風越のいま 2021年2月27日

子どもの世界が広がる仕掛け

岡部 哲
投稿者 | 岡部 哲

2021年2月27日

連日、幼児から7年生までが混ざって大にぎわいのラボ。この日は、図工室で1,2年生の「つくる・えがく」の活動が行われた。

最初からつくりたいものの思いに合わせてつくる人、手に取った箱の色や形を試しながら想像を広げてつくる人。一人で黙々とつくる人、友だちとワイワイつくる人。それぞれのいろんなつくり方を経て、活動が広がっていく。

「エアコン」

これまでに8台もの掃除機(本当にゴミを吸い込む)をつくっていたケイシン(2年生)だが、この日はモーターを逆回転させてエアコンをつくっていた。ちょうどエナメル線と電池で熱が出ることを発見していたので、「これ中に入れたら?」と言うと、「生暖かい風が出た!」と目が輝く。午後の活動は電池ストーブづくりに転換していく。

「パソコン」

キーボードを本当に押せるようにしたいアミには、厚みのあるダンボールを提案した。それが気に入ってつくった文字や形、そして箱から受けたインスピレーションから、顔料ペンでパソコン全体に色や形を広げることへと活動は広がっていく。

「ティラノサウルス」

よく見ると、口の中の歯にはラップのカッターが使われていた!

「ドッキリばこ」

開けた途端にゴムの力でおびただしい量の紙が飛び出す。友だちに渡して驚きを楽しみ、一緒に「どっきりせいこう!」の文字を読む。

大人から投げかけるこの時間は、できるだけ全ての子どもたちが夢中になることができるように設定しています。大事にしていることの一つ目はテーマ。今回は、「こんなはこで つくったよ」ですが、ここで「今日ははこで●●(お城や動物など)をつくろう」とは言わず、箱でつくる様子を見せた後に、ホワイトボードにそっと「こんなはこで つくったよ」と書きます。
1,2年生にとって自分で箱を一からつくるのは難しいものですが、元々ある空き箱を組み合わせてつくることは容易です。ここで、逆に「お城を作ろう」と声高に投げかけたらどうでしょう?そこまで言ってしまうと、完成形を求めるが故、自分の表現にはなりにくくなると同時に、何かをつくることが目的となるため、表しているものが合っているかどうかを常に大人に確認するでしょう。
しかし、ここでは一人一人がひたすら夢中になるものをつくっていて、それらは恐竜、かわいいお家、メダルと全く個別です。そのため、子どもたちは私に「できた!」と持ってきます。それは自分の達成感や表したものに対して、共感を求めているのであって、「これでいい?」とか「合ってる?」などと聞くことはありません。このように、一人ひとりの子にとって活動や世界観が本物になるよう投げかければ、例え大人からテーマを渡したとしても、活動は個別のものに変換されて、どんどん広げることができます。

実際の活動を見てみましょう。ソラ君は「ドラゴン」の足の中にスズランテープで「けつえき」を流して、ドラゴンが生きていることを実感していました。そのうえ、完成したドラゴンと自分で噛み付き合って戦い、相手が地面に崩れ落ちると、それをまた修理します。僕がオフィスで昼食を食べていると、ドラゴンを持って一緒に遊びにやってきて羽や腕の役割などを説明してくれます。空想の世界とつくることが繋がって、彼自身にとっての本物になっていると思うのです。

二つ目は、環境設計。すなわち物と場の設定です。図工室では、子どもたちがつくりたいと思った時に自分で手に取りやすいように道具や素材の置き方の設定に加え、それらがどのように子どもの心に入るかを毎回工夫して配置します。

先程の例で言うなら、この日は発想を広げやすいように箱は色や形ともに多種多様かつ、子どもが扱いやすい大きさを沢山用意し目に入りやすいところに配置します。ソラ君は恐竜の足に使ったスライドする箱の様子から「けつえき」を思いつくと同時に、誰に言われたのでもなく赤く半透明なスズランテープを取ってきて中に入れているのです。
だれかに言われて作業するのではなく、自分が思いついたときに、思い描いたことを試し、実現するプロセスを経験できるようにしています。また、このような環境設定には準備から片付けまでも含まれます。自分の力で完結できることを子ども自身が日常的に経験できる環境が大切だと考えています。


(かぜのーと編集部)テーマと環境の設定によって、子どもたちが夢中になっていく、もちろんありそう。でもそれだけじゃなさそう。3つめの大きな要素の一つとして、岡部の声かけや関わりがあるんじゃないかなと考えました。2020年12月の3,4年生の「つくる・えがく」での岡部の関わりを映像でご紹介します。この日のテーマは、国語とコラボした「のはらうたを はんが にしよう」です。

この映像をどんなふうに見たか、岡部(こぐま)井上(たいち)奥野(ちか)、そしてラボ中心にインターンしている百瀬(ぷーさん)とおしゃべりしてもらいました。


岡部

僕はインストラクションの時に、つくる様子を実際に見せるようにしてます。ここでは完成形は見せずに、ものの色や形が変化する様子やその面白さ、考え方のエッセンスだけを目の前で実感できるようにしてる。ときにはあえて失敗も目の前でつくってる様子を見てると、自分も「やってみたい!」ってなると思うんだよね。

奥野

加藤繁美さん(東京家政大学)の研修で、子どもの「やりたい」に対する保育者の「ひらめき」が保育の専門性の一つという話を聞きました。”「ひらめき」というのは単なるカンではなく、身体化した理論と思想の中にあり共感の先にある”という加藤さんの話と、こぐまさんの関わりが繋がった気がして。子どもの「やりたい」に対して、こぐまさんのこれまでの経験や実感に基づく「だったらこんなことできるよ!」というひらめきがそろったときに躍動するんだと思う。

岡部

共感と聞いて思うのは、僕は子どもの様子を黙って見ることができなくて、その子が今、何を求めて質問してるのか、何に困ってるのかを一緒に考えちゃうな。その子が没頭している世界に、一緒に入り込むっていうか。それが一緒につくるっていうことだと思ってるかな。ただし、黙って待つこともとっても大切で、その子にとって最適な内容と最適なタイミングとがあるからね。必要がないときには話しかけない。

井上

その子がつくり出そうとする世界を、こぐまがサポートしてるんだよね。映像で、サトミが字を書く前に「緊張するなー」っていう様子が、めっちゃいい。本当に自分の作品を大事に思って向かってるっていう感じがするし、ああいう緊張感を持つ場面って、今の風越の生活の中ですごく少ないんじゃないかと思って。貴重だわ。

百瀬

ラボに来ている子どもたちの様子を見ていると、今何考えてるんだろう、って自然と興味をそそられちゃう。その瞬間しか関われないから、全力でやるしかないんですよね。

奥野

映像に出てきたのは3,4年生でしたけど、私はおもに1,2年生の「つくる・えがく」を一緒に見ているので、年齢や発達によって大人の関わりも違うんだろうなぁと思いました。小さい人は、素材や画法との出会いや対話のプロセスを楽しんでいる感じで、大きくなるにつれて作品の仕上がりや、アウトプットを楽しむのかなって。1,2年生にとってもアウトプットはもちろんだけど、それよりも他の子たちはどんなことをしてるのかな?と関わっていくことも含めて、プロセスを楽しむ様子があります。

百瀬

確かに。あと、前期の子たちは子どもたちからどんどん関わってきてくれるけど、後期(3〜7年)の子たちは何かを内に秘めてる感じだから、関わってみないとわからないことが多くて、彼らへの関わり方も大事だなぁって思っています。

岡部

僕の実感としては、3,4年生から表現が内容も期間もさらに深まる感じがあって、5年生くらいから「うまく描きたい・つくりたい」という気持ちや、自分と人や他の世界と比べ始めることも出てくる。そして、中には外に出したくない様子も見られる気がする。楽しいことをしたい、素晴らしいものをつくりたいというのは、いつもどの年齢でも一緒だね。

百瀬

こぐまさんに自分の作品を見せにくるとき、前期の子どもたちは「見て!」と自信満々です。対して後期の子どもたちは自分のつくったものが正解なのかどうか確かめてようとしている感じで、「これどうかな?」と聞きます。でもこぐまさんはその質問や相談をされてもすぐに答えを渡さずに、必ず「(自分は)どう思う?」って子どもに戻すんですよね。だから子どもが自分で考える。

岡部

その子自身にとっての”良い・悪い”を先に相手に委ねないのが大事かなって思ってる。まず、自分でどうか考えるプロセスを経ることで、他の人の活動や作品を見ていいなって思っても、”やっぱり自分のものもいいな”って思えるんじゃないかな。

井上

そういうプロセスがあると、こぐまにつくってもらった、助けてもらったっていうよりは、自分でつくったんだっていう実感が子どもの中にあって、それを繰り返すことで子どもたちに自信がついてるんじゃないかなぁって思うんだよね。

岡部

自信だね。つくることは結果として、技能も成果物もついてくるかもしれないけど、それは重要じゃない。つくることを通して、子どもの世界が広がることが大切。自分が想像したことが本当に形になることのおもしろさを、子どもの頃にたくさん経験して実感することで、工作や絵に限らず、自分でやってみようという態度がその子の中で育ち、大きくなってからも社会との繋がりを模索する文化につながるんじゃないかなと思っています。

岡部 哲

投稿者岡部 哲

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どういうわけか、大変な方に転がってしまうんです。楽しいけど。

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