だんだん風越 2021年12月20日

未知なるものとの出会い

甲斐崎 博史
投稿者 | 甲斐崎 博史

2021年12月20日

Those who dwell,as scientists or laymen,among the beauties and mysteries of the earth,are never alone or weary of life.

地球の美しさと神秘を感じ取れる人は、科学者であろうとなかろうと、人生にあきて疲れたり、孤独に苦しめられることは決してないでしょう。

アメリカの生物学者 Rachel Carson(レイチェル・カーソン)の言葉

7・8年生キャンププログラム 鼻曲山日の出登山で頂上から見えた大雲海

前回の記事で、アドベンチャーには「予期せぬ困難なチャレンジ」があると書きました。それに対して逃げずに立ち向かうことで、子どもたちは自分を知り、自分の可能性に気付くことができると述べました。今回は、アドベンチャーのもつ、もう一つの魅力について書きたいと思います。

前回の繰り返しになりますが、風越学園が大切にしている、子どもたちの「〜したい」という思いを大事にしていくという考えは、同時に「〜したくない」も認めなくてはならないということでもあります。でもそれでは、私たちスタッフが子どもたちに触れてほしいと思っていることには、なかなかたどりつけないというジレンマを抱えてしまいます。この、子どもたちにぜひ触れてほしいというところが、アドベンチャープログラムにもあります。

今年度のアドベンチャープログラムは、森、高山、川、滝、湖、岩壁、雪原など、日常では過ごすことのないウィルダネスの環境下で行われます。そこで体験することは、子どもたちにとっては今まで経験したことのないものになります。その自然の中に、身一つで飛び込むわけですから、視覚、聴覚、嗅覚などの五感がフル稼働することになります。目に見えるものや耳から聞こえるものなどすべてが、新しい感覚として心身に刻み込まれていきます。見たこともない景色、動物、植物、聞いたこともない鳴き声、風の音、感じたこともない暑さ、寒さ、気持ちよさなど、そのどれもが子どもたちの感性を揺さぶります。さらに、場所が高地や寒冷地であったり、時間が夜であったりと、極地や極限の状況になると、自然に対する神秘さや不思議さ、畏怖を感じることもあるでしょう。

アドベンチャーの体験の先にあるものは、「予期せぬ困難なチャレンジ」だけではなく、「予期せぬ出会い」があります。そしてそこで出会うものは、子どもたちにとって「未知なるもの」である可能性が非常に高いのです。私が子どもたちに、アドベンチャーを通して触れてほしいのはこのことなのです。これらも、体験してみなくてはわからない。でも、ここに触れることは、体験しさえすれば子どもたちは自ずと心を動かし、感じ取ってくれると思っています。

私がこのような考えを確信するに至ったのには、印象的なエピソードがあります。それは、今年度最初のウィルダネスのアドベンチャープログラム、「5・6年生黒斑山登山」の下山後のシェアタイムのときのことです。私とアンディ(寺中)の2人は、子どもたちの振り返りの言葉には、登ったことのプロセスや、目標設定と達成へのプロセス、助けあったり声をかけあったりするなど協同することの大切さなどが出てくるものと期待していました。でもほとんどの子どもたちの口から出てきたのは、カモシカ、山の中の植物、ハイマツ、虫、木の大きさの違い、軽井沢との植生の違い、自然のスケールの大きさなどの、自然への気付きだったのです。それらをみんなで頷き合いながら共有していたのがとても印象的でした。辛い山登りだったけど、それを乗り越えて出会った今まで見たこともなかった大自然の様々なものたちは、子どもたちの感性を激しく揺さぶったのでしょう。

5・6年登山(春)プログラム 黒斑山から浅間山を望む

「未知なるものとの出会い」は、子どもたちの心をさらに動かしていきます。冒頭のレイチェル・カーソンは以下のような言葉でそれを語っています。

美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知なものにふれたときの感激、思いやり、憐れみ、賛嘆や愛情などのさまざまな形の感情がひとたびよびさまされると、次はその対象となるものについてもっとよく知りたいと思うようになります。

5・6年カヌープログラム 初秋の四万湖

まさに「探究心」が生まれてくると語っていますね。アドベンチャーでの「未知なるものとの出会い」は、子どもたちの情操を育むだけでなく、「探究心」も育ててくれます。アドベンチャーを通して、山の虜、川の虜、虫の虜、風の虜などなど、たくさんの「とりこっ子」が生まれるのを楽しみにしています。

最後に再びレイチェルカーソンの言葉を紹介します。子どもたちの感性を、アドベンチャーカリキュラムで大切に育んでいきたいと思っています。

「子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。残念なことに、わたしたちの多くは大人になるまえに澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます。もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない“センス・オブ・ワンダー = 神秘さや不思議さに目をみはる感性”を授けてほしいとたのむでしょう。」
Rachel L. Carson (原著), 上遠 恵子 (翻訳)『センス・オブ・ワンダー』より

次回のアドベンチャー記事は、上記5・6年の子どもたちの振り返りのときに敬遠された「目標設定と達成へのプロセス」の話です。これ、プログラムをちゃんと設計すれば、子どもたちの体験に強烈に印象づくことになります。お楽しみに〜(^^)/

#2021 #アドベンチャー #カリキュラム #後期

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