わたしたちのカリキュラム

2025年7月28日版

「フロア案内」(2020年6月)

1)カリキュラムは子どもの経験の総体

軽井沢風越学園は幼稚園と義務教育学校からなる12年間の幼小中混在校(注1)です。

 

軽井沢風越学園では、3歳から15歳までの12年間の連続性を大切にしたカリキュラムを目指しています。 実体験と抽象、探索と探究、あそびと学び…。それらを行き来しながら、一人ひとりの「自分をつくる」と「自分でつくる」時間を積み重ねます。

 

わたしたちは、カリキュラムとは「子どもの経験の総体」と捉えています。子どもは授業等の意図された時間の中だけで学んでいるわけではありません。森やライブラリー、ラボなどの環境、活動によって変化する集団、異年齢の子ども同士の関係や日々のスタッフの関わり、たっぷりある昼休み時間でのあそびもカリキュラムです。時には地域の人や専門家に出会いながら、風越学園に集まる人たちと街のようなコミュニティで経験することも、その一つです。

 

「どんな子どもにも幸せな子ども時代を過ごしてほしい。あそびが学びへとつながっていく、人間の自然な育ちを大切にした学校をつくりたい」という願いのもと、わたしたちは「子どもこそがつくり手」であることに常に立ち返ります。そのためにわたしたちスタッフは、子どもの姿を真ん中に置き、どう在ればよいかを何度も問い、子どもの経験の総体としてのカリキュラムをよりよくし続けていきます。


注1 幼小中混在校
一般的には“一貫校”ですが「じっくり・ゆったり・たっぷり・まざって」の願いを込めて“混在校”と表現しています。

2)私たちが大切にしている3つの視点

私たちはカリキュラムを考える上で、「身体性」「当事者性」「コミュニティ」の3つの視点を大切にしています。

身体性とは、本物の人やもの、こととの出会いや、自分の手でつくることを通して、体と心が動き出し、自分の中にある感覚や感性に出会ったり、気づいたりしていくことです。五感とともに、感情や意識がはたらき、身体感覚を伴う経験を重ねることで、対象との関係が自然と深まっていきます。

当事者性とは、関心を寄せて関わることから、だんだんと物事が自分の手の中にある感覚が芽生えていくことです。思わず身体が動き、世界と繋がる経験や、対象を自分ごととして捉えていく経験を大事にします。そうして自ら「つくる」ことにチャレンジする中で、「自分が動き出せば変わっていく」という感覚を育んでいきます。

コミュニティは、一人ひとりが自分を安心して表現でき、受けとめ合う関係性の中で育まれていきます。よりよく影響し合う経験を重ねることで、「わたし」が広がり「わたしたち」がかたちづくられていきます。互いを認め合う安心感が土台にあるからこそ、チャレンジができ、みんなでつくることの楽しさも感じられるのです。コミュニティには、そうした力があります。

3)12年つづく探究の学び

3-1)「探究の学び」とは

探究の学びは、「〜したい」、気になってしかたがないというような自分事のテーマ・問い、もの・こと・ひとに出会い、子ども自身が深め、切り拓いていく学びです。12年間というたっぷり、ゆったりとした時間、じっくり取り組める環境、他者とまざり合って、刺激し合う関係の中で、一人ひとりの「〜したい」が生まれていきます。

 

例えば森で出会う生き物たちや野外でのあそびの中で、次々に「知りたい」「わかりたい」「もっとやりたい」が生まれてきます。また、ライブラリーで出会う本はまだ経験したことのない新しい世界に誘ってくれます。ラボでテーブルをつくってはじめて、その成り立ちや複雑さ、つくることの難しさを知るとともに、自分自身でつくり出すことの喜びに気づくことがあるでしょう。自分で実感することが、次の「〜したい」という情熱につながっていきます。ここでいう「情熱」とは、風越学園では「探究に向かおうとするひたむきな思いや心の動き」のことです。

 

テーマや問い、もの・こと・ひとに出会い、没頭、試行錯誤し、大きく失敗しながら自らの経験の意味や価値をつくり続けていく、そのプロセスそのものが探究です。その経験の連続性のなかで、わたしも他者も社会もよりよく変化し続けるのだという手応えを持った「つくり手」になっていくのです。風越学園では、「くらしとあそび」「プロジェクト」「土台の学び」をカリキュラムの探究の学びとして位置付けています。

3-1-1)くらしとあそび

わたしたちが考える子ども時代に大切にしたい経験は、「本物に触れ、自分の身体と心をつかって感じること」「五感を通して、自分の感性を豊かにすること」「自分の手で自分の未来をつくる実感を持つこと」です。

 

幼児期は「わたし」の世界がふくらんでいく大切な時期です。幼稚園では、日常生活を自然の中におき、ほとんど全ての活動を野外で行います。森に入れば、多様な生命との出会いにおもわず身体と心が動き、わたしの感覚を通して、「これ〜みたいだね」といった目の前にあるもの・ことが持つ意味を見出し、世界との繋がりを広げていきます。また、可塑性に富んだ自然物を使った多様な遊びを通して、わたしの手の中で新たなものが生まれていく感覚を身体に蓄えていきます。時に、他者との違いを知り、葛藤もたっぷりしながらやり取りする中で、私から生まれてくる表現や感情を大事にしあい、友だちと繋がりあって私たちの日々をつくっています。

こうしたくらしとあそびをたっぷり経験した子どもたちは、新たな世界を発見し、その世界をつくるのは、わたし自身であるという感覚を身体に蓄えていきます。

 

このような幼児期を過ごした子どもたちは、義務教育学校の1,2年生になっても、身体をたっぷり使ってくらしたりあそんだりします。その中で生まれてくる気付きや思いからつくられる活動を、仲間と共に経験することを大切にします。子どもたちは、発見を記録し、共有するプロセスの中で次にやってみたいことや疑問が生まれ、繰り返し対象にかかわることで気づきがさらに広がり深まっていきます。

 

 

3-1-2)プロジェクト

風越学園のプロジェクトの学びは、義務教育学校3年生以上において「テーマプロジェクト」と「マイプロジェクト」の2つを指します。

(1)テーマプロジェクト

3年生から8年生は、ラーニンググループ(年齢の近い2学年合同の集団)で一つのテーマを探究する「テーマプロジェクト」が、探究の学びの核になります。子どもたちは、スタッフから提案されたテーマについて問いを立て、仲間と協同して探究します。そうして9年生になると、一人ひとりの卒業探究に向かっていきます。

テーマプロジェクトで大切にしているのは次の6つです。

1.年齢の近しい集団でスタッフ提案のテーマに取り組む

2.複数の教科とプロジェクトの5領域(注2)を横断しながら深める

3.自分なりの問いを立て、自分なりの答えを求めて探究する

4.多様な探究方法・探究スキルを身につける

5.子どももスタッフも協同して取り組む

6.学校外の人・もののリソースを活用する

注2 テーマプロジェクトの5つの領域は、それぞれ「自然・環境」「異文化理解・国際」「地域・産業」「ものづくり」「表現」です。

 

<風越学園では網羅主義的に知識を増やすことを目指しません。テーマプロジェクトで様々なテーマにふれ、その中で自分の関心に重ねて探究に向かう学びを実践します。「やってみたい、知りたい、解明したい」などの情熱とつながって探究することで、子どもたちは対象に向き合い、教科の枠組みを越えて学んでいきます。

 また2024年度から1~4年生が混ざってプロジェクト活動に取り組む新たな試みを始めました。幼・低学年期の自然の中での体験や遊びを土台に、「まざって遊び、学ぶ」ことを3・4年生まで大切にしたいという思いから生まれた挑戦です。体験と概念を行き来しつつ、4年間の広い幅をもって、柔軟に学習内容と関連付けながら遊び、学んでいくプロジェクトを目指します。

(2)マイプロジェクト

義務教育学校3年生から9年生は、毎週水曜日をマイプロジェクトの日(4コマすべて)としています。「マイプロジェクト」は、子どもたちの「やってみたい、知りたい、解明したい」という思いから出発します。個人の探究に没頭する子どももいれば、異年齢で一つのプロジェクトに取り組む子どももいます。一人で始めたプロジェクトが、周りの子どもたちに影響を与え、新たなプロジェクトへと変化していくこともあります。子どもたちはこれまでの経験を通して、「マイプロジェクト」のことを「自分のやりたいを究める時間」「自分で自分の問いを深める時間」「苦手なものもやってみる、探検・研究の時間」などと表現しています。また、マイプロジェクトの日のホームのつどいでは、それぞれのマイプロジェクトの計画を立てたり、振り返りをしながらお互いのプロジェクトに関心を寄せたり、フィードバックをしたりして、マイプロジェクトを大切にし合う時間をとっています。

 

3-1-3)土台の学び

義務教育学校の土台の学びは、それ自体が探究の学びです。だからこそ、教科の本質にふれること、自分の問いが生まれること、仲間と学び合うことの価値を大切にします。わからない問題を一緒に考えたり、お互いの意見を交わしたり、仲間の作品を味わったりと、一人ひとり違うことが生かされる時間です。また、スタッフのサポートにより、自分に合ったペースや学び方を試行しながら見つけ、選んでいきます。子どもにとって出会う価値のある内容を扱いながら、より深く学んでいくために大切な考え方を学んでいきます。

 

国語では、自分で読みたいものや書きたいことを選んだり、たっぷりと読みひたり、書きひたることなどを通して、わたしの言葉を紡ぐ経験を大切にします。算数・数学では、考えることを味わえる問題、生活のなかにある算数に出会いながら、子どもたちが子どもたちらしくじっくり深く考えたり、自分なりのペースで技能を身につけることを大切にします。

 

また学年に合わせて、より専門性を高めた土台の学びの時間を設定しています。具体的には図画工作の「つくる・描く」、理科の「科学者の時間」、社会科の「地球と人」、外国語の時間、スポーツ(体育)等です。体育の中では2021年度から「アドベンチャーカリキュラム」も実施しています

「5〜8年:アドベンチャープログラム・登山」(2021年10月)

 

 
 

4)つながりをつくる環境と関係

4-1)森、ライブラリー、ラボ

学園敷地内には、校舎面積の4倍以上の森が広がり、多様な動植物が生息しています。わたしたちは、森をたくさんの生き物とわかちあっています。子どもたちは、石・土・水・動植物などの自然物に五感を通して直接触れる体験や、仲間とたっぷり遊ぶ体験を通して、心の安らぎ、豊かな感情、好奇心や想像力を育んでいます。また、生態系を構成する様々な生き物との出会いを通して、自然と人の共生について考えを深め、共存する未来をつくり出そうとしています。

 

校舎の真ん中に広がるライブラリーには3万5千冊を超える蔵書があり、図書・雑誌・新聞が、いつでも手にとることができるよう子どもたちの活動に合わせて並べられています。ライブラリースタッフだけでなく一人ひとりのスタッフが、子どもの中に生まれた「ひらめいた!」「どうなってるんだ?」「◯◯が知りたい!」という思いを受け取り、本や情報、ときにはその世界に明るいスタッフや専門家とつないでいきます。

 

ラボは、図工室・工房・技術家庭室・理科室・音楽室・そうぞうの広場の総称で、子どもたちのつくる・描く・探究するなどの活動が日々展開されています。ラボでは多くの道具、用具、材料を子どもの心が動いたときに自分で使い、また片付けができるように環境を整え、よりよい経験につながるよう、スタッフがそれぞれの子どもの状況に応じて丁寧に手渡しています。それぞれの部屋に専門のスタッフが付き、子どもたちの「〜したい」に寄り添い、伴走しています。

「ラボでつくる」(2021年6月)

「ある日のライブラリー」(2022年6月)

4-2)ホーム

 わたしたちは学園の中で複数のコミュニティをつくり、そこで経験できることの価値を信じています。ラーニンググループ、興味関心でつながるマイプロジェクトの仲間の他にも、風越学園には異年齢構成(年少〜年長、1年〜4年、5年〜9年)の「ホーム」があります。異年齢で過ごすことを通して、自分の視線とは違う世界を見る、憧れる、ケアし合う、真似をすることを試してみながら、新しい世界をともにつくります。

 

安心してあそびや学びに没頭するには、自分の存在が大切にされていると感じられる場が必要です。ホームは「聴きあう」ことと「多様さを認めあう」ことを大切にします。

 

ホームのつくり手は一人ひとりの子ども自身です。また、スタッフもホームの一員であり、共につくる存在です。異年齢で「自分たちの居心地のよいコミュニティを自分たちでつくる」経験を積み重ねることは、「自分たちの居心地のよい社会を自分たちでつくる」原体験になるはずです。

 

4-3)民主的な文化をつくる・かざこしミーティング

風越学園は、子どもも大人も一人ひとりがつくり手です。毎月、「よりよい風越をつくっていくために話し合いたいこと」をもち寄って、「かざこしミーティング」を行っています。3歳〜15歳の子どもたちとスタッフはもちろん、時には保護者も参加して、「わたしたちの風越」について話し合います。かざこしミーティングのファシリテーターは、子どもたち自身が務め、必要な人に相談しながら、ミーティングの場をつくったり、議題に合った方法を選んで話し合いを進めたりしています。
そこで扱われる議題は、「〜したい」の実現を目指す、起きている問題を解決する、イベントの企画まで様々です。かざこしミーティングでの話をきっかけに、それぞれの日常に戻っても続きが話し合われたり、プロジェクトとして立ち上がったりします。こうした学校づくりは学校生活全ての場で行われていくのです。

「かざこしミーティング」(2020年12月)

4-4)パートナー

子どもたちの「パートナースタッフ」は、何を学んだか、どのように学んだか、どのような力をつけたかについて定期的にふりかえって、学びやくらしをサポートします。パートナースタッフは、子どもの「〜したい」を最大限に深めるために、探究、日々の暮らし、その他の活動の見通しを一緒に立て、伴走していきます。目的に向かって軌道修正をしたり、様々なリソースにアクセスできるようにコーディネートしたりアドバイスしたりします。他の人の助けを得ながら、自分なりの学び方やペースをつくることは、自分の未来は自分でつくることができるという実感につながります。

4-5)インクルーシブな学び

 風越学園の考えるインクルーシブな学びでは、「わたしらしくある(個)」ことと、「わたしとあなたでつながる(共同)」ことを大切にしています。

学びや遊びの場面では、一人でつくることと、他者と影響し合いながらつくることの両方が重要だと考えています。それらを行き来することで、その子らしさの輪郭がはっきりしていきます。その時に、その子の発達段階と年齢の近い集団の学びや遊びが離れてきたときや、「わたしらしくある」ことにつまずいているときなどには手助けが必要です。発達についての基準を参考にしながらも、どの子であってもその子の学びに繋がる手助けをしていきます。手助けとは、必ずしも手を出すことや個別の支援員がつくことではなく、インクルーシブな学びをつくるスタッフが各ラーニンググループに所属しながら、ときには見守る、つながりをつくる、個別に手渡す、ラーニンググループのスタッフと話し合うなど様々です。多様な子どもたちが共にいて、一人ひとりが遊び・学び浸れること、他者の存在を受け取り合い、コミュニティの中で育ち合うことこそが風越のインクルーシブであると考えています。

本人と保護者とともに、パートナーはもちろん、わたし研究所(通級的な個別や小集団の学びの場)などが連携しながら進めます。また、子どもの学びを支援するために、学校だけではなく、地域、医療、福祉、行政などと連携しながら、一人ひとりの子どもの"「  」になる"を支えます。

5)日々の記録と評価

風越学園が考える記録と評価は、「一人ひとりの学びの軌跡を蓄積し、 共に価値づけるプロセス」です。スタッフはもちろん、義務教育学校では子ども自身が自分の学びの軌跡を蓄積していきます。日々の記録をもとに、スタッフと子ども、時に保護者や地域の方々と共に学びを価値づけていくプロセスが重要です。そうして、子ども自身が、自分自身の学びを自分で評価できるようになることを目指します。

5-1)記録と評価のつながり

幼稚園では、毎日の子どもの姿、子ども同士の関わりを記録しています。義務教育学校ではテーマプロジェクトやマイプロジェクト、そして各土台の学びの学習活動において、ラーニンググループや教科の特質に合わせ、記録と評価の方法を柔軟に考えています。
記録はスタッフ間で共有しながら子どもの理解や次の日々を考えることに繋げており、記録の蓄積は「みらいをつくるファイル」に綴じて12年間保管しています。子どもたちは年に数度の機会にファイルを見直しては、自分をかたちづくる輪郭を確かめられるようになるといいなと考えています。

5-2)わたしアウトプット

共に価値づけるプロセスの大事な場として、「わたしアウトプット」があります。これは10月と3月に、半年間を振り返り仲間やスタッフ、そして保護者に向けて自分の学びについて伝える場です。学びの軌跡を蓄積してきた「みらいをつくるファイル」をもとに、自分の学びを自分なりの方法でプレゼンテーションします。結果だけでなく、学びのプロセスを大事にしながら成長を喜び合う時間です。また、もらったフィードバックを元に次の学びをつくっていく手がかりにします。

5-3)アウトプットデイ

年に4回程度、義務教育学校では学びのプロセスを語る場として「アウトプットデイ」があります。プロジェクト学びの成果やプロセスを共有します。子ども同士、学年を超えて、相互にフィードバックし合う場です。お互いの学びや成長を祝い、成長に貢献しあいます。また、保護者や地域の方々に向けて学びを公開することで、多様な視点からのフィードバックをもらうことができます。日頃の学習成果を、学年や学級を越えた仲間や、保護者、地域の人々など、様々な人に共有することで、学びの価値を再確認する機会ともいえます。スタッフにとっては、カリキュラム評価の場です。子どもたちのアウトプットや参加者からのフィードバックを通じて、プロジェクトが子どもたちにとってどのような学びの時間になったのかを実践者として振り返り、よりよくしていくための貴重な機会となります。

2025年7月28日版