風越のいま 2022年1月26日

1人1台端末のその先へ

山﨑 恭平
投稿者 | 山﨑 恭平

2022年1月26日

3年目に向けて子どものデバイスどうする?

以前、かぜのーとで「デバイスの付き合い方 」について書いてから1年以上が経ちました。今年度も子どもたちはChromebookを1人1台手にして、日常的に使っています。新型コロナウイルス対応として、アウトプットディやかざこしミーティングの一部Zoom実施など、子どもたちが企画する場面でも当たり前の選択肢として、オンラインコミュニケーションが入ってくるようになりました。

先日も、学内のポスターに使われているイラストについて「この素材は許可とっているの?出典は書いたほうがいいでしょ」「どこからもってきたんだっけ?」と4年生同士が会話をしていました。昨年度から月に1回実施しているデジタル・シティズンシップのワークショップでの学びが馴染んできています。

デジタル・シティズンシップでのオンラインコミュニケーションのレッスン

3年目となる2022年度の子どもたちのデジタルデバイス(以下、デバイス)の環境について何を大切にしていくのか、デジタル・シティズンシップの学習を検討しているメンバーを中心に、前期・後期スタッフで議論を重ねました。その結果を踏まえて、保護者、スタッフに次のようにアナウンスしました。

開校から2年目、子どもたちの学びの姿を通し、私たちの大切にしたいことを改めてスタッフで検討する機会を持ちました。新3年生の時点でのChromebookの個人所有を見送り、軽井沢風越学園のライブラリーやラボ、森といった環境や地域の人などの学びのリソースをもっと活用し、実物から学ぶ原体験をさらに豊かにすると同時に、適切にデバイスを活用するためのデジタル・シティズンシップを含めた準備を行なっていきます。

また、新3年生も含め全学年に対し、共有機を整え必要に応じたICT利活用の機会を設定するとともに、その利活用場面や環境を丁寧に設計していきます。

新3年生がChromebookを個人所有しないというのは、捉え方によっては大きな方向転換のように受け取られるかもしれません。しかし、実はそうではありません。この背景にはスタッフの「デバイスに振り回されない善き使い手になってほしい」という願いがあります。

開校から2年ほど子どもたちとともに実践してきて得た仮説として、「豊かな原体験が少ないと、活動の中での選択肢が限られるため、結果的にデバイスに依存的になる」ということを考えています。だからこそ、創造的なICT利活用の充実も含めた、原体験の充実という次のステップに進もうとしています。ここでいう原体験とは「その人の成長を支える経験全般」であって、実物以外も含むあらゆる対象からの学びと考えています。

だんだんデジタル市民になる

年に数回計画されている「だんだん風越の日」。12月には、スタッフと保護者で学校や家庭でのデバイスの利活用についておしゃべりする「だんだんデジシティ」の第1回目を行いました。

今年度のデバイス関連の動きを振り返りつつ、来年度の方針について伝えたあと、参加した幼児~中学生までの保護者と話したい話題を出して対話の時間をもちました。「子どもはどんな世界をみているのか」「大人はどう関わったほうがいいのか」「失敗する経験も含め、どう経験を積んでいくか」「大人は良し悪しをどう判断しているのか」といったなかなか答えの出しにくい話題ばかり。予定の時間が過ぎても話が尽きないほど盛り上がりました。

どんな雰囲気になるかと、不安が無かったわけではありません。実際になにか答えが出たというわけではありませんでしたが、会場は思った以上にいい雰囲気でした。大人でもついつい振り回されたり、やらかしてしまったりするデバイスとの付き合い。まずは話題にして、話し合うことで、善き使い手としてのデジタル市民になっていけそうな気がしました。次回はぜひ子どもも交えて。

だんだんデジシティの様子

参加した保護者・スタッフで話されたキーワード

どんな姿を目指したいのか

来年度の方針の検討、だんだんデジシティの実施を終えて、どんな姿を目指していきたいのか、デジタル・シティズンシップのワークショップを一緒につくっているゆっこ(有山)と改めて話してみました。

ー豊かな原体験としての可能性

山崎

来年度の方針に関連して「原体験」というキーワードがあるけど、原体験って何だろう。例えば、ラボにいるとノコギリを使って自分の手で木材を切っている子がたくさんいるんだけど、それが確実に原体験になるかというと、一歩間違えれば全然そうでないこともあると思うんだよね。というのも、「同じものを同じ方法で作りなさい」と言われてその活動をしていたとしたら、それって全然創造的な体験じゃない。一方で創造的な体験であれば、活動の中に新しい着想を生み出しながらすすんでいく。もっといい感じにしたい、問題を解決したいと思って行動できたこと、行動した結果得られたもの、周囲との関わり、そこで感じたことが人の成長を支えていくと思うんだよね。こういうことってデジタルでもアナログでもありえるんじゃないかな。

  
有山

デジタルなことが原体験になる子もいるかもしれない。

 
山崎

そうそう。デジタルな場での人との交流とか、成功体験とか。そういった体験がその子の中で自己有用感や思考力を育んでいくと思うんだよ。

 
 
有山

その子にとって自信がつくような体験になるかどうか、ということだよね。原体験は、けっして自然の中での体験だけを言っているわけでない。

 
山崎

僕らは割とデバイスの発展とともに、大人になってきた世代。無かった時代の方が長かったりもするから、自分の原体験って何だっただろうと振り返ったときに思い出すものが、どうしても実物から学んだ体験が多いのかも。「これがよい原体験だ」と考えた時に、どうしてそう考えるのか、もしかして自分の経験だけで考えていないだろうかということに敏感でいたいな。

  
有山

自分とっての原体験が、今の子どもたちにとっても、あたかもよい体験のための選択肢全てのように思ってしまうと、そうじゃないのかもね。

 
山崎

これからの時代を生きていく子どもたちにとって、どんな体験がその子の成長を支える経験になるのか。時代によって変わらないこともあるけど、個人によってのバリエーションをどれぐらい学校が保障できるのかっていうことは、もしかしたら今後挑戦すべきところなのかな。

  
有山

ほんとそれって大切。いろんな選択肢や体験のバリエーションがたくさん用意されてるということがすごく大事だと思う。原体験を得られる機会がたくさんあって、その中の一つにデバイスを活用した創造的な体験があってもいいと思うんですね。

 

2人対戦のゲームをつくって遊びながら、つくり換える

ー仕組みを知ること

山崎

一方で、デバイスでアクセスしたサイトなどから意図的に情報が飛んできて、振り回されることもある。例えば、おすすめコンテンツやフィッシング広告。これがデバイスをただの道具として捉えるには難しい部分だよね。

  
有山

監視資本主義って、話題になったけど・・・

 
山崎

映画がありましたね。SNSなどは利用時間を延ばす方向に作られていることが反響をよびました。

  
有山

利用データから広告が表示されて、商品のサイトに誘導される。買わせようとするところに絡め取られる。そう思うと、やっぱりどういったものか理解して、よりよく使うようにならないといけないと思う。

  
山崎

そういったSNSの仕組みなどをデジタル・シティズンシップの授業で扱っているけど、それらを分かった上で利用してほしいと僕も思うな。そのうえで、最近ちょっと使いすぎかなということに自分で気づいたり、周りとのやり取りの中で気づけるようになっていくといいよね。日常に還元されることは、風越のコミュニティの中でデジタル・シティズンシップのワークショップをやっている意味に繋がると思う。

  
有山

確かにね。それをちゃんと設計していきたいし、子どもたちとも一緒に考えていきたい。一律に「何年生は何時間しか使えません」だと、そういった能力は育たないので。

  

7,8年生がフィールドワークで撮影した場所を突き止める5,6年生のデジタル・シティズンシップのワークショップ

ー創造的な利活用の経験 

有山

何のために使うかは綺麗に分けられるわけでないけど、情報収集の道具だけになるとつまらないと思う。創造的な表現の手段としても活用してほしい。例えば、プログラムや動画をつくるとか。デザインしてみるのもいいし。

  
山崎

そのためにはどんなきっかけが必要だと思います?

   
有山

情報を検索するための使い方だけがクローズアップされてるので、使い方を間違えると思うんだよね。だから、インターネットに繋がってないと何もできなくなっちゃうんだと思う。なにかを創り出すには、仲間やスタッフからの問いかけが重要。例えば、「なんでつくろうと思ったの?」「なぜその方法で取り組もうと思ったの?」みたいに、子どもが思い込みに気づくような。「こんなことやってみたい」を叶えるツールになる可能性は十分にあると思う。だから、デバイスで動画をだらだらと見てたら時間がもったいないって、思ってほしい。

  
山崎

いろんな機能を持ってるものだからこそ、これを使って何ができるかの選択肢がもっとその子の中にいっぱいあるといいね。そうすると、ただの検索機ではない捉え方になってくる。

   
有山

デバイスを使って動画をつくる子もいればデザインで使う子もいて、いろんなことができるけど、何がやりたいかでデバイスの使い方が違ってくるね。例えば作曲みたいに、今までの方法だとハードルが高くても、デバイスならできちゃう子もいると思う。自分のやりたい形でアウトプットができる。そういう選択肢になったらいいな。

  
山崎

最近、作曲や動画づくりのプロジェクトが増えてきました。(参考:12月の風越ミーティングでは子どもたちがつくった映像が流れた。)「選択肢」ってキーワードかもしれませんね。

 

アウトプットデイで大人気のScratchゲームセンター

小さな試行錯誤を繰り返し、ひたすら作曲に打ち込む

ーアナログとデジタルの往還

有山

情報を検索する際、もちろんパソコンを使っていいと思うの。インターネットじゃなきゃ分からない情報もある。同時に、本の使い方や辞書の引き方、使い方も知っていてほしい。あるいはインターネットにはないような、古い資料へのアクセスの方法も。単なるツールでしかないって思って、デバイスを使いこなせるようになってほしいな。

  
山崎

プロジェクトでのアウトプットも、もっと選択肢があるといいですよね。例えばポスターを作るときに、すぐにWebアプリケーションで作り始めちゃうけど、それも不自由に見える。これじゃないとできないって思い込みもありそう。もっと他の選択肢を持てると活動の幅も広がって、きっとおもしろくなる。

   
有山

アナログのものをデジタルにしたり、デジタルのものをアナログにしたりするのもいいよね。その点で3Dプリンターは面白いと思っていて、デジタル上で描いたモデルが実際触れる形にアウトプットされる。実はこれもアナログとデジタルを行ったり来たりしてるんじゃないかな。デジタルで作ったものがアナログに出てきて、さらにそこに手をくわえることもできる。最終的にはアナログに落とし込むんだけど、また行ったり来たりする。

  
山崎

その行き来によって新しいアイデアが湧いてきて、創造的な利活用に繋がっていきますね。

  

それぞれの特徴を生かした、木工×3Dプリンタのカスタムゴム銃

天体観測の器具を自作。苦労の末、理想的な取付感に

ー善き使い手を目指して 

有山

そういった意味でも、選択できる活動の余地や環境を3年生にも用意することが重要だと思うんですね。今の1人1台端末の先を行くICTの活用をつくってみたい。

  
山崎

その先は僕らもまだ未踏の世界なので、大人でも判断が難しい。何を使うべきかとか、あるいは何を用意すべきかみたいなことも。どんどん時代が進んでいくごとに新しいのも出てくるし、体験してみないとわからないこともある。

  
有山

うんうん。だからこそ、子どもと大人が議論できる範囲なのかなって思う。この間のだんだんデジシティでも、やっぱり子どももあの場にいたらよかったな。依存を心配する保護者も確かにいて。「依存を防ぐために、3年生にはデバイスを渡さないんですか」という質問もあったし。そうではなくて、より善き使い手を育てていきたいんだということを伝えたい。

  
山崎

使うとか使わないとか、この端末がいいとかこの端末は駄目だとか、そういうのは全てその善き使い手になるための手段。そう考えて子どもが創造的な活動の中でデバイスと出会っていく新しい学習環境を整備する必要があるな。

 
 
有山

創造的な活動でのデバイスとの出会いを丁寧につくるためには、1人1台の固定化されたデバイス環境より、どんなデバイスをどのように使うのか子どもが選べる環境の方がいいです。1人1台の同じ端末を広げてっていうよりね。子どもたちみんなが、いろんな形で活動できる環境に整えていかないとね。

  
山崎

創造的な利用のための方法・手段が多様にあるだけでなく、その判断をその人自身ができる。そして、活動の中で周りの人との関わりが大切にされる。そんな善き使い手のコミュニティを実現したいですね。

 

#2021 #カリキュラム #後期

山﨑 恭平

投稿者山﨑 恭平

投稿者山﨑 恭平

旧・亀田出身。大阪、上越を経て、軽井沢へ。手元感ある日々を求めDIYな日々。コーヒー、日本酒を愛しています。広げて、捉え直す日々にしたい。

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