スタッフインタビュー 2022年3月21日

その子の世界を損なわない社会に。(遠藤綾)

遠藤 綾
投稿者 | 遠藤 綾

2022年3月21日

風越学園が開校して2年目にあたる2021年度に風越へやってきた、あやさん(遠藤)。
スタッフプロフィールページの「自分のことを一言で表現すると?」という問いに『探検家』と答えていた彼女は、どんな探検を経て、いま風越学園にいるのだろう。そして、これからどんな探検をしていくのだろう。じっくり話を聞いてみました。(編集部・三輪)

ここから10年、自分なりにできることってなんだろう

ー 風越学園のスタッフになった経緯を教えてください。

大きな理由は2つあって、ひとつはコロナをきっかけに気候危機のことを改めて考えたこと。それまでも関心はあったんだけど、もう時間がないと思えてきて、「ここから10年、自分なりにできることってなんだろう」ということを考えたんです。当時、山形にある保育園で園長を勤めていたんだけど、「ここから10年」という長さで気候危機や自分自身の生き方を考えなおしたときに、子どもと関わる仕事をしたいという気持ちは変わらなかったけど、もう少し年齢層を幅広く、小・中学生、高校生や、それこそみらいツクールに参加しているような若い世代の人と関わったり、サポートをしていくような仕事がより必要そうだ、と思って。

あともうひとつは、家族のこと。当時住んでいた地域には、公立の小学校しかなかったんだけど、その学校が息子にとって安心して行きたいなと思える場にはならなくて、学校に行けない日が多くなっていたんです。そんなことも重なって、「どんなふうにしたら家族全員が充実できるか」みたいなことも考えるタイミングだった。

ー それで風越学園に。

これからどうしようかと考えていたときに、家族で一度風越に遊びにこさせてもらったら、息子が「こんなところにいつもいたい」って呟いたんです。

開校1年目でまだまだこれからいろんな大変さがあるのも想像できたけど、大きな可能性を感じていたし、自分自身のこれからの10年をつくっていく場所としても面白そうだな、自分も成長できそうだなと思えて。しんさん(本城)をはじめ、信頼できる人たちがいるということや、息子の一言にも背中を押されました。

その人自身が本来持っている力を損なわないような世界にしたい

ー 風越学園の前は、山形にある保育園で園長を勤められていたということですが、そもそもなぜ子どもと関わる仕事を?

そもそものところで言うと、大学は法学部なんです。だから全然教育とかじゃなくて(笑)。法律家になりたいと思ったきっかけは、高校生の時に人権派の弁護士さんに出会ったことで、その人たちの仕事が世界をよりよくしているように見えたことでした。社会的に弱い立場に置かれた人の側に立っているように見えたんです。結局、法律家になる夢は諦めたんですけど。

それでもう一度何をして生きていこうかと考えていた時に、お隣に住んでいた看護師さんに「児童養護施設のボランティアに行くんだけど、一緒にどう?」と誘ってもらって、しばらくそこでボランティアをすることになったんです。子どもたちの生活の場に入って、掃除をしたりするところから始める感じで。

ー 法律家をめざした後の当時のあやさんには、児童養護施設の子どもたちと過ごす日々はどう響いたんでしょう。

そこに通って子どもたちと関わっていく時間の中で、子どもたちが経験してきたこと、経験していることは本当に不条理なことがたくさんある。だけどその一方で、過去を乗り越えていく力強さも感じました。子どもたちから感じられるたくましさみたいなものに接して、これは人間が根源的に持っている力なんじゃないかと思いました。

法律家になりたいと思ったときの「世界を少しでもよくしていくことに関わっていきたい」という思いとそこで出会った子どもたちの姿が結びついて、子どもに関わることを自分の一生の仕事にしたいと思うようになりました。一人ひとりの子どもが本来持っている力を損なわない世界に少しでも近づけたら、という想いがあります。

ー 子どもが本来持っている力を損なわない世界。

そう。でも自分に何ができるかも分からないから、とにかくいろんな人に会いに行きました。本を読んで会ってみたいと思った人に手紙を出したり。そうしたら、お返事を下さった方がいて、結果その方の元で働くことになりました。

そこは、大学内研究機関で、その中でも私が所属していたのは子どもを対象にした分野横断型のプロジェクトを担当している部署でした。私はいろんな地域でその地域の人たちと一緒に子どもの居場所づくりを行うプロジェクトを中心に担当していました。その後、東京で絵本の出版に携わる仕事をしたり、現代アートの企画制作等をしている会社に勤めたりしました。

ー えー、また全然ちがうほうに!

その当時は、何をするかよりも誰と働くかのほうが大事な気がして。尊敬できる人と一緒にいられることや、おもしろそうと感じる方へ吸い寄せられていった感じです。そこでやりとりされていた会話や考え方にすごく影響を受けたと思います。その後、東日本大震災を経て、子育ては福岡でしたいという気持ちがあって、福岡に戻りました。福岡では、自分の原点に戻るように、SOS子ども村JAPANという家族と暮らせない子どもたちのために活動するNPO法人で広報まわりの仕事を中心にすることに。

ー 大学のスタッフ、出版・編集者、アート企画に、NPO法人の広報。保育者にはめずらしい経歴だなと思うのですが、今までのお仕事は、子ども自身に関わるのではなく、環境を整えたり、場をつくったり、子どもに関わる人に関わったりと、子どもの外側にアプローチをするようなもので、そこからどうして今のような子どもと共に過ごす人、暮らす人になっていったのか気になりました。

SOS子どもの村では、直接子どもたちに接する仕事ではなかったけど、困難を抱えている子どもたちやその家族にとって、毎日行く場所である学校や保育園、幼稚園というところが果たしている役割はとても大きいことに気づいたんです。毎日通う場所だからこそ、子どもを、またその家族を支えられる、可能性を感じて。丁度そんなことを考えていた時に保育園の立ち上げをするチャンスに恵まれて、挑戦することにしました。

今までいろんなところで間接的に子どもと関わっていく中で、「うーん、これじゃないな」みたいな感覚が少しずつ積み重なっていった感じはあったんです。それが、実際に保育園で働くようになって、間接的に子どもに関わるよりも、直接その子自身やその家族に関わっていくほうが一見遠回りなように見えるけど、「子どもの世界を損なわない社会」を近づくためには近道なんじゃないかと思うようになっていきました。

でも山形の保育園では子どもたちと過ごせるのは週に何回かで、ほとんどがマネジメント業務だったから、言ってみたら今が初めてなの。やっと、子どもと暮らす人になれた。

頭も身体も柔らかい状態で子どもの隣りに。

ー 実際、毎日子どもたちと過ごしてみてどうですか。

一言でいうと、こんなにも深くて創造的な仕事はそんなにないんじゃないかなと思うくらいおもしろさを感じています。言葉にならないものや言葉になる前の感覚みたいなものが、1日の中でたくさん交差していて、子どもの世界は本当に豊かだなぁと感じます。

ー そんな子どもたちと過ごす上であやさんが大事にしていることがあればお聞きしたいです。

今もチャレンジの真っ最中な感じですけど、やっぱり一番の願いは「その子の世界を損なわない」こと。その子がどういう世界を見ているのか、それをなるべく一緒にみたい、という気持ちは持っているかな。

ー 世界っていいことだけではないじゃないですか。発見したり、面白いと躍動していることももちろんそうだけど、葛藤したり、悲しいと思っている気持ちも含めて、その子の世界だと思うんです。そう考えたときに、たとえば「幸せにしたい」が大人側の願いになってしまうと、ポジティブな感情や場面だけを増やしたり、伸ばしたほうがいいのかなと思ってしまいそうだけど、「その子の世界を損なわない」ことが願いになると、こっち側が与えるんじゃなくて、その子の中にあるものを大事にしたいに変わって、子どもやその世界の捉え方が変わってきそうだなと思いました。あやさんが、子どもの隣りでこういうふうにいる、という具体的な在り方みたいなものもあったりするんでしょうか。

自分の身体の感覚ってすごく大事だなと思っていて。子どもと接する時に、隣りにいられる感覚でいられているかどうか。頭も身体も柔らかい状態といえばいいのかな。

自分が柔らかい状態でいると、子どもたちとのやりとりも変わっていくから、そんな状態を意識しながら、子どもの世界にお邪魔させてもらう、みたいな感じを大切にしたいと思っています。まだまだうまくいかないことも多いけど(笑)。

森とはなにか?

ー 風越学園にきた経緯のなかで、「ここから10年のことを考えたときに、子どもと関わることは変わらないけど、もう少し年齢層広く関わることが必要そうだと思った」と話をしてくださいましたが、これからあやさん自身が風越の中でこういうふうに過ごしたいという思いがあれば、聞かせてほしいです。

そうですね、まだあんまり考えきれてはいないけど、来年も子どもたちと暮らしをじっくりつくっていくことをやりたいなとは思っています。そのうえで、自分の気付いたところに自然体で手を伸ばすということをやめない。その2つくらいかなぁ。まだあんまり欲張らずに(笑)。

あ、でもこれは大事だなと思えてきているものがあって。それは「森」なんですけど。

ー 森、ですか。

この場がこの場である理由。風越が風越たる理由ってなんだろうって、ここにきてからずっと考えていたんだけど、その私なりの解が「森」なんです。

風越の「大切にしたいこと」の中に今は森というキーワードって入ってないんだけど、元々森だった場所をひらいてつくられているということは、私たちのユニークさを考えた時に外せないものなんじゃないかなって思うんです。実際、子どもたちが暮らす環境としても、森はとてもおおきな役割を果たしている。言ってみれば、森は風越の母体のようなものなんじゃないかと。だから、森というこの場が持っている力、場所性みたいなものを大切にしたい。

今年度(2021年度)も前期の子どもたちは「暮らし」を大切にしてきたけど、ここで働く私たちがもっと森を身近に感じたり、森に対してアンテナが高い状態でいられると、さらに深い活動が生まれるだろうなと思っています。

もう少し言うと、「森」という存在が発しているメッセージにこれからの未来や教育を考えていく上でのヒントがあるような気がしているんです。来年度、もっと「森」を感じられるような取り組みに挑戦してみたいし、個人的にも「森ってなんだろう?」という問いを追いかけてみたいと思っています。

 

インタビュー実施日:2022年01月26日

#2021 #スタッフ #前期 #森

遠藤 綾

投稿者遠藤 綾

投稿者遠藤 綾

これまで主に子ども領域でつくる仕事や書く仕事に携わってきました。子どもが育つ現場をつくる仕事に携わるのは今年で5年目です。10年先の風景を想像しながら、たのしく冒険したいと思います。

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