風越のいま 2022年2月22日

共につくる(酒井 朝羽)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2022年2月22日

(書き手・酒井 朝羽/2023年3月 退職)

「ここにいる誰も欠けずにみんなでつくりあげた舞台、最高だった!このプロジェクトはわたしにとって一生忘れないと思う!」

昨年9月〜12月に7・8年生と共につくり続けてきたプロジェクトである「えんげき〜宮沢賢治の世界〜」。子どもたちとのふりかえりのときに語っていたわたしの言葉である。

このプロジェクトでは、子どもたちがいきいきと表現する姿、そして「最後まで舞台をつくりきるぞ!」という気持ちから、脚本を自分たちの力でつくりきる姿がとても印象的だった。

そんな子どもたちのいきいきした姿が見られたのは、わたしと共にプロジェクトをつくり続けてくれた仲間、りんちゃん(甲斐)ぽん(根岸)の存在がとても大きい。ここで、プロジェクトを「共につくる」過程をじっくりとふりかえってみたいと思う。

昨年の夏休み、休み明けから始まる3ターム目のテーマプロジェクトをどうしようか悩んでいた。7・8年生のスタッフではずっと話し合っていて、このタームは「本気出す!」「やりきった!」という経験をしてほしい、そのために「演劇」がいいじゃないかというアイディアは出ていた。

演劇は一つの舞台をつくるために協働することを学べるし、「演じる」ことで表現の面白さに触れることができるしいいじゃん!と思っていたけど、大事なのは子どもたちがなにを演劇で伝えたいかということ。何を題材に演劇をつくってみると面白いかを悩んでいた。

そこでライブラリーの演劇関連の本を数冊手に取り読んでみることに。わたしは悩むと、ライブラリーをふらふら歩いて関連しそうな本をよく見つけにいく。こうやってライブラリーがプロジェクト設計の大事な助けになっていることが嬉しいなといつも思っている。

その中で出会ったのが、『中学生ドラマ5 宮沢賢治の世界』という本である。そこには宮沢賢治が書いた「銀河鉄道の夜」や「セロ弾きのゴーシュ」などの作品を元につくった脚本がいくつか載っていた。これを読んで思い出したことが、今まで私が見てきた演劇の舞台には、「宮沢賢治」の作品が題材となっていることが非常に多いこと。高校時代、演劇部だったわたしは、他校の演劇部が「銀河鉄道の夜」を題材につくった舞台を見たことがある。「正直、いみがわかんないな・・・。」と思ったことを鮮明に覚えている。でも「宮沢賢治」が表現されることに意味があるし、「宮沢賢治」の面白さが絶対にあるはず!「宮沢賢治はなぜこんなにも多くの人々に愛され、表現され続けるのか?」「宮沢賢治にはどんな魅力があるのか?」そんな問いが自分の中で自然と湧き上がってきた。そうした問いを元に、「宮沢賢治」を題材に演劇をつくってみようと思った。

ここで大事なのが、一緒にプロジェクトをつくっていたりんちゃんの存在。りんちゃんは国語教師として長い経験があり、絶対にわたしより「宮沢賢治」について詳しいし、資料もたくさん持っていそうだなと思って相談してみることにした。

「りんちゃん、わたしいいこと思いついちゃったんですよ。『宮沢賢治』を題材に演劇をつくるのはどうですか?子どもたちが『宮沢賢治』の面白さを学べるんじゃないかと思って!」「いいね!子どもたちには一度は宮沢賢治に触れてほしいし、題材にしたいもののひとつなの!」と目を輝かせながら話してくれた。

そしてさっそくたくさんの資料を家から持ってきてくれたり、約100冊の本たちを風越のライブラリーや軽井沢町の図書館から集めてきてくれたりした。しかも宮沢賢治学会の元会長の望月先生とも知り合いというので、子どもたちが実際に宮沢賢治について取材できる時間も設けることができた。

当日、望月先生はクイズを出しながら楽しく進めてくれた。「宮沢賢治は中学をお情けで卒業させてもらった。○か×か?」という望月先生からのクイズに、ほとんどの子たちが×を手であらわしながら「そんなわけないよね〜」と回答。が、正解はなんと○!今ではかの有名な賢治、当時は問題児で、学校の窓ガラスを割ったエピソードを教えてくれた。このエピソードはぜひ脚本づくりに活かしたいと、子どもたちのつくった脚本『永久の未完成』にはそんな昔話を宮沢賢治自身が語るシーンが取り入れられた。

プロジェクトを進める中で、「この舞台を通して何を伝えたいの?」と問いかけたことがある。返ってきたのが「宮沢賢治の人物像や人生を知ってもらいたい」ということだった。子どもたちは宮沢賢治の人物像をより深く理解できたからこそ、出てくる想いだなあと感じていた。

自分の面白いと思ったことに対して、専門的な目からどうしたらいいかを考え、サポートしてくれたりんちゃん。ともにプロジェクトの仲間の存在はとても大きい。

またもう一人、ぽんもともにプロジェクトをつくる仲間として、とても助けられた。ぽんは子どもたち一人ひとりの様子をよく見ていて、常に子どもの気持ちに寄り添ってくれていた。またプロジェクトの記録として残しているドキュメンテーションをつくってくれたり、子どもたちのふりかえりをどう残すか考えてくれたり、わたしが抜け落ちやすい場所を丁寧に拾って支えてくれていたなと思う。

ぽん発案!スライドでプロジェクトの様子をまとめていくドキュメンテーション

ドキュメンテーションは子どもや保護者に共有して、プロジェクトの様子を伝えたりふりかえったりするよい資料となった。学びの見える化をし、子どもと丁寧に寄り添ってくれていたのがぽんだった。

そして、プロジェクトを「共につくる」存在として忘れてはいけないのが子どもたち。

今回は「演劇をつくること」を通して、「共につくる」面白さや難しさを子どもたちに学んでほしいと思い設計していた。演劇を仲間と共につくってみてどうだったのか、『銀河鉄道の夜』でジョバンニを熱演していたコウタ、照明として裏方で大活躍していたソウタ、脚本チームとして中心メンバーとして演劇づくりをしていたサクラコ・カイノスケの4人にインタビューをしてみた。

酒井

「共につくる」ことを大切にしてきたのだけど、やってみてどうだった?

  

コウタ:
演劇は何人かいないとつくれないと思うんだよ。僕だけじゃたぶんあんなのできないから、「共につくる」っていうのは、やっぱり大事というか。なんていうか難しい・・・。僕にとっては最高の、いい舞台ができたなと思います。

ソウタ:
ぼくは照明だったから、仲間とつくるっていうのは、ノイとやって。なんか2人でやってもいいなあと思った。
一人でやるよりも、心強いっていうか、プレッシャーが少ない。ミスしたらさ、1人よりプレッシャーが2人のほうが軽いじゃん。そこが精神的にメリットかなあって。
「共につくる」って、一人ひとりがお互いに寄っかかっていける感じ。お互いがそのプレッシャーはぼくだけじゃないっていう安心感。そういうことなんじゃないかな。一人ではできなくても、二人ならできるって思う。

サクラコ:
劇をやるってなったときに、脚本とか一つ一つのチームで動いているんだけど、全体になった時のバラつきがすごくて。なかなかまとめるのが大変だった。
でもその中で、チームでやるときは一人で頑張るのはつくるってことじゃないんだなあと思った。マイプロとかでだったら全然一人で頑張れるっていうのがいいんだろうけど。チームで何かをやるとかだったら、誰か一人が頑張ってつらい思いするっていうよりかは、ちゃんとみんなで分担して、ちゃんとみんながやったり、みんなでやるのがいいんじゃないかな。

カイノスケ:
大人数でものをつくるって難しいことなんだなってことを改めて感じたかな。なんかやっぱり一緒につくる、協働って言っても、その規模によると思っていて。脚本の5人の中ではちゃんと協働できたと思う。だけど全体としてみると、それはどうなのってところはあるんじゃないかなあと思っている。少人数での協働が集まったものが大人数での協働になると思うから、だから、難しいかなっていうのを感じたかな。
共につくるときになきゃいけないのが、高め合うっていうことと、信頼しあうっていうことだと思うのね。ただそれをつくるうえで、絶対的に必要になってくるのが、結果なわけよ。個人個人が結果を出してこそ、信頼できるし、高め合える。で、それをぐるぐるぐるぐるやっていく。それで、全体としての結果が出てきたときが、協働になるっていうか、まあそれができていたらいい感じに協働できたねっていうふうになるんじゃないかな。

インタビューをしてみて、「共につくる」ことを一人ひとりが自分なりのものにしているのを感じた。

「共につくる」ことを学んだ子たちが、今は、アニメづくりのテーマプロジェクトに挑戦している。「アニメづくりはどう?」って聞くと、ソウタは「人数が少ないと、自分の存在価値が上がっている感じがする」と言っていたけど、10人くらいのスタジオで「共につくる」ことは演劇づくりとはまた違った面白さを感じているらしい。これからが楽しみになった。

子どもたちにことばにしてもらったように私なりに「共につくる」ことをことばにしてみると、人となにかを共につくること=協働すること。協働することで一人でつくれなかったものをつくることができるし、みんなでつくるからこそ一人ではたどりつけなかった面白い世界を見ることができる。「共につくる」とは、それぞれの強みを生かして、面白い世界を一緒につくっていくことなんじゃないかな。

これからも面白い世界を子どもも大人もみんなで共につくっていきたいなあ。

 

#2021 #7・8年 #探究の学び

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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