2022年3月23日
(書き手・木村 彰宏/24年3月退職)
「あっきー、お母さんにお願いしてグラニュー糖を家から持ってきたよ!使って!」ジャムづくりの為にいちごの下処理をしていると、キッチンにけんけんが駆けこんできた。最後のアウトプットデー直前、3月中旬の朝。
数ヶ月前、「新生保存食チーム」が結成された頃には「俺は甘いものが嫌いなんだよね。ジャムは絶対にやりたくない!」そう言い切っていたはずのけんけん。
彼が嬉しそうな表情で自分のカバンからグラニュー糖を取り出す姿を見ながら、子どもたちの探究の伴走者で在れることの面白さを噛み締め、心の中で小さくガッツポーズをした。
「季節と作物」を大きなテーマに掲げ、それぞれの「やりたい」が生まれるテーマプロジェクトに取り組んできた今年の3・4年生。
「畑で作物を育てたい」という子どもたちの想いから、5月に畑を耕し、作物を育て始めたのだが、「さあ収穫の時期だ!」というタイミングでコロナの警戒レベルが上がってしまい、調理が難しくなった。
「どうする?」「保存食にすればいいんだ!」「そもそも保存食って何だろう?」そんな流れで保存食について学び始めた子どもたち。その後子どもたちの興味関心に合わせて「炭焼き」「鶏飼育」「家・家具づくり」「畑」「保存食づくり」とチームが分かれていくことになる。
「食」についての興味が続いたメンバーで、「新生保存食チーム」が誕生したのが10月頃。昆虫食に興味があったノブ、しんちゃん、セイタ。料理をつくることに興味があったそら。世界の保存食に興味があったタイガ。ジャムが作りたくて仕方がなかったえっちゃん、メイ。最初はそれぞれの興味関心がバラバラで、みんなで集まっても何だかぎこちない様子。(そりゃそうだ)
冒頭で紹介したように、けんけんは「俺は甘いものが嫌いなんだよね。ジャムは絶対にやりたくない!」の一点張り。(けんけんはその後、みっちゃん(大作)やゴリさん(岩瀬)の協力もありドライトマトづくりにのめり込んでいく事になる)
「さて、どうなるか」というスタートだったのだけれど、お互いの活動進捗を報告しあったり、ゲスト講師に保存食や昆虫食について話してもらう時間を一緒に経験したり、みんなで歩いて沢屋さん(軽井沢町内のジャム屋さん)までインタビューに行ったりと、お互いの更新されていく興味関心や問いを共有し合う中で、少しずつ、少しずつ、お互いの「やってみたい」や「問い」が自分ごとになっていった。
そんな中「じゃあさ、順番に、みんなでやらない?まずはドライトマトをみんなで作ってみてさ、その次はジャムをやろうよ」と子どもたちから声があがる。(誰の発言だっけな、忘れた。ごめんなさい。)
「どうやったら、カビが生えずにドライトマトが上手にできるかな」と、一度けんけんとドライトマトを作ってみて失敗したタイガ。「かりんさん(イタリアの地理に詳しいあっきーの友人)も言ってたけど太陽にしっかり当てるといいんじゃない?太陽ってどっちの方角からのぼって、どっちに沈むんだっけ。」としんちゃん。「NHK for Schoolの理科の動画で見たよ!もう一回調べてみよう!」とセイタ。子どもたちの知識や経験が、子ども同士のやりとりの中で繋がっていく。
無事にドライトマトを作りあげ、「ふるまい会」と称してスタッフを招待し、思い思いのドライトマト料理を振舞う事にも。
そんな歩みの様子をまとめて発表した第四タームのアウトプットデイで、自分たちで考えたアウトプットデイの会場に、想像以上のお客さんが入り、沢山のフィードバックをもらえたのが嬉しかったようで、振り返りやここからどう歩んでいくかの話し合いに熱が入る。
「次こそはジャムをやりたい」とえっちゃん、メイ。「ドライトマトにつきあってもらったから、今度はジャムを一緒に作ってもいいよ」とけんけん。「じゃあ今度はジャムについて調べないとね」とノブ。
「さて、ジャムって何だろうね?」と、ジャムについての「やってみたい」や「問い」をみんなで出し合うと、「ああ、これ何だか、あっきーと一緒にやった哲学対話みたいだね」とソラ。
「砂糖ってテンサイって植物から作られるんだって」としんちゃん。「サトウキビもね」とメイ。「え、砂糖作ってみたいなー!」とノブ。じゃあサトウキビを取り寄せて実際に作ってみようか、、とこのタイミングでコロナの警戒レベルが上がり、調理が難しくなる。
一旦調理は諦め、いくつかの保存食を買いに行ったり、サトウキビや様々な種類の砂糖、取り寄せて、みんなで触ったり、嗅いだり、家に持って帰って食べてみたり。
「塩には浸透圧っていう作用があるみたい。なめくじに塩をかけたら縮むみたいな。」とメイ。「僕はこの乾燥えのきには塩の力が使われていると思うんだよね。浸透圧って、習ったもんね。」とけんけん。「ドライトマトの時にも、最初に塩をふったもんね。」としんちゃん。
「砂糖って奈良時代に日本に持ち込まれたらしいよ」とメイ。「17世期には貿易が盛んになって、イギリスで砂糖を使ったホットチョコが流行ったって本に書いてあったよ!」とソラ。「貿易って、俺知ってる。アメリカと日本は車の貿易をしているんだよ」とけんけん。おお、じゃあ、「歴史」と「貿易」についても少し学んでみるか・・・
そんなこんなしているうちに、コロナの警戒レベルが下がり、いよいよいちごジャムとりんごジャムを作れる事に。話し合った結果、今回はグラニュー糖で。メイとしんちゃんが作ってくれたいちごジャムを頬張った瞬間の、えっちゃんの表情、いい顔してたなあ。
ここには書ききれないぐらいの沢山のやり取りをしながら、みんなで歩んできた約半年間。「新生保存食チーム」結成時のぎこちない距離感が、一緒に活動する沢山の経験を通して確かに縮まったのではないかなと感じられた、ジャムづくりの振り返りの時間。
土台の学び(算数)の1年間の振り返りを子どもたちとする中で、タイガがこんなことを言っていた。「今の自分は、応用がまだまだできていない。細くて長い木のイメージなんだよね。すぐ折れてしまう。できているようで、すぐに忘れてしまう感じ。もっと太くして、折れにくくしたい。その上で、木はどんどん伸ばして行って、上の枝葉はもっと茂らせて、算数以外の他の学びにも繋げていきたいんだ。」
タイガが僕に伝えたかったことを正確に受け取れているか、自信はないけれど、タイガが木のメタファーで伝えたかった「長さ」が、単純な知識の量「どれだけ覚えたか」なのだとすれば、子どもたちがテーマプロジェクトを通して歩んできたこの一年は長さではなく、太さであったり、枝葉を茂らせることに繋がる時間だったのではないかなあ。
自分一人で歩むだけではなく(それも良いのだけれど)、他者の「やってみたい」や「問い」にも乗っかってみること、結果誰かの「やってみたい」や「問い」が自分ごとになり、みんなで共に歩む中で得られる経験こそが、「太さ」や「枝葉の量」に繋がっていく一つの道なのではないだろうか。
この一年間のテーマプロジェクトを通した学びが、彼ら彼女らの風越でのここからとどう繋がっていくのか。この一年間の伴走経験を経て僕が子どもたちから受け取った「もっとこう在れたな。もっとこう関われたな。」という気づきや反省点が、僕の風越でのここからとどう繋がっていくのか。
次の一年が、楽しみだ。