2022年8月26日
今年度、私は「森の人」になった。ウエルネス、ラボ、ライブラリー、森など、年少から9年生までの12年をつなぐ役割を担うリエゾンセンターの一人である。子どもたちが森や自然と出会い、好奇心の扉を開けて、興味関心の世界を広げる、そんな機会や場を演出していく役割なのかなと自分では解釈している。
幼稚園〜9年生まで、遊びや学びで野外に出かける際、一緒に森を歩いたり、こんな出会い方はどう?と提案したり。探検に出かけた子どもたちから話を聞いて、「それは◯◯だね」と疑問に答えてみたり、「なんでだろうね〜」と一緒に考えたり、「本で一緒に調べてみようか」と図鑑を開くことも。また、時には、保護者やスタッフ、研修にいらした方と森で過ごしている。手探りの日々だけれど、「今」というタイミングで動くことができ、子どもたちの興味があることに伴走しやすくなったと感じている。「ミツバチの巣を探しに行きたい」「冒険とは?というミニ探究の答えを探しに行きたい」「ヘビの餌になるカエルを捕りたい」「学校の敷地内に、アサマフウロの保全エリアを作りたい」など、子どもたちから生まれる“したい”に関わることができるようになった。
風越学園の敷地内には、校舎の4倍もの面積を誇る豊かな森が広がっている。そんな恵まれた環境がありながらも、朝校舎に登校すると、夕方下校するまで校舎の外に出てこない人ばかり。本当にもったいない!「森の人」としての最大のミッションは、子どもたちが気軽に森に出かけ、森の生き物や自然と向き合う環境を作っていくことだと思い、兎にも角にも、いろいろ仕掛けてみることに。その一つが、月曜日の3・4限目に「わたつく森の日」の時間(わたつくは、わたしをつくる時間の略)。生き物好きの人、外で過ごしたい人が集まって探検する時間だ。「ヘビの餌になるカエルを捕りたい」「山に登りたい」「森で遊びたい」など、目的はさまざま。集まったメンバーで相談して出発する。1時間半という時間制限があるので、大したことはできないけれど、子どもたちのちょっとした気分転換になっているようだった。でも、誰が参加するか分からない、活動の内容が積み重ならないなど、課題も見えてきた。違うスタイルが良いのかなぁと悩み、この「わたつく森の日」を通して手応えがあった“好きなことで集まる異年齢集団”をヒントに、「森の日拡大版〜川あそび〜」を企画してみた。
たった4日間の募集期間。対象1〜9年生。定員20名。チラシを配るや否や、「川あそび行くからね!」「明日、ぜったい申込書もってくるからね!」と反響の声が。「一人でも大丈夫?」「川あそび初めてなんだけど・・・」など、不安がありながらも行きたいと相談に来る人や、「今、何人申し込んだ?あ〜、定員オーバー。抽選かぁ・・・。」と申込書を何度も数えに来る人も(笑)。あの子は来そうと予想的中の人もいたけれど、お!いつもは見かけないけど好きなんだなという、新しい顔ぶれも。いつもの仲良しさんに縛られず、私はどうしたい?と考えて、自分が思うままに「行きたい!」と表明してくれた子が多かったように思う。「好き」の力は、不安を飛び越えて、チャレンジしたい気持ちにさせてくれるのだ。
申込み多数のため、1回目は、2〜9年生。2回目は、1年生と4年生以上のボランティアで行くことに。そして、迎えた2〜9年生の川あそびの日。大きい人たちに、「小さい子たちのサポートをよろしくね。人数を数えてもらえますか?」と声をかけると、「はーい!では、一列に並んでください。人数を数えるだけなので、横入り大いにOKです!!」と、シンノスケのユニークな人数確認が始まった。「え?横入りOKなの?」と戸惑いの表情を見せながらも、「なんだか面白いことが始まりそう!」と、大きい人の呼びかけに耳を傾ける。同じ「好き」で集まった人たちだから、警戒心や遠慮はあまりなくて、たくさん言葉を交わすわけではないけれど、自然と心が開かれているようだ。
川では、ウチダザリガニの捕獲に燃える7年生のシンノスケの側に、同じく自然や生き物が大好きな7年生のシュンスケと4年生のカンタが。シンノスケの職人のような目つきと腕前に、「え?どうやって見つけたの?おれにも教えて!」「ウチダザリガニ食べられるの?」と教えをこう。そして、自分でもやってみて、シンノスケにアドバイスをもらう。ちょっと離れたところで様子を見ていた、2年生のカズヤも「おれも捕まえたい!」と仲間入り。外来種のため生きたまま持ち出すことができないウチダザリガニを、その場で絞めているシンノスケを見て、「ねぇ、どうして絞めてるの?」と理由を尋ねるカズヤ。「本当に食べるの?」と興味津々の子どもたち。異年齢だけど、必要以上にそれを意識することもなく、生き物に詳しい仲間から学んでいる感じだ。こうして経験して得た知識は、一生忘れることはないだろう。
また別のところでは、7年生のカイが、大きな水飛沫を立てて遊んでいた。全身で水を感じて、ダイナミックに遊ぶカイを見て、2年生のヒナタやキョウは、そんな遊び方もありなのねと刺激を受けていた。
一人で参加した3年生のミサキは、2年生のナルとナナホとすっかり仲良しに。一緒に川を流れて遊んだり、川から上がって桑の実を頬張ったり。今年転入したミサキは、3・4年生の中では大人しいが、実は自然の中で遊ぶのが大好きとか。のびやかに、解き放たれたように笑うミサキの表情を見て、私はとても嬉しくなった。「こうあらねば」と周りの環境に合わせるのではなく、感じるままに表現しているミサキがそこにいたから。
風越の異年齢ってこういう繋がりなのかもしれない。
「好き×旬×異年齢」の可能性をもっと探ってみたいと思っている。
また別の日。「滝を見つけて、湧水を飲もう!」と、2年生のキョウ・ケイ・ソラと学校裏の川に遊びに行った。川の上流から、下流から、横から、あちこちから滝に近づこうとするものの、倒木や棘の植物たちに行くてを阻まれて進むことができない。「ゆっけ、どうする?」とソラが聞くので、「自分たちで決めてよ。君たちが選んだ道なら、どこでもついて行くから!」と答えると、3人で作戦会議。「おれは、靴が濡れるのは嫌だから、横からがいい」とキョウ。「トゲは痛いから下流から川を遡ろうよ」とソラ。「棘の所を進んでみて、行けるか見てみない?」とケイ。そんな訳で、アザミやノイバラ、タラノキが背丈以上に茂る草藪を進むことに。でも、先頭を誰が行くかで揉め始めた。「おれは、こういうところ苦手なんだ。怖いから先に行ってほしい」とキョウ。「おれも棘は好きじゃない」とケイ。「えー!おれだって得意じゃない」とソラ。しばらく先頭を譲りあった後、キョウが、「じゃぁ、怖いけど、まず俺が先頭行ってみるね。それでダメだったら代わってくれる?」と提案。「いいよ。途中で代わるね」とソラとケイ。その後、3人で話し合った通り、途中で先頭を代わりながら、滝まで進んで行ったのだが、3人の会話を聞いて、私は驚いた。1年生の時、キョウは予想外のことが起こる探検は好きじゃなかったし、ケイは苦手を認めるなんてプライドが許さなかった。ソラは、自分で決め切れず、「どうする?」といつも人に答えを求めていた。そんな3人が、自分をありのままにさらけ出し、相手を称え、支え合っていたのだから、3人の変容に本当に驚いた。
もちろん、3人は成長している。でも、それ以上に、自然の力だなぁと、私は思った。
幼児〜大人まで、いろいろな年代の人と森で過ごしていて、いつも感じることがある。当の本人は、「わたしは自然と出会っている(向き合っている)」状態なのだが、心と体が赴くままに自分を表現していたら、「いつの間にか、あなたと出会っている」なんてことが起きているのだ。3人は、行く手を阻む棘のジャングルに向き合っているつもりなのだが、棘のジャングルに対峙する自分の状態をありのままに表現することで、一緒にいる仲間と共感や応援、認め合う気持ちが生まれていて、普段なら表現しない気持ちも、お互いに素直に伝えられたのではないだろうか。
校舎で尖っているあの子も、森に出かけると、穏やかな表情をしている。いつもは関わろうとしないあの子も、体験を共有すると、楽しさを分かち合っている。あれ、こんなにおしゃべりだったっけ?あれ、こんなに表情豊かだったっけ?森で出会うあの子は、いつも輝いているように見える。
「森には、不思議な力がある」
まだ言葉にならないことばかりだけれど、私はそう信じて、「森の人」1年目を邁進していきたい。
生き物たちのドラマに魅せられて、軽井沢で森のガイドを15年。子どもたちと自然を見続けたくて軽井沢風越学園へ。学園の森の保全しながら、子どもたちと自然の不思議や面白さを見つけていきたい。幼少期は、近所で評判のお転婆娘。実は、冒険や探険に誰よりも心躍らせている。
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