軽井沢風越ラーニングセンター 2022年6月27日

共に刺激しあい、共にかわっていく

岩瀬 直樹
投稿者 | 岩瀬 直樹

2022年6月27日

この記事を書いている今日は、軽井沢風越学園の創立記念日の6月22日。

本城と学校づくりをはじめて丸6年。開校して3年目になりました。感慨にふける暇もなく、今日も現場で飛び回っています。

ぼくたちは学校づくりをスタートした当初から、公立学校が変わっていくことに貢献したいという気持ちが強くありました。それは風越学園をモデルとして似た学校を増やしていくということではなく、刺激し合いながら、共に変わっていく触媒になりたいという想い。

それは、より多くの学校が、さまざまな形で幸せな子ども時代を過ごせる場になっていってほしいという願いでもあります。それに呼応してくれたのが長野県教育委員会からの教員派遣であり、日野市教育委員会との連携協定です。

今回はどのように日野市教育委員会との連携を進めてきているのかについて、まとめてみます。

軽井沢風越学園が開校に向けて準備している頃、日野市教育委員会は「未来に向けた学びと育ちの基本構想(第3次日野市学校教育基本構想)」という画期的な構想を策定して、以下のことを目指して動き出していました。

  • 一律一斉の学びから 自分に合った 多様な学びと学び方へ
  • 自分たちで考え 語り合いながら生み出す 学び合いと活動へ
  • わくわくが広がっていく環境のデザインへ

この第3次構想を読んだとき、ぼくは風越学園が目指していることとのつながりを強く感じました。

お互いが刺激となって、よりよい変化をうむのではないかという期待から対話を重ね、さまざまなハードルを乗り越えて連携が実現に向かったのです。

そして軽井沢風越学園と日野市教育委員会は、2020年からの2年間、「学校教育の質向上および教員の人材育成を目的に教員研修派遣に関する連携協定」を締結しました。それに伴い、日野市から計3名の教員が派遣されました。

2年間、教員派遣とともにさまざまな研修の機会を共にしてきました。公立と私立が連携して一緒に変わっていく。その未知のチャレンジは常に試行錯誤です。

では実際にどのような研修を行ってきたのか、いくつか紹介してみます。

自分たちの現場への問い直しが生まれた視察研修

学校見学および「これからの学校の形」を考える終日の研修を2回行いました。

「この指とまれ」での希望者の参加で、指導主事、校長、副校長、教員、行政系の方々等、2日間で約50名の方が来校されました。

視察研修のプログラムデザインは、日野市からの派遣教員と風越学園のスタッフとが協同で企画運営。この企画運営自体も彼らにとって大切な学びの機会です。当日は日野市のみなさんと風越学園のスタッフの対話の場も設け、風越学園のスタッフにとっても、公立校でチャレンジし続けている方々との出会いに刺激された2日間でした。

実際に風越学園を見学をして対話を重ねるこの研修は、自分の現場に戻ってからも問い直しが続いたり、新たなチャレンジをしたりする人が増えたと聞きました。例えば、

・学ぶってなんだろう。改めて問い直すことができた。自分の中で学んでいた。一律一斉で手を上げれば学んでいるのか?という問い直しが起きた。試行錯誤することが学ぶということなのではないか。子どもたちに学びを委ねるとは、本質的な学びとは何かを考えた。授業がうまくいった、盛り上がったで本当に子どもたちは学べているのか。

・自分は真似できるところを持ち帰るつもりだったけど、自分自身の学校が目指すことに気付かされる研修だった。先生が子どもと一緒に学んでいるのがよかった。寄り添うことが大切だとわかった。

研修が終わった後に、このような声が聞かれました。

小学校、中学校の先生が、幼児の遊びの様子を観察しながら、「学校教育が変わる未来の種」を探しているところ。幼児から中学2年生までの様子を見て歩きます。

「自分が理想の学校をつくるとしたらどんな学校にするだろう?」について、一番居心地が良い場所を探してソロで考える時間。

ソロで考えたことをもとにじっくり対話を重ねます。

日野市の先生の継続的な学びの場「わくわくプロジェクト」

風越学園の連携と並行して、日野市では新たな学校や授業のかたちを考える「わくわくプロジェクト」を発足させました。このプロジェクトは「新しい学びをつくりたい人、学びたい人、この指とまれ」で集まった人たちでスタートし、コアメンバーとして現場の教員が研修の場づくりをしていたのが特徴です。学校を超えて、関心の高いこと(プロジェクトの学び、自由進度学習、学び合い、ICTなど)でチームを作り、定期的に集まって対話したり、オンラインで情報共有したりしながら、新たな実践にチャレンジしました。公的な学習サークルのような場です。

ぼくたちも日野市教育委員会の方々と共に、このプロジェクトの伴走を担ってきました。

例えば、オンライン授業見学(zoomを活用した風越学園のリアルタイム中継)、オンラインで講義(探究的な学びのつくり方、教師の専門性を伸ばすリフレクションとは、等)、実際に集まって、風越学園のスタッフが各プロジェクトに入ってスーパーバイズする機会などです。

コロナ禍の中、熱量高く新たな実践にチャレンジし続けた3年間。「このプロジェクトにくるとエネルギーが湧いてくる」という声も聞かれ、学び合い、エンパワーし合う実践コミュニティとして成長していきました。先の視察研修にもわくわくプロジェクトのメンバーは多数参加されていました。

一人ひとりの「〜したい」という情熱からスタートしたこの研修は、日々の授業で子どもたちと大切にしたい学び方と入れ子になっていて、自分が学び手として経験した「〜したい」という情熱から出発し協同していく学びを、教室で同じように実現したい、と実感できる、学び手感覚を磨く機会となっていたと考えています。

わくわくプロジェクトでのスーパーバイズの様子

参加者の一人はこんな感想を書いています。

最初の参加で、何を考え、取り組んでいけばいいかイメージがもてず、自分の授業で生かすことが難しいと感じていました。しかし、同じグループの人や他のグループの人と話し合う中で、自分の強みを活用できるのではないかと気付き、それを実践につなげていくことができました。また、岩瀬先生をはじめとした風越学園の先生の話から、自分の学級でもできることに気付き取り組めたので、今回のプロジェクトに参加することができ良かったと感じています。

その他にも、例えば以下のような研修を行ってきました。

日野市の教職員の全体研修。オンラインとオフラインを融合した研修。
岩瀬のzoomでの講演をもとに各校が対話の場を設けた。(各校のファシリテーションは、わくわくプロジェクトのメンバーがになったそうです)

平山小学校の研究発表会の様子。岩瀬、大作、馬野が登壇しました。
当日はもちろん、3年にわたって校内研究の支援も行ってきました。

教員派遣での学び

このように、さまざまなかたちの連携を行ってきました。その中でも最も価値を感じている研修は、教員派遣です。2年間で計3名の方が派遣され、初年度の学校づくり、カリキュラムづくりから、日々の実践を共にしてきました。

派遣の中でどのような経験をしたのか。そのうちの1人、岡田達明さんに話を聞く機会があったので、ミニインタビューしてみました。

【6月20日ミニインタビュー 】

岩瀬

風越学園で過ごしたことで岡田さん自身に起きた変化はありましたか?

そうですね。一番は、「なんのためにやるのか」という目的から考えて取り組むようになったことですね。子どもが選ぶ、子どもが中心というのは前から意識はしていたけれど、風越学園に行ってからは、さらに常に「なんのためにやるのか」に戻って考えるようになりました。

子どもが自分で学びを進めること、プロジェクトに自分ごとで取り組む子どもの姿に1年間たくさん関わりました。例えば、にわとりプロジェクト(*1)では、自分ごとの話し合いがたくさんあって。鶏を飼うかどうかの話し合いのときに、ある子が「命あるもの飼っていいの?大丈夫?軽い気持ちでいってない?」という発言からの自分ごとの真剣な話し合いはすごかった。自分たちでやる、ということが高まっていくのを感じました。

プロジェクト、学び、生活が自分ごとになっていくと、子どもが本当に本気でそこに向かっていくようになるなと。風越にいく前もそういうシーンには出会っていたと思うんですけど、前よりそこに敏感に気づけるようになった。そういう姿の良さを、より感じられるようになったと思います。

岩瀬

今は、なんのためだと考えている?

大人が何を目的にして関わるかは、子どもたちが自分がそういたい姿、自分らしい姿に直結していると考えています。先生に認められたいとか、友達を気にして過ごす、ではなくて、自分がやりたいこと、自分がそういたいと思う姿で、人の目を気にせず自然にいられるためだと思っています。僕自身も日野に戻ってきて、以前よりだいぶおおらかになったと感じています。前は先生を演じなきゃと思ってやっていたのが、今は自然体でいられています。

こちらがやってほしい枠組みを子どもに提示して、子どもがその通りにやらないと注意する、というのは違うなとはっきり思うようになりましたね。自分がさせたいことをやらなかったからといって怒るのは、やっぱりちがうなと。

 

それよりも自分でやってみて、失敗しても失敗のフォローはするよ、というスタンスになりました。前は失敗しないように、失敗しないように先回りした指導をしがちだったなと思います。

 

今担任している学級では、以前より、子どもたちの「これやりたい!」が増えてきたように思います。次から次へと子どもから提案が生まれるんですよね。自分の今の立場はアドバイスするぐらいです。次どうすればいい?を一緒に振り返っています。なんでも知っている人としているというより、メンバーの一人として意見を言うよ、一緒に学校をよりよくしていこう、一緒にやろうというスタンスでいられているなと思います。

岩瀬

日野に戻ってどんなチャレンジをしている?

ひとつは、研究主任として研修の場の設計の工夫です。まだ難しさは感じていますが、対話が生まれるような研修会を目指しています。子どもへの関わりと同様、「なんのために校内研修をやっていくのか」を対話する研修会をして、全員の意見で研修をつくっていくことにチャレンジしています。

 

他にも風越学園で経験したプロジェクトチューニングにもチャレンジしました。最初は戸惑いの声も聞こえたんですけど、やってみるとそれぞれがファシリテーターになって進めていました。子どもの姿を想像しながらこういう経験を積み重ねていくと、変わっていくのではないかと思っています。

 

もうひとつは「マイプランスクール」という実践です。昨年度「1日風越」という名前で、全校で丸1日、一人ひとりが自分の学びの計画を立てて過ごすというチャレンジを始めたんですが、その発展版です。

 

今回同僚と対話を重ねていき、子どもたち一人ひとりが興味を持ったことを自分で進める、風越学園の「わたしをつくる」(*2)的なことにチャレンジしてみました。また、全校で1日の終わりに異年齢で、自分がやったことをアウトプットする機会も作ってみたりもしています。

 

教職員の振り返りでは概ねよかったという意見でした。自分で学びに向かっていくことに困る子がほとんどいなかった、異年齢のアウトプットはもっと工夫の余地があるよね、とよりよくしたいという、職員間のいい土台ができてきたなと感じています。

 

日野市と風越学園の連携の大きな意義は、一言で言えば、考え直す、問い直すきっかけになっていることですね。例えば、これまでの教え方でいいのか、学校はこのままでいいのかを問い直すきっかけ。探究的な学びもそうですね。実際に風越学園をみると、結果的にぼくたちのこれまでの経験から一歩踏み出さざるをえません。

戻ってきてからずっと、風越学園のスタッフと話していた「子どもを自由にするための大人のかかわりとは?」という問いを考え、実践し続けています。大事な問いで、風越学園からもらった宿題です。子どもの発想が広がるはたらきかけ、駆動するはたらきかけ。今まですぐに答えを求めがちだったけど、問いの形のまま持っていたいと思います。

問いを持ち帰ったというのが嬉しい。現場は別々になっても、同じ問いを探究し続ける者として一緒に変化し続けられるなと感じます。

続いて、2020年の開校の年に派遣された依田真紀さんにも聞いてみました。依田さんは2021年4月から日野市教育委員会事務局に勤め、連携事業の中核を担ってくれています。風越学園のことをよく知っているからこそのコーディネートで連携がグッと進んでいます。

岩瀬

依田さんにとって派遣の1年はどんな経験でしたか?

私自身にとって派遣の1年は、3次構想が具現化された学校とはどんな学校なのかを考え続けた1年でした。そして、これまでの一斉授業を手放し、新たにチャレンジする機会をいただいたことは大きかったです。「依田さんって今までの経験を手放せる人ですよね」と岩瀬先生に言われたことを今でも覚えています。

子どもたちとともに学びを「つくる」ということにこだわった1年でもあった気がします。


「つくる」は教職大学院での学びが原体験なのかもしれませんが。大学院で仲間とともに自分の学びを自分でつくったという経験が大きくて、学ぶことがより楽しいものになりました。私も変わったんですよね。この学び手として「つくる」という感覚が芯になり、「つくる」ということにこだわり続けることができた1年だったのかもしれません。


風越学園で実践する中で、「カリキュラムは決まっているものではなくて、自分たちでつくるもの。」「子どもには力がある、任せて大丈夫。」という2点を常に感じていた気がします。この2点は、自由な試行錯誤と子どもたちの生き生きとした学びの様子を見てぜひ持ち帰りたいと思ったことです。

風越学園での派遣研修は、学校そのものをメタに見直す機会にもなりました。風越学園では教科を横断したカリキュラムや組織マネジメント、予算のことも考える機会が多かった。この経験は、今、教育委員会事務局に勤める中で生かされている気がします。

岩瀬

日野市に戻られて、あらためて連携にはどんな価値があると考えていますか?

日野市に戻って、視察研修やオンライン参観で、風越学園のスタッフが挑戦している姿を見せてもらえるのは大きかったと感じています。例えば、異学年の算数・数学の自由進度学習、テーマプロジェクト。子どもを信頼して「任せる」に、苦労しながら日々チャレンジしている姿を見せてもらえる。特に風越学園のスタッフが実践すると決めた覚悟と、チャレンジに影響を受けるようです。


そうすると、教員一人ひとりの考え方に変革がおきたり、学校教育の考え方の幅が広がったりします。自然と問いも投げかけられますよね。「子どもへのかかわりはこれでいいのかな」、「このままの学校教育でいいのかな」って
。視察研修に行ったことが刺激になった人もいるんです。「風越を見に行って、子どもたちが自分達で学びを進める授業に挑戦し始めました」と研修の場で伝えてくれた先生もいます。


令和3年度のわくわくプロジェクトでは、岩瀬先生に伴走していただくだけでなく、風越学園に派遣されていた岡田さんに定期的に参加してもらいました。岡田さんが参加することで、風越学園での実践がリアルタイムで日野市の教職員に伝わってくる。岡田さんにも質問できますし、彼自身の風越学園での実践もきくことができます。その情報や熱量を得ながら、コアメンバーを中心として参加者が自分たちで学びの場や実践を「つくる」ということにこだわりました。その結果、参加者の満足度が高いプロジェクトになったのではないかと思っています。派遣教員は風越学園と日野市をつなぐ人として重要な役割でした。

そしてこの先へ

教員の派遣が、その人自身の変化にとどまらずに、その学校や自治体全体の変化につながる。そのために必要なことは何かを考え続けた2年間でした。

この2年間の連携に価値と意義を感じ、今年度2022年度からさらに2年間の連携協定を締結しました。

単発の研修や講演、あるいは学校見学では、短期的にはモチベーションが上がったり、刺激を受けたりしますが、継続的な変化にはつながらない実感があります。ぼく自身、そのような機会をたくさんいただいてきましたが、その限界を痛感しています。だからこそ、より包括的で継続的な連携や研修が必要だと考えているのです。日野市との連携の成果で、その思いは強くなっています。

軽井沢風越ラーニングセンターとの連携(*3)は、ぼくたちにとっても新たなチャレンジです。

公立と私立が共に刺激しあい、共にかわっていく。

いや、そもそも教育を考えていくとき、公立や私立というような区分けはほとんど意味がなさそうです。

「風越だからできるのでは」「公立では無理ではないか」そんな問いを立てた時点で思考は停止します。「幸せな子ども時代を過ごす場はどのような場なのか」。より大きな問いを共有しながら、それぞれの現場の試行錯誤や知を持ちよる。そこに未来があります。

これからの2年間どんなことが生まれていくのか、また記事でお伝えしていきますね。

 


*1 にわとりプロジェクト
3、4年生のテーマプロジェクトの中で「にわとりを飼いたい!」という声から始まったプロジェクト。以下の記事参照


✳︎2 わたしをつくる

自分で自分の学びをつくる時間。自身の「〜したい」という情熱から探究したり、「土台の学び」「テーマプロジェクト」等で生まれた問いで探究したりする「マイプロジェクト」の時間と、自分にとって必要な学びに取り組む「自学」の時間がある。

*3 軽井沢風越ラーニングセンターとの連携
軽井沢風越ラーニングセンターでは、包括的に一緒に取り組める自治体・教育委員会等を2自治体募集しています。詳しくは以下の記事をご参照ください。

 

#2022 #カリキュラム #軽井沢風越ラーニングセンター

岩瀬 直樹

投稿者岩瀬 直樹

投稿者岩瀬 直樹

幸せな子ども時代を過ごせる場とは?過去の経験や仕組みにとらわれず、新しいかたちを大胆に一緒につくっていきます。起きること、一緒につくることを「そうきたか!」おもしろがり、おもしろいと思う人たちとつながっていきたいです。

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