だんだん風越 2022年7月27日

今生きている世界との繋がりを実感する

佐々木 陽平
投稿者 | 佐々木 陽平

2022年7月27日

ただ活動的になればいいわけじゃない。ただ興味を持てばいいわけでもない。ただ問いを立てればいいわけでもない。子どもたちが今生きている世界との繋がりを実感するような意味を感じることが大切なのかもしれない。探究も学習もそこから始まるのかもしれない。

僕は今年度から風越学園に参画して、右も左もわからないまま4月が始まった。そんな状況で7・8年第1弾のテーマプロジェクトをぼくとりんちゃん(甲斐)で進めることになった。

誰かに何かのメッセージを伝えることってすごく難しい。メッセージを伝えるのは言葉だけじゃない。身振り手振り、表情、歌、演劇、絵、アニメ・・・。いろいろなメッセージの伝え方がある。誰かに何かのメッセージを伝えることの意味と価値を子どもたちと深く考えたくて、「ポスター」をテーマに決めた。

まずは「風越学園の伝えたいことを一枚の写真に収めてみよう」と投げかけた。子どもたちは、ライブラリーの棚にある本を真下から本をアップするように写真を取ったり、「やりたいことに挑戦できる」という言葉を添えて、看板にペンキを塗っているところを写真に収めたり・・・。ライブラリーを写真で収める子どもたちが多かった。もう少しいろんな視点から子どもたちに風越学園の伝えたいことを深めて欲しくて、スタッフの仕事について伝えたいことを写真に収めたり、風越の情景について考える時間も設けた。

子どもたちはとても楽しそうに写真を撮っていたが、少しずつ違和感がでてきた。本当にこれでいいのかな。子どもたちは楽しく活動しているけど、それだけでいいのかな。なんか内に閉じちゃっていないかな。

そんなとき、スタッフ研究(校内研究)の一環でプロジェクトチューニングが始まった。ホームのスタッフごとに集まって、各スタッフが取り組んでいるプロジェクトについて話し合う機会である。ぼくはホーム2(現在、ホームぬるぬる、ぬくもり、ぬうぼう)のスタッフたちに、このままだとなんか内に閉じちゃう感じがして・・・プロジェクトで外しちゃいけないことってなんだろう、と悩みを話した。そこで、「ポスターは表現だから伝えたい思いや内容が大事だよね、手段ありきで始まると難しいよね」といくらちゃん(依田)が意見をくれた。確かになぁ。誰かに何かを伝えることを考えるときに、まず大事なのは何を伝えたいかのメッセージそのものだ。僕たちが提案した「風越学園の伝えたいこと」というメッセージそのものを、子どもたちが本当に伝えたいと思っていたのだろうか。子どもたちがそのメッセージについて深く考える場はあっただろうか。僕自身、表現ばかりに目がいっていて、内容を深く考えきれていなかった。

りんちゃんは別のホームでのプロジェクトチューニングで、「伝えたいこと」じゃなくて「伝えるべきこと」を考えるべきなんじゃないか、「ポスター」じゃなくて、時代背景や世の中を踏まえて相手の変容を促すような「広告」のほうがいいんじゃないかという話をしていた。そうして、りんちゃんと相談してテーマを「ポスター」から「広告」へと変えることにした。

「みくびってました!」

りんちゃんは子どもたちにこんな言葉をかけた。みんなはもうポスターを作ることができているよ。わたしたちの考えたテーマが浅かった。もっと深いところまで考えられるテーマにしよう。今の時代、今の世の中、今の風越学園で誰に何を伝えるべきなのか、「伝えたいこと」じゃなくて「伝えるべきこと」を考えよう。相手の変容を促すような「広告」を作ろう。7・8年のテーマプロジェクトは再スタートした。

まずは、時代背景を知り、世の中に目を向けるためにソーシャル経済メディアNewspicksの記事を読み、グループでシェアをすることにした。子どもたちはいろんなトピックに関心をもっていた。動物、石油、懲役、物価上昇、テクノロジー、コロナ、ウクライナ、地球温暖化、盲導犬・・・。そして子どもたちは問いを深めていった。どうして動物を簡単に捨てることができるのか?地球温暖化が進むとどんな影響があるのか?プラスチックを減らさないとどうなるのか?どれもこれも子どもたちなりによく考えた問いだった。

そこから、自分たちが伝えるべきことはなんなのだろうと考えをもう一つ深め、構図やキャッチコピーを何通りも出して、本格的な広告づくりへと入っていった。このフェーズになると子どもたちはもう自分たちなりにどんどん進んでいった。Canvaを使って協働的に取り組む子どもたち、淡々とフォントや色にこだわって何通りも広告を作る子どもたち、普段は気持ちが乗らないけど最後はぐいっと頑張って取り組む子どもたち、子どもたちが広告づくりに没入している時間だった。

作成した広告をグループで共有した

子どもが作成した広告のひとつ

「広告」のテーマプロジェクトが終わったあとに、子どもたちには振り返りを書いてもらった。その中でイイナはこんなことを書いていた。

「…でも、やっとテーマが始まった感じがしました。自分たちの興味のあることについて自分たちの興味のあることに問いを立てたりそれについて調べるところまで進むことができたので良かった。うん、本当に良かった。…で、本当に今日は良かったと思うので、これからもこういう感じでどんどん進めて行けたらいいなぁと思います。テーマの時間はいっぱいあるようで全然ないので。実は。なので、これからも今日みたいに意味を感じられる時間になったら探求も学びもできると思うので、よろしくお願いします。まず、自分たちで行動できたこと、それから今日やったことがアウトプットにつながると思うので、そういうことに意味を感じました」

このテーマプロジェクトの授業は僕にとって初めてのプロジェクトの授業だった。僕は今まで数学科の教員として数学の授業にこだわりをもって教員生活を送っていたので、こんな授業をするのは初めてだった。プロジェクト(あるいはプロジェクト学習)って何なのだろうなー、何でプロジェクトなんだろうなーっていう素朴な問いをもちながら、最初のテーマプロジェクトを走り抜けたと思う。今もまだ、その問いをもっているけど、少しだけその答えの輪郭を子どもたちの姿から感じた。教科の枠組みには収まりきらない時間をテーマプロジェクトは生み出すことができる。子どもたちは自分たちなりに自分たちの生きている世界とのつながりを感じることができる。テーマプロジェクトにはそんな可能性をもっているように思う。でも、それって総合的な学習の時間と同じ?違う?あるいは教科の枠組みでもできることないかな?なーんていろいろな問いがさらに生まれてくるので、まだまだ問いは尽きそうにない。

#2022 #7・8年 #探究の学び

佐々木 陽平

投稿者佐々木 陽平

投稿者佐々木 陽平

確かな数学教育を求めて三千里。身の回りの環境や子どもたちの活動の環境を整えるのが好き。最近は読書にはまっている。

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