スタッフインタビュー 2021年7月5日

聴くことからはじめよう。(馬野 友之)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2021年7月5日

中学校で社会科の教員として12年の経験を持つ馬野(うまっち)

「正直、去年はすごく悩んだし、手応えはあまりなかったかも」と、風越で授業をつくっていく難しさを率直に語ってくれたのだが、その言葉を語る瞳には強さがあり、決してそれが後ろ向きな気持ちではないことを感じさせてくれました。

そんなうまっちは、いま何を考え、どのように過去を振り返り、どんなこれからを思い描くのか。じっくり話を聞くことで、その瞳の強さの裏にあるものを覗かせてもらいました。(編集部・三輪)

学校の先に思い描く未来。

__ 風越学園で働いてみようと思ったきっかけは?

「こんな学校をつくるんだけど興味ない?」とゴリさん(岩瀬)に声を掛けてもらって、その場で「行きます」と返事をしたのが最初だったかな。めっちゃ面白そう、と思って。

そもそもゴリさんに会ったのは教員2年目、今からもう12年前なんだけど、1年目に初めて受け持ったクラスがすごくうまくいって、全部自分の力だと過信して2年目調子に乗ったら、学級崩壊しちゃったんだよね。中3のクラス担任だったんだけど、卒業式でうちのクラスだけ名前を呼んでも誰も返事してくれないみたいな。ああ、やってしまったなと。

その時に、知人に「長野県で勉強会するんだけど来ない?」と誘ってもらったのが、ゴリさんやKAIさん(甲斐崎)がやっている勉強会で。どの人の班に入ろうかと思った時に、KAIさん怖そうだしなと思って、あんまり怖くなさそうなこの人の班入ろうと入ったのが、ゴリさんのところだったんだよね(笑)。

__ 風越のことを聞いた時に「めっちゃ面白そうと思った」と話してくれたけど、どのあたりがうまっちにとって“面白そう”だったのかな?こんな子どもの姿に出会いたい、こういう未来をつくってみたいというイメージみたいなものがあったのでしょうか。

社会科の教師だから、社会科の勉強をすることで広がっていく未来や可能性をすごく感じていたんだけど、子どもたちからは「社会って暗記教科だよね」と言われることもあったりして、社会科の本当の学びが遠ざかっているな、ともどかしく感じることが結構あったんだよね。

それで、いろんな授業を試行錯誤しながらやっていたんだけど、その中で他の教科の先生と一緒に授業をつくるプロジェクトみたいな授業をやってみたら、子どもたちの学びの姿が今までと全然違う、ということがあって。その姿から、「そうだよな、やっぱり社会科ってめっちゃ面白いことができる教科だよね」と僕自身も感じて、そこにもっとチャレンジしたい気持ちがあったんだよね。風越だったら、同僚だけじゃなくて、そこから更に地域とか保護者の方とかと一緒に授業をつくるなど、もっと可能性が広がっていきそうだなと。

あと、やっぱりその先に描いていたのは、いろんな年齢や考えの人が混ざる学校だから、当然ぶつかるだろうし、めんどくさいこともたくさんあるだろうけど、そういう経験って人間にとってすごく大事だと思ったのと、ここで育った子が、例えば政治に興味を持ったり、社会を作っていくことに興味を持ったらいい国になるんだろうなあって。

__いい国になる。

うん。というのも、実はもともと僕は、教員志望じゃなくて、司法試験の勉強をして、弁護士か裁判官になろうとずっと思ってたの。世の中に苦しんでいる人がいる、その苦しんでいる人がちょっとでも笑顔になるといいな、幸せだと思って生きられる人が増えるといいなという想いがあって。

でも、大学時代に中学校で教育実習した時に、教師って人間の土台になるような、大切な時期に関わる仕事だなと感じたんだよね。一人の子が持っているろうそくに火をつけてあげられたら、それがたとえ一本のろうそくの火でも、その子が大人になるまでにそれをいろんな人と互いにつけ合うような人生を送っていったら、幸せな人が増える世の中になるんじゃないかな、教師という仕事の方が、そういう世の中を作りやすくなるんじゃないかなとも思って。

だから、ゴリさんがよく「教室や学校がよくなっていくことが30年後の未来をよくしていく」と言っていたんだけど、その言葉にすごく勇気をもらってたな。

「私で在る」ことと「一緒につくる」ことの難しさ

__ 実際、風越で一年授業をしてみてどうでした?面白い社会科の授業ができた、という手応えみたいなものはあったのかな。

うーん、正直手応えはあまりなかったかもなあ。最初、風越では社会科や理科はテーマプロジェクトの中で手渡していこうとなったんだけど、他のスタッフも自分自身も、テーマにどうその要素をいれていけばいいか、はじめてのことで分からなかったんだよね。手渡す為には教材の研究や準備が必要だけど、テーマって子どもたちの衝動ややりたいことでうねうね変わっていくから、それもなかなかできなくて。

社会科的な刺激を与えたいという意図もあって、準備してきた授業をやったこともあるんだけど、当然、今この瞬間子どもたちが向き合っていることとはやっぱり観点がずれてしまうから、子どもたちも混乱するんだよね。「うまっち、今なんでこれ話したの?」って。失敗も結構したなー。

あと、テーマプロジェクトって、何人かのスタッフで協同で授業を設計するんだけど、それが結構難しかった。だんだん自分のオーナーシップや自分がつくっている感覚みたいなものがなくなっていって、テーマプロジェクトに対する自分の熱が下がってきているのも感じて、「あれ、風越来る前は、誰か他の先生と授業一緒に作るのすごい面白いなと思っていたはずなのに」と思い始めちゃったことがあって。

__  何が難しくしているのでしょう。

それが分からないんだよねぇ。でも、無意識的にそれぞれの過去の経験が邪魔しているということはあると思う。こうやったら私/僕は今までうまくいっていたから、こうやるといいんだというところから抜け出せずにいて、それと違う動きが出てきてしまうと、自分の安心を阻害するなってブレーキをかけちゃったり、相手(スタッフ)に気遣っちゃったり。

これはテーマプロジェクトに限らなくて、ホームも学級経営だろうと思って今まで通りやろうとしたら全然うまくいかないんだよね。今までの仕組みの中だけでやってしまおうとするとうまくいかない。

__ 過去の自分の経験が役に立つことももちろんあったとは思うんだけど、新しいものをつくりあげる過程でそれが邪魔をすることも多くあったと。

去年、ぽん(根岸)と一緒にホームを持ってたんだけど、ぽんの柔軟さに救われることがたくさんあった。新しいことをどんどん提案してくれて、でも頑固なところもあって、違うと思ったらまっすぐぶつかってきて。お互い意見言い合って対話したり、揉めたりしたことで、最後にようやくこのホームの感じいいじゃんというのが見えてきたんだよね。

だから、今の後期のカリキュラムの在り方や一緒に協同して授業をつくっていく過程でも同じようなプロセスがきっと必要なんだろうなあとは感じてる。

__ 同じようなプロセスというのは、「自分の意見を言うこと、相手の意見を聴くこと」ということでしょうか。

「私 / あなた は、何がしたいのか、どんな願いを持っているのか」というところに戻れるといいなと。どうしても関心が「明日の授業どうする?」というほうにいってしまう。忙しいのはわかるんだけど、まず聴くということからはじめたい。

子どもの声も、大人の声も、一人ひとりの声をきちんと聴いて、その人のやりたい・こう在りたいを応援し合える場になっていけたらいいなって思うんだよね。

子どもたちから学んだこと。

実際、去年のホームやかざこしミーティングのファシリテーターチームでは、そういう場や関係性を感じる瞬間もたくさんあって。

たとえば、多数決では決めないんだよね。声の大きい人の意見だけでは絶対に決めない。反対意見とかあると「どうしてそう思うの?」「なんでそういうふうにしたいと思ったのか聞かせて」って、みんな丁寧に聴くんだよね。

__ その場合、最終的にどうやって決まっていくんだろう。

いろんなパターンがあって、くっつけられるアイデアの場合はくっつけたがるかな。あとは、5分だけでもこれやってみようとスケジュール組んだり、この日にはできないけど別の日にやってみない、とか。決してなかったことにはしなくて。必ずそれが活きるチャンスをつくるんだよね。

かざこしミーティングのチームには、今年度から新メンバーが加わったんだけど、その子たちが「こんなことやりたーい!」って出したアイデアにも、「いいじゃん、やってみなよ!」ってまず面白がって乗っかるし、それに対してちゃんとフィードバックもするんだよね。「あれよかったと思うけど、ここはもっとこうしてもよかったんじゃない」って、誰かがやりたいと思ってやったことに自分ごととして向き合うの。そういう姿がすごいいいなって。本当頼もしい。

そういう子どもたちの姿を見ていると、大人たちもこんなつまらないところでつまづいている場合じゃないわってパワーもらえて。こういう時にも教師になって幸せだなって思うよね。子どもからも学べることって、本当いっぱいあるからさ。

__ 子どもたち、すごく素敵だなあ。「私」も、「あなた」も、「私たち」もそこにはちゃんと在る感じ。

そう、めっちゃ素敵なの!だから先行かれているんだよね、子どもたちに。でも子どもたちの変わっていく姿を見ると、大人たちも変われるよねって勇気をもらえる。まだまだ変態していかなきゃあかんなあって。

4月に考えた 風越ノート「問いの地図」にさ、「一人ひとりがもっと「  」になるために、自分自身はどうやって変態し、関わっていけばいいのだろう」って書いたんだけど、それを子どもたちのほうがもうやっているなと思うから、自分ももっと変わりたいなって、最近すごく思う。

そのためにはやっぱり、「一人ひとりの声を聴くこと」にまずは戻るべきなんだろうなあ。それが、その人だけが持っている芽が育って木になっていくことにつながる気がする。伸びかたは一人ひとり違うけど、「いいね、伸びてんじゃん」って。そういうのが子どもにも大人にも見られると、もっと面白い学校になっていくと思うんだよね。

 

インタビュー実施日:2021年6月10日

#2021 #スタッフ #後期

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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