軽井沢風越ラーニングセンター 2024年6月21日

ジリツした学習者って?

竹内 克紘
投稿者 | 竹内 克紘

2024年6月21日

ジリツした学習者のジリツには自律と自立、どちらの言葉がふさわしいのだろう?

長野県教育委員会からの派遣で風越学園に参画し、昨年度からラーニングセンターで学びながら、折々考えていることの1つ。この2年間の派遣研修期間で、ジリツした学習者のあり方を、自分の歩みを通して考え続けていこうと思っている。そこで、最近のぼくの歩みを残そうと思い、この原稿を書くことにした。

23年度をふりかえる

ラーニングセンターでの学びは、この4月から2年目を迎えた。

昨年度をふりかえると、風越で実践する喜びをたくさん味わったと感じる。テーマプロジェクトで、自分ごとのテーマを見出し、試行錯誤しながら問いを切り拓いていく子どもの姿に出会ったこと。同僚からフィードバックをもらったり、同僚の実践を観察したりして、それまでにはなかった視点に気づき、実践を広げたこと。仲間(大人も子どもも)と学び合うからこそ、気づきや試行錯誤が豊かになると実感した。

その一方で、痛みを伴うこともたくさんあった。風越では、偶発的に様々なことが起きる。同僚からのフィードバックが、ぼくのネガティブな感情を刺激することがあった。逆に、ぼくがネガティブな感情を刺激したなぁと自覚したこともある。ぼくがインストラクションをしていると、一人二人と子どもが離れていくのに、別のスタッフが即興的に入り、インストラクションをすると、同じ子どもが生き生きとしていくこともあった。

子どもも大人もつくり手であること。大人も学び続けること。向かっていきたい場所ははっきりしているのに、行動できない自分がいる。理想と現実のギャップが浮かび上がると、ざらつく感情を抱えていることが苦しかったのも事実だ。



私たち一人ひとりの生きてきた文脈は違う。共同実践では、痛みを伴うことは当然だと、頭では理解していても、感情が整理できない。これまでのぼくは、想定外を取り除き、同調して、都合のいいところだけを取り入れて生きることが上手だった気がする。その積み重ねの影響は、共同実践の難しさをネガティブに感じて、体を固くすることに表れているなぁと実感する場面がたくさんあった。

テーマプロジェクトを一緒に実践したあすこま(澤田)あず(栗山)と、何度もやりとりし、子どもの事実をもとに実践を考えたことで、思いがけない子どもたちの姿に出会うこともあった。「今日のあの子のこと、話してみましょうよ」と、ホワイトボードを挟んで議論したこともあった。共同リフレクションを通して、実践者が自ら学ぶこと、そのプロセスを経験し、大きな可能性を実感できたことも事実だ。風越の実践をつくることに参画しながら、自然と学習者としての教師になっていることを自覚することもあった。

24年度をどう迎えるのか?

今年度は、4月、ごりさん(岩瀬)みっちゃん(大作)から、この一年をどう過ごしたいのか、そのために何をするのかと問いかけてもらい、研修プログラムを自分で設計することになった。自分で決めて良いとなると素晴らしいことのように思えるが、ぼくはおそれを感じた。

他の誰でもない、自分が決めるということへの不安や緊張があった。とはいえ、決めるということは、自分の学びに自分で責任をもつことだから、不安とか、苦しいとか、そういうことではないなぁと直感した。

でも、なぜぼくは、自分で決めることにおそれ(不安や緊張)を感じたのだろうか?

1つめは、責任感に伴うものだと思う。きちんとやるんだ、失敗してはダメだぞ、と自分にプレッシャーをかけた。でも、ここでいう「失敗」って、どんな失敗のことをイメージしたのだろうか?

2つめは、依存。ぼくが決めるより、ごりさんとみっちゃんの判断に従うほうがいい。専門家の教えならば大丈夫だという思いがあった。本当は二人に決めてほしいと思っていた。

このように不安や緊張の背景にあった自分の考え方を言葉にしてみると、違和感を感じてくる。  

「子どもも大人も学び手で、大人も学び続ける存在で、自分にしかない知をつくり続けること」を大切にしようとしているのに、不安や緊張の背景にあるぼくの意識は受け身で、風越のラーニングセンターがつくるカリキュラムを、外側にいるぼくが受講するかのようだ。ぼくが客で、まるでサービスを消費するような感じもする。

「これはつくり手の意識ではないな」という気づきが、ぼくの中に生まれてきた。

「学習者」として、自分から前向きに学ぶこともあれば、受け身になっていることもある。ジレンマは絶えず自分の中にある。風越で学ぶ中で、ジレンマを自覚することが増えたなぁと感じている。理想と現実の一貫性のなさを自覚することは、ずっと苦しかったのだが、最近、その苦しいという意識が変化している。「今、変容するチャンスがきた」と、少しワクワクすることが増えてきている。価値判断はいったん保留して、現実をありのままに見つめ、そこから次の展開を考え、やってみようという心構えに変化しているように思う。

では、どうするのか?

今年のキーワードは「風越づくりへの参画」とした。

ぼくの中には、受け身な学習者としての自分がいるのも事実で、そんな自分が自在に変容していくプロセスが、風越づくりに参画することに重なると考えたからだ。

ラーニングセンター1年目の派遣研修生への観察と記録の授業をもつこと、毎週水曜日のスタッフ研修日(スイゴゴ)のコーディネートをすること、ホームスタッフとして風越の子どもたちと共にホームをつくることなど、風越づくりに様々な角度から参画することを決めた。

スタッフとの研修を実践して

風越では水曜日の午後はスタッフ研修が位置づけられている。この研修のコーディネートが、今年度の実践の1つだ。5月15日は、ホームの研修を、ホームブランチのメンバーと設計して実践した。この研修の2日後、記録した映像を使ってストップモーション方式のリフレクションをした。ごりさんにメンターになってもらった。

ストップモーション方式のリフレクションでは、実践場面の映像を数分見た後、一旦映像をストップする。映像に記録された事実をもとに、メンターとメンティーがやりとりする。ストップモーションでふりかえることで、状況をありのままに観察し、冷静に考察することができた。ぼくが大事にしたかったことや、思い描いている学びのあり様とは一致しない自分の姿がはっきりした。自己内で思い描いているジレンマとは違い、記録された事実が不一致と向き合わせてくれる。対話によるリフレクションでは、メンターの指摘によって、メンティーに理想と行動との不一致などとの向きあわせをさせることもあるだろうが、メンティーにとっては大きな負荷がかかるはずだ。映像記録を持ち込み、対話的にリフレクションをすると、メンティーは事実をそのまま受け取り、冷静に向き合うことができると実感した。

「今、厳しい表情をしていますね」と、ごりさんが話す。ビデオから受け取れる事実がシンプルに伝わるだけで、ぼくの中でリフレクションが始まる。ぼくは、この時の感情や望み、ここに至る文脈など、何がどう影響していたのかを考えていた。ごりさんから「どうすればよかったでしょうか」「今、ここにもどったら、他にどんなことができそうか」と伝えられると、映像に記録された研修を受講しているスタッフの事実から「こんな問いかけをしていたら、もっと対話しながら創造的な発想が生まれたのかもしれない」などと、新たな行為の選択肢が広がっていく。

最後に、ごりさんが「おけいこによって、人は成長する」と教えてくれた。平易な言葉だけれど、言葉の意味することを考えると、感動した。

今回、ストップモーション方式での対話的なリフレクションを経験した。この経験は、ぼくが、対話を通して成長する関係性の在り方そのものを学ぶプロセスにもなっていた。対話を通して、共同して実践知をつくる方法は、自然と学べるものではない。適切な場やタイミングがあることが必要だ。こうした環境を、学習者として体験するにとどまらず、実践者としてもこの環境をふりかえっている。どのような環境を整えることで、学習者は対話的に学び、成長することができるのか。それを実感を伴って構想しようとする自分がいる。

ぼくが、適切なおけいこによって学習者として成長することは、適切なおけいこを実践者として実践することにもつながっていく。だれもが共同して経験から知識をつくり、成長することができる。共同して互いに成長する方法を豊かにすることができる。そうして、人はどこまでも成長できる存在だということを信じるマインドが形づくられていくと信じられるようになってきた。学習者が中心になって学ぶための方法と、そこに貢献することの価値観が一致して、ぼくの中で「ジリツした学習者」のあり方が豊かになっていく感じがしている。

5月を終えた今

人は、適切な環境に置かれることで、主体的に、自在に変化できるのだという実感をもつことができた。風越での大人の学びの場づくりに参画しているが、今回記したぼく自身の変容以外にも、様々な変容を感じながら過ごしている。再び発信していこうと思っている。 

度々、風越のスタッフから「この先、どんな未来を思い描いているの?」という質問を受けることがある。昨年度までは、この先の自分は、どんな環境で働き、どんな役割を果たすのかを考えていた。今は、どんな環境に身を置くにしても、教育の理想を携えて、理想にどう関与していくことが、自分の専門性をよりよく発揮するのかを考えている。実践者としての核の部分を確かめながら表現することが増えているように感じる。

1年と2か月。何かが少しずつ変化はしている。ジリツした学習者となるプロセスに身をおいていることは確かなようだ。

#2024 #スタッフ #軽井沢風越ラーニングセンター

竹内 克紘

投稿者竹内 克紘

投稿者竹内 克紘

長野市生まれ 県内色々な場所を渡り歩き、佐久市に落ち着きました。
浅間山と八ヶ岳を見上げながら、四季折々の風景を楽しみながらお散歩するのが大好きです。
風越で、自分と仲間とでつくる幸せのあり方を、考え続けていきたいです。

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