2024年12月11日
11月15日(金)、16日(土)に実践ラボ「一人ひとりの子どもごとに教材研究するってどういうこと?」を開き、5人の先生方が集まった。
この子が教材の世界に浸るとは「 」
この言葉をおいた2日間の実践ラボでは、一日目は『「この子」の観察』とおき、一人の子どもを追い何が起きているのかを観察した。二日目は『「この子」の教材研究』とおいて、それぞれの参加者の目の前の子どもをまんなかにおいて教材研究をした。この2日間は参加者と一緒にじっくりゆったりたっぷり子どもと教材に浸るような時間だったと思う。
今日は共に実践ラボをつくりあげたふっしぁん(藤山)と2人で対談しながら、プロセスを振り返る。
実践ラボから10日ぐらい経ったかな?ようへいは、 そもそもなんで実践ラボをやろうと思ったの?
去年も実践ラボをやったんだよね。中学校数学を1人で担当するのは風越に来て初めての経験だったから、一緒にあーだこーだをいう仲間をつくりたいって思って。仲間をつくる面白さや仲間と考える楽しさはあったんだけど、そのとき校種は中学校・高校に絞っていて、でも風越学園は12年をつなぐことを大切にしているから、小学校の算数にも切り込めるといいなって気持ちが芽生えた。それで今年はふっしぁんと小学校の算数・中学校の数学を扱う実践ラボがやりたいなと思ったかな。
でも、今回の実践ラボのテーマは「一人ひとりの子どもごとに教材研究するってどういうこと?」だよね。小中の連携や接続って感じじゃないよね。 そう。小学校の算数も絡めたいというのは年度初めの気持ちで、じゃあ実践ラボどうしようかって実際に夏に考え始めたときの僕の関心事は「一人ひとりの子どもがどうしたら算数・数学を楽しめるか、どうしたら算数・数学を面白がれるか」ってことだったんだよね。言われてみれば当たり前のことなんだけど、それは風越学園に3年間浸ってきたから、そして、今年度に入ってからふっしぁんと算数・数学を考えているから見えてきたことだったんだよね。一人ひとりの子どもって違うんだなってことが見えてきたから、じゃあ一人ひとりの子どもを真ん中においてみようと。 でも、ようへいは教材も大切にしてるよね。 そうだね。僕自身はずーっと教材を大切にして授業をしてきたから、ふっしぁんが大切にしている「一人ひとりの子ども」と、僕が大切にしてる「教材」が重なるところを見つけたいなって思って始めたのが今回の実践ラボだったな。
実践ラボをやってみてのハイライトはどこだった? 一日目、5年生の「この子」を追う時間がよかったかな。5年生の授業「異分母分数の加法」で、参加者の5人それぞれに一人の子どもを45分間ずっと追ってもらって。 当たり前だけど、いつも自分1人に対して子どもたち15人だから、一人ひとりの45分間はもちろん追いきれない。だから今回アッチャン、アイ、キズキの3人を追ってもらって、自分が見えないその子の姿とか様子とか知れたのも嬉しかったし、追ってもらったのは1時間だけだけど、4月からじっくり考える時間が1時間ずつ毎日積み重なって今のアッチャン、アイ、キズキがあるんだなってことを再確認できた時間だったなって思う。
僕も8年生の授業で「この子」を追ってもらったのは印象的だったな。この日の授業はいろいろあって、8年生に今日の数学の時間は学年の時間(遊ぶ時間)だって勘違いして伝わって、最初体育館で遊んでいたんですよ(笑)。 体育館を見に行って数学の時間だよって伝えたら子どもたちから「もう無理〜。マジやってられん」みたいな(笑)。子どもたちの数学へのモチベーションが今までで1番低いスタートだった。 あれは大人たちはソワソワしたね(笑)。 で、そういう状況のなかチーを追いかけてもらった。やっぱ最初は「やってらんね〜」みたいなことを言っていたらしいけど、やらなきゃなって気持ちになってきたのか、補助線をひいていろいろな方法で考えるっていう課題に、一つ方法を見つけたら一仕事終えたかのような「ふう」と深呼吸してたらしいんだよね。普段僕はその様子まで見れてなかったけど、そんな様子があったんですよって、すごく嬉しそうに伝えてくれる参加者の姿を見て、自分が見れない姿を一緒に見れたっていうのはすごくよかったな。あ、チーってこういう人間なんだなみたいなところが参加者を通して知れたのはすごくよかった。
他にどんなハイライトがあった? 2日目のチェックインかな〜。 始まる5分前にふっしぁんから「ちょっとチェックインを変えたいんだけど。後半にそれぞれの実践について考える時間があるけど、その前にもうちょっとお互いを知り合った方がいいんじゃないかな」って声をかけられて。 1日目は実践ラボの課題でいっぱいで、5人がお互いを知る時間のなさは薄々感じていたからナイスアイデアだなって思ったんだよね。ふっしぁんはどうしてそう考えたの? 実践ラボ1日目は、1時間目から5年生の授業を見て、振り返って、それが終わったら8年生の授業の教材研究して、8年生の授業見てって感じで、スタートからいきなりワークが続いたよね。 チェックインもあんまりゆっくりできなくて、お互いの顔と名前、所属、その人の今はなんとなくわかったけど、その人がこれまでどういう人生、どういう経験を経て学校の先生になってるのか、そこでどんな先生をしているのかとかっていうところはわからずに始まっていたんだよね。 そんな感じはあったね。 2日目の朝に参加者のサクラさんとちょっとお喋りしたことで、やっぱりもうちょっとその人のこれまでみたいなことを知りたいなって純粋に思ったし、お互い知った上で、2日目を迎えたいなって思った。それは今年ようへいと算数頑張ろうって決めたときに、まず私についていろいろ聞いてもらったことも大きいかも。こだわっていることは何か?とか算数の文脈じゃないところを聞いてくれて、そこからやりとりが始まったことも思い出して、今回の実践ラボも教科でいうと算数・数学なんだけど、やっぱり根底にはその人自身がある。そう思うと、算数・数学以外のこともお互いに知れるといいなって思ったかな。
ふっしぁんは白湯を鉄瓶で飲んでいますって話だったな(笑)。 私の趣味は衣食住の質をちょっとでも上げることなんだけど、そういう話でもいいかなって(笑)。ようへいは、数学教育に興味を持つきっかけになった大学の講義の話や教員になってからの10年の話をしたよね。 面白かったよね。自分は一人っ子だったからかひとりの時間が好きだとか、自衛隊をやっていたとか。その人の人となりというか、ここに至るまでのプロセスが一人ひとり違うんだなって感じた。もちろんそのときの話が全部ではないんだけど、でも、プロセスの一端を感じるような2日目のチェックインだったね。
だねー。そのあとの「この子」の教材研究もよかったね。 一日目は僕やふっしぁんの授業で「この子」に何が起きてるかを観察して、2日目はそれぞれの参加者の目の前の子どもを真ん中において教材研究をするっていう時間をつくったんだよね。グループに分かれて、今自分の授業はどんな授業なのか、今回考えたいと思った「その子」がどんな子なのかっていうのをちょっとお喋りした上で、どんな教材だったらその子が教材の世界に浸れるかっていうことを考える時間だった。 どんなことが印象に残ってる? ナオヤさんが6年「比」の単元でコトハさんという子を真ん中においたんだよね。コトハさんは比の計算はなんとかできるんだけど文章題には手がつかないみたいで、比を使って全体を4:5に分けるとか、そういうことが難しい。でも、絵を描くのが上手だから、文章題を理解するときに絵を描けるかなと思ったんだけど、文章題に出てくる妹と姉の絵をしっかり描いちゃうような子ということだった。それを聞いて僕は、文章の背景は考えられるけど、そこの数量関係にはなかなか至らないのかなと、そんな子を思い浮かべたんだけど、どうしたらそういう子が比の世界に浸るというか、比を入り口にして考え続けられるかなってみんなで考えたのがすごくよかったな。 どんなことを考えたの? 最初、教科書に書いてあるような 72を5:4に分けるとかは全体の数も書いてないし無理だろうと。じゃあ72を1:1ならわかるのかな。半分はいけそうだね。だったら7:3とか10を分ける比だったらどうだろう。ほらナオヤさんが髪型を七三分けして入ったらいいんじゃない。
髪型な(笑)。 そんなことをグループでおしゃべりした後に、個人で教材に浸ることを考えた。10を9:1にわけるとか10を7:3にわけるのはできそうだな。さらに全体の数と比の合計が同じ数だったらできそうだなって気付いた。例えば72を30:42にわけるのもできるだろう。でも全体の数値が比の合計と違うときは難しそう。12を1:1にわけたり5:5にわけたりするのは半分だからできそうだけど、10を2:3にわけるのは結構難しいんじゃないかなと思って。 なんでそう思ったの? 10の数直線をかいてみると10のメモリは見えるんだけど、この2と3が全然見えない。図には見えないところに2と3があるから僕も一瞬手が止まる。ここって難しいんだなって思った。
なるほどね〜。 じゃあその子がその後どうやって乗り越えるんだろうなってグループでおしゃべりしてるときに半分ができるから 半分の半分はできそうだなって気づいた。案外3:1とかの方ができるかもしれない。例えば12を3:1にわけるとか、72を3:1にわけるとかはできるかもしれない。等分が難しくても半分の半分⋯だったらいけるかな。こういう切り口が見えたのは自分でも新鮮だった。
参観者のアキさんが「その子が持ってる武器でどこまで行けるかって考えるといいんですね」って言ってくれたんだけど、確かにそう思った。自分で見つけた武器がどこまで使えるのかは、その子もわかるといいし大人もわかるといい。大人はこの子がこれができたなら他にどんなことできるかなって問いかけるのがすごく大事だなって思った。 普段ここまで一人ひとりの子どもごとに教材研究はできないかもしれないけど、「この子」の教材研究、一人ひとりの子どもごとに教材研究するって、もしかしてこういうことなのかなって感じた時間だったかな。
参加者の5人に改めて伝えたいこと、何かある? 「 子どものことを子どもに聞く」っていうのはすごく大事だなって伝えたいかな。僕は最近ほんのちょっとやれるようになった人間。それを素でやってしまうような人もいると思うんだけど。学びの当事者に今の学びをどう感じてるのかって素直に聞いてほしい。聞いてもわからないことはいっぱいあるけど、聞かないとわかんないこともいっぱいある。順調そうに見える子もそうだし、困っている子もそうだし。そのとき子どもの要望に100%を答えてくださいってことではなくて、まずは 子どもがそう感じてるんだっていることを知る。そのあとじゃあ子どもがやってみたいことをやってみようっていうときもあるし、自分はこの教材を大切にしてるから、こういうことを一緒にやりたいんだって提案するときもあると思う。授業を考えるときによく「子どもを揺さぶる」っていうけど、でも「子どもに揺さぶられる」ことも大事で。 僕自身も揺さぶられてる。 苦労してるね(笑)。 苦労してるよ(笑)。でも、揺さぶり、揺さぶられるっていうところでは、 子どもと大人と同じことが起きるといいのかなって思っている。ここは譲ってもいいかとか、ここは譲らない方がいいかとか、 ときには立ち止まりながらも子どもの声を聞けるといいなって思ってるかな。「声を聞く」で続けると「教材の声」や「自分の声」も聞けるといいけどね。聞かなきゃいけない声がいっぱいある。その中で折り合いをつけていくのか、さらに高まっていくのかは状況次第だけどさ。つい僕は子どもの声を聞くことが抜けがちになってしまう。5人がどうかはそれこそ聞いてみないとわからないけど、子どものことを子どもに聞いてみてほしいかな。 ナオヤさんには、コトハさんと比の授業をしたら「授業どうだった?」って聞いてみてほしい。「全然わかんなかった」とか「もっとこうしたい」とか声が聞けて、また違った世界が見えるのかなって。素でやってる人もいると思うけどね。 子どものことを子どもに聞く、だね。
ふっしぁんは5人に何を伝えたい? 「元気にしてますか?」かな。 実践ラボが終わって1週間が過ぎて、今週で2週目に入るのかな。 やっぱりあの2日間の時間はゆったり過ぎていったけど、今はあの2日間とは全然違う忙しい日々を過ごしてると思うから「元気にしてますか?」だね。 元気にしてるかな〜。 もし、あのときの授業をすでにしていたら、話を聞きたいなって思うかな。「どうだった?」って。また5人とおしゃべりしたいなって感じ。 年末やるかね。忘年会。
最後に今後チャレンジしたいことある? ふっしぁんお先にどうぞ。 そうだね、チャレンジしたいこと。今年度は5年生の算数の授業を担当していて、それだけでもヒーヒーなんだけど、来年度はもう1学年ぐらいようへいと?一緒に授業できたらいいかなって思うかな。この5年生の内容は他の学年の算数のこの単元と一緒に学習できるかなとか、風越だからこそできる算数を考えたいなって思ってるかな。 嬉しいね〜。 ようへいはどんなチャレンジしたい?
同じ学年で同じ教材の方が関わりも生まれやすいしね。 そうだね〜。そういう理由もあって、今まで学年を混ざることに数学としてはちょっと無理かな〜って断り続けてきたんだけど、最近ようやく無理じゃないかもなとは思ってきた。それはなんでかっていうと、結局一人ひとり子どもが違うんだから、学年が混ざってようが混ざってないがあまり関係ない。だって、どうせ違う。 ただ、扱う内容がある程度揃っていた方が準備は楽だし、大多数を中心に幅を考えられるから準備もしやすい。学年を混ぜると準備の大変さは絶対にあるとは思っている。 そうだね。一つの学年でも大変だしね⋯ でも、一人ひとりの子どもの違いに関心が向いてる今だからこそ、ためしに学年混ざってみてもいいかなって思ってる。一人ひとりの子どもごとに教材研究できるのであれば、学年が混ざってるかどうかは大した問題ではないという感覚になってる。混ざることにすごく前向きってわけじゃないけど、学年が混ざることによって救われる子どもがいるならやりたいと思っているかな。でも、それによって気が乗らない子どももいるかもしれないから結局何を取るかだよね。それこそ学年が混ざることは風越だからできることだからためしにってみてもいいだろうなって思ってるかな。 変わったね、ようへい。終わり方がわからないけど、そろそろ終わろうかな? まだまだ算数・数学の時間は続いていくから、今後ご期待ということで終わるか。ありがとうございました。 ありがとうございました。