2020年7月26日
通常登校が6月頭に始まって、2ヶ月弱が経った。あっという間だったけれど、長かった。
風越学園では、子どもたちの「〜したい」から始まる「プロジェクト」を大切にしている。しかし分散登校の数週間を経て見えてきたのは、自分の「〜したい」だけでガンガン動ける子ばかりではない、ということだった。
そこで、最初の段階ではぼくらスタッフから探究のテーマを手渡すことも必要だろうということで、6/2から後期(3〜7年)は「テーマプロジェクト」を午後の時間に実施することにした。3,4年生2グループ、5,6年生2グループ、7年生1グループに分かれて、計5つのプロジェクトが走る。後期のスタッフも5つに分かれて、それぞれのプロジェクトを設計・伴走していった。
今回ぼくは、大越(かなめん)・大作(だいさっく)と一緒に、5,6年生のプロジェクトを担当した。去年スタッフ間でブレストしていた様々なプロジェクトのタネをながめながら話し合うも、今回メインで進めていくこととなったぼくとかなめんはプロジェクト初挑戦ということもあり、なかなか決めきれない。そんな中、サポートで入ってくれることになっただいさっくが「これだ!」と目を留めたのが、草木染め。彼女自身草木染めをしていたこともあり、科学とアート、ものづくりなどいろいろな要素が含まれているから、この題材にしよう!と背中を押してもらった。
染めで実用品をつくる、というゴールを想定しつつ、その題材を探究していく際の本質的な問いとして、「どうすれば自分のアイディアや気持ちを色と形で表現できるだろうか」を設定した。染めというのは、思った色や形が出しづらい題材ではあるので、そこに葛藤が生まれ、探究につながっていってほしいとの願いを込めた。
1週目は染めへの導入として、絵の具で色をつくったり、折り染めで形をつくったりした。
2週目からは徐々に「染め」の方へ。布に色をつけることができる液とそうでない液の違いは何か?と投げかけた後、子どもたちのこれまでの染め経験とつなげながら、それでは身近なもので布に色はつくかな?という問いの探究へ入っていった。
3週目は、自分の作品づくりの計画を練って、染めの実践・試行錯誤。ライブラリーから関連しそうな本を集めてブックトラックに並べて、スタッフからも積極的に子どもに本を手渡す。分量を測ったり、本で調べたりという姿が少しずつ出始める。
4週目は、染めのラストスパート。近くにお住まいの染織家の高野さん(手織工房 槐(kai))にもお越しいただき、本物の染めの実演を見る中で、疑問や謎が氷解。子どもたちの熱量が一気に高まった瞬間だった。
並行して、翌週7/1(水)に迫ったアウトプットDAYに向けた企画づくりも。「これまでやってきたことを来場者に伝えるには?」という問いかけに対して、「実演する」というアイディアが子どもたちから出たことから、来場者向けワークショップも行うことに。
当初ぼくらスタッフは「草木染め」のワークショップを行うことは想定していたけれど、子どもからは、序盤に行なった「折り染め」のワークショップも開きたいとの声も出てきた。子どもたちの中には、ぼくらの想定以外のものもしっかり残っているんだなあ、と改めて気づかされる。
残り時間のとても少ない中での準備になってしまい、この部分にももっと時間を使わせてあげたかったなあとも思ったけれど、ワークショップを急ピッチで準備する中で、「カズアキ、当日の全体の動きをすごく考えてくれてるなあ」「モミってこんなにハッキリ意見言えるんだ」など、それまで知らない子どもたちの一面も知ることができた。
そうして迎えた7/1(水)のアウトプットDAY当日。なんとか当初の予定どおり、作品の展示にプロセスの説明、さらに折り染め・草木染めのワークショップを開催。いずれも大盛況!予想以上に参加者が集まったため、自分の担当時間を過ぎてもずっと折り染めや草木染めのワークショップをしてくれた子たちなど、予想外の事態に対しても、スタッフに何か確認したりしないで、自分で考えて臨機応変に動く姿がかっこいいなと思っていた。
自分自身、人生初の「プロジェクト」を終えて、体験的に学べたなーとスッキリしている部分と、ますますよく分からずモヤモヤしている部分とがごちゃまぜな感じ。
学んだことの一つは、1回1回の授業設計について。2週目に「布に色をつけることができる液とそうでない液の違いは何か?」などの問いを投げかけたわけだけど、それを授業の中でどう扱うかの吟味が不十分だったせいで、子どもたちが活動に集中しづらく、なんとなく停滞した時間が流れてしまうことがあった。そうしたことがある度に、授業を見てくれた他のスタッフからビシバシフィードバックをもらい、同じくプロジェクト初体験のかなめんと一緒に軌道修正。この修正プロセスも自分にとってとても有意義な時間だった(しんどかったけど)。
話し合う中で、「染め」というわざにみんなで向かっていくためにも、各回の授業は基本的には「一話完結」と考えて設計し、子どもの興味をつなぎながら進めていくスタイルを取ろう、と決めた。毎回記入してもらっていたワークシートについても、「今回の肝はここだから、こういう部分に注意して書いてもらおう。そのために子どもの様子を見ながら、こんな感じで声をかけあおう」というように、担当スタッフ間での打ち合わせも、徐々に解像度が高くなっていった。
また、染めという題材と自分との関係についても、多くの発見があった。正直な話、染めという題材は、一緒にプロジェクトを担当した大作の推しに乗っかってエイヤと決めた部分が大きく、当初自分にとってそれほど身近なものではなかった。でも下調べをしたり、自分自身が高野さんと草木染めを体験したりする中で、「えっ、こんなに染料必要なの!?」「わっ、こんな色になるんだ!」と日に日にこの題材に興味がわいてきたし、その面白さに気づいた。
似たような変化は子どもたちの姿にも現れていた。たとえば、もみじが予想外にきれいな色が出ると知ってスイッチが入ったヒコ。その後も、煮出す分量や温度を調整してみたり、何度も煮出してみたり、染液を凍らせてみたりと、さまざまに工夫をしていた。
彼以外にも、高野さんと染めを実践した日、もみじの赤を銅で「媒染(ばいせん)」すると、なんと緑色に変わるということがわかると、多くの子が驚きの声をあげていた。
こんなふうに、たとえ最初は子どもにとって身近でない題材であったとしても、少しずつ丁寧に活動を積み重ねていくことで、だんだんと身近な存在になっていくこともあるんだというのが体感できた。そのためには、毎回の活動のゴールをきちんと考え抜くことや、子どもたちが試行錯誤する時間をたっぷり取ること、そしてその題材の面白さ・奥深さを知り尽くしているプロの方と良いタイミングでつながることなどが大切そうだぞ、というのも今回の大きな学びだった。
同時に、そもそものテーマ設定の難しさも感じている。図工の岡部(こぐま)によると、染め物は性質として、子どもたちにとって思い通りの「色」や「形」をつくることが難しい。だから「色と形で表現しよう」というテーマを置きながら、その手段として「染め」を設定するなら、もっと時間をかけないと、子どもの心情や感覚を「表現」するというところまで行き着かなかったのではないか、というふり返りもしている。自分自身がもっと染めを経験してからテーマを置けたらとか、もっと色々なスタッフと一緒に最初からつくれていたらと考えてしまうが、次への伸びしろと考えよう。
他にさらにモヤモヤしている部分は、なかなかうまく言い表せないのだけど、「プロジェクトってなんなんだ!?」みたいなこと。
今回は、「探究のサイクルを回すこと」を大きな目的として、それぞれのテーマプロジェクトが進んでいた。このプロジェクトでは、子どもたちを「探究者」と位置づけて、「観察」「仮説」「実践」「結果」のような言葉を適宜用いながら、そのプロセスを体験的に学んでもらおうとした。
子どもたちは、「きれいに染めるためには何をどうすればいい?」という試行錯誤をくり返した。本で調べたり、分量を考えたり、「染料」「被染物」などの専門用語も使い始めたりと、探究のサイクルをより本格的に回す姿がだんだんと増えていったのはよかったと思う。
一方で、子どもたちは他のさまざまな活動の中でも、自然に探究のサイクルを回している。極端に言えば、けんかの仲直りだって、遊びだって、探究のサイクルは回っている。日頃生活の中でも自然とやっていることを、わざわざ大人が出てきて子どもたちに経験させるからには、なにがしか「プラスアルファ」がなくちゃなと思う。風越として「これがプロジェクトに必要な『プラスアルファ』だ」と言えるものにはまだたどり着いていないけれど、1本目を終えた今、自分はこんな感じで考えている。
まず前提として、子どもが没頭できる活動であること。「つい探究しちゃってた」みたいな経験をきちんと一人ひとりの子どもができていなくちゃね(って簡単に言うけど、自分にとってはこの設計が一番難しい…)。他に「プラスアルファ」として、たとえば子どもが自分からはふれない魅力的な価値あるテーマにふれるとか、一人ではできない規模の仕事を複数人でやってのけるとか、伴走する大人が探究のプロセスについてフィードバックする中で、子どもたちが自分でふり返れるようになったり次の探究のサイクルを回せるようになったりとか。
どれも、今回のプロジェクトでどこまで達成できていたのかと聞かれたら、「今後の課題です。。」と言わざるを得ない部分がたっぷりあるのだけど、それでも実際に行なったプロジェクトを題材にして、スタッフ同士であれやこれや議論できるのは幸せなことだ。
「価値あるテーマって、何?」「その価値と『教科の観点』の関係は?」みたいに、いくつも新しい問いが生まれてくるけれど、まずはスタートラインに立った気持ちで、次のプロジェクトに向けて、自分自身も探究を続けようと思う。