風越のいま 2020年8月24日

続・カレー屋への道(石山 れいか)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2020年8月24日

(書き手:石山 れいか/軽井沢西部小学校から派遣・20年度派遣終了)

ホーム「か」のプロジェクト「カレー屋への道」のその後の足跡です。

カイトの思い

田んぼチームのカイト、おかしょー、サクラコ、タイガ、エリナ、シンノスケの「ホームのみんなにも田んぼを見てほしい」という気持ちから、6月、田んぼの見学に行くことになった。

風越学園が開校して初めての校外学習。カイトは様々な人に相談し、交通機関の時間を調べ、何度も書き直しながら、企画書を作成した。しんさんごりさんに、やっとの思いで提出しに行ったが、すぐには許可が降りずに様々な提案をもらった。

「なんとかなりそう?」とカイトを思いやりながらも、「もうひと頑張り!」と送り出してくれたしんさんとごりさん。やっと提出に行ったけれども許可が出なかった現実に、切ない表情のカイトを見て、どんな思いだろうと心配したまま週末を迎えた。

カイトの思いをずっと考えていた私に土曜日の午後、Typhoonで「企画書いつ直せばいいですか?」とメッセージが届いた。「私ならくじけてしまいそうだが、前向きに考えてくれていることが嬉しい」とありのままの気持ちをメッセージにのせて送った。そして、「しんさんはせっかく行くのだからみんなで草取りをしたほうがいいのではないか、そのために現地集合解散で時間を確保したほうがいいのではないかと提案してくれたのだと思う。」と伝えると、カイトから「カレープロジェクトはやりたい人がやるというプロジェクトなのに、目的が草取りなのはやらされているようになるのではないか?一人ひとりの気持ちを知りたい。」と返信がきた。

そして月曜日の朝、カイトが「アンケートフォームをつくってみた。」と見せに来た。そこにはカレープロジェクトの何に参加したいか?草取りをしたいか?などの質問があった。「やらされているプロジェクトになっていないか?」「草取りは本当にやりたいのか?」と一人ひとりの気持ちを考えているカイトの思いが現れていた。

アンケートの結果から、予定通り草取りはやろうという意思がある人がやるということに決まった。みんなの気持ちを確認して、やっと安心して前に進むことができる。プロジェクトはいろいろな葛藤を乗り越えてみんなで育てていくものだと、カイトの姿を見て改めて思った。

そこから更に話し合いを重ね、今回は学校集合と追分駅集合の2パターンで行こうということになった。カイトが企画書を練り直し、再提出。無事に許可が下り、10日に行われることになった。

田んぼへ

9日になると10日の降水確率が80%になり、11日に延期することにした。11日の天気予報も良くはなかったが行くと決め、カイトがみんなにそのことをTyphoonで知らせると、みんなの喜ぶメッセージが流れた。

11日の朝、嬉しそうな表情のみんなが集まってくる。エリナは前日につくった空色のてるてるボーズを持っている。追分駅で学校から来た人と合流して出発。わこさんの田んぼまでは徒歩で35分。

田んぼに着いた。雨が降ってくる前にお弁当を食べ、羊とも遊んだ。草取りができたのは1時間。わこさんの田んぼでは有機栽培の証に、草も元気に生きている。作業をし始めると草取りの大変さを実感する。一列終えるのに30分ほどかかり、ここでしんさんの時間を確保したほうがよいという提案に「なるほど…」と思う。

幼稚園や小学校で米作りを経験してきているカイトやタイガやサラは当たり前のように仕事に向かい、いいペースで草をとっていく。県外から引っ越してきて田んぼとは無縁だったユナやえっちゃん、ハルノ、ナコからは「ぎゃー!!」という悲鳴が聞こえる。おたまじゃくしがいるヌルヌルの田んぼに足を入れることは彼女たちにとっては信じられないことのよう。短い時間の経験だったが、人生初の経験をそれぞれの胸にしまった。

終わって、振り返りが行われた。大きく課題になったのは、「草取りをするのに今回の日程では時間が短すぎる」ということと、「せっかく行くのだから、田んぼの何を見るのか観察の視点をもっていったほうがいいのではないか」ということだった。

もう一度、田んぼへ

数日後、カイトから次回の草取りが7月3日であることが伝えられた。わこさんと相談し、自分で決めたようだ。プロジェクトが私の手から離れたと思った瞬間だった。

カイトにとって2回目の企画書づくり。今回は現地集合現地解散になったため、誰がどのように集合するのかフォームでアンケートをとった。そして保護者にわかるように企画書に地図まで載せた。前日まで変更が相次いだが、嫌な顔一つせず変更を記録し、全員が無事に行くことができるように配慮している姿が本当にすごいと思った。

7月3日朝、子どもたちは早くから集まった。おたまじゃくしがカエルに変身していて、草むらに一歩足を踏み入れると30匹くらいのカエルがジャンプした。カイトの声がけでみんなが観察を始めた。自分が担当する稲を決めたり、田んぼの水が冷たいところと温かいところの稲の違い、黒米とうるち米の違い、無農薬のわこさんの田んぼと隣の田んぼの違いなど、それぞれの視点をもって観察した。

そして草取りに入る。えっちゃんが「れいかさん、今日はぎゃーって言わないよ。慣れてきたー。」と笑いながら言う。わこさんが前回は倒れていた稲が多くて、あまり戦力になっていなかったことを伝えくれた。一株でご飯茶碗一杯半のお米が穫れると聞くと、絶対に稲を踏まないようにしようと気持ちが引き締まった。今日こそはちゃんと戦力になるように、丁寧に全力で取り組みたいと仕事に向かった。

一日中仕事に向かう人、全く田んぼに入らない人、ずっと遊んでいる人、様々な人がいた。私は一人ひとりに何を願い、どう声をかけ、どう寄り添っていくことが必要なのだろうと考えながら自分自身も黙々と草をとった。一日中草をとると、さすがにきれいになった。

時間が長かったからか、ゆったりとした時を過ごした。ななみいの背中にはサラの泥の手形がついている。キヨが投げた泥で私も真っ黒になった。川の水で足を洗いながら水遊びが始まる。おかしょーはカメラに様々なシーンをおさめる。羊の散歩をして美味しそうに草を食べる羊たちに話しかけた。虫やカエルと遊び、シンノスケ博士に虫のことを教えてもらう。

わこさんの田んぼは命が循環している。羊の糞が稲を育て、そのお米をいただき人間が生きる。そしてわこさんは愛情をもって羊たちと暮らす。農薬を使わないから小さな命が育ち、その小さな命が稲を守ってくれている。命の循環を肌で感じ、生命と出会えたこの体験は、子どもたちにとってかけがえのないものになるだろう。私が小さい頃、祖父母の田植えを手伝ったときの風景を思い出しながら、きっとこの景色をいつかみんなも思い出すだろうと思った。

この日についてわこさんが書いた記事。
>>>田んぼの草取り。

作家の時間のえっちゃんの詩に、「田んぼに入れる かるいざわにすこしなれたわたし すこし新しいわたし」とあった。少しずつ新しい自分に出会って、少しずつ自分を太らせてほしいと思う。

えっちゃんの詩

おかしょーが、撮影したタイムラプス(数秒に1コマずつ撮影したものを繋げて再生する)を、Typhoonのチャンネルでみんなにシェアした。自分のやりたいことにどんどんチャレンジするおかしょー。それを一緒に喜んでくれる仲間がいるからこそ、おかしょーの探究がますます広がるのだと思う。

7月の連休中にもこっちゃん、シンノスケやあすこまさんが草取りに行った。稲の花が咲き始めたことをわこさんが知らせてくれると、夏休み中でも見に行って、Typhoonで様子を知らせていた。

私自身、今年はあらゆる田んぼの稲の育ち具合が気になる。ここはわこさんの田んぼより成長が早いなとか、こことあっちの田んぼの違いはなんだろうとか。そして、稲刈りをする子どもたちやご飯を炊く子どもたちのことを想像してワクワクしている。

野菜が育っちゃう

6月下旬になると、ハナコから「レタスが育っちゃう」という話があり、朝の集いでレタスをどうするかという話し合いが何回か行われた。みんなで食べるという案や、売るという案があったが、結局はっきりと決まらないままレタスは腐ってしまった。せっかく一生懸命育ててくれたのに、申し訳ない気持ちだった。このときに子どもたちは、生きているものへの対応は、機を逃すわけにはいかないのだと学んだのだと思う。

7月に入ると、こっちゃんのズッキーニ、ちーのナスも育ったという報告があった。私が育てたじゃがいもももう食べられる。野菜はそれぞれのタイミングで育つのだということを実感する子どもたち。どうするかという話になり、数が少ないから売るならスタッフに売ろうかという話も出たが、せっかく育てたのだし、一度は自分たちで食べたいという子がほとんどだった。そこで、学校で調理して食べることにした。コロナの状況の中で実施するには大変だとわかりながらも、この企画をななみいとサクラコが引き受けた。

野菜を食べるために…

7月7日、サクラコとななみいが保健室のはるちゃんに調理ができるか相談しにいくと、「コロナのことがあるけど、感染対策をしてしっかり企画して全体に周知できれば、できる可能性もあるよ。」と励ましてくれた。はるちゃんのおかげで実施できる可能性に光がさし、一気に気持ちが明るくなった。

8日にササに相談しにいくと、文科省から出ているガイドラインや想定されるリスクを丁寧に教えてくれ、どういう対策をとれば実施できそうか、親身にアドバイスしてくれた(注)。そして、家庭科担当のざっきーにもミニレッスンをしてもらえないかと相談に行き、快く引きうけてもらえた。さらに、バターを買うために予算のことをアンディに相談しにいった。

様々なスタッフの温かい応援をうけてななみいが企画書を作成した。しんさんから、「企画書によっては実施できない可能性もあるよ。」と言われたことをななみいに伝えると、「はい、分かってます。一回目のときでそういう経験をしているので…。」と笑顔で答えた。たくましくなっているなあと思った。

注)文部科学省の『学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~』によると、調理実習は「感染症対策を講じてもなお感染のリスクが高い学習活動」とされている。ただし、調理当日の当該地域の感染警戒レベルは1であり、その場合は「換気、身体的距離の確保や手洗いなどの感染症対策を行った上で実施することを検討」との記載があるため、対策が整えば調理自体は可能と判断した。

子どもたちのやりたい気持ちに寄り添って時間をさいて相談にのってくれたり、子どもたちの成長を自分のホームの子どものことのように喜んでくれたりする風越のスタッフ。

昼休みに企画書の相談をしていると、カイトがななみいにアドバイスをくれた。田んぼの企画書で苦労してきたカイトだから、その大変さが身にしみてわかっている。ななみいも、「自分でやってみて、カイトのこと、本当に尊敬する。」と言っていた。アドバイスをうけてななみいが家で企画書を直してくるということになった。

その夜、企画書づくりがどうなっているかと編集画面を覗いてみると、カイトとななみいサクラコがドキュメントを共有して編集してくれている真っ最中だった。編集画面には、「ここ漢字のほうがいい。」「ここ時間を入れたほうがいい。」などと画面を使ってやりとりしながらすごいスピードで修正していた。画面から伝わってくるその熱意を感じつつ、私の出る幕はないな…と悟りパソコンを閉じた。その後も遅くまで、zoomをつないでみんなで直していたようだ。朝になると、企画書が丁寧に仕上がっていた。

ななみいは直した企画書をしんさんやそれぞれのスタッフに提出に行った。その後もいくつかアドバイスがあり、更に企画書を修正することになったが、それでもめげずに最後までやり遂げた。

そして9日、しんさんが労いの言葉とともに、ななみいに実施できることを伝えた。ななみいは冷静だったけどとても嬉しかったと思うし、なにより無事に実施できることにホッとしたと思う。

これからの時代に生きていく子どもは、人や物事への対応の仕方を、学ぶのではなく自ら身につけていくことが大切だと思う。だから私は下準備はしないようにしようと思っている。私が事前に渡りをつけておくことは簡単だが、それでは子どもたちにとって偽物の対応になる。それだけにスタッフの対応がそのまま子どもたちの学びに生かされ、伝えて振り返りよりよくしようと考えるチャンスを与えてくれる。山のような仕事を抱えながらも、子どもたちの声に耳を傾けて、一緒におもしろがってくれるリソースセンターのみんなの存在がプロジェクトを支えてくれている。

いよいよ調理!

10日の朝は誰一人忘れ物をする人がいなかった。コロナの状況の中、自分たちを信じて許可を出してくれたことに応えようと、身支度をしっかりし、約束を再確認し、ざっきーにミニレッスンをしてもらった。風越で初めての調理活動。じゃがいもを茹でてズッキーニとナスを焼くだけの活動だが、様々な技術や知識がいる。手順や方法や役割をグループごとに自分たちで考えながら、みんな真剣に調理活動に向き合った。もともと料理が好きな子が多いことから始まったプロジェクトだけに、それぞれに工夫して調理していることに感心した。

3年生のたいくんは一番大きいじゃがいもを選んだ。皮むきを使って皮を剥いていく。はじめはすべってうまく剥けなかったが、はたちゃんのアドバイスでだんだんピーラーの角度の当て方がうまくなり、上手に皮を剥いていく。そして、自ら技術を獲得し大きなじゃがいもの皮を剥ききった。そのたいくんの姿を横からそっと見守る7年生のななみいとカイト。その3人をじっと見守り写真におさめてくれたスタッフのササ。その瞬間の言葉は一言もないが、見守り思いに寄り添うという優しさの波紋が広がっていた。その波紋の一番外の円から見ていた私。その瞬間がとても幸せだと思った。

こっちゃんとちーが大切に育ててくれたズッキーニとナスは本当においしかった。一つ一つを大切に焼き、大切に口に運んだ。

こっちゃんは作家の時間に、持ってきたズッキーニをじっと見ながら詩を書いた。思いが言葉になる。

共に学ぶということ

一人ひとりが家で育てている野菜だけれど、Typhoonに成長の様子を投稿しあってみんなが野菜の成長を見守っている。「トマトが赤くなってきたよ!」という報告に一緒に喜ぶメッセージが流れたり、病気になって枯れてしまったりしたら一緒に残念がる。自分も大切に育てているから、他の人が大切に育てている野菜も大切に思う。だから、たったひとかけらの野菜でも、本当に美味しく感じる。

夏休みに入る前におかしょーから、「夏休み中に育った野菜は、自分の家で食べて、是非食レポをしてください!」と提案があった。キヨは、大切に育ててきたトマトをおいしそうに食べる写真や、ジャガイモ料理をあげていた。おかしょーからは、なすのぬか漬けの食レポがあったし、ちーからはマーボーナスをつくったと知らせがあった。

ななみいのトマトも立派に育っている。ちーの肥料袋で育てたじゃがいももたくさん収穫できて驚いた。カイトのパクチーは「くさいけど元気に育っている」そうだ。ハナコの唐辛子も赤くなってきた。一緒に関心を寄せてくれる人がいるから、自分自身の関心も一層深まる。そこに共に学ぶ価値があると思う。

野菜の成長を可視化する

キヨは毎日トマトの成長をTyphoonにあげている。自分の背丈よりも高くなった茎の長さを図り、100枚を超える葉っぱの枚数を毎日数えている。それをグラフにまとめる方法はないかとプログラミングプロジェクトで学校に来てくれている保護者の澤田さんに相談した。

また、カナデとちーは、学校で育てている稲の成長をテクノロジーの力を借りて記録できないか挑戦してみたいと相談した。

キヨはグラフの作り方を澤田さんに教えてもらい、算数の探究ともつなげてグラフをつくった。それにしても4月中旬からほぼ毎日トマトの成長を記録し続けたキヨ。自分の背丈よりも大きくなったトマトを背丈を図り、100枚を超える葉っぱの枚数を数え、本当にすごいと思う。

稲の成長については、マイクロビットをつかって挑戦してみようと考えたが難しく、結局アナログで調べていくことになった。カイトから、当番制にして稲の成長を観察して、記録していこうと提案があった。カイトがいつのまにか田んぼ用のポータルをつくっていた。


そこに写真と成長の記録を書き込んでいった。

3年生のハナコから「何で風越の土で一本うえはみじかいのかなー?何で田んぼの土で三本うえは長くてりっぱなのかなー?何で水だけはかわってないのかなー?」とTyphoonに疑問の声が上がると、7年生のサラから、「そーだねー(^^)本数の問題なら、多いほうがきっと立派に育つんだね。土の問題なら、やっぱり、ちゃんとした「田んぼの土」の方が良いってことだねー。学べるってイイね〜(≧∇≦)b」と返信があった。二人のやりとりを見て、自然に問いが共有されて、一緒に考えようとしているつながりが素敵だと思った。

わこさんの田んぼの水にはどんな生き物がいるのか気になっていた子どもたちに、がちゃが顕微鏡で見る方法を教えてくれた。顕微鏡の中に映る虫を発見したときには「うわー!」という声があがっていた。わこさんの田んぼは様々な学びをもたらしてくれる。

4月にこのプロジェクトが立ち上がったときに青写真を描いた学びが少しずつ広がっている。様々な環境の要因で広がっていかないこともたくさんあったし、これからも不自由な状況が続くことは予想される。でも、予定通りに行かないことを楽しみながら、カレー屋への道を進んでいきたいと思う。

文:石山 れいか

#2020 #ホーム #後期 #探究の学び

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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