2021年12月22日
風越学園のホームページ、カリキュラムのページの「探究の学び」にこう書かれている。
それぞれの「〜したい」という情熱から始まる探究の学びにひたります。
では「〜したい」という情熱はどこから生まれてくるのか。探究したいことに出会えずにいる人に「何したいの?」ときくのは愚問で、そもそもそれがはっきりしていれば苦労しないわけだ。
ぼく自身がもし子どもでこの校舎にいたとしたら、自分のプロジェクトは何にするだろうか。当時は、野球とバスケ、群れ遊びぐらいしか関心なかったかも。どうしても自分の狭い経験の中から探すことになりそうで、なんともつまらなくなりそうな気もしてくる。スタッフに「何をしたいの?」ときかれたら困ったかもな。
情熱や好奇心を「本人の中にあり、湧き上がってくるもの」と限定的に考えてしまうと、「好奇心のない私」と感じて、つらくなってしまうことにもなりかねない。
そこにはきっと「未知との出会い」みたいなものが必要で、情熱や好奇心は外からやってくることの方が実は多いのではないか。
その出会いの機会をつくるのがスタッフの大切な役割の一つだと考えているが、それ以外のアプローチもありそう。
それは「普段していないこと、やったことがないことをあえてしてみること」。
ぼくは大きな本屋さんに行くのが好きで、先日も池袋の9階建の書店に行ってきた。書店の前について建物を眺めると、いつも同じ階にばかり行って、他の階はほとんど行ったことがないことに気づく。もう10年以上通っているのに8階とか9階とか行ったことない。自分にとっては存在していないままになっていた。
「今日は時間あるし全部みてみるか。」ちょっと冒険してみようという感覚もあり、あえて普段全然見ない本棚を眺めてみることにした。9階から1階まで順々に隈なく4時間かけて。
例えば歌集の棚なんて見たことがなかったけれど、パラパラとめくってみるとなんとも面白い。うっかり歌集と、歌人のエッセイを買ってしまった。写真集の棚もはじめて端から端までみた。これまで関心がなかった短歌や写真への関心が少し沸き上がってくるから不思議だ。その後、他の場所でつい俵万智の企画展をじっくり見てしまったりもした。短歌おもしろい。
こんなふうに、あえてやってみると情熱や好奇心がじんわり湧き上がってくることがある。
この2ヶ月ぐらいはそんなことを繰り返してみていて、見える世界が少しずつ広がっていっている感覚がある。
ふとしたきっかけで手に入れた、壊れたテーブル。
木工はほとんどやったことがなく、例えば鉋は中学生以来30年以上触っていない。自分と木工は縁の遠いものだったけれど、今回はあえてやってみることにした。
名付けて壊れたテーブルを再生させるプロジェクト。何からやったらいいか途方にくれたので、ラボスタッフのこぐま(岡部)、ニシム(西村)に再生させるんだと宣言し、相談しながらやすりがけをし、かんなをかけ、塗装をし。
最初は、宣言したし、途中でやめるのもかっこわるいな、という気持ちでやっていたが、1日30分だけ続けているうちに、やすりがけで天板が滑らかになっていく手触りがきもちよかったり、今日でかんながけは終わりにしたい、みたいな目標がうまれたりして、続きをやりたい、という気持ちが少しずつわきあがっていった。
今書いていて思うのは、ここ最近の「あえてやってみる」チャレンジでの世界が広がる感覚みたいなものが、このプロジェクトをやり遂げることでも訪れるのではないか、という予感につながり、ちょっと面倒になった日にも、続ける気持ちを支えてくれていたな、と思う。
最初は一人で黙々と取り組んでいたが、そのうちに通りかかった人が手伝ってくれたり、一緒に完成までやってくれる仲間ができたり。一緒に関心を寄せる人、も続ける気持ちに拍車をかけてくれる。
そして、完成!
師匠、カンタに、「ゴリさんいいのできたじゃん!」と褒めてもらった。
メンバーとは「他にも壊れた家具を再生させたいね。それで一部屋埋めたらおもしろそう」「売れるかもね」みたいなことを話している。普段していないことをしてみたらおもしろくなる、そんな経験を共有できた気がしている。
そういえば、先日、78年生のテーマプロジェクト「えんげき〜宮沢賢治〜」の本公演があった。彼らにとっては演劇は普段していないことだし、したことがない人も多かったはず。思春期真っ只中な彼らにとっては、人前で表現するって、今の自分の心持ちとは遠い人が多いスタートだったんじゃないかな。
本公演、実に堂々とした演技だった。変化したなあ、と思う。
本公演を終えたある8年生に聞いてみると、
「最初は『めんどくせー』って思ってた。でも宮沢賢治を知っていって興味持っていったし、表現遊びやってみたら意外に楽しくて、舞台で演じるのも、まあおもしろいかなーと思うようになった」。
自分と遠かったものに手を伸ばしてみて「意外と面白いかも」と自分と繋がりを発見する経験は、これから先、未知のものに出会った時に、すぐに遠ざかるのではなく「これも、もしかしたら面白いかもな」と受け取れることが増えるのではないだろうか。
自分の経験の枠の外に出てみる。それは大袈裟にいえば自分の当たり前を問い直したり、知らなかった自分に出会い直す機会になるんだろうな、と思う。
いつもやらないことをやってみる。
それは例えば「いつもは入らないお店に入ってみる」「散歩のコースを変える」「いつもなら読まない本に手を伸ばしてみる」みたいなことから。
意外とおすすめです。
幸せな子ども時代を過ごせる場とは?過去の経験や仕組みにとらわれず、新しいかたちを大胆に一緒につくっていきます。起きること、一緒につくることを「そうきたか!」おもしろがり、おもしろいと思う人たちとつながっていきたいです。
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