風越のいま 2022年8月8日

「こうすればいい」というような、唯一の正解はない-マルエネプロジェクトの設計-(馬野 友之)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2022年8月8日

(書き手・馬野 友之/23年3月 退職)

テーマとの出会いを丁寧に設計する

2020年の「見えないものを、見えるようにする」というテーマプロジェクトが、僕が風越学園に来て初めて設計したプロジェクトだった。今思えば、全体的な方向性は示されるけど、細かいプロセスは、個々に任せる部分が大きく、子どもたちにとってはハードルが高く難しいプロジェクトだった。7年(現9年)の多くは熱心に取り組み、「あのプロジェクト楽しかったんだよね」っていう声もときどき聞くが、子どもたちのことをよく知らなかった時期だったとはいえ、一人ひとりの力を活かすための事前の準備や全体の設計はもっとできたはずだと反省した。そこで、今回のテーマプロジェクトは、2年前にもっとこうすればよかったと思ったことを意識しながら、準備を進めた。

7・8年生の、第2ターム(6月6日から7月21日の6週間)のテーマプロジェクトは、「◯力エネルギーで発電」(通称:マルエネ)というプロジェクトで、ざっきー(山﨑)と一緒に実施した。

今回のテーマで僕たちが設定した目的は、「主に電気エネルギーの利用に対して、自分たちなりのバランスを探していく」ということ。エネルギー問題は誰にでも関わりがあり、一人ひとりの日々の意思決定が長い期間常に影響を与えている。エネルギーという身近だけれども、そこまで深く考えたことがないものに、「こうすればいい」というような、唯一の正解はないことを知り、思考停止せずに多角的・多面的に、これからの人生でも考え続けていってほしい、という願いがあった。

そして、テーマの設計をするときに二人でよく話したのは、「子どもたちが浅い知識で満足せずに、深く考えてほしい」ということだ。デバイスを使いこなし、さっと情報を集めて、見た目のいい体裁を整えたスライドやドキュメントをつくることは、すでに子どもたちにとっては難しいことではない。さっと情報を集めて分かった気持ちになるのではなく、すぐには分からないことに向き合い続けることで、深く考えてほしい。そのためには、どんなテーマとの出会いをしたらいいのだろうか?最終アウトプットまでに、どんなミニアウトプットの機会を準備したらいいのだろうか?を考えることに一番時間をかけた。

その中で、僕たちが意識していたのは、「この子は、このテーマでどのようなストーリーを描くことができるか?」だった。

「この子は、あの子と一緒に学ぶと、こんなことが起きそうだよね」
「この子は、この活動で活躍して、周りにいい影響を与えそうだなぁ」など。

この時点で、子どもたち一人ひとりの姿が思い描けない場合は、テーマの授業中にどこかで行き詰まってしまうことが多い。

また、子どもたちが、ぐっと没頭するためには、テーマとの出会い方が大切だと考え、「今回のテーマは・・・」と言葉でテーマを発表するだけではなく、近くにあるダムや水力発電所をみにいくミステリーツアーをしてみることにした。

テーマのスタートは行き先を告げない「ミステリーツアー」。菅平ダムに到着したところで、風越の校舎の電力事情をよっしー(小川)がスタッフにプレゼンしている動画を子どもたちと観る

菅平ダムと、菅平発電所の見学。ダムの内部まで見学できて、その迫力や人の技術の凄さに驚いていた

そのあとは、スタッフがつくった今後の見通しやテーマの単元計画をすべて子どもたちに手渡して、どんなことを学んでみたい?を発散してもらい、出たアイデアや学びたいことをもとに授業を改善していくことにした。これは、2020年の5・6年のアースデイのプロジェクトのときに、ざっきー・たいち(井上)・ぽん(根岸)が、5年のシンノスケとプロジェクトの相談をしていたことからヒントを得た。このプロジェクトは、自分たちでつくっていくんだって、最初に感じてもらえれば、よりプロジェクトにのめり込んでいけるかもしれない。

授業の2回めに、6週間の見通しを子どもたちに示して、一人ひとりがどんなことを学びたいかなどのアイデアを発散した。

テーマの単元計画をみたあとの子どもたちのアイデア

また、6週間という期間、最後まで子どもたちの熱量が続くためにも、ミニアウトプットを何回か設定したり、専門家の方にも来てもらい、子どもたちがやろうとしていることの価値をエンパワーしてもらえたり、新しい知識をインプットしてもらえる機会をつくるなど、プロジェクトの中で何度もテーマに出会い直せるような時間も設けることにした。

相談したり話し合ったりしやすいように、3,4人の小さなチームグループで活動することにした。

これは、20分間で13本の釘を1本の釘にのせる「ポーキュパイン」というチームビルディングのアクティビティ。3通りの達成方法をみつけたチームもあった。

「あまり普段一緒にいない組み合わせで、このメンバーなら面白いことが起きそう!」という子どもたちでスタッフがチームを構成した。チームの座席にこのカードを置き、毎回この目標を意識できるようにした。

仲間と一緒に壁を乗り越える

テーマとの出会いの週が終わったあとは、ざっきーが担当する「ブロックで電気自動車をつくる」ことで、エネルギーの変換技術について学ぶパートと、僕が担当する「社会事情とWe act」というディベートを通して、さまざまな発電方法について学ぶパートにそれぞれ分かれた。主に僕の担当しているパートで印象的だったエピソードを書きたい。

虫や生き物のこと、ものづくりが得意で興味があるシンノスケ。本やインターネットで調べて、議論をするという活動は、今までそんなに積極的に参加してきた方ではなかった。そんな彼はディベートで、原子力発電の担当になり、対戦相手は化石燃料チームだった。

8年生は、昨年のテーマプロジェクトで福島のことを深く学んでいることもあり、「あぁ、原子力発電チームは勝てるわけがない・・・。」と最初から落胆している雰囲気も教室には漂っていた。

しかし、シンノスケは「絶対、化石燃料チームに勝つぞ!」と、みっちゃん(大作)にお願いして校内にある原子力発電関係の本をすべて借りてきたり、積極的にインターネットで検索して調べはじめる。そして、チームで一番最初にディベートで発言をする役割のマレをサポートした。

そんなシンノスケの姿に背中を押され、それぞれが役割分担をしながら限られた時間で集中して、情報を集め始めた。本番ではみんなでたくさん調べ上げたことをもとに、説得力抜群の議論を展開し、原子力発電チームが見事勝利した。結果発表のあと、嬉しくてシンノスケとマレが笑顔でハイタッチをしていた。難しそうだな、厳しそうだなと思っていた壁を、仲間と一緒に乗り越えた充実感があったんだろうなと思う。

僕自身も、虫や生き物という自分の得意なものや好きなもの以外である「発電」という授業で、仲間と交流しているシンノスケの姿をみることができたのは、とても嬉しかった。ポーキュパインという最初の活動や、電気自動車づくりで自分の得意を活かし、チームのメンバーに頼られた経験が、ひとつにつながっていって、シンノスケを動かしていったのだと思う。

こうして、仲間と一緒に壁を乗り越えた経験は、これからの彼が歩んでいく未来にとっても大きな経験になるのだと感じた。

チームのために、本をたくさん集めるシンノスケ

最初の週のポーキュパインの活動、電気自動車をつくる活動、そしてディベートと、何度もチームで取り組む活動を通して、お互いの良さに気づき、それを活かしあって、ともに成長している様子は、マレのふりかえりからも感じ取れた。

マレのふりかえり

ディベートの前の電気自動車づくり。シンノスケの何度も試行錯誤しながら楽しむ姿にも影響を受けて、自然とチームメンバーの手も動く

どこまでも問いに向き合いつづける

後半の3週間は、いよいよ自分たちで発電をするフェーズに。全12チーム、どのチームのプロセスもとても面白かったのだけれども、今回は2つのチームを取り上げようと思う。まず、セツ、シュン、ココロの水力発電チーム。このチームは水力発電を計画していて、最初の方は水車を川において、電力が発生するかどうかの実験をしていた。

このチームは、「水力発電を改良した発電をどのように実現するか?」という問いを持って取り組み続けていた。水力発電でできたエネルギーをつかって、水を分解して、水素を発生させ、その水素を発電に活用するという提案だ。その問いに取り組む中で、「電気分解したものをどのようにエネルギーにかえるのか?」「風越の敷地内の川の水質で電気分解はできるのか?」「水酸化ナトリウムは有害だから、川の環境を守りあがら電気分解できないか?」「水酸化ナトリウムをどうすれば中性にできるのか?」など、テーマプロジェクトの最終日まで、次々と生まれる問いに向き合い続け、熱量をもって挑戦しつづけていた。

簡単じゃない課題だったからこそ、ここまでの熱量をもっていたように感じた。分からないことに何度も挑戦して、実験し続けた経験は、探究の足腰のようなものを身につけている時間だったと思う。

セツがチームで作業をすすめるために作成していたイラスト。川の環境を汚さないように、水素を取り出して、それを活かす未知の発電方法を考えていた

パンで発電

次に紹介するのは、ハルカ、コタロウ、モミのチーム。8年生で、どんどん探究を進めるハルカに、7年生の2人が影響を受けて、面白いチャレンジが一緒にできるといいなぁと思って構成したチームだった。このチームは、発酵する際にできる熱で発電をすることができないか、という提案性の高い取り組みに挑戦することにした。日常的にある「食べ物や調味料」という一見発電と関係ないものから発電することで、今までにない新しいものを生むことに挑戦したいという。そして、パンが発酵する際に熱を出すことを知り、ペルチェ素子という部品で温度差を利用した発電に取り組むことになった。ときには、昼ごはんの時間を短縮して、授業前から、3人はパンをつくり発電量を計測しつづけていた。パンが発酵して発電しているかどうかを確認するために、パソコンをそばに置いて数時間動画を撮影したけれども、見返しても、発電した形跡が全く確認できなかったこともあった。

パンで発電をするというのは、仕込みから発酵、計測とかなり時間がかかるプロセスだったけれども、何度も諦めずに熱心に取り組んでいる姿があった。

途中で、発電のことよりもパン作りに集中して、よりよりパンをつくろうと本を熱心に読んでいるコタロウの姿もあった。こういう少し脱線した探究している姿をサポートしあっている様子が、チームの成長を実感した。

ペルチェ素子を、パン生地と氷水で挟んで、どのくらいの発電量があるかを計測中

満足な電気量が得られず、専門家のアドバイスをきいて作成したメモをもとに、違う方法に挑戦していた。

パンが焼き上がった美味しい匂いで人が集まってくる。パンを合計2回焼いて、メンバーの腕があがった!

自分のことばで発表する人たち

アウトプットデイの前日まで、さまざまな実験をしたり、自分たちの問いを追究したり、製作をしていたため、プレゼンの練習は1度もしていない。毎回、プロセスを書き溜めてきた模造紙や、途中でも製作しているものがあれば、子どもたちなら自分たちの言葉で語ることができるだろうと、特に日々のふりかえりの様子をみていて感じていた。第1タームのりんちゃん(甲斐)ようへい(佐々木)が担当した「広告」のプロジェクトのときに、「ふりかえり」や「ふりかえりのふりかえり」をとても大切にしていて、子どもたちもそこから学んでいる様子がよく分かった。なので、その実践のバトンをさらに受け継いで子どもたちのふりかえりをよりよいものにするために、コツコツ続けていったことが活かされていったように思う。

特定の発表者を決めるのではなく、1時間のマルエネエキスポ(博覧会)を、発表者が交代交代で、それぞれのチームで発表をしていた。わからないことをとことん悩んだり、つきつめようとしたり、答えのないことに、自分なりに考え続け、挑戦し続けた経験が、一人ひとりの学びになっていたのだろう。学年関係なく、7年生も8年生もそれぞれが自分の言葉で発表していたのが、とても嬉しく、これからの彼らの成長が楽しみになる幸せな時間だった。

毎回のテーマの授業のときに模造紙に考えたことや試したことを記録していった。

「すぐにできること、簡単にできることではなくて、歯ごたえがあることを子どもたちは求めているんだよね」と学年のミーティングで、りんちゃんが話していたことがとても印象に残っている。

たしかに今回のテーマでも、歯ごたえがあることにチームで取り組むとき、子どもたちの挑戦する姿がみられた。そして、歯ごたえがあるものを、テーマとして設定すればするほど、スタッフのサポートや仲間のサポートが必要になってくるので、僕たちスタッフも一人ひとりがどんなことを考えているのかを日々丁寧にみていく必要があるし、挑戦し続けるための設計を考える必要があって、その部分はテーマの最中も考え、模索し続けた。

もちろん、うまくいったことばかりではない。例えば、自分たちが探究したい「問い」を、いつもチームの目標カードとともに目に触れるようにしておくことで、より深く学べる環境をつくれたかもしれないという反省もある。もっともっと、子どもたちの力を引き出せる環境づくりやサポートができたはず。

目の前にいる子どもたちの力をより発揮するためには、テーマの全体の事前の設計が本当に肝で、今回の場合は、「テーマとの出会い」「単元計画の公開」「ミニアウトプットの機会」「チームの目標」などがポイントだった。ただ、子どもたちも僕らも日々変化していくし、扱う内容によってはまた違うことがポイントになってくる。次に考えるテーマでも、この通りに設計すればなんでもうまくいくというわけでもない。そこがテーマや日々の授業の設計で難しいところでもあり、また面白いところでもある。

ただ変わらないことは、「子どもたちには、力がある」という事実だと思う。

子どもたちが壁を乗り越えて予想以上に成長していくストーリーを間近でみられるこの仕事は、あらためて幸せな職業だよなぁと思った。子どもたちの力を信じて、これからも一緒に壁を乗り越えて成長していきたい。

ハルカのふりかえり。テーマを通して問いを探究しながら、自分自身と向き合い、自分のみらいをつくろうとしている。ふりかえりに書かれている子どもたちの言葉からも学び、励まされることがたくさんある。

 

#2022 #7・8年 #探究の学び

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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