風越のいま 2021年3月21日

算数・数学チーム(後期)で挑戦してきたこと(依田 真紀)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2021年3月21日

書き手・依田 真紀/日野市教育委員会から派遣・20年度派遣終了


今年1年間、後期の算数・数学チームでは小さくつくってはふりかえり、ふりかえっては新たに挑戦をするというサイクルを6回繰り返しました。

「つくったものは壊してほしい」

これは、新しいことを次々と生み出している7年生に「行事とか今年つくりきって、この後風越に残ればいいなって思わない?」と聞いたときに彼が発した言葉。

今、私も同じ気持ちです。今年、算数・数学チームとしてつくってきた世界は、今年の文脈の中でできたもの。新しいチームや、優先順位の変化によって、変える必要がきっと出てくるでしょう。子どもたちとともにつくったものを壊し、新しい世界をつくり続けてほしいと願いながら、チームで挑戦したことを書き残しておきます。

難しい挑戦のど真ん中に立ち、悩み、行動し、真摯に向かい続けた子どもたちとスタッフに敬意を込めて。

土台の学びに位置付けられている算数・数学は、この1年で学びのスタイルを何度も変えてきました。

6月1日の通常登校から夏休み前までの2ヶ月は、ホームごとに工夫された学びの場で週5日、45分間ずつ、8月末からは、火・水・木の3日間だけ45分ずつ必修として学び、セルフビルドの時間の中に2コマ分(90分)を取るという学びに。そして現在は、セルフビルドの時間の中に1コマ以上を取るという形に変わっています。

なぜ、変わったのか?その理由には、「子どもたちの学びを充実させたい」という想いと「子どもたちの声と姿」があります。

風越学園の後期(3年生~7年生)の算数・数学は、「異学年(5学年)×自由進度」という授業スタイルをとっています。実践事例も少なく、充実した学びになっているかを評価できるのは、子どもたちの姿だけ。

“子どもたちがそれなりに学んでいる姿が表面的に見えていればOK”と思われがちな自由進度ですが、私は、昨年度偶然見に行っていた単元内自由進度の実践をしていたむーちゃんの教室と、連携協定を結んでいる日野市の平山小学校の伊東先生の教室の中で、子どもたちの学びをていねいに見とり、よりよい理解のために行うカンファランス(助言、指導、支援、相談…)が大切で、算数・数学についての専門性を高めないとできない実践だということを感じていました。もちろん、子どもたちの中に安心して学べる関係性ができていることが大前提。

自由進度に加えて難しいのが異学年での学びです。ただ、異学年での学びに関しては、義務教育の間に学ぶ算数・数学の系統性を理解し、誰がどこを学んでいるかを把握しておけば、スパイラルを意識した構成となっている内容(例えば、小数が3年生~5年生で繰り返し出てくるなど)どうしをつなぐことが可能で自然と復習や予習にもつながるということを考えていました。加えて、AI型の教材がバックアップしてくれるという環境がありました。

この実践に「挑戦しよう」と始まったホームでの「異学年×自由進度」。ホームごとに異学年でペアを決めて学んだり、毎回座る位置を変えたりという工夫された学びの空間での子どもたちの学ぶ姿は、表面的にはいい感じ。
子どもたちのふりかえりを読んでも「下の学年の子達にも教えられたりしたり、自分のペースで数学を進めていくことができた。みんなで教え合ったりもできたからいいなーと思った。数学が楽しくなった。」や「同じグループだった人と教え合いながら学ぶことができた。1週間のうちにキュビナで学ぶ日、教科書で学ぶ日で分けながら勉強した。」と、「異学年×自由進度」に対して肯定的な意見が多かったです。

しかし、7月に入り、私は物足りなさを感じるようになっていました。AI型のアプリと教科書だけでは触れることのできない、算数・数学の世界があるということ。そして、深く学ぶということにもっと踏み込んでみたいなと思ったのです。

「ホームスタッフたちはどのように感じているのだろうか?」と、一人ひとりと話をしました。すると、同じように感じているスタッフが多いということに加え、専門性を高める時間や教材研究をする時間が圧倒的に少ないという現状も見えてきました。

ちょうど同じ時期、子どもたちからも「もっと楽しく学びたい」「みんなで考える授業がしたい」、算数・数学の世界で大切にされている「考え方を比べる授業をやりたい」という声が聞こえ始めました。また、「自分と同じ単元をやっている人がいないから他のホームにいたらその人と一緒に学んでみたい」という声も。

そこで夏休み「異学年×自由進度×算数・数学を深く学ぶ」という新しい実践をつくることができないかを算数・数学担当のかなめん、国語担当のあすこま、前期スタッフのふっしぁんとっくんとともに検討し、子どもたちに二つの提案をしました。

一つ目は、必修の時間を一週間あたり45分×5コマではなく、45分×3コマにして、残りの時間に「算数・数学の部屋」を開き、単元のミニレッスンをしたり、「ファンマス」として算数・数学の世界を知ることができるワークショップを開いたりして、子どもたち自身が自分に合った内容を選べるようにするというもの。
二つ目は、ラーニンググループの編成。5ホームを4グループに再編し、1部屋3名体制のスタッフで見ることができるようにしました。1部屋にいる子どもたちの人数は増えますが、3名いれば、学年を分けて重点的に見ることも可能です。国語が「スタッフの研修を行いたい」ということで専門家制度を導入したということもあり、数学でも専門家制度を導入し、担当スタッフと主な学年も決めました。子どもたちにとっては、ホームでは出会えなかった人と出会い、新たな学び合いが起こるきっかけが生まれるという利点もあります。

スタートして1ヶ月。必修の3コマで学ぶ姿は、夏休み前に比べて大きく変わりました。専門性のあるスタッフが各部屋にいるということ、経験豊かなスタッフがつまずきを見とり適切なカンファランスをしているということが大きいのでしょう。また、同時期にスタートした、セルフビルドの時間に開いている「算数・数学の部屋(Mathroom)」は、学んでいる子どもたちの満足度が高く、探究的な学びに入るきっかけもうまれてきました。

今までは違うホームだったので、学び合うことがなかった二人

Mathroom:ペットボトルロケットプロジェクトの様子

4年生の理科とコラボして始めたプロジェクト。どの学年でも参加できるようにしました。この日は7年生も参加。ロケットの先端をつくるために、おうぎ形の展開図を学んだり、気圧によって変化する空気の観察をしたりしています。発射の瞬間を見ようと、前期の子どもたちが集まっていたことも。

学年を拡大して実施したことで7年生が作っていたロケットの先端の円錐を4年生が見よう見まねで作る姿も見られました。

Mathroom:折り紙を使って図形の性質を学ぶワークショップ

3年生~9年生までの図形領域の要素を組み入れています

Mathroom:方程式の文章題のミニレッスン

机を講義形式にして、ホワイトボードを使ったとたん静かになる人たち。「自由に発言しながらやろうねー」といっても最初の5分間はとても静か。授業のつくり手ではなく、受け身の学び手として身に付いた習慣はなかなか抜けない・・・。

Mathroom:外で算数・数学  

たくさんの問いを作って、算数・数学で学んだことを使って解決できないか?と考えたり、10mのロープ1本を使って校庭に円や正三角形を校庭にかく方法を考えます。

必修の時間以外に選択できる部屋(Mathroom)を開くことで、深い学びにつながったり、数学のおもしろさに触れる機会を設けることができました。しかし、10月頃から「Mathroom」に訪れる子どもたちから「今日は何をするの?」という声が聞こえ始めました。
私たち大人は知りすぎているがゆえ、ついつい「楽しいでしょ?」「こんなのどう?」と紹介したくなる。だからこそ、「本当にこれでいいのだろうか?」と自問自答しながら教材研究や開発を繰り返すことが大切です。「今はこれじゃないよね」と、没にした教材は数知れず。ライブラリーにある算数・数学につながる本の位置をチェックし、本との出会いから始まるきっかけもつくりました。子どもたちが課題を持ち込み、探究の入り口になるような部屋にできないか?という試行錯誤が始まったのも同じ時期です。

11月から始まった「探究の入り口」の部屋は、8月末からの「Mathroom」で開発していた教材を切り口に、自分たちで深めていけるような場にしていきました。
例えば、10月までは「ポップアップカードをつくろう」という部屋を開いていましたが、「図形の部屋」という形にして、ペントミノに挑戦してもいいし、ポップアップカードを作ってもいいし、360度カードをつくってもいいし、立体を作ってもいいし・・・と子どもたちが課題を選択したり、持ち込んだりできるようにしていきました。

Mathroom:図形の部屋
ペントミノに挑戦!ピースを組み合わせると・・・という秘密に気づき、ノートにまとめる姿も。

360度カード 約4か月かけてコツコツと作り続けました。

同じパターンブロックを使っても、学びの内容が異なります。ブロックを使ってたし算やひき算を使った物語をつくる3年生の横では、多角形の外角について調べている7年生。

コンパスや定規の使い方をマスターするために立体をもとにして展開図をつくりはじめる3・4年生。その隣ではコンパスを使って模様をつくって塗り分けをする3年生。

折り紙で万華鏡をつくって新たな万華鏡の折り図を考える5・6・7年生。その隣にはふら~っとやってきた前期の子も。

同じ時期に5・6・7年生で「科学者の時間」が始まったということもあり、3・4年生では同じ学年グループで学び合う経験も取り入れました。3・4年生が自分の学びをつくる機会にするとともに、小学校指導経験が豊富なひっきー、むーちゃん、れいかさんから実践を学ぼうという機会でもありました。

この取り組みは、前期スタッフのちかさんやふっしぁんにも見てもらいながら、週に1コマ1年生~4年生で混ざって学ぶ時間とし、さやさんもぎーさんはたちゃんも入って個々の学びをサポートしました。

「異学年×自由進度×算数・数学を深く学ぶ」という実践に挑戦してきたことで、1月頃には「どの教材を使えば理解できるようになるのか」「次は何をするのか?」と問うと、自分で説明できる子どもたちがほとんどになりました。やらなければならないことを自分なりに組み立て、自分たちで解決したり、わからないところは自分から仲間やスタッフに聞いたりするなど、自分で一歩を踏み出す学びに変わってきたのです。

土台の学びとして位置づけられている算数・数学。「本質は何か?」と問われれば、物足りなさがあることも事実です。いつオンラインになっても学びを続けることができるようにすることを重視し続けたため、また自由進度を前提としているために、本来、算数・数学という教科で大切にされてきた”考えの比較”を必修の時間の中に組み入れることが難しい。そして、開いている「Mathroom」に来る子どもたちがまだまだ少ないということも課題に感じていました。

そこで2月に必修の時間で全員が探究の入り口に取り組むという挑戦をしました。3・4年生、5・6年生、7年生のラーニンググループに分かれて、具体的操作活動に取り組んだり答えのない課題について考えたりするという内容です。

ラーニンググループごとにスタッフが教材研究をし、3・4年生は「万華鏡をつくろう」、5・6年生は「対称な図形の性質を使って“美しい”アート作品を作ろう」、7年生は「データを活用しよう」という内容で6コマを組み立てました。

プロトタイプからはじめたひっきー、子どもの試行錯誤を見とり正三角形や二等辺三角形のミニレッスンを入れたれいかさん、自分で試作品をつくってみたなぁちゃん、むーちゃん。あさは、たまちゃんも、それぞれひとつずつ作品を作って子どもたちに見せました。うまっちは全体の場の構成を担当するなど、一人ひとりのスタッフが子どもたちの探究の入り口をつくるために動き始めました。
この6コマの後の必修の時間。残り時間がわずかということで、集中して取り組む姿が見られるようになりましたが、その中で「探究の算数おもしろかった。またやりたい。」という声が聞こえてきました。それだけでなく、具体的操作活動を通して基礎的事項を学ぶ良さを感じられた子もいたようです。

一斉授業の中で「わからない」と声を上げることができず学びをあきらめてしまっていた子。もっと学べるのに、もっと先まで行けるのに、みんなに合わせなければならない世界に閉じ込められてきた子。このような子どもたちが、異学年での学び合いと一人ひとりの学びに対応できる道具(Chromebook)や探究の入り口の世界に触れることで、生き生きとした学びを取り戻している姿が見られました。もちろん課題もあります。正しく使えば有効な学びの道具も、不適切に使えば学びにはならないということ。学び方については、丁寧にレクチャーをする必要がある子がいる一方、自分で使ってみて自分で選択できる子もいました。これは、学年ではなく、一人ひとり異なります。

2021年4月、GIGAスクール構想が前倒しとなり、公立学校でも一人一台端末を利用した学びが本格的に始まります。学びに使える道具が増えるからこそ、従来のように学年で区切られ、均一的、網羅的に学ぶ方法でいいのかということを問い直す時期にきているのではないかと今年一年の実践を通して強く感じるとともに、”学級”という枠組みを外すことで子どもたちの豊かな学びにつながりそうなことも見えてきました。

もしかするとオンラインという学び方が標準になりつつある今は、”1校”という枠組みにとらわれず、学校同士がお互いの強みを発揮できるよう連携することも視野に入れる必要があるのかもしれません。それは、軽井沢町立西部小学校の単元内自由進度の実践から学んだり、外部の専門家から助言をいただく機会があったりしたというのも大きいです。

そして改めて”学力”とは何かについても考える一年でもありました。
単年度では、今まで問われてきた”学力”を測ることは難しいかもしれません。しかし、2年後、今の7年生が9年生になったとき、自分の学びを自分でつくることができる力がついた子どもたちは、算数・数学という1つの教科の内容を理解すること以上の力がついていることでしょう。

今、一年の取り組みを書き残してみて改めて思うのは、「異学年×自由進度×算数・数学を深く学ぶ」という実践は、子どもたちへの信頼とスタッフの協同がなければできない挑戦だったということです。

子どもたちは、大人が考える以上に自分の力で学びたいと考えているのではないでしょうか。
とすれば、私たち大人はどんな姿で、どんなふうに子どもたちに関わればいいのでしょうか。

今年一年間取り組んできたことをもとに、考え続けたいと思っています。

#2020 #カリキュラム #土台の学び #後期

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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