だんだん風越 2022年8月25日

カリキュラムページを改訂しました

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2022年8月25日

2022年8月1日にカリキュラムページを改訂しました。開校以来、毎年少しずつ改編を続けていますが、毎度どんな言葉を選ぶか、どういう関係として整理するか、あれこれ思案を重ねます。2021年度のカリキュラムからどんなことが変わったのか、子どもたちのエピソードも交えて紹介します。
この記事は、8月4,5日に行われた学園説明会の一部をもとに構成しています。


カリキュラムは子どもの経験の総体である

今年度からの大きな違いの一つは、2020年度・2021年度までの年少から義務教育学校2年生までを「前期」、3年生から9年生までを「後期」という分け方をやめたことです。前期と後期という区切りによって起きていた(主にスタッフの)分断をなくし、一人ひとりの子どもにとっての12年間の連続性を大事にしたいという願いがありました。そのうえで、近しい学年でのラーニンググループをつくり、そのラーニンググループを横断して12年をつなぐ存在として、リエゾンセンターを再定義しました。

(2022年4月下旬に保護者向けに行ったカリキュラム説明会の資料より)

そして、今年のカリキュラムページの冒頭では、風越学園における「カリキュラムとは子どもの経験の総体である」としました。


一番左の写真は、1年生同士の喧嘩の当事者に、2年生が話を聞いている様子です。これまでたっぷり喧嘩してきた子ども同士だからこそわかる経験がありそう。
真ん中の写真は、お昼休みの場面、小学3年生の女の子が中学2年生の男の子に木登りを教えています。右は昨年度の3,4年生のテーマプロジェクトから派生した「炭焼きプロジェクト」で、県内の炭焼きの専門家にきてもらった時の写真です。異年齢で育ち合うだけでなく、その分野の専門家の力を借りながら、授業時間以外でも子どもたちはさまざまな経験を積み重ねています。

12年つづく探究の学びとは

前述のとおり、風越学園では年少で入園した子どもたちが9年生で卒業するまでの12年間、探究の学びが続いていくことを大切にしたいと考えています。現在、私たちのカリキュラムにある要素を概念図として位置づけると、次のような図になります。

この中の「くらしとあそび」は、これまで「土台の芽・探究の芽」と呼んでいました。基本的には開校当初から大切にしたい経験は変わっていません。義務教育学校2年生くらいまでは探究というよりも探索の時期を主として、じっくりたっぷりゆったりとした時間や空間の中で、好きなこと、没頭できることを見つけ、それに共感してくれる仲間や大人の支えによって、探究の土台になっていくと考えています。そして、3年生以上の子どもたちにとっても同じことが言えます。以前は「探索から探究へ」「あそびから学びへ」と発展的に捉えていましたが、今年度からそれらは「行き来するもの」と表現を変更しました。

「くらしとあそび」で見られる子どもたちの姿を少しご紹介します。
森のなかで、大きな大きなミミズを発見。「ミミズやカエルは人間が手で持つと熱すぎてやけどしちゃうんだよ」と年長さんが年少さんに話す言葉から、森の中で出会う生き物たちに思いを寄せていることが伝わってきます。

次の写真は、年少さんでお散歩に行こうと出かけた際、途中(と言っても校舎敷地内)色のついた石(宝石と呼んでいます)を見つけてしまった男の子。2,30分そこから動けなくなってしまった様子を見て、他の子たちは、もう夜になっちゃうよ、と声をかけたり、葉っぱで隠していけばいいんじゃない、と提案したり。ようやくお散歩に出発することができました。歩きながらも、あの宝石だいじょうぶかな(取られちゃわないかな)、と心配でたまりません。

お散歩から帰ってきたあと、手では取れなかったのでシャベルも用意して、ようやく1日の最後に宝石を手に入れることができました。彼は好きなものがはっきりしていて、そこに向かっていく情熱がすごい。大きくなったら、どんなふうに日々の学びをつくっていくのか、今から楽しみです。

この子は2年生。ある朝、不思議なものを見つけたよと見せてくれた子がいて、それをきっかけにみんなも不思議なものを見つけてみよう、とスタッフが提案しました。
さらに理科室に行ってルーペを借りて置いておいたら、次々に子どもたちはいろんなものを持ってきて観察を始めます。このように経験を促す道具があると、探究の芽としてつながっていくことがあります。そして観察していると、ふしぎと記録したくなるみたいで、スタッフから声かけせずとも自然と書き留めることが始まったり。子どもにとっては、あそびと学びは繋がっているし、切り離せないものなんだろうなと思っています。

義務教育学校では、「プロジェクト」と「土台の学び」を「探究の学び」としています。2021年度まではカリキュラムの3つの軸として、「土台の芽・探究の芽」「土台の学び」「探究の学び」としていましたが、今年度から「探究の学び」の中に「土台の学び」を内包すると位置づけ直しました。

「プロジェクト」は、スタッフがテーマを手渡す「テーマプロジェクト」と、「わたしをつくる時間(マイプロジェクト・自学)」の大きく2つから成ります。先に紹介した現在のカリキュラムの要素を12年間に置いてみると、次のように整理されます。

2022年4月から7月までに実施した各学年の「テーマプロジェクト」は次のとおりです。テーマプロジェクトの時間は、1週間で6時間たっぷりとっています。

1,2年生については、スタッフがテーマを手渡すというよりは、子どもたちと一緒に過ごす中から起きていることを起点に、夏休み前に3つのプロジェクトが始まっていきました。例えばレストランプロジェクトは、本の読み聞かせがきっかけです。

プロジェクトのもうひとつが「わたしをつくる時間」です。校舎のあちこちでマイプロジェクトに取り組む子どもたちの姿がありますが、2020年からずっと続けているマイプロジェクトのひとつが、風越水族館です(当時は「セルフビルド」と呼んでいました)。ライブラリーの一角にある水槽コーナーはエントランスにも近く、プロジェクトの中心メンバー・シンノスケ(7年)の近しい学年の仲間だけでなく、小さい人たちも自然と一緒になって続いているプロジェクトの一つです。佐久の水産試験場の方にも継続的にお世話になりながら、いろんな魚を育てています。

自分の好きや、やってみたいをもとに様々なマイプロジェクトがある他、例えば昨年度から本城が中学生向けに日経STOCKリーグ(中・高・大学生のための金融・経済学習コンテスト)に挑戦するために定期的に集まっていたり、根岸(ぽん)が言い出しっぺとなった「世界とつながるワールドアンバサダー」ではフィリピンに行ってみようと準備を続けています。

今年度、探究の学びの中に位置付けられた「土台の学び」ですが、21年度版にも”探究する力の土台となるとともに、土台の学びのプロセスそのものが試行錯誤を含んだ探究であると考えます“と表現していました。「土台の学び」というと教科の授業がイメージされるかもしれませんが、教科の本質を12年間の育ちの中で、どんなふうに子どもたちに手渡していくか、スタッフは追求し続けています。

今年度の土台の学びは「ことば」、「数・形」、「つくる・えがく」、「世界と地球(主に社会と英語)」、「自然と科学(主に理科)」、「アドベンチャー・スポーツ(主に体育)」、「デジタルシティズンシップ」、「こころとからだ」としています。

たとえば、「自然と科学」は「自然を愛すること、世界を面白がること」を大事にしながらつくっています。同様に数・形では「算数・数学の楽しさを知ること、自分に合った学び方で学ぶこと」、つくる・えがくでは「自分はできる!っていう感覚を身につける」、デジタルシティズンシップでは「デジタル社会の中でよりよく生きていくこと」などというように、子どもたちと「土台の学び」を持つ意義を共有しています。

12年をつなぐ環境

ライブラリーとラボ、そして自然はこれまで、あそびと学びを支える環境として位置づけてきました。

今年度は、12年をつなぐ環境として、ライブラリー、ラボ、森のほかウェルネスとかぜのーと編集部をリエゾンセンターとしています。詳しくはカリキュラムページおよび、かぜのーと記事でエピソード含めて書いていますので、読んでみてください。

他参考記事:https://kazakoshi.ed.jp/kazenote-tag/labo/

また、今年は校舎外の環境にもどんどん手を加えています。

(6月下旬の校舎前の様子。芝生の一部を畑として耕している)

(8月下旬、子どもたちが夏休みだったので草も増えた。手前の畑に育っているのは中学生が植えたあずき。)

(花豆のピティを2つつくっている。左は土に馬糞を混ぜ、右はそのままの土にしたところ、生育が大きく違う)

外の環境をどのような存在として捉え、どのようにあそびや学びとつながっていこうとしているか、詳細は別の記事でご紹介することとします。

最後に、今年のカリキュラムページ改訂をおもに担当した井上(たいち)、奥野(ちか)大作(みつこ)依田(いくらちゃん)が学園説明会で話した内容の一部をお届けします。


__ 今回、改めて風越学園のカリキュラム全体を見通してみて、どんなことを考えたり、感じていますか?

大作

幼稚園での自分の実感を伴う経験にたっぷりひたる時期から、大きくなって繋がるプロジェクトと土台の学びの時間、どちらも教科の本質に迫る学びとなること、そして子ども本人がぐっと深めたいことを仲間やスタッフに導かれながら探究できること、改めて大事にしたいです。土台の学びにおいても、履修するための学びではなく、スタッフの思いを乗せてつくり続けています。その土台の学びとプロジェクトがつながってあることが、大切にしたいカリキュラムだし、風越学園のいいところだなと思ってます。

依田

私たちは子どもがつくり手であることを信じているんだな、と改めて感じていて。子どもが自分の学びはつくれるんだ、自分でおもしろくできるんだという実感を持って育ってほしい。それさえあれば、スタッフからテーマプロジェクトや土台の学びとして手渡されたとしても、その中にはきっとおもしろいことがある、という姿勢で向かっていけると思うんですよね。そういう姿勢を体験的に小さい頃から積み重ねられることを大事にしていきたい。
学園説明会をきっかけに、開校から2年4ヶ月の何人かの子どもの育ちについて、幼稚園のスタッフからたっぷり聞くことができました。いま私が関わっている1,2年生一人ひとりの育ちに、これまでの物語がある。それを聞いて、あまりにもまだまだ知らないことがあって、私にももっとやれることがありそうだなって思いました。

井上

僕自身がテーマプロジェクトのことをもっと好きになりたいなと思ってます。魅力を感じつつも、その設計が難しくて。これまでの中学校では基本的に理科の授業だけをやってきたから、教科横断のテーマプロジェクトで扱うテーマによっては僕も全くの素人、みたいなことがある。そういうときに子どもたちの活動に伴走するのが難しくて。でもテーマプロジェクトの力というか可能性は感じていて、もっとおもしろくしたいし、もっと好きになりたい。

探究につながる芽である「くらしとあそび」の部分は、改めて大事だなと思っていて。今の小さい人たちが大きくなって、どんなふうに探究がつながっていくんだろうと想像しながら、僕らスタッフも過ごす必要があるなと思っています。その子にとっての12年のつながりを大事にしていきたい。幼稚園の子どもたちと一緒に過ごすと、いつも発見と驚きとおもしろさがある。いろんなスタッフが小さい人と大きい人の間を行き来して繋がっていくと、おもしろいことが起きる気がするな。

奥野

私も同じようなことを思っていて、以前は保育園に勤めていると、小学校以降の子どもたちの姿を見れなかったり、幼小接続の難しさについて聞いたりしていました。風越学園では、幼稚園から9年生まで同じ願いで子どもたちの育ちを見れるだろうなと思って、いまここにいるけれど、まだその途中というか、幼稚園だけで過ごしていると見えていないところもたくさんあって。今回のカリキュラム改訂で大切にしたいことを改めて確かめあえたので、さらにチャレンジしていきたいです。

大作

こちらがちょっと何かを手渡すだけで自分で深めたり考えたりできる大学生に出会ったとき、彼らのルーツを聞いていくと、小さい時から自分で考える経験があったり、自分の気持ちを大事にされたりしているんだなとわかって。
何かをやってみたいという情熱が大事にされて育っていくと、自分の気持ちを大事にして生きていけるんじゃないか。探究の学びにつながるということだけでなく、自分の人生を自分で選んでいくことにつながっていくんじゃないか、そんな仮説を持っています。
スタッフによるいろんな仕掛けや環境含めたカリキュラムのすべてにおいて、子ども一人ひとりの気持ちが大切にされていくと、きっと大きくなっても大丈夫なんじゃないかな。だからこそ、探究の学びとそこに繋がる幼児期の探究の芽が大事で、12年を繋げていきたいって思う。

井上

僕はこれまで中学生の子どもたちと出会うことが多かったけれど、彼らも自分の興味関心を軸に色々と脱線していく姿がありました。そういう瞬間の子どもたちって、なんか楽しそうで幸せそうで。どんどん勝手に追求し始めたり、これやっていいですか?って自分から言い出したりする。そういう時間を積み重ねた子どもたちは、卒業しても幸せになっていくんじゃないか、幸せな社会をつくっていけるんじゃないか。そんなふうに思ってるし、風越学園でもそんな子どもたちが育っていくことを願っています。

 

#2022 #カリキュラム

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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