風越のいま 2023年9月1日

風越学園のはたらくを知るー「問いを立てる」と「学ぶ」

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2023年9月1日

この記事では、7月18日(火)に開催した採用説明会の中で風越学園での「はたらくを知る」について話した内容の一部をご紹介します。

7月7日(金)に開催した採用説明会の記事はこちらです。

話し手:
遠藤綾(あや) 
2021年4月に風越学園に参画。現在は副園長、3歳児を担当。前職では保育園の園長を経験。現在も、現場で保育を学び続けながら、学園全体の組織づくりにも関心が高く取り組んでいる。

林里紗(ふぅ)
2022年4月に風越学園に参画。昨年度に引き続き1,2年生を担当。前任校は公立小学校。幼児教育への関心も高く、毎日野外で活動している。

聞き手:
本城慎之介(しん)


本城

まず、今日の子どものとっておきのエピソードをそれぞれ1つずつ教えてください。

1つと言われたけど、2つ短めに紹介してもいいですか。1つめは、1年生が学園から徒歩20〜30分の川へ遊びに行ったときのこと。水の中を歩いたり腰まで水につかったり、ぷかぷか浮いて川に流されたりしていたんですけど、今年入学したある子が、最後すごく目をキラキラさせながら「僕、この川大好き〜!」って言いながら川から出てきて、すごくいい顔をしていたのが印象に残っています。

もう1つは、川に行く途中に寄った公園での話です。風越では、遊具がある公園に行くのは珍しいので、みんなはしゃいで楽しそうに過ごしていたんですけど、滑り台っていろいろ起きるじゃないですか。

本城

うん、起きますね。

みなさんご想像の通り、逆走する子が現れたり、ちょっと怪我しそうなことが起こり始めて。でも、私が「怪我するからやめよう」って言ったらここで終わっちゃうし、なんかちょっと違うなぁと思って。どこで声をかけようか、または声をかけないままでいこうか、と考えながら彼らを見ていました。最終的には、「たぶん、このままやるとケガ人が出るよ」と声をかけたんですけど、家に帰ってからも、あれで良かったのかなぁとずっと考えています。

本城

あやさんはどうですか?

遠藤

今日誕生日の子がいたので、木のケーキをつどいの場所に置いていたんですね。そうしたら、子どもたちは前回の誕生日のお祝いの経験から、一人ひとり近くにあるレンゲやツユクサを摘んできて、そのケーキに少しずつ飾り付けをしていくんです。何も言わず、きれいだなぁと思うお花を摘んで友だちのために飾るということを3歳児がすごく自然にできていて。友だちとの関係性の中で子どもたちが育っているなぁというのを感じました。

8月のお誕生日ケーキもまた子どもたちが飾りつけた

遠藤

さらに続きがあります。風が吹いてきてマッチの火をなかなかつけられないでいると、「風さん止まれー!」って一人の男の子が言いだしたら、他の子も「風さん止まれー!」と。そんなことをしている間に、ある子がさっきまで座っていた席に他の子が座っちゃったということも同時に起きて、座られてしまった子が、自分が座っていたのに、どうしよう、伝えようかなぁと迷っている姿がありました。その子は座っちゃった子を覗き込むように見て目を合わせたんだけど、どうやら座っちゃった子は自分が席をとってしまったことに気づいてなさそう。結局、「その席、僕が座ってたよ」と伝える一歩は踏み出さなかったけど、昨日までだったら、そのまま何もせず別の席に座っていたんじゃないかな。その子の中でお友達への安心感とか、この場への信頼とか、そういうものが少しずつ変化しているなぁっていうことをその姿に感じました。

本城

子どものエピソードを語る時って、その人なりの子ども観が色濃く出てきますよね。ここからは、風越の「はたらく」ということについて考えていきます。

前回の説明会でもお伝えしましたが、「つくる」「つくり手」ということを軸にしてはたらくときに、「らしさ」「問いを立てる」「学ぶ」「協働する」「やりきる」の5つが大事なんじゃないかと考えています。


本城

今回は、「問いを立てる」をテーマにやりとりしたいと思います。
さっきの子どものエピソードでは、ふぅが滑り台のところで「どこで声をかけようかなぁ」と自分に対しての問いが出てきたり、あやさんも関心をもって見ながらも、その子にとって「育ちってどういうことなんだろう?」という問いをもっていたんじゃないかと思って聞いていました。風越ではたらく上で、「問いを立てる」ということがどんなことなのか、どんな風に思っているのかについて聞かせてください。(事前打ち合わせなしですが)

風越ではたらいてから、毎日、問いを立て続けていると感じています。でも、その問いの立てかたが変わってきたなとも感じていて。
例えば、さっきの滑り台の場面で言うと、「風越だったらどこで止めるんだろう?」という問いにもできる。それこそ、昨年風越に入職したばかりの頃はそう問いを立てていた時もあったけど、人や時と場合によって対応が変わるということが分かって。ある幼稚園スタッフに相談したら、「風越らしさを探すっていうよりも、自分がその場面を見て『ちょっとそれはどうなんだろう』と思うのか、『もう少し任せてみよう』と思うのか、自分の感覚をまずは大事にしてみたら」というアドバイスをしてもらいました。
今は、私自身が何に引っかかるのか、どこまで手を出さずに待てるのか、自分の内側に問いを立てながら日々過ごしているというイメージです。

本城

それってめっちゃしんどくない?

めっちゃしんどいです(笑)。

本城

めっちゃしんどいって笑いながら言っているけど(笑)、どういうことなんだろう?

公立小学校にいた時は「これはやらせない」など学校である程度決まりがある中で、自分がそこに乗っかればよかった。でも、今は乗っかるものがあまりなくて。「つくり手になる」といった大きな目指すところはあるけど、細かいところまでは決まりがない。なので、自分に問い続けていく必要があって大変だなぁと思っている感じです。

本城

問いを立て続けるのはしんどいなぁ、大変だなぁと思うけどやり続けているの?

子どもと向き合うにはそれしかないって感じですかね。

本城

問いと答えって対として捉えられることがあると思うけど、ふぅにとって問いと答えの距離感ってどんな感じ?

答えが「これだ!」と出たことはほとんどなくて。今日の滑り台のことも、「やっぱり声をかけなくても良かったかなぁ」ってずっと考えているという意味では、距離感って遠いのかなぁと思いました。答えがあるのかもわからないけど。

本城

すぐに答えを出そうとはしていないんだね。

その場でできるベターはやろうと目指しているけど、これがベストだったのかなぁとずっと考え続けている感じです。

本城

他のスタッフに問いを共有したり、問いの答えをやりとりすることはある?

今日の場面は自分しかいなかったから共有できていないけど、同じ場面を一緒に見ていたら、どうかな?と他のスタッフに聞く日もあれば、流れてしまう日もあります。

本城

ふぅと一緒に子どもたちを連れて散歩に行った時に、僕の声かけに対して問いを投げてくれたこともあったよね。

他のスタッフがどう見ていたのかな?というのは気になりますし、そうやって自分の引き出しを増やしていく必要はあるなぁとすごく思うので、問いを投げかけるようにしています。

本城

ふぅは風越に入って2年目だけど、今年と去年で、問いの立て方や問いに対する姿勢で他にも変化した部分ってあるのかな?

去年は1年目でいっぱいいっぱいだったのもあって、他の人と問いについてうまく共有できなかったです。今年はそれを変えたいなと思っていて、積極的に聞きたい、コミュニケーションをとっていきたいという思いがあります。

本城

あやさんにも聞いてみたいと思います。あやさんは、問いを立てる時によく吟味しているように見えるんだけど、どんな風にどんな場面で問いを立てていこうかな、他のスタッフとも共有していこうかなという思いや考えがあるのかな?

遠藤

一緒に高め合っていくというか、ともに学び合っていくということがすごく大事だと思っています。そうするには、誰かが「これが問いだよね」と言っても始まらない。じわりじわりとみんなの中で立ち上がってくる共通の問いみたいなのがあって、それをつかむイメージです。同時に、あちこちで浮かんでいる問いを見つけて一緒に考えるということは意識しています。全員かどうかはわからないけど、現在地としては、「森で起きていることを森に任せっきりになっていないか?」という問いが起きているように思っていて。これを取り上げて、環境づくりにつなげていけたらいいなという風に考えています。

本城

屋外の環境で保育をしていると、一緒に保育しているスタッフの様子も見えにくい、子どもたちの関係性もつくりにくい、という現状の不安や不満が、問いという姿に形を変えてぽんっと現れてしまうことがあって、不安や不満をベースにすぐに解決しよう、という動きにつながることもあると思うんだけど、そこらへんはどういう風に見ていますか?

遠藤

みんなでつくっていきたい光景のイメージをもっていれば、今出てきているものが不安から出てきているものかどうかはわかるような気はしています。できない時ももちろんあるけど、その問いを取り上げてもいい方向にはいかないかなと予測できる時はもう一度、目の前のことからもう少し大きな視点に切り替えるような声をかけるということができるといいかなと思っています。

本城

話を聞いていて、問いと答えはセットや対ではなくて、「問いを立てる」ということは「学ぶ」っていうこととつながって考えるといいのかなと思いました。「学ぶ」についても話していきますが、ふぅが風越に来て、これは「手放してきたな(アンラーン)」、ということと「手に入れたこと(ラーン)」って何かある?手放したは、諦めたというよりは学び直したという意味合いかな。

手放してきたことめちゃめちゃあるからどれにしよう(笑)。大人の言う通りにさせようというのは、手放さざるをえないという環境だなと思います。外だけでなく、学園の校舎の中も今まで通りやろうとすると、すごくやりにくい環境になっている。その中で、子どもたちを自分の思う通りに動かそうということは手放しました。

本城

大人がコントロールすることを手放すということは、何を学んだということなんだろう?

手放さなきゃと思った時に、自分はコントロールしたいと思っていたんだということに気づきました。元々、子どもを思い通りにしようと思っていたわけじゃないんですけど、実際、常に教室に子どもたちがいるわけではない環境や、やることが決まっていない時もある場合に、どうにか手綱を引こうとしたり、言った通りに動かそうと自分は思っているんだということに気づいたのが去年の夏でした。

本城

そういう自分に気づいて、それからどうしたの?

去年でいうと、校舎の中で1,2年生の溢れるエネルギーをどうにかするのが難しくなったこともあって、外と中を行ったり来たりしていたところを、外に出て自然の中でいろんな偶然が起きたりする中で子どもたちと過ごすことに決めてから、色々変わり始めた感じがあります。

本城

あやさんは、「手放してきたな(アンラーン)」ということと「手に入れたこと(ラーン)」についてはどうですか?

遠藤

うーん、どうなんだろう。手に入れたことで言うと、「願い」という言葉をよく使うけど、願いというものがどうやって自分の中に生まれるのか。風越の現場に入るようになって3年目で、少しずつ願いがもてるようになってきたなと思うんです。一人ひとりのことを理解しよう、よく見ようというところから願いが生まれてくるし、自分の願いと他のスタッフの願いや子どもの見取りをすり合わせていくことで、願いが共通になっていくプロセスを学ばせてもらっています。

本城

願いと問いはちがう?

遠藤

願いをもつための問いとしては、「この子にとって今していることにどんな意味があるのかな?」「この子になって考えてみるとどうかな?」というのはいつもあると思いますが、その上で、この先、どんな経験を重ねていくだろう、どんな風に変わっていくのかなぁと予測する中で、願いが生まれてくるんじゃないかなと思っています。子どもたち一人ひとりのプロセスだったり、経験していることも違うから、願いも変わってくる。自分もそういう風に一人ひとりへの願いをもてるようになってきているなぁと感じています。

本城

一人ひとり違うし、一人ひとりの願いをもつんだけど、フィールドとしては一人ひとりが見にくくて、だからこそスタッフ同士で共有をしていくことも大事なんだね。ちなみに、ふぅとあやさんは、お互いのことはどう見えていますか?

あやさんとお話しすると、スタッフ同士が高め合わなきゃいけないんだというのをすごく熱く語ってくださるんですよ。風越の中でも経験が厚い方もいれば、公立の経験を数年して来ている人もいるんだけど、「経験だよね、経験値だよね、で終わらせちゃいけない」とあやさんが力強く言ってくださるのを心強く感じています。正直、スタッフ間の協働ってすごく難しいと感じている。それぞれの価値観も違うし。どうやってお互いにオープンにしていくのかとか、特定の誰かががんばるじゃなくて、みんなで高め合っていく環境になっていくにはどうしたらいいんだろう、と私も考えたいなぁといつもあやさんと話すと思わせてもらっています。

本城

センスと経験の問題にしちゃうと何も解決しなくなっちゃうもんね。

遠藤

ふぅはとにかく、私の印象ではタフだなぁと。すごいカオスの中で、去年生き抜いてきた感じがして。自分を保つ方法とかもいろいろ試しているなぁ、すごいなぁっていつも思っていて、尊敬しています。

本城

「生き抜いた」って聞くと、これから採用受ける人はそんなに大変なんだって思うかもしれないね。でも、それだけ大変さはあるよね。


(本城)問いを「持つ」ではなくて、問いを「立てる」。自分自身の中だけに問いを持つのではなく、問いを他の人と共有し、その問いについて交わし合えるように立てる。つまり、「問いを立てる」というのは、「私はいまここに立っています」ということを自覚し、周囲に伝え、問いを通じたやり取りをしながら「こっちに行ってみよう、いや、あっちに行こう」と進んでいくこと。そんなことを考えた時間でした。

今回は、学ぶの二つの方向性、ラーン(手に入れる)とアンラーン(手放す)については、あまり深く掘り下げられませんでしたが、風越のスタッフにとってアンラーンは重要なテーマです。問いを立て進んでいるスタッフの混迷が深まり、どんどん視野が狭くなり、動きが小さくなっているように傍から見えることがあります。そういう時って、問いを立てる人あるいはその問いを受け取って一緒に考えている人が過去の価値観や経験をベースにしたり、そこに固執していることが多いように思っています。痛みを伴うこともあるアンラーン、別の機会にもう少し考えてみたいテーマです。

#2023 #スタッフ #説明会

かぜのーと編集部

投稿者かぜのーと編集部

投稿者かぜのーと編集部

かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

詳しいプロフィールをみる

感想/お便りをどうぞ
いただいた感想は、書き手に届けます。