2021年12月24日
3,4年生は今年度、「季節と作物」を大きなテーマに掲げ、それぞれの「やりたい」が生まれるテーマプロジェクトに取り組んできました。
4月のはじめ。みんなで町探検に行ったあと、3,4年生で1年間どんなことをやってみたいか出し合うと、「畑で作物を育てたい」「動物を飼いたい」など、次々にやりたいことが挙がりました。はたちゃんが描いたイラストを眺めて浮かんできたキーワードは「村」。
みんなが暮らす「村」をつくれたらいいなぁ。そんな思いでプロジェクトが始まりました。
9月のある日。子どもたちが顔を寄せて何やら話し合っていました。
「炭焼き小屋を作りたいんだよ。」
「炭を村の燃料にできたらいいよね。」
「それで、米を炊こうよ。」
「子どもたちの思いを実現できたら、面白い学びになるだろう。」私は子どもたちの隣で、「炭」をテーマにした学びの深まりを直感していました。
炭には昔の人々の生活の知恵がたくさん詰まっているし、炭を焼くには何回も試行錯誤する必要があると思ったからです。
この日から、子どもたちと私の炭焼きの探究が始まりました。
今日まで、子どもたちとプロジェクトを進めてきて、子どもを突き動かす要素として、「子どもの願いや思い」、「子どもを駆動させる問い」があるなぁと改めて感じています。(「問い」の根っこには、「知りたい。」という思いがあるとも言えるかな。)
思わず動き出さずにはいられなかった子どもたちのエピソードをご紹介します。
一斗缶を手に入れて、炭を焼いてみた次の日、「物が『炭化する』ことと炭になっていることは違うらしいって聞いたんだよね。」というタツの一言から、「一つだけ黒くなっているマツボックリは実は炭になっていないんじゃないか」という疑問が。
「どうしたら炭になったと言えるのだろうか。」という問いが生まれ「炭とはなにか」という探究が始まりました。「たいちに聞きに行こう!」「みっちゃんに炭の本がないか聞いてみよう。」とそれぞれが動き出しました。
情報を集めてきた結果、
①焼いていないマツボックリと、黒くなっているマツボックリを顕微鏡で見比べてみる。
②みっちゃんに紹介してもらった本によると、木などが炭になるときに木の中の水分やガスが熱によって出てくるらしいから、前後の重さを比べてみる。
この2つの方法を試してみることに。みっちゃんが選んでくれた本に載っていた情報をもとに、理科室にある道具を使って炭を作ってみることにしました。
まずは割り箸の表面を顕微鏡で観察。顕微鏡のピントを合わせる名人はケイイチロウ。ピタッと合わせて、「ピント合ったよ、みんな見て。」順番に覗き込んで観察しました。
次に、タツが上皿天秤で重さを量ります。2.5 g。
アルミホイルに割り箸を包み、煙突代わりの穴をあけて、コンロで炙りました。まんべんなく火を通すために熱いのをこらえながら上手に転がすナツキ。
しばらくすると、煙突から白い煙が出てきました。実験の最中、本に書いてある情報を素晴らしいタイミングで伝えるのはカナエ。煙に火を近づけると、引火!ロケットみたいです。「確かに可燃性のガスが出ているんだね〜。」私とみっちゃんも一緒に興奮してしまいます。
炭焼きプロジェクト「店長」のソラは、煙が出てくる様子に興味津々でジーッと観察。煙が出なくなったところで、コンロから下ろして冷まし、いよいよ開封。
「うわー!黒くなってる。」「断面に穴が空いてる!」「すごく軽い!え?0.7gになってるよ!」「水分やガスが出るから軽くなるんだね。」
マツボックリも試してみたところ、1.2gが0.3gに!炭になったマツボックリをよく見ていたタツが、「やっぱりこの間のは炭になってなかったかも。」とつぶやきます。「どうして?」と尋ねると、「色が違うんだよね。今日のは少し灰色がかっている。」と。
何度も目にしてきたであろう炭の色が、真っ黒じゃなかったことに気づく瞬間。本に書かれていることが、体験を通して実感もった「理解」につながったり、必要感をもって情報を取りに行ったりする姿に、子どもたちの学び手としての頼もしさを感じました。
一斗缶で炭を焼き始める前から、燃料になるような炭を作りたいという思いをずっと持ち続けていた三年生のソラ。普段から家族と行っていた軽井沢ひゅーまにあホースパークに、燃料が入っていたドラム缶があることを知っていました。でも、ホースパークまでは学校から4km弱。歩いて行けても、ドラム缶を持ち帰ってくることは至難の業です。「どうやって取りに行く?」「もらってもいいですかっていったの?」テーマプロジェクトの度に仲間に聞かれるけれど、「うーん、ちょっと最近行けてなくて…。」と言葉を濁してバツが悪そうにしていました。
そんなある日の夜、スタッフのわこさんから「ホースパークに行ったら、偶然、ソラがホースパークの方に『ドラム缶を学校に持っていきたいんです、いいですか。』と聞いていたから、『わこさんこれから学校行くけど、軽トラだし運んであげようか。』と言ったら、『やったー!お願いします。』とのことだったので運びました。」という連絡をもらいました。
次の日、興奮気味に「ドラム缶、もらってきました!今日からドラム缶窯を作り始めましょう!」とメンバーに伝えるソラの表情は誇らしげでした。
ある日、「舟をつくる」という本を家から持ってきたタツ。みんなで本を覗き込んで見てみると、自然のものを採集し、舟を作るための道具を作り、作った舟でインドネシアから沖縄に帰ってきたという実際のお話でした。舟の材料となる木を切るための斧を、海岸の砂鉄と自分たちで焼いた炭で作るという部分を読んだとき、「砂鉄を集めに行きたい!」「一番近い海ってどこだろう??」と、みんな大盛りあがりです。
子どもたちは地図帳を広げて、定規で直線距離を計り始めました。「これ、どうやって距離が分かるの?」縮尺の説明をして、計算してみると、上越までは約147km、熱海までは240km。「これ、実際の距離とは違うよね。」ということで、Googlemapで経路検索もしてみました。
結果は156kmとやはり上越が近い。
「オレ、次の休み、お父さんに上越の海に連れて行ってもらえないか頼んでみようかな。」というタツ。
そして次の週末、タツは本当に砂鉄を取りに出かけたのでした。
寒い冬空の下、海の風に吹かれながらの地道な作業。途中、釣りをしにきた方たちからも「何をしているの?」と尋ねられたそう。黙々と集めること1時間。大きなゴミ袋に四分の一ほどの砂鉄を集めました。
休み明け、プロジェクトのメンバーに「途中でいい方法見つけたんだ!」と嬉しそうに語るタツの表情は輝いていました。子どもたちは、砂鉄から斧を作り、炭づくりのための薪割りをしたいと思っているようです。どこまでも妄想は広がります。
こうして、活動を進めていく中で、問いややりたいことが広がったり深まったりしながら、子どもたち自身で学びをつくってきました。
炭を焼く、炭焼き窯を作る、という活動にどっぷり浸かると、子どもの中にはたくさんの問いが生まれてきます。
例えば、「炭の精度って木によって違うのかな。」とか「炭で焼いた野菜がおいしかったのはどうしてなのか。」といった問いです。こういった調べないと分からない問いに向き合うために、アウトプットデーをよい機会にしようと考えました。そこで、アウトプットデーの数日前から、子どもたちの中にたまっていた問いを発散し、手分けして調べるという活動を行いました。
本やインターネットを使って調べ、画用紙にまとめたり、発表を見に来てくれた人に伝えたりすることを通して、実際に行った活動と知識が結びついて、子どもたちの中に蓄積されていくのを感じました。
あるとき、カナエとタツは、「どうして炭焼の野菜が美味しいのか。」という問いについて調べ、「赤外線が出るからおいしくなるらしい。」という一旦の答えにたどりつきました。しかし、そこから、「どうして炭から赤外線が出るんだろう。」「赤外線を浴びるとおいしくなるのはなぜなんだろう。」という新たな疑問が出てきます。「炭焼きで焼いた野菜は、確かにおいしかった。」という体験に裏付けされた問いだからこそ、連鎖していくのかもしれません。
「わかっても次の疑問が出てきちゃって、もう、これ、おわりがないじゃん!」と笑いながら話す2人はとても楽しそう。知らないことが知っていることになっていく面白さ、そこから次のモヤモヤが生まれていく感じ。探究の根っことも言えるこういう感覚を、いっぱい味わってほしいと思います。
さて、今年ももうすぐ終わり。炭焼きプロジェクトの子どもたちは、新年も当たり前のように「去年の続き」に取り組むことでしょう。
ようやくドラム缶窯を設置する場所も決まりました。みんなの活動の原動力になっている、「自分たちで焼いた炭を燃料にして、みんなでご飯を炊きたい。」という願いの実現に向けて、私も一緒に楽しんでいきたいです。
そして、今年度の終わりには、「炭焼き」「保存食づくり」「鶏飼育」「家・家具づくり」「畑」とそれぞれに行っていた活動が繋がり合い、まさに「村」として一体となる活動ができたらいいなぁと思い描いています。