軽井沢風越ラーニングセンター 2024年7月2日

ラーニングセンターの現在地と未来

岩瀬 直樹
投稿者 | 岩瀬 直樹

2024年7月2日

軽井沢風越ラーニングセンター(以下、ラーニングセンター)を2022年に開所して3年目を迎えた。ホームページには、3つの目標として以下のことが書かれている。

1「学習者中心の学びのための、スクールベースの教師教育プログラム」の開発
学園内スタッフならびに外部の共同研究者と連携してプログラムの開発および効果の検証と改善を行い、2023年度は長野県からの2名の派遣教員と共に、さらなるプログラムの改善に向けて取り組んでいます。

 2プロジェクト型学習による探究的な学びをつくるために必要な、教師の力量形成の道すじを明らかにする
探究的な学びをつくる実践者の育成過程はわからないことが多くあります。軽井沢風越学園のフィールドをいかして、教師が実践者として力量を高めていく技術的熟達への道すじを明らかにすることに挑戦します。

3風越学園スタッフの実践・研究の推進
風越学園のスタッフが一年間の研究テーマを持って実践をすることをラーニングセンターでサポートします。研究の成果は学園で開催しているアウトプットデイや学会をはじめとして、さまざまな形で公開していく予定です。

3年目を迎え、ラーニングセンターは今どんなことをしているのか。その現在地を書き記しておきたい。

プログラムのブラッシュアップと自治体とのつながり

スクールベースの教師教育プログラムは開発を始めて3年目。Ver3になった。探究的な学びのプロセスのデザイン、児童・生徒への関わりスキル、必要な教材研究、学習環境の設定などについての教師の力量形成する要素を導き出し、そこから①〜⑧のプログラムを構成した。それぞれのプログラムはお互い関連しあっていて、学習者本人がその学びの中で自分なりの力量形成の道筋を見出していけるような「統合型カリキュラム」ができつつある。

今年度は長野県教育委員会からの派遣教員2名、大阪市門真市教育委員会からの派遣教員が1名、そして個人申し込み(後述)の受講者の計4名が、1週間ぎっちり詰まっている時間割で学んでいる。

例えば④の「場の構成・ファシリテーション」をみてみる。このプログラムでは、まずスタッフ・たいち(井上)の「科学者の時間」の授業を「ファシリテーション」の視点から継続的に観察することからスタートした(たいちは今年度、ラーニングセンターでプログラムを一緒につくっている)。

何度でも観察に行けるのがスクールベースの強みだ

90分授業を継続的に観察して集めたデータをもとに、ファシリテーションのワザ(含スキル)を整理し、そのワザを意味づける考えや判断(概念的知識)、その背景にある価値観や信念は何かを探究していく(その前には、授業の観察の仕方、記録の仕方、整理の仕方を学んでいる)。

個人での学びと共同での学びを繰り返していく。ディスカッションで深めていく。付箋での記録は、幼稚園で行われている付箋記録から学んで取り入れている。

授業者にインタビューしたり、何度も授業を見にいったりしながら、分析を深めていく中で、実践知を見るメガネの解像度をあげていく。そしてファシリテーションのスキルは、その人自身の信念や価値観、もっと言えば「あり方」に規定されるという当たり前のことに気づいていく。「あり方」と「やり方」は常に往還する(あり方についてはリフレクションのプログラムでも取り扱っているが、それはまた別の機会に)。

自分たちの探究の結果に、授業者からフィードバックをもらう。授業者と何度も直接やりとりできるのもスクールベースだからこそ。

このように「ファシリテーションのスキル」と「その人自身」の関係について学んだら、次は「お稽古」だ。

例えばインストラクションスキルのお稽古をした後、すぐにスタッフのインストラクションを見に行けるのもスクールベースならではだ。2学期からは授業実践場面が増える。その様子を録画して、一緒に見ながら振り返っていく、実際の場で「お稽古」していくわけだ。

インストラクションのお稽古の後、すぐに9年生の授業のインストラクションの観察に行き、その後観察したことを整理して自分のお稽古に生かしていく。やってみるからこそ、見えることが変わる

また、このプログラムと並行して、それぞれファシリテーションの文献を自習で読んでいく。どこまで深めるかは一人ひとりに委ねられている。

ここでは1つのプログラムのある場面を紹介したが、このようにスクールベースである強みを活かしながら、それぞれ8つのプログラムが毎週進んでいく。受講者はそれぞれ課題もあるので大忙しだ。

また各プログラムの担当者はできる限りお互いの授業の様子を見に行き、要素が繋がるように意識している。各プログラムが繋がっているからこそ、受講者は学びを統合しやすい。

派遣2年目のおかつさん(竹内)は、今年度は教師教育者としてのチャレンジがはじまった。

1年目の「学習者としての経験」を土台にしながら、教師教育者、研修プログラムの「実践者」として場に立つ。この経験を通して「教師の学びをつくる実践者」としてどのように自治体に生かしていくかを探究している最中である。彼が自分の道筋を自分でつくっていく姿をみるにつけ、「自分の成長の道筋を自分でつくれる人」を支えることこそがこのプログラムの目標なのだなと気づかされる。

なぜこのプログラムを自治体と連携したり、派遣を受け入れたりしながらつくっているのか。それはラーニングセンターに込めた願いにつながる。公立学校を中心とした公教育が変わっていく触媒になりたい、公教育に貢献したい、ということだ。

これは軽井沢風越学園の社会的意義の1つだとぼくは考えている。「幸せな子ども時代を過ごす場はどのような場なのか」という大きな問いを共有しながら、それぞれの現場の試行錯誤や知を持ちよる。公立学校と共に変わっていく「港」のような役割を果たしたい。ラーニングセンターはそのハブを目指している。

例えば、ここで学んだ人が自治体で教師の学びや学校支援の専門家となっていく。長野県教委との連携では、この4月から昨年までラーニングセンターに派遣されていたほりけん(堀内)さんが松本市の研修センターで研修担当の指導主事としてはたらきはじめた。来年4月にはおかつさんが県に戻る。今、来年度に向けた県の研修のデザインに取りかかり始めている。このように教師の学び・研修デザインを担える人が増えていけば、きっと学校は自治体単位からも変わっていくはずだ。

門真市との連携もスタート。これは今、関係を育て始めているところ。どうなっていくか楽しみだ。

「でも、この取り組みって風越の中のスタッフや子どもたちに繋がっていないんじゃない?」と声が聞こえてきそうだ。実際、過去にはそう公言するスタッフもいた。でも実は、思いっきり風越のスタッフにつながっている。ということはその先の子どもにもつながっていく。

風越のスタッフにとってのラーニングセンター

おかつさんの2年目は、彼の記事にあるように、毎週水曜日のスタッフ研修日(通称スイゴゴ)のコーディネートをすることになった。全体の研修の企画やデザインを実践を通して学び、毎週の研修のプログラムデザインに参画することで、1年かけて学んできたことを活かしている。この記事を書いている6月下旬現在で、4つの研修づくりに関わり、時には一緒に場に立った。これは彼の学びにもなるし、風越スタッフにとっては研修をつくるプロセス自体が学びにもなる。何より研修自体がよりよくなることで、風越スタッフの学びが深まっていく。

ホームを考える研修を、スタッフと一緒に設計し実践。

今年の受講者も、スタッフと一緒にホーム運営したり、時には授業にも関わったりしている。なにより真摯に学ぶ姿勢そのものが、きっと組織に、何より子どもたちによい影響を与えているはずだ。

本来は新入職スタッフにはせめてスタートの3ヶ月、先の研修プログラムを受講してほしいのが本音。受講することで「これから私は風越で何を学び続け、何を磨き続ければよいか」という構えみたいなものが醸成されると願うからだ。しかし、今のところ新入職スタッフが3ヶ月現場から離れて研修を受けられるような体制ではない。(そんな内部事情もあって、派遣教員や個人で希望した受講生を対象にして、プログラム開発せざる得なかった側面もある。これはこれでなんとかしたい。)

そこで今年度から、「出張ラーニングセンター(出張ラーセン)」をはじめた。受ける余裕がないなら、こっちから出かけてしまえ。プログラム開発で得られた知見を生かして、スタッフ一人ひとりのニーズに合わせて学びの場をつくることにしたのだ。

例えば「リフレクションを学びたい!」という新入職スタッフとは、放課後1時間「リフレクションとは」を学び、プログラム受講者のリフレクションを読み合うプログラムを行った。「リフレクション、これから続けてみます!」と力強い声。

他のスタッフも聞きつけて、一緒に参加。受講者の学びが風越スタッフに滲み出ていく

また「授業を見て学びたい」というスタッフの声から、④の「記録・観察プログラム」をカスタマイズして実施した。本人のニーズをきき、一緒にある授業を見に行き、記録したものをもとにディスカッション。「風越にきて一番楽しい時間だった!」と新入職のスタッフ、まっつー(松江)。そう、ぼくたちは教師という専門職。学んでその専門性を磨きたい、という欲求が根底にある。2年かけて丁寧に開発してきたからこそ、今、一人ひとりの学びたいに伴走できつつある。この取り組みはどんどん拡大していきたい。学校がよりよくなるには、結局一人ひとりの実践の充実しかない。それを支えていきたい(でも本音はスタッフが数ヶ月プログラムに浸れるような体制づくりだ)。

また、ラーニングセンタースタッフでもあるみっちゃん(大作)が、日常的にプロジェクトや土台の学びの設計や実践の相談、サポートに関わっている。

今年度は、ラーニングセンターで『プロジェクトの学びでわたしをつくる』の増補改訂版を出版した。これは読んでくださる皆さんの実践に寄与したいという想いと同時に、中のスタッフの実践を支えたい気持ちもあった。最近、この本を脇に置いてプロジェクトを設計していたり、実践の後読み直している姿に出会うことがあって素直にうれしい。

そのうち、この本を真ん中にスタッフと公立の先生方が実践のことを話すことが生まれるはず。「中に貢献するのか、外に貢献するのか」というのは問い方のマジックだ。

両者がつながっているからこその豊かな学びもある。そのいい例が実践ラボ、だ。

スタッフの実践を開く場・実践ラボ

大人も自立した学び手であってほしいという願いから、ラーニングセンターでは学びを深めたいスタッフのための「実践を開く」場づくり、「実践ラボ」の運営のサポートを昨年から始めた。昨年度は4本の実践ラボを実施した。

ようへい(11月17日)「中学校数学科において目指すべき子どもたちの学びをみんなで考える」9名
たいち(12月15日)「概念で深める探究の学び in 科学者の時間」39名
ざっきー(2月21日,3月22日オンライン)「プロジェクト学習を支えるものづくり学習環境とは?」16名
こぐま(3月26日,5月29日)「子どもが自由になる環境の設定と大人の関わりとは?」14名

実践ラボの意味や価値は、それぞれのかぜのーとの記事にくわしい。中と外の境目をあいまいにして、共に学び共に変わっていく、を体現する場だ。今年度もいくつか開かれる予定。今から楽しみだ。

私立学校は、公立ほど働いている人の入れ替わりは多くない。外の風が入りにくく、どうしても中に閉じてしまいがちだ。また研修機会の少なさもよくきく。だからこそ意識して外とつながって風が流れ続けるようにすること、その機会をスタッフにとっても学びの場となること、そのためにラーニングセンターがある。

そのほかにも、探究パイオニア校(松本市立丸ノ内中学校・田川小学校・開智小学校)の支援、実践研究のサポート、視察研修の実施、研修プログラムの学会発表等、ラーニングセンターの事業は多岐にわたるが、また違う機会に書きたいと思う。

特に探究パイオニア校の支援は、これからの学校支援のかたちを考える上で重要な取り組みだと思う。

港のようなラーニングセンターを目指して

ここまで書いてきて、あらためてスクールベースの学びの価値を実感する。

教師という仕事は対人援助職だ。その専門性は、身体を伴って学び、磨かれていく。理論と実践を往還するには、フィールドがすぐ近くにあって日常的に行ったりきたりできることが不可欠だと思う。

とはいえ、まだ3年目。全てのスタッフにとっての学びの場にはまだなっていないし、プログラム自体ももっとブラッシュアップし、整理していくことが必要だ。運営体制の脆弱さもある。

今年度、自治体からの派遣の他に、個人で「ラーニングセンターで学びたい」と門戸を叩いた方がいる。その熱意から1年間の個人の受講という仕組みもできた(関心がある方は問いあわせてくださいね)。

妄想を言えば、個人で学びたい人が毎年何人も受講していて(民間の教職大学院のような感じ)、自治体派遣の人と、風越のスタッフがまざりあいながら学び、磨き合う、そんなセンターに育っていくといいな。スクールベースの学びの場の価値、公立とともに変わっていく港としての役割をもっと深めていきたい。

3年目でまだまだ駆け出しのセンターですが、今の所こんな現在地です。

 

#2024 #軽井沢風越ラーニングセンター

岩瀬 直樹

投稿者岩瀬 直樹

投稿者岩瀬 直樹

幸せな子ども時代を過ごせる場とは?過去の経験や仕組みにとらわれず、新しいかたちを大胆に一緒につくっていきます。起きること、一緒につくることを「そうきたか!」おもしろがり、おもしろいと思う人たちとつながっていきたいです。

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