関してはそういう風に見栄を張れるんですけど、風越の中では畏れ多い気持ちもありました。他の先生たちは採用というステップを踏んで、選ばれてきていますけど、僕は普通に採用受けてたらおそらく受かっていないと思うんです。県から派遣という取り組みがあったからここに存在できている。だから、劣等感もすごくありましたね。今も多かれ少なかれあるんですけど。

同年代の人たち見てても、とっくんかざこしミーティングを引っ張ってたりして、あの不屈の精神はなんなんだろと思ったりもするし、さんだーもすごくスマートなんですよね。slack(スタッフが使用しているコミュニケーションツール)とか大量に流れてくる情報の中でもちゃんと「それいいですね!」とかアクションして、自分から仕事を拾っていく。

風越は校務分掌というのがはっきり決まっていないので、何か新しくつくろう、やってみようというものが出た時に、彼らは「俺やるよ」と手をあげるんですよ。でも、僕はあげられなくて。自分で仕事を取っていくということにも慣れていなかったし、手をあげる勇気もないし、手をあげてもやり切る自信もなかった。そういうところで劣等感や、ここで僕は何ができるんだろう、どうしようかなという気持ちは正直ありました。

__ じゃあ、結構苦しかったのかな。

うーん、今改めて振り返ると、苦しいというところにいく前に思考することをとめてしまっていたかなと思います。

あと、情報量も多いし、やろうと思うことや、やるべきことが本当にたくさんあるんですよね。テーマプロジェクトのことも、国語のことも、安全のことを考えるブランチに所属していたのでそのことも、全部つくっていかなくちゃいけない。それぞれに対してミーティングもあるので、一つミーティングが終わると、またすぐ別のミーティングがある。

「このこと頑張らなきゃな」と思うんだけど、そのまま次のミーティング入って、次のミーティング入ると「ああ、たしかにそのこともしっかりやらなくちゃ」って、尻切れとんぼであっぷあっぷになっちゃって。だから苦しくはなかったけど、一旦考えないみたいな、そんな状態になっちゃっていましたね。

でも、学んでいる感覚はすごくあって。これまで僕が公立でやっていたことがいかに表面でやってたのかとか、逆に公立はこういう良さがあるなとか。なので、全く進んでいないという感覚ではないんですけど、役立っているという感覚というよりは学ばせてもらってる、吸収させてもらっているみたいな、そういう気持ちが強かったかな。

自分の得意なことはなんだろう

__ 役立っているかどうかはきっと周りの人は気にしていなかったと思うんだけど、でもはたちゃんの中では、そういう気持ちがあったんですね。

そうですね。有用感が得られてなかったので、承認されたいという欲が僕の中にはありました。で、じゃあ何ができるだろうって考えたところ、絵を描くのが得意なのでそこで何かできないかなと。それこそ本当に藁をもすがるというか、少しでもすごいねって言ってほしくて、描き出したような気がします。

__ はたちゃんのイラスト、風越のいろんなところで目にしますよね。

きっかけは、アンディがくれたんです。夏休み明けにスタッフ一人ひとりをブランチにアサインするみたいな時があって、その時に「ブランチを見える化する」というところにアサインしてくれたんですよね。結局、ブランチの見える化はうまくできなかったんですけど、でもそこから見える化できるものがあれば見える化しようって。

__  見える化、をしていく。

たしか最初にしたのは、安全のブランチの振り返りだったと思います。風越ではじめての避難訓練をしたあとにいろいろと課題が出たんですけど、それが付箋でバーっと出てたから、みんなに見てもらいやすいようにしようと、付箋の内容をグラフィックにしました。

そうしたら、結構いろんなスタッフが声をかけてくれたんですよ。みほさんは、「ドキュメントで情報がきても読む気になれないけど、ああいう風になってると見てみようかなという気持ちになるし、それがきっかけでドキュメントの詳しいところも見てみようと思えたよ」と言ってくれて。それが嬉しかったですね。そこから無意識に見える化できるものを探すようになっていきました。

あと、自分の中で大きかったのは、KP法に出会ったことかな。

__  KP法?

KPっていうのは、紙芝居プレゼンテーションの略なんですけど、A4の紙に描いたものをホワイトボードに貼っていきながら発表するプレゼンテーションのことで。

子どもたちが10月に面談に向けて自分プレゼンの準備をする機会があったんですけど、その時にむーちゃんが「3・4・5年生は、KP法を使ってプレゼンをするのがおすすめだよ。わたしもやるからはたちゃんも一緒にやらない?」と誘ってくれたんです。

その時に、子どもたちに実際にやってもらう前に僕もお手本として描いたんですけど、KPと僕のグラフィックにするというのが、すごく相性がよかったんですよね。文章をバーっと書くんじゃなくて、何かキーになるイラストとちょっとした文字を書いて喋るとプレゼンテーションが効く、というのが。

それから、プロジェクトの最初の説明をする時とか、何かを伝える時にKPを僕自身も使うようになっていきました。

__ 今までは、イラストを授業や学校のことに用いることはしてなかったの?

黒板やおたよりに少しイラスト描いたりするとかはあったけど、KP法を知ってからイラストがすごく効果的に授業とつながるんだなというのは感じました。だから、むーちゃんにそれをパスしてもらったのはすごく転機だったかなあ。

そのあと11月からのテーマプロジェクトで、ドキュメンテーションをやっていこうというのも始まって。

__ 自分の強みや得意なことを活かして授業をつくっていくというのが、始まったんですね。

そうですね。ドキュメンテーションも相性がいいなと思いました。

ただ、なんて言うんでしょう。すごく嬉しいんですけど、そこにさらに過重していくとあまりいい方向にいかないだろうなというのは、なんとなく感じていて。元々「はたちゃんすごいね」と言ってもらいたいエネルギーで駆動している感じがあったから、それは子どもを見ていないよなと思って。

それこそ、子どもからいろいろとエネルギーを受け取ってそこから動きはじめる前期のスタッフとかれいかさんとかを見ていると、僕もそうあれるといいなと思うんです。子どものことで喜んで、子どものことからスタートしていくほうがいい。

やってみないと見えないものがある

__ 子どものことから、という話だったけど、そこに対しての気づきや変化がはたちゃん自身の中で起きているっていうことなのかな?

国語の作家の時間って、子どもたちの作品を例にあげながら「こういう風に書けるのいいよね」と知識を手渡していくんですけど、授業がスタートした段階ではまだ子どもたちの作品がなかったので、僕が物語や文章をつくってそれを例にだしていたんです。そうしたらあすこまさんが、「はたちゃんは、ちゃんと自分もつくるっていうことをしているよね」と言ってくれて。たしかにそれって、すごく大事なことかもしれないなって。

__ “子どもと同じことをする”ということで、何かそのあとの子どもとの関わりとか授業のあり方が変わってきたんですね。

変わってきたなというか、やらないと見えないなって気づきましたね。やってみることで、すごく細かい不都合が見えてくるというか。

例えば、KPだったらやってみると、上をこれくらいあけたほうがマグネットつけやすいなとか、この枚数で1分くらいの話になるんだなとか分かって。活動の見通しの解像度がやってみるのとやらないとのだと全然違うんですよね。

今、BOOKクラブで読書会をやっているんですけど、それも子どもたちに提案する前に、まずはスタッフたちでやってみてるんです。ワークシートを読むだけだとバーっと流れていくんですけど、実際にやってみることで、他の人と同じ本読むって面白いんだなとか、自分ひとりで読むだけだと雑に読んでたんだなというのを実感して、その実感を持って子どもたちに「やろうよ」と提案するのと、そこを持たずにとりあえずやるのでは、熱の伝わり方も違うなとも思っています。

あと、かなめんがすごく子ども目線なんですよね。テーマプロジェクトで同じチームに2回なっているんですけど、かなめんって本当に子どもと一緒にやるんですよ。教える立場というよりは、一緒に楽しむ人というスタンスをずーっと持ち続けていて。そこもすごく感化されているかもしれません。

生成的な変化を大事にしたい

子どものことからというのとはちょっと違うかもしれないですけど、僕、大学で教育哲学の研究室に入ってた時に、矢野智司先生の本を読んで「発達」と「生成」という考え方に出会ったんです。

__ 「発達」と「生成」。

発達っていうのは、社会の中で有用感のある変化のこと、生成というのは社会の有用性に回収されない、いいとも悪いともなんとも言えない変化のことを言って。僕は、生成的な変化を大事にできる人でありたいなって思ったんです。

学校教育もそうですし、社会の中で生成ってあまりフォーカスされないし、フォーカスされても結局何か役立つとかに吸収されちゃう。例えば、遊ぶことって子どもにとってはただ遊ぶことなのに、こんなにいいことあるんだよとされたりしちゃうじゃないですか。

矢野智司先生は、でもそうやってしちゃうんじゃなくて、いいとも悪いとも言えないままちゃんと取っておくということに生命の輝きがあるとおっしゃってて。それにすごく感銘を受けたんですよね。

でも僕は、有用的であるとか効果があるということに全部回収しようとしてしまいがちなので、子どもたちのことも、僕の生き方としても、このまま取っておくということをしていけるようになりたいなと思っています。

__ 風越の子どもたちのなかでありました?生成的な変化。

最近のことだと、キャンプをした子どもたちが、夜ファイヤーピックで火を起こして、その周りで踊っていたんですけど、それがすごく美しかった。

でも、こうやって僕がこれを「いい」って言っちゃうと有用性に回収されちゃうから、難しいところではあるんですけど、でもあの言葉では表せない変化を大事にしたいなと。

“自分は” から “自分たちで”

__ 最後に。はたちゃんが今特に関心あることやチャレンジしたいなと思っていることがあれば教えてください。

いろいろあるけどそうだなあ、今回のテーマプロジェクトで3、4年生はAチームとBチームに分かれたんですけど、今まではそれぞれのチームが全然違う活動をしていて、何をやっているのかお互い全く見えなかったのを、お互いのグループにアドバイスを言ったり、協力したり、一緒につくっていこうと、話す機会がすごく増えたんです。「チューニングしっかりしよう」ってみっちゃんが声かけてくれたんだけど。

それで、僕が翌日こんなことしようかなと頭で考えたことを、同じ光プロジェクトのメンバーのかなめんやあさはに話していると、むーちゃんがふわっときて、「明日どんな感じ?」と声かけてくれて、それやるならこんなのもあるよってアドバイスくれたりして。

そこから図工も関係していることだから、こぐまに声かけてみようって専門的なことを聞いたり、光のことだから理科のプロフェッショナルのたいちたまちゃんにも聞いてみようって、一個の授業のことについていろんな人が意見をくれる。それでできあがった流れって、僕が最初に組み立てた流れとは全く別物になって、新しいものになっているんですよね。

すごく時間もかかるし、手間もかかるけど、でもその次の日の子どもの姿ってすごく、すごく良くって。疲れちゃって話し合いイヤだなって思う時もあるんですけど、やっただけ良くなるという体感を得られたのが、すごく財産だなと思っています。

__ 話を聞いていて、他のスタッフと比べて自分は…と考えていた時期から大きな変化がはたちゃんの中でありそうだなと思いました。“自分は”から、“自分たちで”に変わっているよね。風越への派遣も残すところあと1年で、これから戻る公立校にこういうものを持って帰りたいなみたいな気持ちもあったりするのかな。

そうですね。ただ、公立にこれを持っていこうとかばかり考えていると、風越の表面のところだけ持っていくイメージになっちゃうのかなって。だからまずは風越のメソッドだけじゃなくてマインドのところまで、「なんでそれをやっているのか、やりたいのか」の奥にあるコアを体得できるまで浸かろうかなと。


インタビュー実施日:2020年12月25日

#2020 #スタッフ

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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