風越のいま 2020年10月18日

これから先も話していきたい、デバイスとの付き合い。

山﨑 恭平
投稿者 | 山﨑 恭平

2020年10月18日

日常的に使う文房具として

軽井沢風越学園では、義務教育学校の3年生以上が1人1台ずつChromebookを持っています。

予定外のオンライン体制で始まった4月。この時は、1,2年生にもChromebookが貸出されていました。まだお互いのことを全く知らなかったこの時期にZOOMやtyphoonでのやりとりできたことは、とても大きかったです。

それから半年を過ぎ、子ども達はChromebookを日常的に使って学んでいます。例えば、作家の時間で作品を書くのに使ったり、算数でQubenaを活用したり、日々の学びを記録したり。さらに、typhoon上では、スタッフや子ども同士でコミュニケーションを取っています。

Chromebookを使って1週間の振り返りを書く

こうしたインターネットに接続された端末(以下、デバイス)を使うことは、これまでの義務教育段階では、かなり限定された時間や環境での使用だったかと思います。CDP(カリキュラムディベロップメントパートナー)の豊福さんは、家庭と学校でのデジタルデバイド(デジタル格差)を埋めていくことを提案しています。

私も基本的には、デバイスの活用に積極的な考えです。子ども達は、学校を卒業した後も多くの場面でデバイドを活用すると思います。こうした時代を生きていく子ども達にとって、デバイスの良いところも、難しいところも経験しながら、自分なりに活用方法を見いだしてくのがよいのではないかと思います。

朝の集いから放課後まで、いつでも使おうと思えば使えるというのは、家庭と学校でのデジタルデバイドがかなり埋まっている状態とも言えます。おかげで、子ども達は手に馴染んだ文房具のように使っている様子が見慣れた風景となりました。文章を考える時にスッとデバイスを開き「ドキュメント作って、共有するからちょっと待って。共同編集しよう。」というやり取りだって珍しくありません。

いつでもネットに繋がる未知の体制で起こったこと

私は技術・家庭科を担当していることもあり、いわゆるICTの利活用についてどちらかと言えば明るいかと思います。しかし、私自身の小中学校時代は、学習内容としてようやくコンピュータの仕組みや使い方が入ってきた頃でした。それも限られた時間と場所で使うもので、日常的に使うものではなかったですし、家庭でのインターネット普及率もそれほど高くありませんでした。そのため、軽井沢風越学園の小中学生が使いたい時に使えるという体制は、自分自身にとって未知の部分がとても多いです。

校舎への通常登校がはじまってしばらく経った頃から、typhoonで乱暴な言葉を使ったり、その場と関係ない投稿を繰り返したり、スタッフが問題に感じる場面が出てきました。また、赤木さんの記事でもあるようにゲームサイトや動画サイトで時間を費やしてしまう子も。

こうした状況に対して、オンラインでの共感性やメディアのバランスについて学んだり、話し合ったりする時間を設けました。対処的で消極的なアプローチかもしれませんが、デバイスを活用するメリットも感じつつ、難しさに対してはどのように取り扱うのかは手探り状態です。

「~したい」という気持ち

軽井沢風越学園では、たくさんの「~したい」が持ち寄られ様々な活動がおこなわれています。たしかに、休み時間や放課後に「ゲームがしたい」「動画が見たい」というのは「~したい」なのかもしれないし、そういうメディアに触れることができるのも、デバイスの特徴かもしれない。その中で、何かしら学びがあるのかも。そう思いながらも、子どもが「なんとなく」時間を過ごしている様子にもやもやしていました。インターネットやデバイスそのものが良くないのではなく、使い方が良くない状態だとは思っていたので、それまでも個別に声をかけることはありましたが、それではなかなか状態は変わりませんでした。

子どもと話したい根本的な課題が上手くまとまらず、何人かのスタッフに話を聞いてもらいました。その中でアンディ(寺中)の「以前にそれぞれのホームで話題にした「せいかつベース」にも繋がる話だよね」という言葉に納得しました。

「せいかつベース」生活づくりの根っこと3つの問い

インターネットやデバイスから離れることを自分でコントロールできない状態というのは、「せいかつベース」の問いのいずれにも「そうではない」と答える状態です。自分ではどうしようものない子がいるなら、なにかしらスタッフからのアクションが必要でした。そして、いくつかの選択肢がある中から選んだのが、昼休みと放課後の子ども用Wi-Fiオフというアクションでした。

大人の課題感をどのように場に置くか

インターネットやデバイスの使い方の課題に対して、個々に話すことはあっても、全体に対して投げかけることはあまりありませんでした。それは、デバイスそのもののメリットや、子どもの「~したい」からはじめることの良さを感じてきたからかもしれません。その中で「昼休みと放課後の子ども用Wi-Fiオフ」というのは、強い働きかけであると思います。

冒頭に書いたように、自分なりの使い方を見いだして欲しいと思っているので、「使い方を決める、決められる」という関係にはなりたくないとも考えていました。一方で、スタッフとしての役割もあります。このあたりで結構悩みました。

悩んだ結果、かざこしミーティングの場に置くということにしました。かざこしミーティングは、よりよい軽井沢風越学園を作るために日常的に議題を持ち寄り、話し合う場です。ここに、作り手の一人として決めたことを置く。これが一緒に学園を作っていく関係として、できる限りフェアな方法ではないかと考えました。

当日は、様々な場面で学びを支えてきたことを伝えたうえで、「せいかつベース」に立ち返り、目や頭をリフレッシュし風越ならではの環境をもっと活用するため、休み時間のWi-Fiをオフにすることを話しました。加えて、今回決めたことは変更できないものではなく、話し合ってよりよいものにしたいということも話しました。

この時の子ども達の反応は、赤木さんの記事にあるように静かなものでした。前に立っていて、正直なところ、どう伝わったのか分かりにくかったです。

しかし、その場が解散となった後、さっそく寄ってきた子もいました。「そもそも、昼休みに魅力的な活動があれば、課題解決できるんじゃないかと思うんですよね。何か、体育館でイベントを考えてみますよ」と話してくれました。この子は元々、風越での運動不足を気にしていて、自分の関心に寄せて考えてくれたようでした。

その一方で、あらかじめ動画サイトやゲームサイトのデータをダウンロードして遊ぶ子も出てきました。色んな手を使って、休み時間もネットをしたいという人がしばらく見られました。それに対して、声をかける子がいたり、その是非をアンケートで聞いて回ったり。いろんな反応がありました。

Wi-Fiを利用について、もっと直接的な要望があると思っていたので、少し意外でもありました。でも、子ども達の間で話題に上がるようになったというだけでも、ちょっとした変化です。

これからも一緒に話し合いたい。伝えたい。

これまでのように、使用する時間と場所を制限してしまうのは、スタッフがコントロールしやすくなります。インターネットやデバイスに関連して学校内で起こる問題も少なくできるかもしれません。しかし、インターネットやデバイスは、学校の中だけで使っていくものではありません。家庭でも社会でも付き合っていくことになります。

では、どうやって付き合っていくのか。これだけやっていれば大丈夫という、唯一の答えは用意されていません。よりよい付き合い方のために、自分で決めた一歩を積み重ねていくことで、自分なりの付き合い方を知っていくのかと思います。今回は使用時間の一部を制限するということになりましたが、この時間も良い形でコントローラーを子どもに委ねていき、付き合い方を試す機会になればいいと考えています。

そのためにも、良さも難しさも話し合って行きたいです。そして、ちょっとだけ先に付き合い方を考えてきた人として、やっぱり伝えたいことはあります。スタッフの「~したい」も、子ども達の「~したい」に少しだけ混ぜてもらい、「自由になる」そのための学びに役立ててもらえたらうれしいです。

その先に、今はまだ特別な道具としてのインターネットやデバイスが、さらに手に馴染んだ文房具として使われていくようになっていくことを願っています。

#2020 #カリキュラム

山﨑 恭平

投稿者山﨑 恭平

投稿者山﨑 恭平

旧・亀田出身。大阪、上越を経て、軽井沢へ。手元感ある日々を求めDIYな日々。コーヒー、日本酒を愛しています。広げて、捉え直す日々にしたい。

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