風越のいま 2023年8月24日

こんなにアレンジできるなんて

清水 春美
投稿者 | 清水 春美

2023年8月24日

「健康診断をこんなにアレンジできるなんて」と毎年感じている。

昨年の内科検診の様子。

年度初めの4月から6月に実施する、子どもたちの健康診断は、項目も方法も時期も法律で定められている。いろんなことを自分たちで決めたり、つくったりしている風越の中で、「必ず実施しなければならないもの」の位置づけにある健康診断を、開校当初のわたしはどこか、異質なもののように思っていた。その気持ちは、年を重ねるごとに、どんどん柔らかくなっている。

これまでの勤務校で実施してきた健康診断では、いかにスムーズに、適切に、漏れなく、そして何より必要最小限の時間で実施すること、を優先に考えていた。もちろんそれも大切なことで、今でも、適切に、漏れなく実施することは押さえるポイントだけれど、振り返ると、健康診断の機会をどう活かすか、よりも、いかにスムーズに実施して必要最小限の時間で収められるか、ということに苦心していたように思う。

健康診断の項目はいくつもあるため、なんでもかんでも変えられるということではないけれど、「こんなにアレンジできるなんて」と思えるのは、ほっちのロッヂのみなさんと実施する内科検診の存在がとても大きい。

内科検診を計画するときは、子どもたちの暮らしや日々過ごす様子や、今回の内科検診はこんな時間にしたい、こんな時間を過ごせるといい、という思いから、やりとりをスタートさせる。

内科検診の必要な要素は押さえつつ、内容を設計していくので、どの場所で、どんな流れで実施するかは、毎年試行錯誤しながら変わるし、学年ごとに形式も異なる。確保できる時間や環境など、制限が全くないわけではないけれど、「じゃあどうしようか?」というところから、ほっちのロッヂのみなさんや学年のスタッフと自由にアイディアを出し合いながら「いいね!いいね!」と一緒にわくわくしながら計画を立てることができるので、毎回自分の固定概念を覆してもらっていると思う。

聴診や視診、触診など、「内科検診」として定められている内容を実施することはもちろんだけれど、多くの時間はドクター(学校医)との対話を中心に進めていく。対話の延長に、聴診や視診、触診が組み込まれる、という感じ。

今年の内科検診のときに、年長の子どもたちが描いた絵や、見つけたからだの不思議。

たとえば、幼稚園では、自分のからだの好きなところやからだの不思議を絵に描いて、それをチケット代わりに、ドクターに会いに行く。そして描いたものについてたっぷりおしゃべりをしてから、聴診や視診、触診に移る。

1−9年生は、ポジティヴヘルスのスパイダーネットを用い、自分のこころとからだの状態を自分で感じて、状態をグラフに落とし込み、それをもとに学校医さんとたっぷり対話する。それから、聴診や視診、触診に移る。(スパイダーネットの作成については、昨年度までは3年生以上が実施していましたが、様子を見て、1,2年生も活用できるのではないかということで今年度から1,2年生も実施しています)

私は、内科検診のときには、ドクターと子どもたちがやり取りする場に立ち会わせてもらっている。年少から9年生まで、学年ごとに時間の作り方や具体的な実施内容が異なるけれど、ドクターとともに、子どもたちがそれぞれに自分のことばで自分を語る場のそばにいさせてもらえることは、大きな役得だと思っている。

予想もしない話に展開したり、自分と深く向き合う姿があったり、緊張してまったく言葉が出てこなかったり。たくさん話せたからいい、とか、話せなかったから悪い、ということではなく、どの姿も、子どもたちの新たな一面が見えるようで、そのまままるっとその時間と空気を受け取れることは、毎回印象深いなぁと思っている。(内科検診の詳細は、あらためてほっちのロッヂのみなさんの声とともに、かぜのーと記事にしたいなと思っています)

「こんなにアレンジできるなんて」と実感できたことで、ほかの健康診断を実施する際にも、学校医さん、学校歯科医さんに、「子どもたちの動きがこうなので、こんな形で実施するのは、どうでしょうか?」と相談させていただくこともある。内科検診ほどのアレンジではないけれど、学園内の動きで工夫できることや事前事後の取り組みで工夫できることを考えたり、こんな風に相談したりできるようになったのも、自分の実感が積み重なってきた結果だと思っている。そして、きっとほかの学校では提案されないだろうと思う形でも、学校医さん、学校歯科医さんが、快く相談に乗ってくださることにも、本当に感謝している。

健康診断について、現時点で大事にしたいと思っていることは、子どもたちの日常の延長に健康診断の時間があるように設計すること。

内科検診について振り返ると、1年目、2年目の頃は、いかに内科検診の時間を充実させるか、その時間の中をどう設計するか、を考えることに注力していた。けれど、日々自分たちの時間を自分でつくる経験を積み重ねている子どもたちの姿を見て、内科検診は子どもたちの日常のほんの一部でしかなくて、その時間だけ急に「素敵な時間でしょ?」と差し出すのは、こちら側の都合でしかないなと気づいた。

お客さんとして検診を受けるのではなく、自分事として、自分の日常とつながる仕掛けをつくっていきたいと強く感じている。そしてそれは、内科検診に限らず、どの項目でもできることだとも思っていて、健康診断全体として、いろんな工夫や実践を積み重ねていきたいと思っている。

「現時点で大事にしたい」と書いたのは、実践をさらに積み重ねることで、大事にしたいと思うことが変化していくだろうなと思うから。1年目2年目で大事にしてきたことはもう土台に染み込んでいて、3年目4年目に大事にしたいと考えていたことも土台に染み込んでいっている。その土台の上に、また新しい大事にしたいこと、が出てくるんじゃないかなと思う。

一方で、子どもたちの日常の延長にある健康診断をつくるためには、もっともっと周りを巻き込んでいくことが課題の一つだとも思っている。学年によって、子どもたちやスタッフの関わり、巻き込み具合に濃淡はあるけれど、どんな形、方法で周囲を巻き込んでいくことが子どもたちの日常の延長にある健康診断をつくることにつながるのか、毎回試行錯誤しながら、まだまだ探っている。年に1回しかないし、年に1回しか試せないなかで、まだまだ答えは見えないけれど、毎年迷いながらやっていくんだろうなと思う。

こころとからだに関連する本棚を今年やっとつくってみたので、健康診断の時期にももっと活用したい。

最初は、異質なもののように感じていた健康診断も、内科検診でのアレンジの経験を経て、風越でくらす子どもたちにあわせた形に、いかようにも変えていける、工夫するアイディアを引き出してくれる、そんなチャンスの塊だと、今では思っている。

 

#2023 #ウェルネス

清水 春美

投稿者清水 春美

投稿者清水 春美

子どもたちも大人も、まるっとそのまま、そのままであれるといいなと思っています。

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