2021年2月22日
オンラインで開校した風越学園が6月に通常登校を始めるまで,私はライブラリーでの本の受入、ブックボックスの運用で日々いっぱいで、探究の学びの一つである「プロジェクト」が始まることをほとんど意識していなかったように思います。今となってはカリキュラムを承知していないなんて、恥ずかしい限りです。
それが、「通常登校からプロジェクト始めるよ、みつこも入って」というゴリさんの言葉があって1本目のプロジェクトは5・6年Bグループのスタッフとして担当しました。
2本目からはプロジェクト・ブランチ(ブランチとは、担当領域のこと)のスタッフとして、風越でのプロジェクト全体を見渡して必要な支援をしたり、提案したり、時にはお願いしたり…。開校準備時の資料を読み漁ったり、何人ものスタッフに話を聞きに言ったりもしたことで、今では「お〜プロジェクトは風越のカリキュラムの核じゃないかー」と思っています。それなら時に大変な役目だって、受けたもう。
という訳で、自分で勝手に「プロジェクト・コーディネーター」と名乗り過ごしてきたこの一年の中で見てきたこと、私自身のこれまでの経験から考えることを書き綴ることにします。
2020年度のプロジェクトは、前期1・2年生のプロジェクト、後期3〜7年生の「テーマ」と「表現」プロジェクト、そして、子ども自身が取り組みたい・探究したい気持ちから始まる個人プロジェクトがあります。
テーマおよび表現プロジェクトは、1タームが4〜8週間程度で、最終週には「アウトプットデイ」を設けています。アウトプットデイとは、保護者のみならず地域(今年度は困難な状況にあります)に広く公開してフィードバックをもらう場として、プロジェクトのプロセスを通じて学んだことや成果を発表するものです。
さて、風越のカリキュラムにおいて「プロジェクト」の大事なポイントは以下の6つに整理されます。
1)年齢の近しいラーニンググループでスタッフ発信のテーマに取り組む
2)理科・社会を中心に多様な教科・領域を横断しながら深める
3)自分なりの問いを立て、自分なりの答えを求めて探究する
4)多様な探究方法や発信方法を考える
5)協同して取り組む
6)学校外のリソース(人的・物的共に)を活用する
風越では「探究の学び」をカリキュラムの軸としています。子ども一人ひとりの「〜したい」を大切にしながら、学ぶプロセスで本物の人に出会ったり、実社会につなげていくことを目指し、そこで得られた学びを他者と共有して深めていきます。
今年起きたプロジェクトを思い出すだけでも・・・,子ども一人一人の問いが生まれるまでフィールドワークをしたり,ものづくりをしたり,色々な角度からアプローチしてじっくり待っている場面がありました。また,初回にプロの方に出会って,その凄さやかっこよさにががーんと衝撃を受けてプロジェクトのスイッチが押される場面,専門家にメールを書いたり,zoomで質問したり,直接会いに行ったり・・・,様々なアクションが色々なプロジェクトで起きていたのです。
このようにプロジェクトを魅力的,かつ学びに繋げていくために、スタッフ側には見通しや余白を持つことと同時に相当な機動力が求められることになるのです。これまでの教師に求められてきたスキルや姿勢や能力とは異なることもありそうです。それでは、スタッフは日々プロジェクトをどのように設計して子どもたちと向き合っているのでしょう。
今年度は1つのラーニンググループに2、3人のスタッフを配置して運用してきました。具体的には3・4年AグループとBグループ、5・6年AグループとBグループ,そして7年生のグループです。
これまで挑戦してきたテーマは、次の通りです。
1ターム(6/1〜7/1) | 2ターム(8/24〜10/14) | 3ターム(11/2〜12/23) | 4ターム(1/14〜2/25) | |
3・4年A | おはなしづくり(即興劇・物語の展開・音づくり) | 強くてやさしいダンボール+○○(素材を生かしてつくる・ゴムの力の働き・磁石の性質・電流の働き) | 風越学園でで冬キャンプをしよう(熱の性質・燃焼のしくみ・月や星・地形の特色と人々のくらし・立体をつくる) | 風越学園でまちをつくろう(社会参画) |
3・4年B | 美しいとは(色・書・音・写真) | ういちゃうぜ(浮力・重さ) | 光(光の性質・性質の活用) | |
5・6年A | コマドリアニメ(映像制作・情報とわたしたちのくらし) | 森の生活(人と環境・生き物とくらしの環境) | 森とつながる(水、森林を守る・人と環境) | 紙(伝統工芸、ものづくり) |
5・6年B | 色と形(草木染め:日本の伝統産業・水溶液の性質・縫い物) | 風越ブランド商品開発(地域の産業・日本の地理・植物の水の通り道・ものづくり・小数の計算・単位量あたりの大きさ・言語活動) | 風越タイムマシン(日本の歴史・資料の活用・言語活動・海外の人へのアウトプット) | 風越ワールドフェア(異文化理解・国際理解) |
7年 | 「見えないを見えるようにする」(音、匂い、菌、感情を見えるようにし、プロジェクトのサイクルを体験する) | ナゾトキ風越歩き(身近な地域のことを学ぶ・ナゾづくりの設計をする) | 風越旋風を巻き起こせ!(地域の特色・フィールドワーク・情報活用・キャリア・価値創造) |
1ターム目(2020年6月)のプロジェクトをスタートさせる時に、多くのスタッフから聞こえた声は、「プロジェクトってどこまで設計するものなの?」というものでした。
スタッフの中には国際バカロレアやアメリカにあるプロジェクト中心の学びをする年長から高校生までが通うハイ・テック・ハイ(*1)や、信州の信濃教育など多様な実践が背景にあるスタッフもいれば、実践経験が浅く、プロジェクトを設計した事がない人など様々で、それはプロジェクト設計の違いにも現れました。
プロジェクトを始めるにあたって、ハイ・テック・ハイで用いられている設計シートや2019年度に桐田敬介氏(よはく代表)と風越が共同作成した設計シート(*2)を利用したチームがあれば、子どもの問いや活動の結果から常に流動的に変化していくものだという捉えを強くもち、事前の設計は殆どせずにスタートしたチームもありました。
私が担当した5・6年Bの「色と形」では,ハイ・テック・ハイの設計シートをもとに、かなり意識して逆向き設計(*3)をしました。そうかと思えば、5・6年A「森の生活」でスタッフは、大きなフレームは持ちながらも、予定調和に進めることは大事としておらず、子どもの活動や子どもが書いたワークシートや活動の様子に感覚を研ぎ澄まし、次の授業に向けて作戦を練り直すことでプロジェクトを進めていたように見えました。どちらがより良いプロジェクトの運用なのだろう???と感じながらの2ターム目からは、プロジェクト全体を俯瞰する役得をいただいて、毎回うろうろするようになりました。
ただ、4ターム目が始まった今でも、子どものワクワク(Fun)と深い学び(Deep Learning)をプロジェクトの両輪として駆動させていくことができる設計ってどうあったら良いのだろうと、答えはでていません。
そこで,3ターム目まで7年生,4ターム目は3・4年生を担当しているうまっちに話を聞いてみました。7年生の2ターム目「ナゾトキ風越歩き」では,道筋をつけてそこに引っ張っていこうとした時,子どもたち自身の問いに結びつかず,与えられている感覚を子どもが持ってしまっていたそう。そこで,子ども一人一人とのインタビューを通して,その次のターム「風越旋風を巻き起こせ!」ではミッションを共有したほかは、子どもたちがやりたい問いを探究することにして,スタッフはそれに伴走することに。
これに対して,4タームめの3・4年生では,まずは「このプロジェクトの目的は何だろう」,「子どもはどんな反応をしていくだろう」ということをスタッフ6名で発散したそう。その上で,プロジェクトのゴールでの子どもの姿を共有するとともに,さらに期間を3クール「みせサイクル」「まちサイクル」「日常サイクル」に分けて設計したとのこと。
うまっち自身,2つのチームでの経験から設計方法の異なり,集団の年齢による個と集団との反応違いなどを感じているようで,まさに試行錯誤の繰り返し。それでも,色々なスタッフとチームになることの良さを実感できている様子もあるのかな。
プロジェクトは一度スタートを切ってしまうと,後戻りできない怖さと向き合う覚悟が必要・・と言うと大袈裟かもしれないですが,どの授業でもそうであるように,子どもの反応,どんな姿が見られるのか,ドキドキしますよね。
個人的には、スタートの時点でできる限り逆向き設計をした方が良いと思っています。その一番の理由は、”プロジェクトを通して子どもがおとなの予想を超えていく瞬間を目のあたりにした時に感じる喜び”、という事に尽きるように感じています。もちろん、深い学びにつなげるために、どのようなインプット(子どもの学びを駆動させるような活動)を子どもの実生活の文脈のなかで実践していくかを計画する事は,学びを保証する責任をより一層もつために必須。でも、何よりおとなが考え抜いたことに対して子どもが軽々超えていく瞬間ってドキっとするけど,嬉しいんですよね〜。
ただ「設計」と言ってもそれは「活動単位」だけを言うのではなく,うまっちの話にあったように,「プロジェクトの目的・ねらい」など大きな枠組みも含むのですね。
子どもは,スタッフからの投げかけ,つまり十分なインプットがあり,活動に基づく思考を重ねていく中で,自分自身のテーマに対する問いを持つようになります。うまっちは,「高学年の子どもにとっては、最初の問いに対して、なんかわからないけど面白そう,という手応えを持つことが有効なんじゃないか。3・4年生は具体的な活動が先にあって、その中から問いがたくさん生まれてくることが自然かなと思う。」と話してくれたのですが,プロジェクトを駆動させる出来事,問い,活動との出会いに工夫のポイントがあるようです。
ただ,プロジェクトの中に教科の学びを織り込んで実践していくことは,きちんとした準備に基づく冷静で臨機応変な判断が求められますし,職人技になりがちだと感じています。時間割で決められた教科を子どもに教えることとは異なるからです。プロジェクトを進めながら無理に教科に寄せようとするのは,子どもたちのやりたい!知りたい!という勢いを止めてしまうことになる。しかし,だからと言って教科の学びは考えなくてよいという事ではなく,むしろ最初設計シートのところで9教科(国語・算数・理科・社会・英語・体育・音楽・図工美術・技術家庭)をしっかり意識したほうがよい。教科のねらいになる概念やスキル,ものの見方・考え方で扱いたいものを考えて9教科を眺めたら、2,3教科が重なるね、と意味づけされる感じかもしれない。プロジェクトが安易な活動主義に陥らないためにも。そうやって考え続けていくと,スタッフに求められる専門性,職能の新しい形が見えてくるかもしれないぞとも思うんですよね。
プロジェクトの「設計」については,最近(これを書き始めてから3週間ぐらい!?)見えてきた!と,感じる場面があったんですよね。風越がプロジェクトで挑戦することを考え続けていきたいと思います。次年度の設計シートのアイディアがふくらんできたんですよねぇ〜わくわく。
さて,プロジェクトは週3回ほど行われます。ある日のプロジェクトが終わると,そこここでスタッフたちがミーティングをしています。振り返りをして、次回への”作戦会議”です。子どもたちの行動や思考は予想していたことに対してどうであったか,プロジェクトの大きな目的や方向性に照らし合わせてどのように駆動させていくかを発散し,次に向けて各自の役割を確認して・・・日々の授業づくり,そのものです。私はそんなスタッフの姿を,いろんな炎があっていいなと思って眺めてます(自分も参加したいなってちょっと思いながら)。スタッフによっては、情熱的な赤い炎もあれば、静かに燃える青い炎も見えるのです。
一つのプロジェクトに数名のチームで取り組むことで、経験や考え方の違いを越えた先にある喜びを味わうことにもつながっています。また、プロジェクト設計について相互にフィードバックしあう「プロジェクト・チューニング」という機会をもちます。各プロジェクトチームのスタッフが別々のグループになるように分かれて「発表者」「進行役」「タイムキーパー」の役割を決めたらチューニング・スタート。
心持ちとしては,1)内容には厳しく、人には優しく,2)親切に、役に立つように、具体的に,3)皆に発言の機会を与える,または「ステップアップ、ステップバック」(発言を積極的にしたり、発言を控えたりする)です。
進行役は,次の5つの流れにそってチューニングを進めていくのですが、ポイントは自分のプロジェクトを発表する人を前にして、本人が話せない状況で他のメンバーがプロジェクトについて議論する③のプロセスです。
① 「私のプロジェクト」についての概要説明(3分)[発表者のプレゼンテーション]
②解像度を高める問い、掘り下げる問い(8分)[他のメンバーから発表者への質問]
③議論(6分)[他のメンバーによるプロジェクトの議論,発表者は聞くのみ]
④レスポンス(6分)[議論されていたことに対して発表者からの応答]
⑤振り返り(2分)[発表者によるチューニングの時間の振り返り]
チューニングをすると、本当に自分たちのチームでは気がつかなかった視点をもらえたり、よりよくするための助言をもらえたりということがあります。時にはチューニングを経て、プロジェクトの計画をまるっとひっくり返してしまうことも。
この機会を通して,当然ほかのプロジェクトにも関心が向かうので、長い目で見た時に風越でのプロジェクトによる学びが拡まっていくことに繋がるはずです。こうして、いよいよ子どもたちの前に立ちます。
2021年1月14日に、4ターム目の初回のプロジェクトが始まりました。3ターム目までの子ども同士、あるいはスタッフと子ども同士が築いてきた関係性があるからでしょう、どのプロジェクトも静かな炎、めらめらと燃える炎のように、そのどちらも見ているこちらにまで期待を感じさせてくれるものでした。スタッフもみな,緊張感がありつつ楽しそう(いいな!)!!2月25日のアウトプットデーが楽しみです。
*1 ハイ・テック・ハイ:
ハイ・テック・ハイの9つの指標からなる設計シートは,それぞれ,1)プロジェクトのアイディア(プロジェクトの要素),2)資材(プロジェクトの完成に必要な資料・道具・材料・ソフトウェア),3)本質的な問い(真正であり,簡単に答えが出るものではなく,生徒の知的筋肉をストレッチするものであり,想像力に火をつけるもの),4)聴衆(一緒にプロジェクトを進めるメンバー),5)展示のアイディア(プロジェクトに活かされる発表とは何か),6)学びの目的,7)学びの先生(だれか他にこのプロジェクトに対して価値や視野をもたらせる人はいないか),8)専門家との接点(どのような専門家がゲストスピーカーや批評段階でのフィードバック提供者になりうるか。実社会に繋げる機会はあるか),9)ジレンマ(どんな困難や葛藤を今後プランを進めるにあたって感じているか)を挙げている。
*2 設計シート:
2名のスタッフが前任校でプロジェクトを設計してきた様子のインタビューを通して完成させた,風越のプロジェクト設計シート(暫定版)の一部で「かぜぐらし」と称される。1本の大きな木が描かれて,その下に座る2人の子どもの画に対応して,「種(大きな経験,大きな問い)」,「水(子どもの探究心を喚起する対象,素材,問い)」,「肥(大人がいわくわくしていること,地域の人やスタッフ)」,「大気(外部の知的人材,社会的な資源)」など全部で11の項目からなる。
*3 逆向き設計:
ウィギンズ(Wiggins,G.)とマクタイ(McTighe,J.)が提案するカリキュラム設計論で,「求められている結果(目標)」,「承認できる証拠(評価方法)」,「学習経験と指導(授業の進め方)」の3つについて,学習によって最終的にもたらされる結果から遡って教育を設計すること,多様な評価方法(筆記テストや実技テストだけでなく,パフォーマンスによる知識やスキルの活用や応用を確かめるようなパフォーマンス課題など)をあらかじめ構想することが特徴。
(Wiggins,G., McTighe,J. 理解をもたらすカリキュラム設計(Understanding by Design)(ASCD, 1998/2005))
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