風越のいま 2022年6月21日

チームで支え合い、やりきって、自信を持つ ー9年生「卒業探究」キックオフー

山田 雄司
投稿者 | 山田 雄司

2022年6月21日

最近、人生いい感じ。それはきっと、子どもが産まれたこと、それによって限られた時間の中で仕事をする意識が強くなったこと、そしてその中でこの9年生との「卒業探究」に自分自身の熱量を乗せられているからだと思っている。

卒業探究のはじまり

今年度、自分は7・8・9年生を担当することになった。いわゆる中学生だ。去年自分は5・6年生を主に担当していたから、そのうち半分は7年生として引き続き、そして8・9年生はお久しぶり、という感じ。特に9年生は、風越学園初の中3生ということで、背筋の伸びる思いで4月を迎えた。

新年度を迎えた春休み中、今年のカリキュラムの担当をスタッフ同士で話し合っていた。その中で、「9年生は、昨年同様に『テーマプロジェクト』を行うのではなく、『卒業探究』という形で、風越学園での学びの集大成として取り組むとどうか…」というようなアイディアがあった。7・8年生のテーマプロジェクトを担当するか、9年生の卒業探究を担当するか。なんとなくの沈黙の後、自分は卒業探究をやりたいと手をあげた。大切な時間になると思ったし、きっと楽しそう!と感じたのを覚えている。

しかし、初めての「卒業探究」という時間、どういうものになっていけばいいか、自分でもまだイメージは明確ではなかった。でもその中でも、調査・研究のお作法を徹底的に学んでかっちりしたレポートや論文の形式にまとめる、というものとは違うゴールが見えたらいいな…とは思っていた自分は、初回の授業で、卒業探究をロッククライミングになぞらえて紹介した。

4/21初回授業スライドより。「どんな岩に登る?」については、「急すぎない」「登ったらいい眺め」など、子どもたちからもさまざまなイメージが出てきた

そしてこの初回の授業では、「卒業探究を終えて、どんな自分になっていたい?」という問いを投げかけた。そこで子どもたちから出てきた言葉はどれも、一人ひとりの大切な道しるべだなと感じるものだった。

卒業探究を行うルームに貼って、いつでも見られるようにしている

「自信を持ちたい」

ここで出てきた言葉を見ていく中で「自信を持ちたい」と言う子の多さが目についた。「えっ、風越学園の子って自己肯定感高そうで、自信もあるんじゃないの?」と思われそうだけれど、そういう子ばかりでもないよなーと思う節はある。

いくつか理由はあると思うけれど、1つには、9年生特有の事情はありそう。風越学園を卒業し、その先の進路を選んでいく年代ならではの不安だ。

また、風越学園特有の事情もあるのではないかと思っている。たとえば、強烈に自分の「好き」「〜したい」があふれ出ている(ように見える)子がそばにいるので、知らず知らずのうちにその子と自分とを比べて「自分にはそこまで好きなものはないし…」と自信を持てなかったり。

KAIさん(甲斐崎)が書いたかぜのーと「選ばなかったチャレンジ 」にも紹介されているように「『〜したい』と同時に、『〜したくない』も認められるわけで、『それはしたくないからやらない』という選択も尊重され」環境だからこそ、「困難に直面しながらも、試行錯誤をくり返し、やり切る」という経験を、自然に積めている子もいれば、そうでない子もいるだろうと感じている。

この「自信を持ちたい」という声を受け取った上で、自分としては、「やりきる」経験をしてほしいなと感じている。となるとやはり、長くつきあえる問いやテーマと出会えることが大事だろうと考えた。

「自分の問いやテーマを持つ」って…

僕は、つい「スタッフからテーマを与えて問いを考えていくのがいいのか、子どもたち一人ひとりがテーマ自体を決めるのがいいのか」とか、「どういうアイディア発散の方法が、問いを深めるのにいいかな」というような、方法論を考え始めてしまう傾向がある。しかしそればかりだと子どもが見えなくなるし、ずっとこちらが「これをするといいんじゃない?」「あれをやってみよう」と何かを提案したり与えたりし続ける形式になって、双方しんどくなることも。実際に最初の頃は、自分で全部の授業やワークショップを設計しなくちゃ…一人ひとりがちゃんとしっくりくる問いやテーマを持てるように授業を設計していかなくちゃ…と感じてかたくなっていた自分がいたと思う。

しかしそんな4月末、スタッフのたいち(井上)やざっきー(山﨑)と卒業探究について話している時、「卒業探究のプロセス自体も、9年生に手渡せないかな?」という話になった。自分がどう卒業探究のプロセスをつくるか、ということばかり考えていたけれど、そうか、子どもたちとともにそこからつくっていくって面白そうかも。それに、いきなり「卒業探究本番」として、自分で決めたテーマを個人で探究していくのが難しいと感じる子もいそうだな。そう感じた僕はすぐに、「ミニプロジェクト」を立ち上げて、探究のプロセスを子どもたち自身が小さく回す機会を設け、その先の「本番」への備えとすることにした。

ミニプロジェクト:探究のプロセスを小さく回す

「ミニプロジェクト」は、ランダムで組んだ3−4人のグループに、これまたランダムにテーマを渡すというもの。他人が決めたグループ、勝手に渡されたテーマに、2週間という短い期間でどこまでどう迫れるか。「どんなプロセスでこの2週間動いたか(活動&心の動き)を残していこう」「2週間経ってアウトプットした後、自分の探究に活かせそうな『芽』を探そう」と子どもたちに投げかけて、ミニプロジェクトはスタートした。

ここで渡したテーマは、開校前にスタッフでも読書会をして試していた『深い学びをつくる』から抜粋したもので「灌漑」「疫病」など、子どもたちにとってなじみのないものも多かった。しかし、始まり方も、進め方も、アウトプットの方法も本当に多様で、ここまでの2年間の子どもたちの積み重ねを感じる2週間になった。

「発明家」チーム:スタート時点でホワイトボードに問いだし。3人が同じ方向を向いて進んでいることを丁寧に確認している姿が印象的

「車輪」チーム:1冊の本をみんなで読んだり、毎回ふり返りをチームで行なったりと、共通の体験をする中から、それぞれの問いを見つけて進めていた

「疫病」チーム:本を読んでいるだけではつまらない、と実際に菌を培養してみた。「男子トイレから取ってきた菌がとっても繁殖している…汚い…」

「探検」チーム:風越学園の森を探検して発見したことについてアウトプットしていた。実際に探検に出るのがいいと思うけど、なかなか動き出せなかった…と振り返っていた。

「宗教的建築物」チーム:東大寺・モンサンミッシェル・タージマハルについて調べ、モデルをつくった。「なんでタージマハルはインドなのに、イスラム建築なんだろう?」

「灌漑」チーム:馴染みのないテーマについて、少しでも身近に感じてもらおうと創作劇を発表

「蜘蛛」チーム:蜘蛛を探しに外に出る人と、模造紙にまとめる人とで分担し、ドキュメンタリー風アウトプット

各チームのアウトプットを見合ったあとは、プロセスをふり返ることにした。「探究スキルカード」(このカードについては、「アクションは探究を加速させる」参照)の中で自分たちの使ったカードを時系列に並べてどう使ったか、どう感じたかをふせんに残したり、逆に「これ使えばよかったな…」と感じたカードも合わせて貼り出した。

「先に情報を探してからやったほうがよかったかなー」「情報収集の時間を多く取りすぎた。もっとはやめに行動すればよかった」などの実感は、この後の卒業探究にたしかにつながっていくのではないかな!

これから:セルフディスカバリーを越えて

ここまで2年間、年間5回のアウトプットデイを経験してきた9年生、アウトプットにおいて表現する力は本当にすごいなと感じる。同時に、探究スキルカードをつかったふり返りを見ると、「情報の特徴をつかむ」とか「根拠を持つ」というところは、難しさを感じていたり、そもそも意識にのぼっていなかったりと、まだまだな部分もありそう。そういう探究スキルも伸ばしていけるような授業を、他のスタッフとも協力しながら設計していきたい。

そんなことを考えながら、5月末に仮テーマを一人ひとりに出してもらった。パッと出せる人もいれば、悩んでいる人も。その後すぐ、6月上旬には、セルフディスカバリー(9年生のアドベンチャープログラム。4泊5日のキャンプ生活を経て、160km、1700mの高低差を超え、チームのメンバーと自転車で日本海を目指す)に出発。自分も9年生スタッフとして、旅に随行した。

道中、何人かの9年生と、卒業探究についても話した。「こういうテーマを出していたけれど、どうしてこれを選んだの?」とやり取りしてみると、その子の背景が浮かび上がってくる。聞いていた自分も、「そっか、だからあなたはそのテーマを選んだのね。面白そう!」と、やり取りをする前よりもそのテーマを親しく感じるから不思議だ。

そんなことを感じながら、セルフディスカバリー明け、「卒業探究もセルフディスカバリーに似ているな」とふと思いついた自分は、久々の卒業探究の授業でこんなスライドをつくった。

セルフディスカバリー中も、一人ひとり進むペースが違ってお互いの姿が見えない中で、それでも、互いにペースを気にし合うことが、お互いの支えになっている姿があった。卒業探究でも、そうやって支え合うチームとともに進んでいけたらいいよね、と伝えた上で、お互い今考えていることを語り、聴く時間を取った。

まずは軽井沢風越ラーニングセンターのプロトタイプ版の研修プログラムの一環で個人探究をしているインターン生・スタッフのプロジェクトチューニングを観察。良いところ・自分に活かせるところを探した。「そのテーマにした理由を持っている」「(そのテーマに)魅力を感じている」「笑顔で向き合っている」などの気づきがあったよう。

自分が考えているテーマについて語り、その後周りのメンバーがそのことについて語る。「話聞いて勝手に思ったんだけど、このテーマとこのテーマってつながるんじゃないかな?」

終わった後のふり返りでは、「このチームで現在地を共有する時間は、私にとってたくさんのアイデアをもらえた時間として凄く良い時間となりました。」「チューニングというより、かべにぶちあたったら相談しあいたい。」などの言葉が出てきた。もっとじっくり考えて書きたい、と持ち帰って翌日渡してくれたあいりのふり返りが、特に印象的だったので紹介したい。

いままで、スタッフ目線と自分目線でしか考えられなかったけど、何人かからの視点で考えられてよかった。自分のテーマにあんまり自信がなかったけど、「自己満でいい」とか「楽しければいい」「楽しそう」とか、気持ちが楽になった。具体的にこうすればいいんじゃない?とかも言ってくれて今後のことも考えやすくなった。

周りがどういうのをやろうとしているかも知って、それぞれテーマはちがうけどそれぞれ楽しそうでいいと思った。自分の未来のため、自分のため、という単語が自然にでてきていたのがすごいと思った。価値を出すのはスタッフでもテーマでもなく、自分たちだと思った。

お互いの現在地を知り合った上で、次はいよいよそれぞれの探究の最初の一こぎに踏み出すことになる。実際に進んでいくとなると、いろいろな困難も出てくるだろうな。でも、引き続きチームとしてお互いのペースを気にしながら、一人ひとり思い思い進んでいってほしいし、そんな彼らと一緒に進んでいくことを、僕はますます楽しみに思っている。

#2022 #9年

山田 雄司

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