風越 参観記 2021年11月19日

鬼探検のプロジェクト(大豆生田 啓友)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2021年11月19日

子どもたちの遊びから、テーマ性や協働性が生まれ、プロジェクトになっていくことの始まりには何が大切なのでしょうか。年中児が集まる朝の集いで保育者が鬼の絵本を読むと、真剣に聞き入っていました。読み終わった後、絵本の感想などが次々と出されます。というのも、昨日、隣接する森に行った際、鬼の看板を見たということがあったからでもあります。中には、「鬼の声を聞いた」という子もいます。そして、「それをもう一度、森に見に行きたい」という声が数人の子からあがったのです。

でも、「怖いから行きたくない」という声も多数。行きたい子だけで行くことになるのですが、迷っている子もかなりいます。ある子は、竹の棒を持ち出し、「これを持っていこう」と言うと、怖がっていた子の何人かはそれを持つことで勇気づけられたようで参加を表明します。さらに、女児の中から「鳥の羽をつければ大丈夫かも」という声もあり、保育者は羽を作るための材料や道具を用意します。結構な参加希望者が集まり、森へと出発です。

意気揚々と森から帰ってきた子どもたちは、森の中で木片に何やらひらがなや漢字等で書かれた標識を何枚か見つけてきました。それが、鬼からのメッセージだと語っていました。実はこれ、小学生が全く別の活動で森の中の幾つかの木の枝先に設置したものらしいのです。文字を読める子がその謎の言葉を読み、それを紙に書き写そうと言い出しました。すると、文字が読めない子も自分なりの絵文字で書き写し、「鬼は暗いところが好き」という意味ではないかと語りだします。さらに、「(これを書いた)ペンはどうしたんだろう?」などの問いを発する子もいます。個々が自分なりの想像をめぐらせ、ワクワクと語りだします。

 さて、主体的で対話的で深い学びのプロジェクトはどのように生まれるか。それは、ある子の小さな興味関心や問いと発見から始まり、サークルタイムなどでの対話、イメージや道具などの共有があり、それが次第に自分なりの興味や問題意識へと共振し、共有化していくのかもしれません。そこには、絵本でのイメージの共有、共通の道具(竹の棒や羽作り)などがあり、偶然の出来事を取り込むことがそれを助けたりします。この後、子どもたちの中でこの日の発見の共有がなされ、個々の意見や思いが対話としてかわされ、標識が味わわれ、「鬼を探す」というテーマがより共通の「文化的実践」として深まっていくのでしょう。この後の展開が楽しみです。

書き手:大豆生田 啓友(おおまめうだ ひろとも)
玉川大学教育学部・教授。日本保育学会理事、yahoo japan公式コメンテーター、NHK・Eテレ「すくすく子育て」出演、等の社会的活動。
著書には『非認知能力を育てる 「しつけない」しつけのレシピ』(講談社 2021)など。

#2021 #前期

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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