スタッフインタビュー 2022年12月21日

俺たち、もっといい感じになれるんじゃない?(井上 太智)

井上 太智
投稿者 | 井上 太智

2022年12月21日

「ハッピーに発表することを意識してみて。発表する側も、聞く側も。」これは、授業で全体発表をする子どもたちに向けて、たいち(井上)がかけた言葉だ。その後、ちょっとふざける人がいるくらい和やかに行われた発表を見て、スタッフインタビューでたいちが伝えたかったことはこういうことか、と体感しました。(かぜのーと編集部・三輪)


学びとかどうとか言う前に。

最近、無意味な時間をいっぱいとりたいなーと思っているんだよね。忙しい中で集まっているからひんしゅくを買うかなと思ったけど、昨日もスタッフミーティングでは、みんながただただ話したいことを話す場をつくったり、子どもたちとの授業でもチェックインの時間を結構大事にしている。そうすると、推しのアイドルが・・・とか、最近お小遣いが足りなくて・・・って話が出てきてさ。普通に授業を始めていたら出てこないでしょ、そんな話。そういうどうでもいいことがおもしろいなと思うし、今の自分にとってすごく大事なんだよね。

__ 無意味な時間やどうでもいいことが大事。どうしてたいちがそう思うようになったのか気になります

自分はどちらかというと、場や関係性に関心が高いタイプの教員だと思うんだけど、風越学園にきて、一人ひとりを見ていこうという視点が強くなってから、個と集団の両方を行き来するようになったんだよね。そうすると、一人ひとりのストーリーや文脈がつながりあって大きな組織になったり、コミュニティになったりするんだということを改めて感じるようになって、じゃあ出発点になる“自分”ってすごく大事じゃんって。

でも今風越には、苦しさを抱えている子どもも大人も結構いるんじゃないかなと正直思うんだよね。子どもも大人も幸せであってほしい、幸せでありたいと願っているコミュニティのはずなのに。だから、学びがどうとかいう前に、まずはその人がその人らしくいられる場にしたいなあって。

__ どうしてそういう状況が起きているのか、たいちからはどう見えていますか?

たぶん、余裕がないんだと思う。スタッフの余裕のなさが子どもたちに伝わっている気がする。仮説だけど、一人ひとりがもっと自分を大事にすることって、余裕からも生まれていくと思うんだよね。そしてそれってきっと伝染していく。だから、まずは7,8,9年生のスタッフとは「スタッフがゆったりと!元気でいよう!」みたいな感じでやっている。

__ 時間の余裕だけではなく、心の余裕が大事ということでしょうか。

そうそう、心の余裕。難しい状況の時にみんなで笑えるとか、さっき言ったような無駄な時間を持てるとか。まずは自分から、と思って学年でそういう時間を持てるようにやっているけど、その範囲を学校全体に広げたいなーと思ってる。とか言いながら、なかなか手は伸ばせていないんだけど、でもそこは頑張りたいと思っているし、今関心が高いことの一つかな。

この日、授業を行う場所も「あたたかい感じの場所でやろうよ」とうまっち(馬野)に相談していた。

__ 自分を大事にする、とは別の言葉で表現するとしたらなんなのでしょう。

それぞれの表現だと思っている。わかりやすく言えば、何かを描く、つくるという時に子どもが一人ひとり違う作品をつくることもひとつだし、理科室での子どもの姿なんかもそうだよね。さっきも、唐松を拾ってきて「やにが少ない!」とか言いながらも松明をつくる実験をしている子もいれば、気球をとばそうと実験している子もいたんだけど、その子がこうありたい、これやりたいをそのまま表現できることが、自分を大事にすることだと思う。大人も、ようへい(佐々木)だったら、いつも数学のことを考えていて、なんでも数学に繋げていることとか、りんちゃん(甲斐)が「話がまた長くなっちゃうわ〜」と言いながらいっぱい話しちゃう感じもりんちゃんらしいなと思う。

お互いがそのまんまで居られて、感じあえること。スタッフに関しては、仕事を通してそう感じあったり、互いに生かしあいたい。今、一緒にチームを組んでいる7,8,9年生のスタッフとは、互いのことを知りながら、だったらこういうパスをだしてみようかなーみたいな動きはできている気がする。でももっとすごいコンビネーションを出したいなと思ったりもする。俺たち、もっといい感じになれるんじゃない?って(笑)。

7,8,9年生のラーニンググループスタッフ

他者との関わりと、関係性の築き方

__  開校前、2019年のスタッフインタビューでは「授業づくりにおいて、子どもたちは共同研究者である」と語っていましたが、風越にきたことで子どもとの関係性の築き方に変化はありますか?

共同研究者という感じではないかもしれない。というのも、理科の授業を持っている時間が、公立の頃の半分くらいになったこともあって、理科という文脈が自分のなかで薄まってきているかなと思う。

以前より、子どもたちとの関係性はだいぶフラットな気がする。仲間という感じ。いや、でもただの仲間でもないかなー。

__  たいちの中で、理科室にいる自分とそれ以外の自分とでは違いがあるのかな。

そうだね。理科室では一人ひとりがやりたいことを「いいじゃん、いいじゃん!」って言いながらただただ一緒におもしろがる人でありたいなと思うし、そういう自分でいると思う。でも他の場面では、こういう場が好きとか、こうあってほしい、自分もこうありたいみたいなものを、きつく言うと押し付け、ちょっとマイルドにいうとお誘いすることが増えたかも。

たとえば7,8年生のテーマプロジェクトの「地球の暮らし」も、こういう世界おもしろくなーい?ってお誘いする感じでそこにいる。今自分に関心があるから、アースオーブンつくってみようよって子どもたちを誘って一緒につくってみたり。

ホームだと、ゆったりした場をつくりたいと思うから、まずは自分がそういうふうにあろうと思うし、子どもたち同士が作用しあえるような存在でいたいなと思って、ちょっと触媒っぽくいたりすることは心がけているかな。

でも僕、子どもがいろいろやっているのを眺めているのが好きかも。子どもたちのわけわからないイロイロを、楽しそうだなー、あいつら仲良いなーって、ただ眺めていたい。

__  隣りにいるとか関わるとかではなく、眺めるなんですね。そこにはちょっと距離がありそう。

それがいいか悪いかわからないけど、そうなっちゃうねー。もっとグッと関わって引っ張ってあげられるスタッフもいるから、すごいなあ、やるなあって思う。

でも、今日も8年生のコウタロウが十日夜(旧暦10月10日に行われる収穫祭)の行事をつくっていたけど、ああいうのを応援したいなって思う。やってみたいと思ったことにチャレンジできるようにしたい。でもそれもひっぱってはいないかもなー。

__  でもちゃんと巻き込まれるというか、そこに居て一緒に楽しんではいるんですね。

うん、そうだと思う。この前もコウタロウに森川プロジェクトの水上キャンプは「たいちがちょうどいいってことになったんで担当お願いしてもいいですか?」って言われて、え、お前ちょうどいいってどういうこと?!ってなったけど、「もちろん」って。

十日夜のイベントについてふりかえる、たいちとコウタロウ。

__  月一回、7,8,9年生の保護者会もつくり始めたと聞きました。保護者との関係性の築き方にも、なにか思うところがあったのでしょうか。

保護者との関わりを全然持てていないという課題意識みたいなものがあった。こんな学校なのに、保護者と関係が薄いって残念じゃんって。保護者もきっとそう思っているだろうなあと感じていたしね。

__  保護者会ではどんなことをしているんですか?

MM法(*1)でおしゃべりしたり、学年で集まっておしゃべりしたり。今月はスタッフがやっているプロジェクトチューニングを保護者とやってみようと思って、自分がこれからやろうとしているテーマプロジェクトを伝えて保護者のみなさんからフィードバックをもらった。もちろんそれにも意味はあるけど、でもそれよりも、知り合って関係性を深める時間だと思ってやっているかな

__  どの関係性においても、たいちが今大事にしているのはそこなんですね。

そう、それは一貫していると思う。

*1:MM法…風越学園の評議委員でもある青木将幸さん考案のみんなで持ち寄るミーティング。各自が自分の話し合いたいテーマを決め、それを掲げてうろうろ。一緒に話し合いたいテーマをもとにグループを作り、話し合うミーティング法。誰かのテーマについて話し合うときは真剣に受け止めて話し合うのがルール。

到着地は変わる、変えられる。

__  たいちは他者に自分がどう影響するのか、ほどよい距離感を探りながらその場にいるようにしているんじゃないかなと、話を聞いていて感じました。それ以外にも在り方として大事にしていることがあれば教えてください。

心地よさという表現で合っているのかわからないけど、自分が今心地いいかどうかにはすごく敏感かも。すぐ緩めたくなっちゃう、ピシッとしたり、ピリッとしたりしていると。

__  それは、ピリッとやってもAになるし、ゆるっとやってもAになるなら、そこまでの過程が幸せなほうがいいじゃんということなのでしょうか。

いや、むしろもっといい結果がでるんじゃないかなと思っている。だから子どもたちがやっている実験とかも、教科書にはあてはまらないようなことをしていたり、大人はびっくりするようなことを本気でやっていたりするけれど、それでいいぞいいぞというか、それがいいぞいいぞと思う。

__  この学年だとここまで学べるといいんじゃないかということや、より正しい実験方法を知っていたりすると思うんですが、そこに持っていきたくなったりはしないんですか?

全くしないね。

__  全く。それはそれですごい。

いや、教員としてはよくないのかもしれない(笑)。でも、正しくとか、最短の距離でとかよりも、もっとこうなったらおもしろくなりそうみたいなところに興味があるんだよね。Aじゃないところへもいけると、やっぱり思うし。

セツ(8年)とミヤビ(8年)は地球の暮らしプロジェクトでハーブソルトをつくり、自分たちの学びをパンフレットにまとめた。(三輪もハーブソルトを1つもらったが、リラックスのできるとてもいい香りでした)

__  三年間風越で過ごしてきて、Aじゃないところへ行けている感じはしていますか?

全体で見るとまだまだなのかなというところもあるけど、そういう部分もうまれていると思う。すばらしい!オールオッケー!と言える感じではないけど、でもそこもポジティブでいたいよね。


インタビュー実施日:2022年11月17日

 

#2022 #スタッフ

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