風越のいま 2022年8月22日

未知の私自身と仲間に出会う

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2022年8月22日

2021年度から始まったアドベンチャーカリキュラムでは、「未知の自然・経験と出会う:アクティビティベース」(登山やロッククライミングなど)、「未知の私たちに出会う:リレーションシップ ラボ」(ホームやラーニンググループで取り組む活動)に加え、6年生と9年生が「未知の私と出会う:セルフディスカバリー」の3つを経験する機会をつくっています。
2022年6月6日(月)〜10日(金)に実施した9年生のセルフディスカバリーを企画担当した甲斐崎と寺中に本城が聞きました。

8月29日(月)のオンライン授業見学のテーマは、アドベンチャーです。よろしければ、ご参加ください。
お申し込みはこちら >> https://peatix.com/event/3305654/view

寺中

今回のセルフディスカバリーでは、23人の9年生が3つのチームに分かれて4泊5日を一緒に過ごしましたが、道中の自転車は自分一人だけで乗る。「風越学園から日本海までの160キロを仲間と自転車で行く」という避けられない、自分の全部をぶつけないとなんともならないような課題が目の前にあることで、誰かとの比較じゃなくて、自分自身のことを考えられるような機会になるといいなと思って企画しました。でも、実際に起きたことは思っていたことと少し違って、9年生たちはみんな自分だけでなく、仲間とつながっていることの喜びを感じてるように見えましたね。

本城

期間中、彼らはどんな体験をしたんだろう?

甲斐崎

雨の初日しかも延々と続く登り坂、ほとんどの子どもたちが「ほんとに日本海まで行けるの?」っていう気持ちを感じていたんじゃないかと思いますね。雨でずっと登り坂で自転車なんか乗れない、ひたすら自転車を押して、本当にこれで着くのかな?っていう不安とか絶望感があったんじゃないかな。そういう状況でも自分なりのチャレンジがあって、絶対に成し遂げたいことを躊躇せず表明する姿がありました。
例えば自転車に慣れていないカリンは、登りも下りも自転車を押す時間がありました。でも、搬送車には絶対に乗らない、と言ったことがあったんです。それを言えるのがすごいなって思ったんですよ。
それはきっと、自分が表明するチャレンジは大切にされるんだっていう確信が、彼女の中にある。風越学園でこれまで培ってきた時間に、仲間もスタッフも自分のチャレンジを認めてくれる、という信頼がある。到着が何時になろうが私は車に乗らずに押して行くんだと、普通だったら言えないんじゃないか。「私はこれを大事にしたい」と表明できるという自信や自負は、9年生みんなにあったんじゃないかなと思います。

寺中

最初の長い登り坂では、カリン本人ももう無理なんじゃないかと思って、一旦車を呼びたいと言ったんだよね。でもやっぱり自転車を押して進むと本人が決めて。
カリンが自転車を押して向かっていることと、カリンの位置情報を同じチームの子たちに共有して、その後のことをどうするか相談しました。宿泊地を変更するか、当初の目標通りに行くのかなど話題に挙がったけど、最終的にはカリンを迎えてから決めよう、となった。カリンがチームのみんなと合流した瞬間、待っていた子たちは「よくきたね」と声をかけて。カリンはその後のふりかえりで、「もうみんなは、いないだろうなと思ってた。あそこで迎えてくれて、一人じゃないんだなと思った」という話を何度か話していて、その時の体験が、カリンにとって支えになったように思います。実はこの初日のチームに合流したあとの暗闇で濡れた下り坂の経験が無茶苦茶怖かったようで、2日目以降の下り坂では時々搬送車に乗る選択をしたんです。でも搬送車に乗るときは、「はーーー」っていう感じで。車の中でも、どうやったら下り坂で自転車乗れるのかなってずっと葛藤していました。

カリン合流後、雨の夜道を進むと決めた

本城

同じチームの他の子たちは、カリンのことを寒い雨の中1時間半くらい待っていたよね。カリンがみんなと合流したのが夜の19時45分くらい。雨も降っていて暗い状況、大人からはストップの「ス」くらい言葉が出かかってたけど、子どもたちが予定していた宿泊地まで行くと決めたから、それを尊重した。でも、もう無理じゃない?と大人が言いたくなる場面、何度かあったよね?

甲斐崎

ありましたね。実は初日にすごい後悔していることがあって。僕が伴走していたチームは、先頭を走っていたショウタロウが2回、道を間違えて後戻りして、メンバーのサラとユヅキがヘロヘロになってしまっていたんです。そして、3回めにまた道を間違えかけた時、つい、「ちょっと待って」と僕が止めちゃったんですね。「どこ行くの?」って聞いたら、また勘違いしてることがわかって。「そこを行けば元の道に戻れるから」って、教えちゃった。その後、同じチームに伴走していたしむけん(日本アウトワード・バウンド協会)に、「実はこういうことがあって、先頭を止めたのは俺なんだ」、と伝えたら、しむけんが「いいチャンスを逃しましたね」って。「目的の宿泊地に着けなくても、どこかで野宿という選択肢もあったし、起きたことからみんなで考えればよかっただけの話で。」、と言われて、すごく後悔した。子どもたちがやったことへの責任を、僕が取る必要はなかったんだよね。子どもたち自身に責任があって、それに対してどうするかを子どもたちで考えて、大人は最低限これがサポートできるよ、という関わりをすればよかったのに、何かが起こることを僕が想像して止めてしまったというのはつまり、子どもたちの学びの機会を奪ってしまった。大人が安全を守る責任はもちろんあるけれど、僕が声をかけたタイミングは、そこまでではなかった。そのことは、強烈に後悔が残っていますね。

本城

行く前も期間中も、いろんな不安が子どもたち、あるいは保護者にあったと思うけど、どんなふうにその不安を扱っていた?

寺中

行く前の不安は、想像の中での不安だなと思っていて。とにかく当日来てみればなんとかなるという感じはあったから、どうやったら来てもらえるかなとか、感じている不安はそのまま持って参加できたらいいなって思っていましたね。

甲斐崎

期間中も、大人から不安を和らげようという言葉かけはしていませんでしたね。必要ないと思っていたし、子ども本人や仲間がなんとかするだろうと信じていました。

本城

子どもたち同士にもその信じる気持ちがあったと思っていて。表立っては互いに励まし合わないし、讃え合わない、非難することもない。「俺たちよく頑張ったな!」とか、「早くてすごいね!」とかもない。なんだか淡々と、自分や自分たちで決めた挑戦に取り組んでいたように見えていて。ここまで淡々と日々を暮らす感じなんだなって、正直拍子抜けした部分もある。

甲斐崎

そうですね。でも1日を終えて、一緒に夜ご飯を食べてる時の内容とか、他愛もないんだけど、今までとはちょっと違う、どこか相手をリスペクトしてる感じ、お互いを大切にしてるなというのは感じましたね。自転車に乗っているときは隣に並んでおしゃべりできるわけではないけれど、寝食を共にするキャンプの経験は大きいと感じましたね。
どのチームも同じキャンプ場で宿泊していましたが、ほとんど他のチームとの関わりがなかったのは意外でした。チームを意識して、他のチームの普段仲良くしている子のところに行く、みたいなことが全くなかった。

寺中

そうそう、そしてそれがなんだか嬉しそうだった気がして。最後のふりかえりで、「リーダーシップとってて、いつもとちょっと違ったよね」と言われたニコが、「このグループじゃなかったら、こんなに自分を出せなかった」って、ちょっと恥ずかしそうに応答していて。ニコだけでなく、お互いにそうだったんじゃないかと思ったんですよね。仲間と自分自身と、深くつながってる実感を喜んでいる感じがしたな。

毎晩、自分のこととチームのことをふりかえり用紙に書いた

本城

改めてセルフディスカバリーとは、なんだろう?

甲斐崎

自己発見の場、でしょうか。自分にはこういう力があるんだ、自分は人とこういう関わりができるんだ、という発見。自分自身と、自分と他者との関わり方について気づきがあり、次のステージへの一歩として、これからの自分の可能性は感じられたのかなと思います。

寺中

僕はサクラコの「しんどい時にしんどいって言っていいんだって、みんなを見てて思った」っていう言葉が印象的で。セルフディスカバリーが、自分の中にあるものは全部あっていいんだって思える体験になっているといいなと。
期間中、自分への光の当て方を、いろんなバリエーションで体験したのかなと思うんです。自分が思う自分、自分が思う他人に見られてる自分、他人から見た自分へのフィードバックという多様な光の当て方。3日目の振り返りの続きで、「自分が他人にどう思われているか、考えたことある?」っていう話題になって、全然考えたことない人もいれば、めっちゃ考える人、こう思われたいはないけど、こう思われたくない、はある人。そういう光の当て方もあるんだっていう自然なおしゃべりがあって。セルフディスカバリーで何かを発見したっていうよりは、自分の見え方とか光の当て方を知って、それが今後につながっていくといいなと思います。

本城

そういう意味で、彼ら彼女らは5日間で何かができるようになったわけじゃなく、上達とか成長ということよりも、今ある自分をもう一度確認して、俺はこれができる、私はこれは弱い、こんな時にこう動くんだと、他の人とのやりとりや自分で気づいたのかな。

甲斐崎

そう思いますね。学校から見える浅間山の向こう側に自転車だけで行った。前に進んでる限り絶対に山は越えられるし、ものすごく遠いと思っていた日本海にも着くっていうのが、単純だけど子どもたちに不思議な自信を与えてると思いますよ。その経験は、何にも代え難い。
でも、もうちょっとハードにしてもよかったかな。5日間じゃなくて3日間でも行けたんじゃないかなとか、スマホでGoogleMapを使えないようにすると、きっとまた別のできごとが起きましたね。

寺中

スタッフのふりかえりでも話題に挙がった冒険と旅のバランスは、もう少し考える必要がありそう。今回、チームごとの食事づくりとかは旅っぽい要素があって、もっと当日起きたことに合わせて宿泊や食事などの生活を自由に変えられるような導入をすると、もう少し旅要素が際立ったかもしれません。あとは、何時までにゴールしなければいけないとか、搬送車と出会える地点を制限するとか課題やルールを設定して、そのために子どもたちがやりとりするプロセスをつくると冒険寄りになりそう。目的に合わせた設計は検討の余地がありそうです。

本城

どんな形だと、子どもたちが10年後とか20年後に思い返した時に意味ある経験になるか、まだまだ考えられそうだね。改めて、子どもの自己発見や冒険を大人が邪魔しないでいたいなと思った。大人が先回りして何かを体験させるとか準備させるって、本当に不要なこと。アドベンチャーカリキュラムすべてに言えるけど、練習や準備なしに子どもたち自身が出会う何かを体験することにこそ、価値があるんじゃないかな。

寺中

子どもたちにとっては、体験してすぐに言葉では言えないこともたくさんある。でもきっといつか、滴り落ちる瞬間がくると信じて待つ。そういう邪魔しない、もあるなと思います。

ゴールの日本海を堪能する子どもたち

このセルフディスカバリーは、日本アウトワード・バウンド協会の志村誠治さん(しむけん)、みなみあいき冒険キャンプの青木大樹さん(ひろき)、くにびき自然学校の佐藤しのぶさん(しのぶ)、信州大学教育学部野外教育コースの瀧本恵理子さん(ともぞう)、森下隆司さん(なると)、馬場元規さん(わたあめ)の協力なくしては実現しませんでした。また、9年生以外のお子さんの保護者のみなさんからも、たくさん応援の気持ちをいただきました。改めて、ありがとうございます。

あるチームの5日間の様子を映像にまとめました。

#2022 #9年 #アドベンチャー

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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