軽井沢風越ラーニングセンター 2023年7月11日

教師自らが探究する”ミニテーマプロジェクト”(堀内 健)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2023年7月11日

(書き手・堀内 健/2024年3月派遣終了)

風越の子どもたちの学びの時間には、主に「土台の学び」と「テーマプロジェクト」と「マイプロジェクト」の時間があります。「土台の学び」は、教科の学習を主とした学びです。「テーマプロジェクト」は、教師(以下スタッフ)が設計したプロジェクト(探究活動)を子どもと一緒に探究していく学びです。「マイプロジェクト(以下”マイプロ”)」とは、子どもの「〜したい!」という想いから始まる子ども中心のプロジェクトです。これらの学びの時間が一週間の中に位置づいています。

https://kazakoshi.ed.jp/campus/curriculum/

特に”マイプロ”は、水曜日の午前(9時から12時)の全てがその時間となるため、子どもたちは自分の「〜したい!」をたっぷり楽しむ事ができます。子どもたちが「〜したい!」を実現するために、スタッフは伴走者として子どもの願いに寄り添ってサポートしています。

このような学びを子どもたちが進めるとき、スタッフはどう伴走したらいいのでしょうか?一人ひとりが違う”マイプロ”をしているとき、どのような声がけをしたり、どのような関わりをしたり、何を準備したりすることで、よりその子どものやりたいプロジェクトを広げたり、深めたりすることができるのでしょうか。今私達(ほりけん&おかつ(竹内))が参加している「学習者中心の学びのための教師教育プログラム」の中の一つに、”ミニテーマプロジェクト”があります。

◯4月24日(月)

23日(日)、みっちゃん(大作)から「明日ですが、8:15にエントランス集合でお願いします。私の車でとある場所に出発します。持ち物、服装です。長袖(風が避けられるもの)、長ズボン(汚れても良いもの)、長靴、帽子、ゴム手袋、水筒、弁当」との連絡が入りました。私達は、どこに行くのか、何をしに行くのかもわからず、月曜日の朝を迎えました。みっちゃんの車に乗せてもらい、小諸市をこえ、東御市へ。そして、舗装もされていない山道を走って着いたところは、ぶどう畑。半日、ぶどう畑でぶどうの苗の定植をするのが、この日のミッションでした。ぶどう畑のオーナー尾崎*1さんに、今の東御市でのワイン用ぶどう作りについて話を聞き、実際に苗を植えることとなりました。

尾崎さんの植え方を見ていると、それほど大変そうには見えませんでした。しかし、実際やってみると、これがきつい。まず、土が固すぎる。本当に固い。それに加えて、石が埋まっている。尾崎さんは、ショベルカーで70㎝ほど掘り返し、全体的に大きな石は取り出したと言っていました。でも、石と土とが一体となって、いくらスコップを入れても入っていきません。最初のうちは、勢いでやっていましたが、2つ終えると手や腰が痛くなり、このままでは体がもたないと思うのと同時に、どれだけやればいいのか?と不安にもなりました。昼食まで、ひたすら穴を掘り、苗を植え続けました。コツを見つけたかと思うと、場所が変わればそのコツが通用しない。石がどこにあるかで、全然スコップの入りが違っていました。だから、その土に合わせて、こちらが掘り方を変えていくしかありませんでした。

昼食時は、尾崎さんの話をたくさん聞きました。聞けば聞くほど、尾崎さんのチャレンジ精神に自分の弱さを感じました。与えられた中で、ほんの少しのチャレンジをしている自分と、何も無いところから、周りからの反発などを受けながらも自分がやりたいと思ったことをやる尾崎さん。古民家を買う時も、神社の御神木を見て、買わなきゃいけないと思って買ってしまう行動力と、それを支える家族。さらに、自分が何かをするために、役所とやり取りをしながら制度をうまく利用したり、同じような志のある人とコミュニティを作って進めたりする姿。また、化学肥料などを使えばもっと早くできるようなことも、「大切な人においしいワインを飲んでもらうために」と無農薬にこだわり、じっくりていねいに時間をかけて育てているところもかっこいいと思いました。今まで、「このワイン、まずいなあ。」なんて言っていた自分は、今後どんなワインを飲んでも、ここに至るまでのワインの歴史を知ると、そんなこと言えないと思ったし、もっとワインについて知りたいと思いました。私が住んでいるところは塩尻市で、塩尻市もワインが有名なところなので、塩尻のワインについても知りたくなりました。

*1 尾崎啓一:2022年軽井沢へ移住。一棟貸しの宿「旅舎 ときの譜」代表、ヴィンヤードときの譜御堂(東御市) 園主、今春より軽井沢町でもワイン用ブドウを栽培。農業者。風越学園卒業生の父。

さて、学園に戻ると、振り返りをし、その時に感じたことや考えたことなど、話し合いました。そして、みっちゃんから私達二人にテーマが出されました。「発酵✖〇〇」。発酵と言われてイメージするのは、納豆のような発酵食品ですが、ワインもその1つだそうです。となると、ぶどう畑で仕事をし、尾崎さんに触れた私は、ワインにめちゃくちゃ興味関心が高まっていました。尾崎さんの話を聞いた後で、いったいワインはどのように作られるのか、ブドウの種類でどのような味の違いが生まれるのか、生産地で味が違うのはブドウの種類なのかそれとも製造過程が違うのか、そして尾崎さんのように自分で開拓していく人もいれば、企業としてやっている人もいる中で、どんな思いで作っているのか、塩尻市はワインを通した町おこしをしていたと思うので、ワインと町づくりのような連携はどうあるのか、などなど。発酵とはずれてしまうかもしれませんが、ワインを1つの材としていろいろ考えられる気がしました。

このようなテーマとの出合いが、テーマプロジェクトを進めていくときのきっかけなのでしょう。実際にその場に行き手足を動かしたり、誰かの話を聞いたり、また実物を見たりすることで、そのものに対して興味関心が高まっていく。私がこれまで実践してきた総合的な学習の時間は、どちらかというと”子どもの興味関心”が高そうなものを見つけて、そこから学びを作っていくものでした。しかし、今回みっちゃんの用意してくれた”発酵✕〇〇”のようなテーマプロジェクトは、もともと子どもの中にそれ自体の興味関心がなくとも、本物と出会うことで何かしらの興味関心がもて、さらに共通のテーマの中に独自の探究が生まれてくるというもののような気がしました。実際、私は”発酵✕ワイン”ですが、おかつは”発酵✕ぬかどこ・ピクルス(現在思案中)”でプロジェクトを進めています。どちらも共通テーマは「発酵」です。ですので「発酵」を土台に共通の話もできますし、お互いに知らないことを知ることができる学びがそこには存在しています。

現在、私もおかつもそれぞれのテーマでプロジェクトを進めています。テーマプロジェクトではありますが、マイプロの状態です。そのようなマイプロを進めていく際に、スタッフはどのように伴走するのがいいのかという研修もしています。お互いに進めているプロジェクトについて、進捗状況を報告し、その際に感じている問題点や困り感を出し合います。それに対して、聞き手はオープン-クエスチョンで話し手の考えを引き出したり、聞き手の気づきを伝えたりします。また、話し手のニーズが何かを感じたり確認したりしながら、きっかけとなるような言葉を選んで伝えます。話し手・聞き手として自分が意識したことや話し手・聞き手に対して感じたことなども振り返りをしながら、言語化していきます。そうすることで、実践者と学習者の両方の立場から、伴走者としてどうあるのがいいか考えることができました。また、6月12日(月)には、資料を探しに来た子どもに対して、どのような関わりをしたらいいのかということも、図書館レファレンスの技術を参考に考えました。ここでは、単に子どもの問いに答える資料提示だけではなく、子どもの中にある問いから焦点化された資料や学びの広がりが予想される資料をどのように手渡していくか考えました。私の過去の経験では、子どもが「〇〇について調べたい」と言ってくれば、「図書館に行っておいで」と正直丸投げのところがありましたが、今回の研修で、子どもの中にある言語化されていない問いや関心を引き出すことで、子どもが図書館に行ったときにも本が見つけやすくなるのかなと思いました。

私自身は、現在”発酵✕ワイン”で、ワインについて探究を進めています。ワインと言っても奥が深く、尾崎さんの畑から帰ってきて感じたやってみたいことを全部やるのは正直難しいなと感じています。そのような状況ですが、5月17日(水)には尾崎さんのぶどう畑に再び行き、尾崎さんのぶどう作りのきっかけなどのお話を聞いたり、5月21日(日)には塩尻ワイナリフェスタに参加して、出店していたワイナリーの方々や観光課の方とおしゃべりしたり、実際にワインを試飲してそのワインの特徴を教えてもらったりしました。人と繋がったことで、後日その人のもとを訪れじっくりお話を聞くことも可能となりました。また、最近では、雑誌や新聞、インターネットなどでワインを中心とした街づくりの記事や、長野県のワインバレー構想の記事を読むと、ワクワクしている自分がいます。



このように”ミニテーマプロジェクト”を通して、実践者と学習者の両方の立場から、伴走者としての教師のあり方を学んでいます。最近では、教師自身も子どもの中に入り込んで一緒に面白がって、周囲も巻き込んで刺激・誘発しながらみんなで成し遂げてしまう存在としてジェネレーターと言われるかかわり方があります。教える先生や、励ますコーチであったり、人と人をつなげるファシリテーターであったり、今はいろいろな教師のあり方が求められていますが、子どもたちと一緒にその物事を「面白がる」ためには、まずは教師自身が探究の面白さを感じられる身体であることが大切なのでしょう。”探究”することの面白さを肌感覚で体験した教師なら、きっと子どもたちと創っていく探究活動も面白くなるはずです。まだまだ私も始めて2ヶ月ですが、もっともっとどっぷり「発酵✕ワイン」の探究活動を楽しみたいと思います。そして、子どもたちのマイプロやテーマプロも、一緒に楽しみたいと思います。

#2023 #軽井沢風越ラーニングセンター

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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