だんだん風越 2020年8月17日

壁を超える(表現プロジェクト 7年生体育)(石山 れいか)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2020年8月17日

(書き手:石山 れいか/軽井沢西部小学校から派遣・20年度派遣終了)

7月の1ヶ月、後期(3〜7年生)は表現プロジェクト(図工・美術、音楽、体育)を重点的に取り組みました。3・4年生、5・6年生、7年生で分かれたラーニンググループで、図工・美術は「造形遊び」、音楽は「器楽」、体育は「冒険」をテーマに活動しました。

完全登校になって一ヶ月、初めての体育。体育で大切にしたいことは、人を尊重できること、試行錯誤すること、様々なスポーツに触れること、健康な体を自分自身でつくっていくこと、そして何よりも運動を楽しいと思えること。それらを基盤とし、まずは仲間との信頼関係をつくってほしいと願って、第1回表現プロジェクト・体育のテーマは「冒険」としました。

「冒険」とは未知の世界に挑戦すること。人を信頼する心 は、そういう環境の中で作り出すことができます。そして、葛藤が生まれたり、自分と向き合ったり、自分自身に挑戦したりします。そんな中で仲間と協力したり、自分の役割を果たしたりして、達成感を味わってほしいと思いました。

7年生はテーマプロジェクトをホームごとに行い、ホーム内での関係はできてきたようでしたが、男女や他ホームが混じり合うことが少ない様子。子どもたちの振り返りからもその関係構築の願いを感じていたので、うまっちと相談して今回の7年生体育のテーマを、「ホームの壁を超える」「自分の壁を超える」としました。楽しい中に思考と協力が生まれ、自分の役割を思わず見つめるような場にしたい。7年生とどんな体育の時間をつくろうかワクワクしながら考えました。

【 1日目(7月6日)「冒険の書」】

8つのチャレンジを「冒険の書」にして手渡しました。約束は一つだけ「自分も人も大切にすること」。

6つのグループに分かれて、早速活動を開始します。 

カイト・フウダイ・ソウ・ユマ・ホノカのチームの「ジャスト120」(体育館ギャラリーをチーム全員が1周ずつ走り、合計タイムがちょうど120秒(±5秒)でゴールする。ストップウォッチはグールするまで見てはいけない)では、「120÷5だから一人24秒。まずはみんなで走ってみよう。」と、全員でギャラリーを一周したところ、1回目は5人で110秒。ゆっくり走っているように見えて意外に速かった様子。

2度目のチャレンジでは、一人ずつ走る作戦に変更し、ホノカが走りはじめると「もう少しゆっくりー」と声がかかりました。ホノカがスピードをゆるめ、次のユマ・カイト・ソウ・フウダイもゆっくり目に走り、結果は138秒。

3回目にはソウがペースアップしてスタートしましたが、「速すぎる!」と声がかかると大胆なペースダウン。笑いが起きる中でもみんな一生懸命走りましたが結果は128秒で惜しい結果に。

4回目は127秒であと2秒まで迫りました。運動不足がたたってる子どもたちがこんなに思いっきり運動したのはいつぶりでしょう。「もう、走れない!」と言っていた子どもたちですが、最後の力を振り絞って5度目のチャレンジ、122秒!やっと5回目のチャレンジで成功したときには拍手が起こり、ハイタッチも生まれていました。

あちこちでこのような成功したときの歓声が聞かれ、小さな達成感が体育館の中を満たしていたように思います。一つも課題をクリアできなかったチームもありましたが、チームで協力できたことは何よりも楽しかったようでした。3月からの休校で4ヶ月ぶりの体育でしたが、投げて、走って、飛んで…と、思い切り体を動かしました。

「アマゾン川を渡る」

子どもたちの振り返りの中には、『一つのチームが協力すると最強なんだなって思った。友達が失敗してしまったとき、「おしい!」とか色々声をかけた。自分が失敗すると申し訳ないって思って2度目がこわかった。はじめは緊張しまくっていたけど、終わるときにはまだやりたいっていう気持ちがあった。』という言葉も。失敗した後の葛藤を経験するからこそ、仲間の失敗したときの気持ちにも寄り添えるのですね。

「キャッチング ザ スティック」

【2日目 7月7日 「三国大戦」】

2日目は赤・青・緑の3チームに分かれて、「三国大戦」。

ルール:
・腰に「勇気」を象徴する赤いフラッグと「武器」を意味する青いフラッグを下げる。
・敵に勇気と武器をとられてしまったら戦いに参加できない。
・城は風越の敷地内のどこに構えてもよいが、自陣の旗を地上1メートル以上のところに掲げる。
・その旗に敵に水風船をあてられ濡らされたら負け。

10分後に戦いが開始です。急いで城を決め、陣営を組み、水爆弾をつくらなければいけないので、それぞれのチームが慌ただしく動きはじめました。

いざ、出陣!青チームは校庭の一番東側の木に、緑チームは校庭の北側の草むらの中の木に、赤チームは校舎の西側の木に旗を掲げました。風越の敷地は広く、お互いにどこに旗が掲げてあるのかもわからないため、まずは偵察帯が動きます。

一番遠くに旗をかかげた赤チームのカイノスケが果敢に校庭まで偵察に来て青と緑に囲まれましたが、逃げ切り戻っていきます。緑のソウタは崖の下から赤チームの様子を伺っていました。緑のコウキは勇敢に一人で青チームに突っ込んでいき戦います。緑のショウタロウは他のメンバーが水爆弾をつくることが苦手なことに気づき、自分の役割としてひたすらつくっていました。赤は女子が城を守り男子が攻めに行きましたが、男子の中からも一人ソウが残って城を守っていました。

3チームとも敵の動きを伺い、静かな状態が続きました。そしてついに戦いが動きます。緑チームから「青チーム、今なら守りが二人だけだよ!攻めよう‼」と声が上がりました。緑チームの中からは「え?裏切るの?」という声も聞こえます。どうやら青と緑は同盟を組んでいたようです。

同盟を守るのか勝つためにチームとして団結するのか、一瞬だけど深い葛藤の中、緑チームはチームとして戦う道を選びました。そして、青を攻めこみます。青の守りも必死で応戦。投げられる水爆弾を必死に防ぎました。そして、緑チームが何度目かに投げた水爆弾が青チームの旗の隅っこを濡らしました。青チームは負けました。喜ぶ緑チームの中で、爆弾を当ててしまった子は裏切ってしまったことへの罪悪感と戦っていました。

残った赤と緑の決戦です。勢いづいた緑チームが赤チームに攻め込みますが、もう一歩というところで時間がきてしまい決着はつきませんでした。ドキドキワクワクしながら真剣に戦う中で、作戦を決めたり自分の役割を果たし、楽しい中にもさまざまな葛藤が生まれたりしました。


【3日目 7月17日「ライジング・フィールドでのチャレンジ」】

最終日の3日目には、本物の冒険を味わってもらいたいと思い、ライジング・フィールドで授業をさせていただきました。贅沢なことに風越にはプロジェクト・アドベンチャーのファシリテーターのKAIさんアンディがいます。当日は2つのグループに分かれて活動しました。

アンディのグループは「アイランド」と「ニトロ・クロッシング」と「知恵の輪」 に挑戦。

「アイランド」ルール:
・3つの島があり、メンバーははじめに端と端の島に別れて乗るが、真ん中の島を利用しながら全員反対の島に移動しなければいけない。
・使えるのは2枚の板のみで、板が地面についてしまったらはじめからやり直し。
・制限時間は30分。

2枚の板の端を少しだけ重ねて一人、二人と渡っていきます。板を回収するのが難しく、何度も板を落としてしまい、その度に「あ〜!」という声が響きました。徐々にコツもつかみスムーズに移動できるようになっていきましたが、ちょっとした連携ミスで板が落ちてしまいます。

制限時間の30分に近づくにつれて、それぞれの発言が増えていきます。

ショウタロウ「それ大股で移動するのむずかしいよ」
カイノスケ「え、大丈夫でしょ。いやちょっとまってまって」
シュウゴ「板動かすのゆっくりね、ゆっくりね」
ナナミ「もうちょっと、そっちも伸ばしてー」
サナ「そこ、やめとき!」
ミサト「それ以上のばしたら、こうちゃん落ちるよ」
シオン「まって、そっちに渡ったら心配ないからさー」
ショウタロウ「これ、どこに乗ってもらう?」
コウキ「これ、きっつー」
ショウタロウ「もっと伸ばしてよ」
アイリ「むりむり!」

3つの島にいるメンバーそれぞれが、一つの板をどうコウキが渡るかということをアイデアを出し合っていました。今までは、なかなか遠慮して意見を言えなかったメンバーも意見をいったり、拍手で仲間の挑戦を応援したりという姿をみることができました。

制限時間の30分がきてしまいましたが、「もう少しチャレンジさせてほしい」とアンディに頼みます。延長した時間内でも残念ながら課題を達成することはできませんでした。


KAIさんのチームは「TPシャッフル」「オール・ア・ボード」「ニトロ・クロッシング」「モホーク・ウォーク」「手つなぎトラバース」に挑戦。

一番印象に残ったのが、「オール・ア・ボード」。一辺が50センチくらいの板の上に13人が乗る方法を考えます。

まずは真ん中に軸になる人が立って周りにみんながしがみつくという方法を考えつきました。でも、全員が安定するのは難しく、どこかが崩れてしまいます。そのうち、板の上に寝そべってみたり、おんぶしてみたり…いろいろなアイディアを試しますがなかなかうまくいきません。何度チャレンジしても崩れてしまいます。安定したと思ったら、一人だけ板に乗れていなくて、隙間を探すけれど足を入れられる隙間がどこにもない!

「俺の足踏んでいいからー!」と声があがって無理やり足を押し込んでみてもバランスが崩れて倒れてしまう。「だいたい、こんな狭い板に、全員の足がのっかるなんて不可能なんだよ!」と、あきらめムード。でも、KAIさんはもっと小さい板にでも乗れると励まします。

すると、みんなが肩を組み始めます。

「せーので乗るよー」
「せーの‼」
「1・2…」
「お〜いいじゃん。」

なんだか成功の兆しが見えてきました。

「もう一度!」
「せーの!」
「1・2・3・4・5‼」
「やったー‼」

森中に響く、この日一番の声。私もたまちゃんも緊張と感動で成功の瞬間の写真を撮り忘れました。

最後は7年生全員でのアクティビティー「ウォール」。3mほどの高さの壁を全員が超えるという課題。使っていいのは知恵と根性だけ。

課題を聞いたときは「無理ー。そんなの今までにできた人いるの?」とはじめから諦めムードの人も。洋服を引っ張らなくてよいように、はじめにハーネスをつけ、スタート。

まず作戦会議をし、色々考えた末、背が高くて丈夫そうな人が、背が高くて軽そうな人を肩車して押しあげるという方法が一番よさそうだということになり、その方法で何度もチャレンジをしました。肩車をしない人は周りで落ちてこないようにサポートしたり、上がるときに足をかける場所をつくったりしていました。背が高いカイトやソウがチャレンジしましたがもう一歩。ミサトやサクラコやサナも勇敢に挑戦。みんな本当にナイスチャレンジでしたが、惜しくも上に上がることはできませんでした。ずっと土台で肩車をしてくれたコウキに拍手が送られました。

達成できなかったのはとても悔しかった様子でしたが、終わった後、「秋くらいにもう一度チャレンジしたい!」「来年は絶対に達成する!」と意気込んでいました。

最後に、こんな振り返りの言葉がありました。

『7年生全体としてみんなで意見を出して改善できたし、何事も一生懸命みんなで考えられた。ホーム関係なく男女関係なくできて新しい発見だった。今日は一生懸命な自分、恐れるけど挑戦する自分、みんなのことを考えようとする自分、頑張ろうと必死になる自分、いつもの自分じゃないことをする自分に出会えた。』

『今まではただみんなでやったら協力したっていうことになるみたいな感じだったけど、今回の体育では本当の協力ができたと思う。みんなで意見を出し合って、意見を聞きあって、そこから作戦を立てて実践して、できなくても励ましつつ前向きに進めた。特に壁を超えるのはそれぞれの個性を活かしてできたと思う。私は今まで、こういうのにあまり参加できなくて、人の意見だけ聞いて「え?どうやるの?」みたいな感じだったけど、自分から意見を出したり実践したりできた。これからもできていなかったことにチャレンジしたいと思った。』

今回のチャレンジを通して、ホームの壁を超え、新しい自分に出会えた人もいたようです。7年生が風越にいられるのはあと2年と8ヶ月。どんな壁を超えて、どんな自分に出会っていくのか楽しみです。

文:石山 れいか

#2020 #カリキュラム

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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