風越のいま 2022年9月20日

「つながり」を探究の後押しに ー9年生「卒業探究」の今ー

山田 雄司
投稿者 | 山田 雄司

2022年9月20日

最近も、人生いい感じ。それはきっと、生後半年を越えた子どもがすくすく大きくなっているからだけじゃなく、9年生との「卒業探究(通称:そつたん)」が、さらにイキイキとし始めてきたからかな、とも思っている。もちろん、むずかしさもあるのだけど。

早いもので、9年生の卒業探究について、チームで支え合い、やりきって、自信を持つ ー9年生「卒業探究」キックオフーを6月下旬に公開してから、3ヶ月ほどが経った。貴重な最初の卒業探究、その記録を、また残しておきたい。未読の方は上の記事を読んでからお読みいただけたらうれしいです。

7月:アウトプットデイに向けて

7月に入ってからは、技術科×「観察」や、音楽科×「書籍を用いた調査&音楽鑑賞」など、教科と探究スキルを絡めるワークショップを行なった。それと並行して、7/21(木)のアウトプットデイをどのような場にするか、ということも子どもたちと考えていった。

昨年度までは、テーマプロジェクトの区切りとして年5回設定されていたアウトプットデイだが、今年度は年2回。7月で何かが終わりになるわけではない卒業探究で何をするべきか。まずは子どもたちに、「アウトプットデイ、どんな場にしたい?どんな場にはしたくない?」と聞いてみた。

赤が「こんなアウトプットデイはイヤだ!」青が「こんなアウトプットデイにしたい!」

一方的な発表は嫌なんだな、ということと同時に、「こんな人さがしてます」や「お困りごと解決会議(※1)」、「物を介しながら対話」など、一人ひとりの中にイメージはありそう。

※1:お困りごと解決会議:ファシリテーターであり風越学園の評議員である青木将幸さん(通称:マーキー)から教わった会議進行の方法の一つ。参加者一人ひとりが自分の「お困りごと」を紙に書き、グループを組む。グループの一人ひとりに同じ時間を割り振って、その時間内はその人のお困りごとを聴いたり、解決に向けたアドバイスをしたりと、グループ全員でその人のお困りごとの解決に取り組む。子どもたちとだけでなく、スタッフミーティングや、保護者を交えた場でもたびたび行なってきている。

 

その後もアウトプットデイについて具体的に計画してみる中で、「そつたんカフェ」というアイディアが出てきた。一人ひとりブースを持ちつつ、カフェのようなリラックスした雰囲気で来場者とやり取りしたい、とのこと。

2020年度から「コーヒープロジェクト」に取り組んでいるおかしょーとカイトもやる気だったので、当日はコーヒーブースも設置することとなった。

また、「大人と子どもが知り合う」というアイディアを受けて、「そつたんカード」を9年生みんなにつくってもらうことにした。A5サイズのカードに、自分のテーマなどを書き込んだカードだ。

「そつたんカード」の例。その後のやり取りにもつながってほしいとの願いから、連絡先も記載した

ちなみにこの頃から、「卒業探究」という呼び方はせず、「そつたん」と呼んできている。「探究」というのを前面に押し出してかたくなってしまうより、少し気楽に捉えてほしい、という自分の意識の現れだろうな。

7/21:そつたんカフェ

アウトプットデイ当日の様子は、こんな感じ。自分のブースで来場者と話す人、会場中央の椅子に丸く座ってお困りごと解決会議をする人、他の9年生の話を聞く人…。終始和やかで、でも熱量は高く、新たな出会いのある、素敵な場だった。

「イラスト」をテーマにしていたタイガのブースでは、保護者による即席ワークショップが開催され、周囲の子どもたちも巻き込んで盛り上がっていた

「デッサン」がテーマのウタロウは、自身の制作物をならべて来場者とやり取り

「料理」がテーマのコウキが、「自分は料理をつくってみたいと思っていたけど、今日のそつたんカフェをみて、こういういい雰囲気の場をつくりたいのかも、って思った」と話していたのが印象に残っている。

「テーマ」と言われると、「◯◯(料理、デッサン、など)」と名詞で選んでしまいがちだけど、実際には「どんな◯◯」とか、「◯◯を通して何を生み出したいのか、どうなりたいのか」の方がより本質的なのだろう。

そうは言っても、そうしたことを自分の頭の中だけで考えるのは難しいから、いろいろな物を見て、いろいろな人と話して、ということが大切そう。そのためのきっかけづくりはしていきたいと、改めて感じた(これは後で述べる「つながる月間」につながっている)。

同時に印象的だったのは、アウトプットデイ前後にテーマを変える子も何人かいたこと。「本当はこっちがやってみたかったんだよね」という方に移った子もいれば、「今までやってきたけど、いまいち面白くならなそうで…」という子も。このアウトプットデイは、自分のテーマと改めて向き合う時間になっていたように思う。

7・8年生はどう見ている?:オンラインそつたんカフェ

アウトプットデイ当日7・8年生は自分たちのテーマプロジェクトを発表しており(「『こうすればいい』というような、唯一の正解はない-マルエネプロジェクトの設計-」)、9年生のそつたんカフェには来ることができなかった。そのため、後日(コロナ感染対策のため)オンラインで9年生が自分のテーマについて話し、7・8年生がコメントする、という形で「オンラインそつたんカフェ」を開くこととした。

9年生と話してみての7・8年生の感想。「そつたん、超進めるの難しそう」「なんでもいいよって言われるとしんどいときもあるよね笑」など、自分たちもプロジェクトを進めているからこそ生まれる共感がある

9月:つながる月間

自分のテーマにぐっと注力することで、その世界を一人で楽しめる子はいいけれど、調べたり考えたりが個人の中に閉じてしまって、停滞感や孤独感につながる子が出てきているのではないか。そんなことをスタッフ間で話していた。そうした課題意識から、「9月はつながる月間」と置いて、他の人とのつながりづくりを促す期間とした。

このようなスケジュールを、夏休み明けの授業では提示した。12月を一つの区切りとして、アウトプットの機会を設ける予定

少し話題は逸れるが、夏休み中、他の中学校で探究学習に取り組んでいる教員の方と話す機会があった。生徒数がとても多いその学校は、「地域でのイベントを開きたい人〜?」とつのると、たとえ希望者が一部でも、かなりの数の生徒が集まり、大きいイベントが実現しやすいのだとか。

そうか、人数的な意味では風越はビハインドなのかもなーと思った時に、「つながる」ということは大事にしたいと、改めて感じた。子どもたちは、これまで2年間のテーマプロジェクトやマイプロジェクトなどで外部の方とつながってきたし、保護者ふくめ外部の方も、風越の子たちに関わろうとしてくれる方が多くいらっしゃる。そうした環境を十二分に活かせれば、もっともっと一人ひとりの探究が面白くなっていくだろう、というねらいだ。

夏休み明け初回の授業では、こうしたスケジュールを示しながら、「つながる」に向けて、お互いにアイディアを出し合った。

サラの例。自分のテーマ(黄色)、自分がつながりたい人(赤)を書いた後、他の人から青いカードでアドバイスを受ける。ピンときたものを黒枠で囲んでやってみる、という流れ

実際に、自分のテーマに関係する保護者や外部の方に連絡を取り、直接お話を聞く機会を、子どもたちはつくり始めている。

Unityをつかったゲームづくりに取り組むタイヨウ。保護者の方と一緒にプログラミング環境を構築したり、ゲームづくりの初歩を習ったりしている

子どもたち同士も、つながる

そんな折、ふとした休み時間に、ユマとそつたんの話をした。彼女はアロマオイルをテーマにしていて、夏休みに開かれたアロマオイルのワークショップにも参加していた。どうだった?と聞くと、笑顔で「すっっごく楽しかった!!」と教えてくれた。普段より数倍テンション高い様子にちょっと驚くと同時に、一人ひとりのこうした心の動きを、うまくいっているワクワクやなかなか進められないモヤモヤもふくめ、ぼく自身もっと知りたいな、そして、それを9年生同士が共有して、つながっていけたら素敵だな、と感じた。

同時に、子どもたち同士が自然につながり始めている様子もある。個人でやるには大きい課題が見えてきた時に、自然と声をかけたり、仲間を募ったり、という動きだ。

タイガは、「実は料理もいいと思うんだよね」と、コウキとグループで取り組むことに。良さそうなメニューについて、インタビュー中

「垢抜け」をテーマにしているななみぃは、9年生の中から協力者を募って、実際にその人に似合うファッションやカラーを調査するところからスタートするそうだ

「つながる」は何も外の人とだけじゃなくて、9年生同士もつながっていくよなと改めて気づかされる。こうした動きがどんどん生まれていけば、一人ひとりのテーマは違えど、コラボレーションは生まれていくはず。ますます楽しみだ。

そつたんのこれから:「本気」同士ががっぷり組んで…

そうは言いつつ、12月上旬のアウトプットに向けて、残り授業時間は50時間ほど。子どもたちの中には焦りもあるし、まだ乗り切れないように見える子もいるのが現状。

そんな9月中旬のある日、休み時間に「最近そつたん、どう?」とシュウゴに声をかけると、こんなイメージを教えてくれた。

シュウゴのイメージ図

「本気」の人同士が組めば、面白くなる。「なんとなく」の人同士が組んでしまうと、妥協してしまう。「本気」の人同士のところに「なんとなく」の人が引っ張られて「本気」になっていくような、そんな理想イメージを彼は描いていた。

同時に、「なんかこれって、スタッフにやってもらうことじゃないと思うんだよね。9年生同士で考えられたらいいな」とも。

たしかに子どもたちは必要に応じて9年生同士でもつながっていくけれど、「必要だから」を越えて気にし合う関係になれたら、きっともっとよい。

それを受けて、その日のそつたんのチェックインでは、「やる気・パッション」と「これからやっていくことの明確さ」の2軸で、現在地を示してもらった。

(自分の本当の気持ちを表せている人もそうでない人もいそう、とは思いつつ)パッションはあるぞと表明してくれた人は予想より多かった。

その後ぼくからは、「これを参考にスタッフもみんなとやり取りしたいし、それ以上に、9年生同士がお互いの『現在地』を気にし合えるようになっていったらもっともっと盛り上がっていくと思う」と伝えた。

「本気の火」が少しずつ多くの人に灯り始めている中で、この火がもっと盛り上がり、互いを刺激し合いながら、もっともっと面白く燃え上がっていくことを、ますます楽しみにしている。

 

#2022 #9年

山田 雄司

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