2024年2月28日
2023年年度末に実践ラボ「プロジェクト学習を支えるものづくり学習環境とは?」を開くことにした。軽井沢風越学園で自分が担当している教科の1つに「技術・家庭科」がある。この教科の名前がつけられた技術家庭室の学習環境についてあらためて考えたいという内容の企画だ。企画に至った背景や思いについて、実施前に書き留めておこうと思う。
技術・家庭科の特徴として「実践の場は社会や生活の中である」というところがある。学校中での学びが、社会や生活の中での活用を前提としている。そしてもう1つ特徴としてあるのが、その教科内容が社会や生活の変化に強く影響を受け変化していくことだ。例えば、AIなど先進的なテクノロジーや多様な性の理解など、ここ数年で話題になったトピックはその変化の例として分かりやすい。
軽井沢風越学園では技術・家庭科の学習を単一の教科の時間として行わず、プロジェクトの時間で学習している。プロジェクトはテーマプロジェクトとマイプロジェクトの2つの時間で行われている。テーマプロジェクトでは、こちらから対象や方法の提案が行われるので、学習活動や学習内容を構成的に設定して実施することが多い。例えば、マルエネはとても分かりやすい例だ。一方でマイプロジェクトはこちらから内容を構成することはかなり少ない。その分、個人の興味関心、情熱から起こり、グループも学年を超えてつくられることもあり、躍動する子どもたちの様子にパワフルさを感じる場面も少なくない。
このマイプロジェクトの時間、僕は技術家庭室という「場」につき、そこで起こるプロジェクトに関わることが多い。そこにいると、いろんな「~したい」が持ち込まれる。遊びの道具をつくりたい人もいれば、理科での実験道具として竜巻発生装置をつくりたい人(その様子は以前のたいち(井上)のかぜのーとで紹介されている)もいるし、友だちの誕生日プレゼントをつくりたい人、推しグッズをつくりたい人もいる。最近は140km/hで過去や未来にいける車をつくりたい人もやってきた。
何かをつくるということには、それ自体に学びが含まれる。いわゆるスキル、テクニック、技能といわれるものだ。それに加えて、テクノロジーそのものだったり、生活を豊かにすることだったりもそのプロセスを通じて学ぶことがある。
「実践の場は社会や生活の中である」という意味で、スキルやテクニック、技能は、正直なところ実践場面が限定的になってきていると思う。どの家庭にもノコギリやミシンがあるという時代ではないからだ。それでも自分の力でつくりだし、創意工夫していくことには価値があると考えている。以前のかぜのーとで触れたように、他でもない「私」がつくるプロセスに学びがあり、自分の情緒を育むことができるからと思っている。マイプロジェクトの時間は、まさに実践の場になっている。
同じくラボでたくさんのマイプロジェクトに関わっているこぐまさん(岡部)の記事でも触れられているように、微妙な力加減が必要な関わりによって「やりたい!」「できるかも!」の傍にいる。関わりと同時に「場」の環境もとても大切に考えている。こぐまさんの実践に習って、人が直感的に理解できるように道具を整えたり、材料のバリエーションや数量を調整したりしている。それに加えて、「場を整えること」にも気を配らないとならない。「~したい」時は、学びの最大のチャンスではあるけど、環境のどこかが不十分だと、関わりがぎこちなくなったり、バタバタしたりしてせっかくのチャンスが遠ざかってしまう。
開校してほぼ4年のタイミングで「場」の環境に焦点を当て、子どもたちの「~したい」をよりよい形で支えたり整えたり、子どもが起こした活動の中に技術や家庭の学びをどう埋め込むことができるのかを考えてみたい。実際にはこれまでも取り組んできたことではあるが、今年度マイプロジェクトの時間が全学年で同じ時間になり、1回の時間も長くなったことで学習環境の影響がより大きくなったように感じることからあらためて考えたくなった。
これは目の前の子どもの姿や、これまでの実践からも学べることが多いはず。また、技術教育やものづくり教育の文脈でいろいろな試行錯誤をする人との交流によって多角的に見ることもできそう。今回の実践ラボはそういった背景、思いで企画することに至った。
実践ラボを経てどんな風に見えてくるのか、自分自身の変化や新たな着想にも期待したい。