2020年8月4日
こんにちは。CDP(カリキュラム・ディベロップメント・パートナーズ)のまーぼー(古瀬正也)です。前回、「プロジェクトアウトプットDAY」1日参観記(前編)を書かせていただきましたが、今回は、その続きです。
前編は午前中のプログラムについてでしたので、後編ではお昼休みの場面から、僕が見聞きし感じたことや考えたことを書いていこうと思います。
お昼を食べ終え、校内をふらふらしていると、どこからともなくギターの音が耳に入ってきました。その音を辿っていくと、そこには人だかり。一人の男の子がギターを、スタッフのこぐまさんがウッドベースを演奏していました。
どこかで聞いたことある楽曲…。そうだ、「ホテル カリフォルニア」だ。いや、しぶいな。(と言っても、僕の世代でもないのですが…笑)でも、この場の雰囲気がとても良い。子どもとスタッフが対等にタッグを組んで演奏していて、それを温かい目で見守る人たち。大きい子も、小さい子も、みんながごちゃまぜで、その時間を楽しんでいました。
ちなみに、あとからスタッフに聞くと、この演奏は即興的にはじまったのだとか。(どうりでパンフレットには書かれていないわけです)さらに驚いたのは、この光景は日常的なのだそう。
この即興性こそが、もしかしたら風越学園の一つの特徴を表わしているのかもしれません。全てを予定調和にさせない。遊びをつくる。余白をつくる。思い返してみれば、風越学園のお昼休みは「12:00〜13:30」と長いのです。この時間、子どもたちはたっぷりと遊びます。その余白の時間こそが、即興を生み出す源泉にもなっているのだと感じました。
午後のプロジェクト発表で最初に訪れたのは、「動物、環境を守ろうプロジェクト」。今の動物や植物がどのように生きているのかを説明していました。
内容ももちろんよかったのですが、個人的に印象的だったのは、クイズを出す時の「デーデンッ!」という掛け声でした。目配せをして、息を合わせて一斉に「デーデンッ!」。なんだかとっても楽しそう。ちょっぴり、してやったぞ感もある。
しかも、クイズごとに何回も繰り返すものだから、見ているこちら側も「デーデンッ!」をいつの間にか期待しはじめる。そして「デーデンッ!」が出る度に、会場はクスッと笑い声に包まれていました。
それにしても、どこで覚えたのか、この「デーデンッ!」。テレビのクイズ番組だろうか、それとも…。いずれにせよ、これも一つの発表の工夫に違いありません。
〈なに〉を発表するかと同時に、〈どう〉発表するのか。この両方があってこそ、発表は成り立ちます。つまり、子どもたちはたくさんの発表を通して、〈なに〉を〈どう〉発表したらより相手に伝わるのか、も同時に学んでいることだと思います。会場の空気感や笑いを肌で感じること、そのことで発表における「つかみの感覚」をも習得していたのかもしれません。
次にやってきたのは、「国際交流プロジェクト(海外の人と交流するプロジェクト)」のクイズラリー。受付に行くと、もう大盛況で、人だかりと行列ができていました。
クイズに答えてもらうことで、よりフィリピンのことを理解してもらおう、という趣旨。さっそく受付でクイズの解答用紙をもらい、いざ、クイズラリーへ。ちょっと歩くと、1問目が書かれたホワイトボードを見つけました。「フィリピンの国旗(こっき)には、何こ星(ほし)があるでしょう?」「①4こ」「②13こ」「③3こ」(低学年の子にも読めるように、ふりがなを振ってあるのも、素敵な配慮だなと思いました。)
げげっ、思ったより、難しいな…。うーん…と、しばし考えていると、子どもたちが口々に「絶対に3個だよ」と言っているのが聞こえてきました。えっ?なんでわかるの?しかも絶対に?と一瞬、疑問にも思ったけど、しばらくして、ホワイトボードの星に気づきました。ここに星が3つ描かれているではないか!と。しかも、解答用紙にも星3つがある!そんなこんなで、第1問を突破。(結局、正解でした)
そのあと、最後の5問目までまわりましたが、なかなかの難しさでした。答え合わせをしてもらうと、2つも間違いがあって、もう一周ぐるりとクイズラリーをまわって、二周目でようやくクリアすることができました。(いやー、けっこう時間がかかってしまった…)ちなみに、全問正解すると、スタンプを押してもらえます。そして、いろんな国の国旗の手づくりシールをもらえます。
ここで改めて、いいなと思ったのは、あれもこれも手づくりなところ。スタンプも、シールも、回答用紙も、みんな手づくり。つくれるものは何でもつくる。この「つくる」という精神も、風越学園の一つの特徴なのかもしれません。
「つくる」ことで学んでいく。それはプロジェクトだけではなく、学校づくりも。たくさんの「つくる」体験の積み重ねが、最終的には自分の人生を「つくる」ということにも繋がっていくのでしょう。
次に訪れたのは、ASAGAOチームの発表。犬猫の殺処分の現実を説明してくれました。
いいなと感じたのは、単なる調べ学習の発表ではなく、「犬猫の殺処分をなくしたい」という想いを実社会で実現させるために、今の自分たちができることを精一杯やっていたことです。
このチームの歩みは、かぜのーとの記事「やることがいっぱいありすぎる」にも詳細に書かれていますが、例えば、里親が見つかるまで一時的に学校で犬を預かろうと、犬小屋づくりをしたり、そのために必要なお金を集めるために募金箱をつくったり、それを知らせるためのチラシをつくったり…と試行錯誤しながらも、実践してきたことがわかります。
つまり、この日の発表は「発表のための発表」ではなく、「実践の延長としての発表」だったのです。もっと言えば、発表を通して、現実を理解してもらうだけではなく、募金を集め、大人も巻き込み、社会をより良くしていこうとするための「社会的実践のための発表」でした。
また、展示のコーナーには、「ねこをかう前に知っておきたいこと」「犬をかう前に知っておきたいこと」という2冊の手づくり本が置かれていました。
猫の本をぺらっと1枚めくると、「はじめに」があって、この本のねらいが明確に記載されていました。「この本は『こんなはずじゃなかった』と、ならないようにするために読む本です。この一さつで、心がまえから、さつしょぶんのことなどが、まるごと分かります。」と。右に目をやると、「もくじ」のページもあり、本として、しっかり構成されていることがわかります。
心構えの最後の「さいごまでかえますか」は、少しドキッとさせられる文章です。
「さいごに、ぜったいにねこをすてなくて、ぜったい20年後も毎日世話できるかです。自分が今30才なら、50才まで、毎日です。『今日はつかれたからお休み♫』ではいけません!!ねこの世話に休みはありません。さつしょぶんされるねこはみんなかいぬしがもちこんだねこたちです。もし自分が世話できなくなったときのために、世話をしてくれる人をさがしておきましょう。」
また、途中で猫を飼うためのチェックリストがあったり、最後の方には「もしもの時に…」のページがあり、「どーしてもかえなくなってしまった」「だっそうしてしまった」という2つの緊急事態についても書かれていました。
「おわりに」には、こんな素敵な言葉がありました。
「かいたいと思っても、しっかり考えてくださいね。ねこをかうことは楽しいことばかりじゃないけど、いっしょにのりこえて、いっしょにしあわせになってくださいね。」
もし一人でも、この本を読んで、猫を飼う時にはしっかり考えてから飼おうと思えたのならば、そして、実際に最後まで飼うことになったのならば、それは一つの命が救われた、とも言えるでしょう。
犬もそうです。犬小屋をつくって、里親が見つかるまで一時預かりの役割を果たしたのならば、一つの命が救われたことになります。
たとえ一匹だとしても、「一つの命を救う」という体験に変わりはありません。また、実社会にもつながるアクションを起こすことで、小さくとも「社会は変えられるんだ」という体験にもなり、このような体験の積み重ねが、市民性なるものを育んでくれるのだろうと感じました。
続いては、バンドチーム「風越ベアーズ」の発表を聞きに、体育館へと向かいました。はじまりの挨拶では、「ドラムは◯◯くんで〜す」「ピアノは…」「ボーカルは…」とそれぞれのメンバー紹介もあって、なんだか楽しそう。紹介するごとに会場も拍手いっぱいとなり、場もどんどん温まっていきました。
途中から、観客からの手拍子もはじまり、子どももスタッフも保護者も一緒になって、それぞれに楽しんでいる様子。椅子に座って見ている人もいれば、床に座っている人、立って見ている人、さまざまでした。
一曲の演奏が終わると、たちまちに「アンコール」の声が起こり、それに応えて、もう一曲を演奏していました。
思いっきり表現するということ。そして、それをしっかり見てもらうということ。こうした「発表」の場が、今の自分たちの力を試す機会になり、自分たちの現在地を理解することにもなるのだと思いました。
午後の最後には、「0円食堂」の発表を聞きに行きました。このチームはお金を使わずに、食堂をつくろうとしています。この日の発表では、ダンボールでつくっている最中の「回転テーブルのせっけい図」や、丸太でつくった椅子などを紹介してくれました。
発表後、「今、つくり途中の材料と、丸太の椅子を持ってきたので、ぜひ、見ていってください」とのアナウンスがあったので、間近で見させていただきました。
丸太の椅子は、見た目はとてもシンプルな構造。でも、じっくり観察させてもらうと、接続している部分の釘は3〜4本あり、複数の釘を使用することで、強度を高めていました。話を聞くと、自分たちで釘を打ってつくったのだそう。
改めて考えてみるならば、教科的には「図工」とも捉えられるし、釘の運動エネルギーなどを考察するならば「理科」とも言える。つくる過程で、長さや重さを測ったり、数を使って計算するとなれば「算数」について学ぶ機会も潜んでいる。はたまた、強度の話になれば「建築」という分野に興味が拡張する可能性すら秘めている。
そう、「釘を使って、椅子をつくる」という行為の中には、おそらく数え切れないほどの「学びの種」が潜伏している。
でも、おそらく子どもたち自身は、その種の存在には気づいていない。だからこそ、子どもたちが、今やっていること、熱中していること、その体験の中に、どんな「学びの種」が眠っているのか、そして、今どの種が芽を出したがっているのか、そこにスタッフは目を凝らしていく必要があるのだと思います。
一つの体験は、たくさんの学びと実りの源泉。たっぷりと、いろんなことを体験してほしいなと感じました。
さて、これで午後の発表も終わりです。終わったあとは、後片付けの時間があり、最後には各ホームの「帰りのつどい」や各プロジェクトの振り返りが行われていました。
前期のホーム「え」では、子どもたちに今日の一日のことを聞きながら、とっくんがホワイトボードに書き出しています。子どもたちは、それぞれ自由に、しかも同時多発的にいろんなことを話していました。(これを一気に聞き分けるには、聖徳太子に並ぶ傾聴力が必要そうです…笑)
教室の外でサークルになって、振り返りを進めているところもありました。(怒涛の一日を終えて、ちょっとぐったりしている子もしばしば…)
一方、7年生の振り返りは、しーんと静まり返り、一人ひとりタブレットに向かって、なにやら黙々と記入していました。
スタッフに確認すると、(テクマトリックス株式会社と独自に開発した)コミュニケーション・プラットフォーム「typhoon」に一人ひとりが振り返りを書いているとのことでした。
書いた振り返りは、子どもたち自身もあとから見返すことができるし、スタッフも確認できる。かつ、複数のスタッフからのコメントやフィードバックもできるのだそう。しかも、振り返りを書いた人の欄には印が入り、もう書けたのか、まだ書けていないのか、一目瞭然。また、スタッフがコメントをしたら、その印も入るので、子どもたちもコメントを即座に確認できます。
これには、正直、驚きました。(かぜのーとの記事で読んではいたものの)ここまで、テクノロジーを駆使しているとは…。「大人が中心つまりスタッフや保護者が便利になるためではなく、子どもを中心とした子ども自身が学びのコントローラを持ち続けられる土台のシステムをつくりたかった」と言うしんさんの願いが、まさに実現されつつあるんだなと感じました。
最後に改めてこの1日を振り返ってみると、風越学園には「振り返り文化」というものが深く根づいているのだと感じました。
どの発表でも、発表の最後には必ず「フィードバックをお願いします!」と言われ、付箋に記入することもあれば、アンケートの形もあり、サークルになって直接伝えることもありました。
特に印象深かったのは、お昼休みのこと。「菌とは何か」チームの2人の男の子が僕のもとに来て、「僕たちの発表どうでしたか?率直なフィードバックください!」と聞きに来たことです。
「大学の教授にメールまでして、Zoomで教授から直々に教わり、バクテリアアートも実際につくって、本当に素晴らしかったよ」と、率直に伝えたら、嬉しそうな反面、ちょっと浮かない顔をして…しばらくして、こう聞いてきました。「よくなかった点、もっと改善できそうな点はありますか?教えてください!」と。
いや…まいったな…本当に素晴らしかったからな…と、心でぼやき、なんとかひねり出して、「もしかしたら、こういう方向性も一つあったかもしれないね」と話をしたのでした。
続けて彼らの話を聞いていると、実は、彼ら自身「もっとできたはずだ」と感じていたことがわかってきました。「本当はもっと本格的なバクテリアアートをやってみたかったんだ。でも、今回は時間がなくて…」と。僕からすると、もう十分すぎるくらいでした。でも彼らの実感としては、100点ではない、というのです。
なんてストイックなのだろうか…。学びに貪欲というか…。もっと学びたい、もっと知りたい、もっともっとより良いものを目指したい、そういう欲求があふれているように感じました。
しかも、彼らは「フィードバックを受ければ、物事をどんどんより良くしていける」という「学びの秘訣」を知っていました。耳障りの良いフィードバックだけでは不十分で、特によくなかった点や改善点のフィードバックも、同時に必要であることを確信していたのです。
ふと、教育学者であり哲学者の、ジョン・デューイの言葉を思い出しました。
We don’t learn from experience. We learn from reflecting on our experience.
(私たちは経験から学ぶのではない。経験を振り返ることから学ぶのだ)
まさに、風越学園の子どもたちは、このことを体現しているかのようです。経験しっぱなしにはしない。振り返って、学びに変換して、学びを収穫してから、次に進む。
そして、この姿勢と態度は、スタッフも丸っきり一緒でした。全てが終わったあとの、後期スタッフのミーティングを少し見させてもらったのですが、まさに、日々の実践を振り返りながら、より良いものに改良し続ける姿がありました。全員が真剣そのもの。今の仕組みが完全とは思っていない。だからこそ、日々、改良し続ける。この営みは止まない。
まずは自分たち大人が、学び続け、変化し続ける。そんなスタッフに囲まれた子どもたちだからこそ、「振り返り」というものが一つの文化のように浸透していたのだろう、と感じました。
子は親に似る、とはよく言いますが、間違いなく、子はスタッフにも似るのでしょう。日頃のスタッフの言動や態度や姿勢が、存在そのものが、無意識的に子どもたちに浸透している。逆に、子どもたちの成長や変化や反応を受けて、それでまたスタッフも学び成長する。つまり、子どもとスタッフの関係は入れ子状態。上下関係ではなく、相互に影響を与え・与えられる存在。ともに学び続けるパートナーなのだと思いました。
さてさて、これにて、この長い長い「1日参観記」を終えたいと思います。前編の公開から少し時間が空いてしまいましたが、最後までお読みくださった皆さん、本当にありがとうございました。このレポートが、何らかの形で皆さんの日々の実践における糧となってもらえたら幸いです。
古瀬正也(古瀬ワークショップデザイン事務所)