風越のいま 2023年8月24日

「やってみる」のその先に・・・

新井 佑香
投稿者 | 新井 佑香

2023年8月24日

風越学園に入職して、5ヶ月が過ぎようとしている。まだ寒さが残るこの場所でのはじまりを、私はきっと忘れない。

4月3日、「スタッフ出会いの日」。自己紹介を兼ねた森散歩、個性豊かな他己紹介、グラウンドで突如始まる王様しっぽ取りなど、予想をはるかに超えてくるコンテンツの強さは確かにあった。けれど、「忘れない」と言い切れるほどの理由は、この5ヶ月間、そのコンテンツから自分自身が受け取っていたメッセージが頭の中を反芻し続けていたことにあるのかもしれないと、今、振り返っている。

はじまりは、エントランス前のファイヤーピットからだった。

チームを組んでの自己紹介は、しんさん(本城)ふう(林)愛子さん(坂巻)と同じチームになった。「どんな風にやりたい?歩きながら、どこかに座って、どんな方法でもできそうだね。」と会話をした。自己紹介を元にした新入職者の他己紹介。歌・寸劇・クイズ・ダンス・・・など、紹介(表現)の仕方はどんな方法でもOK。他人のことを紹介しているはずなのに、なぜか周りのスタッフが楽しんでいた。嬉しそうだった。王様しっぽとりを終えて、エントランス前でのお昼づくりは、調理をする人・日陰でおしゃべりする人・「焼きそばできたよ〜」という声に群がる人など、それぞれが思い思いに過ごしていた。

私の他己紹介は、遊牧民を表現し、ぐるぐるとその場を歩きながら語り口調で行われた。斬新。

そんな風に、肌で感じるもの・目に映る光景・スタッフ同士の会話の節々から、「どんなことでもやってごらん」「自由であっていいんだよ」というメッセージを私は受け取っていたんだと思う。同時に、その自由は孤立したものではなくて、いつでもお互いにアクセス可能であるということも。「いいね」と思ったら伝えてみたり、「面白そう」と思ったら乗っかってみたり。そういう混ざり合いも行われていい。そんなメッセージだった。

そしてそれは、風越に来る前に沢山考えてきたはずなのに、自分自身に改めて「私はこの場所で何をやってみたいの?」と問い続け、そこから湧いてくる「やってみる」を大事にしようと思うきっかけになった。

初日に私が(勝手に)受け取ったこのメッセージは、「つくる」をテーマにした子どもたちとの「はじまりの3日間」にも繋がっていく。そこで自由に生まれていく、沢山の「やってみたい」。それはものすごいスピード感で「やってみる」に変わり、校舎の至るところで動き始める子どもたちがいた。どこにたどり着くかはわからないけれど、とりあえず、やってみるのだ。

ある「やってみる」との出会い

その中で、私はある「やってみる」と出会った。

8年のユイ・ユリ、9年のセツの3人が考えていた「風越で文化祭をやってみたい」というプロジェクト。決まりきった行事がほとんどない風越には、もちろん文化祭という前例もない。思いはあるが、どうやって進めていこうか迷っていた3人に、テーマプロジェクトが始まる5月中旬までの「0ターム」に7・8・9年生で文化祭をやってみるのはどうだろう?と学年スタッフが提案すると、すぐさま3人から「やってみたい!」という反応が返ってきた。

私自身は初めて子どもたちのプロジェクトに関わる機会だったこともあって、どんな風に「やってみる」が進んでいくのか、最初から決まりきったゴールはないからこそ、「やってみる」のその先にどんな風景が広がるのかと、内心ドキドキしていた。

3週間後の本番に向けて、昼休みの時間を使って、早速話し合いがスタートした。

話し合い初日のメモ。今回のチャレンジを「小さくやってみる」と表現していた。

それぞれがイメージしている文化祭を伝え合ったり、「何のためにやるのか」という目的を言葉にしてみたりした。言葉にすることで、「文化祭をやりたい」という思いの裏には、「風越に新たな文化をつくりたい」という思いがあることにも気づいた。そこで出た内容を7・8・9年生全員に共有し、具体的な提案に対して意見をもらったり、意見をもとにまた考え直したり、やることは次から次へと出てきた。よくある文化祭前夜のようなワクワク・ハラハラした感覚が、この時期は毎日続いていたように思う。

7・8・9年生の帰りの集いで、文化祭を提案した。

そんな時間の中で、3人の思いから始まった「やってみる」は、7・8・9年生の色んなところで新たな「やってみる」を生んでいった。下のホワイトボードの写真にあるように、「どんな文化祭にしたいか」を話し合った時には、「楽しめる文化祭にしたい」「7・8・9年生がぐちゃぐちゃと交流している文化祭だといいな」「誰かが『やることないな〜』ってならない文化祭」など色々な意見が出てきた。帰りの集いでの全員を巻き込んだ話し合いの積み重ねは、文化祭を「自分ごととして」つくっていくという気持ちを伝播させていったように思う。

提案後、どんなことをやりたいか考え始めた7年生

ある日の帰りの集いでの話し合いをまとめたホワイトボード

しかし、最初に勢いよくスタートした「やってみる」が、ずっと同じ勢いで進んでいくとは限らない。実は文化祭前日、3人は不安に押しつぶされそうになっていた。本当にできるのだろうかと不安になり、出来ていることよりも出来ていない準備の方に意識が向いた。そう、「やってみる」は不安や迷いとも隣り合わせなのだ。

前日に、奇しくもアドベンチャープログラムのトレイルハイクに参加していた3人。この道がどこに続くのかという分からなさと文化祭の行方をきっと重ねていたのだろう。歩きながら、文化祭への不安が口からどんどん溢れる。

それでも本番はやってくる。不安を感じながらも、進んでみる(やってみる)と、当日の朝まで不安そうにしていた3人の表情は文化祭スタートとともに安堵した表情に変わっていった。後々聞いてみると、「やってみたい」と思い描いていたものが、目の前に広がっていたからだそうだ。たった90分の文化祭だったけれど、7・8・9年生が思い思いに準備をしてきたブースが会場には広がっていた。

装飾も0からアイデアを出し合った

ロシアンルーレット・アメリカンドッグ。クイズに当たると美味しいアメリカンドッグが食べられるらしい。

理科室の横に突如現れる、カクテルバー

味のある看板も飾られていた。奥では水風船ブースも開かれている。

文化祭を実際にやってみたことで、新たに見えてきた課題や次への展望、改めて考えたいことも、よりはっきりと見えてきた。

  • 食べ物系が多かったから、もっと色々な種類のブースがあった方がいい。
  • ブースだけじゃなくて、発表ステージを作るのはどう?
  • アウトプットデイとの違いはなんだろう?
  • 今回は仮想通貨だったから、リアルなお金でやりとりしてみたい。
  • 学年を限定せず、学校全体でやってみたい。    

一緒に「やってみる」を進めてきた人たちと同じ場面を共有できたからこそ、次の「やってみる」がより具体的に描けているようにも感じる。3人の中には「今年の秋に、もう少し規模を大きくした文化祭をやってみたい」という思いがある。どんな風に進んでいくのかはこれからの話し合い次第だが、今から楽しみである。

「やってみる」のその先に・・・

「どんなことでもやってごらん」「自由であっていいんだよ」というメッセージを風越初日に(勝手に)受け取り、「やってみる」を大事にしたいと思っていた私には、この文化祭プロジェクトとの出会いがとてつもなく大きな学びの機会となった。子どもたちから教わったことは、まとめてみるとこんな感じ。

  • 「やってみる」の形は多種多様。思いつきとか、どんな形だってスタートを切っていい。
  • 「やってみる」にはっきりとしたゴールはないけれど、イメージはたっぷりできるということ。
  • 「やってみる」を誰かに伝えてみると、仲間が増えていくということ。
  • 「やってみる」を進めていくと、不安や迷いとぶつかること。
  • 「やってみる」の先には、新たな「やってみる」が待っていること。
  • 「やってみる」を意識(大事)にすると、日常生活の中に色んなヒントがあると気づくこと。
  • 「やってみる」を繰り返すと、どんどん「やってみる」のハードルが小さくなっていくということ。

私はこの5ヶ月間の振り返りを、朝のグラウンドでやってみた。これもひとつの「やってみる」。

さて、風越学園での初めての夏休みが終わろうとしている。

夏休み明け、子どもたちのどんな「やってみる」に伴走していけるだろうか。子どもたちとどんな「やってみるのその先」を共有できるだろうか。わたし自身はどんな「やってみる」をやってみようか。

同時に、「やってみる」が沢山溢れる風越にも、まだ日の目を見ていない「やってみる」が沢山あるとも感じている。だからこそ、「やってみる」とか「やってみたい」という一歩はどこから・どうやって生まれていくんだろう?ということにも疑問が湧いてきたので、時間をつくって考えてみたいと思う。そう、新たな「やってみる」を今、思いついてしまったのだ。

#2023 #7・8年 #9年 #スタッフ

新井 佑香

投稿者新井 佑香

投稿者新井 佑香

埼玉・秩父から山を超えてやってきました。美味しいものに何度も試しながら出会っていくことと、それを美味しく食べてくれるひとを眺めることがすきな時間。風越での時間もそんな場面に沢山出会いたいな〜

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