だんだん風越 2022年10月19日

いのちのつながりづくりプロジェクト レポート 1 ーそれは芝生をはがすことから、はじまった

遠藤 綾
投稿者 | 遠藤 綾

2022年10月19日

 2022年度がはじまると同時に、私たちは少しずつ芝生を剥がして畑にし、幼児から9年生までが共に、または学年ごとに豆類を中心に作物を育ててきた。6月には、3名の9年生たちによってちいさな田んぼができた。この畑や田んぼも含んだ、循環する環境づくりを目指した取組み「いのちのつながりづくりプロジェクト」についてレポートしてみたいと思う。

2021年10月 駐車場前の芝生エリアを撮影

2022年9月、同じ場所から撮影。手前に小川、その奥に花豆のティピが見える

 「いのちのつながりづくりプロジェクト」は、パーマカルチャー(※1)デザイナーの四井真治さん(ソイルデザイン)をパートナーに迎えて、10月までに計10日間かけて進めてきた。参加者もスタッフ、子ども、保護者へと少しずつ範囲を広げて、9月からは7,8年生のテーマプロジェクトでも循環する環境づくりに取り組むことになった。プロジェクトの中心になっているスタッフは、わこさんたいちゆっけこぐまさん246(ニシム)リリーと専門性も多様なメンバーが集まっている。

・5月27日「循環する環境づくりの可能性」参加者:スタッフ
・6月24日25日「この場の資源に出会う/グランドデザインを考える」参加者:子ども/スタッフ
・7月17日「水の仕組みをつくる 1」参加者:子ども/保護者/スタッフ
・9月4日5日「水の仕組みをつくる 2」参加者:子ども/保護者/スタッフ
・9月20日 テーマプロジェクトの取組み「四井さん家に行ってみる」参加者:7,8年生/スタッフ/保護者
・9月22日「水の仕組みをつくる 3」参加者:子ども/保護者/スタッフ
・10月10日11日「土の仕組みをつくる」参加者:子ども/保護者/スタッフ

四井真治さん、7月のワークショップにて

 そもそも、なぜせっかく育てた芝生を剥がすことになったのかというと、その発端になったのは「新しい情景づくり」だった。
 2022年正月明け早々、風越学園スタッフの有志メンバーで集い「新しい情景づくり」を集中して考える合宿を行った。風越学園では、開校前から情景を描くことを大切にしてきた。来年度カリキュラムを検討する中で、5年先である2026年の情景を描き、シェアして書き加えたり共同編集していくプロセスを通して、私たちが挑戦していること、挑戦していきたいことを言語化しようという試みが「新しい情景づくり」だった。その中で私は「森と生命の時間」というタイトルの情景で「森とそこでの生命の営みと子どもとの関わり」を描こうとした。そのテーマを選んだ理由は、風越学園の校舎の隣に広がる森の存在が大きい。端から端まで歩くだけで探検になる広さ。刻々と変化し続ける複雑な自然の中では、あらゆるところに驚きと発見の種が落ちている。
 風越学園に参画して1年に満たない私の目から見て、他に真似できないユニークさとして映ったのが、この森と自然環境だった。この場所がこの場所らしく育っていくためには、場が元々持っている性質を活かしていくほうが伸び伸び育つ。それは、人も場も同じはず。だから、今よりもっと森や自然環境がカリキュラム(=子どもの経験の総体)の中で活かされていくといいと思った。そんな想いで情景を描きすすめていくと、森から校舎へと続く環境も森での営み、つまり生命の循環を感じられる場所になっていくイメージが浮かんでいった。森だけでなく、校舎の周りの環境も含めた野外環境をこれから中長期的な視野を持って育てていきたい、そうすればきっとその環境自体が子どもたちのワクワクを誘発してくれるはず。そんなことを構想していく中で「いのちのつながりづくりプロジェクト」が誕生した。そんなプロセスを経て春を迎え、わたしたちは芝生を剥がし、小豆を植えることからスタートしたのだ。

 

 野外環境づくりのプロジェクトである「いのちのつながりづくりプロジェクト」の初回ワークショップは、6月24、25日に開催された。この日の参加者は、6年生から9年生までの子どもたちとスタッフ約15名。テーマは「場の資源に出会う/グランドデザインを考える」。吹き抜ける少し強めの風を感じながら、タープの下に集まった私たちに、四井さんはこんな言葉を投げかけた。

「今日はこの場所に何があるのかをみんなで調べてみたいと思います。みんなの頭の上には楓の木があって、太陽の光があって、足元には土がある。いろんなものが組み合わさって、この世界はできているよね。でも、それぞれが存在するだけでは、この世界は成り立たない。世界には仕組みがあり、それぞれが関わりあって成り立っているんだ。この場所に何があるかを見つけるというのは、別の言葉で言うと「資源」を見つける、ということなんだ。探し始めると数えきれないほどの資源が見つかると思うんだけど、それらがどのように関わりあっているのか、ということも次第にわかってくると思う。今日は一緒にこの場所を歩いて感じてみよう。」

タープの下から畑、森の中、水たまり、ゆっくり敷地の中を歩いていると誰かが何かを発見し、そこから問いが投げかけられ対話が始まっていく。
足元に生えているクローバーはマメ科の植物で、その横にはイネ科の植物も生えている。両方とも引き抜いてみると、根のかたちが異なることがわかり、それぞれの働きの違いを想像してみる。

「マメ科の植物とイネ科の植物とは、互いに異なる役割を果たして、土を肥し、土はそこにあるだけではなく、機能することによってずっと続く仕組みになっているんだ。だから、単にそこにあるということではないんだ。全てそれぞれに意味があるんだ」

 芝生から森の中へ移動して見ると、ひんやり涼しい。さっきまで芝生の上で暑さを感じていたのに。芝生と森、体感温度がなぜこんなに違うのかという問いから、木が一本あることで生まれる働きについての話へ発展する。木を燃やすとなぜ火が生まれるのか。いま目の前にあるものから始まる具体的な問いから、そのものの働きや意味、他のものとの関わりへとつながっていく。四井さんとの資源探しの散歩では、目の前にあるものひとつひとつに問いを投げかけ、考える。その先にはそのものや事象から先につながる、ものとものとの関係性や繋がりへとたどり着いていく。そんなやりとりが繰り広げられた。

資源探しの散歩の中で生まれてきた問いは、こんなものだった。

畑の前で
「クローバーの土の下では何が起きてる?」
「土を耕すと何が起こる?」
「土が1cmできるのに、どのくらいかかると思う?」
「世界にミミズって何種類いると思う?」
「この場所でどんなふうに土をつくっていけばいい?」

森の中で
「芝生の上と森の中では温度はどのくらい違うだろう?」
「木って、何でできてる?」
「火って、何でできてる?」
「この木の地下には、地上の何倍の生き物が住んでいると思う?」
「風はなぜ吹くの?」
「ここに太陽のエネルギーはどのくらい降り注いでいると思う?」

鶏小屋の前で
「鶏ってどんな生き物?」
「生きるってどういうこと?」
「おなかがすくことって、どんな意味があるんだろう?」   

雨水が溜まった窪みの前で
「ここに水が溜まっているのはなんでだろう?」

屋外から室内へと場所を移して、付箋に書き出した資源を断面図に貼り付けていくと太陽・土・生き物・水・空気・作物という大きなかたまりが浮かび上がってきた。

 次に風越学園の敷地図を取り出して、どんな環境があったらいいのかを考えていく。
 「みんなの動線、遊び、生き物の動線、水の仕組み、どれくらいの作物を作るのか。今からその配置を考えてみたい。いるだけで嬉しくなるような美しくて機能している場所を考えてみよう。そして、この場所がコミュニティとして育っていくことが大事だと思う。作業を手伝ってくれる人がいて、生ゴミを持ち寄って堆肥にしたりね。つくる過程でも育てていく過程でも、みんなの学びもたくさん得られると思う」と四井さん。

 話し合いの中で、田んぼの水を循環させたい、という希望と、いつも雨水が溜まってヘドロ化している溝をなんとかしたい、ということが合わさって、田んぼを始点とした小川をつくるのはどうか、というアイデアが生まれた。幼稚園の子どもたちも水場があると楽しいはず。ここにはいまはいないカエルなどの水辺の生き物もやってくるかもしれない。小川の水を循環させるためのアイデアとして、太陽光パネルとポンプを使って水の仕組みをつくるのはどうかと具体的な方法については、四井さんからアイデアが出され、みんなワクワクしながら小川があったら、あんなこともこんなこともできそうと想像していく。具体的には次回、測量機を使って土地の高低差をはかり、小川のルートを考えることになった。

 そして、もうひとつこの日に生まれたのが、土づくりとコミュニティづくりの要となる「堆肥カフェ」というアイデアだ。散歩中、畑の前では四井さんからこんな言葉が投げかけられていた。

「土が1cmできるのに、どのくらいかかると思う?(子どもたちから、10年!50年!と声があがる)実は、100年かかると言われているんだ。1000年かかるという土壌生物学者もいる。地面から30cmの深さまで空気や有機物が入るようにすると、1年間で30cm分の土を僕たちはつくることができる。自然のままにしておくと1cmつくるのに100年かかることなんだから、30センチだと3000年分の仕事をしたということだよね。これは僕たち人間にできるすごいことなんだ。そして、その土の中にたくさんの生き物が住んでくれたら、永遠に土が出来続ける仕組みをつくることができる。そんな「生命の仕組み」を理解して、再現することができるというところが人間のすごいところだと僕は思う。
 いま、地球上でおこっている環境破壊の問題を考えると、人間が環境にインパクトを与えない生活をしようというふうに考えてしまう。でも、それって人間が地球にとってよくない存在のように捉えることにつながってしまうと思うんだ。でも僕たちが少しずつでも暮らし方を”生命の仕組み”に学んだものに変えていくことができれば、僕たち人間がいることによって、自然が3000年かけて行うような仕事を1年で行うことができる。僕たちが集めて、食べて、排泄(拡散)して、という日々の暮らしの中で土ができていく。3000年の仕事を1年で毎年毎年やり続けていけば、そういう暮らしを成り立たせることができるようになれば、人間は地球にとってよい存在になれるはずなんだ」

「堆肥カフェ」のアイデアは、土をつくるための落ち葉、動物や人間のうんちやおしっこを「集める」仕組みと、人と人とが「集まる」仕組みとをつなげていくアイデアだ。土がつくられる場所がそのまま人と人とが出会い、つながる場にもなっていく。そんな場所があったら風越学園のエントランスにぴったりなんじゃないか。そんな発想が「堆肥カフェ」という言葉に結晶化して、ワークショップを終えることができた。

 子どもたちと一緒に感じ、考え、つくっていく、その手応えをじわじわ感じられた2日間。「パーマカルチャー ガーデンをつくりたいわけではないんです。子どもたちと一緒につくっていく、風越らしい場をつくっていきたいんです」と最初に四井さんに会いに行った時に話をしたことを覚えている。手法にこだわらず、昔ながらの知恵から最先端の技術まであれもこれもあっていい、自分たちらしい環境づくりを実現していきたい、と話す私たちに、四井さんもそれでいいと思うと応じ、賛同してくれた。子どもたちとの対話を大切にしながら大人も子どもも一緒になってつくっていく、そのプロセスが可能性そのものであること、そして、これからどんな風景が生まれていくのか予測もつかないところに大きな魅力を感じている。さて、次回、水の仕組みづくりがどんなふうに進んでいくのか。引き続きレポートしていこうと思う。


※1 パーマカルチャー とは

1974年、豪州タスマニア大学の教諭だったビル・モリソンが、ゼミの学生だったデビット・ホルムグレンと共に体系化した、人間にとって恒久的持続可能な環境を作り出すためのデザイン体系のこと。パーマカルチャーという語そのものは、パーマネント(permanent 永久の)とアグリカルチャー(agriculture 農業)をつづめたものであるが、同時にパーマネントとカルチャー(文化)の縮約形でもある。パーマカルチャーには、植物、動物、建物および(水、エネルギー、コミュニケーションなどの)生産基盤などを扱う側面もある。
参照:『パーマカルチャー』ビル・モリソン著 川口恒夫、小祝慶子訳 農文協

#2022 #森

遠藤 綾

投稿者遠藤 綾

投稿者遠藤 綾

これまで主に子ども領域でつくる仕事や書く仕事に携わってきました。子どもが育つ現場をつくる仕事に携わるのは今年で5年目です。10年先の風景を想像しながら、たのしく冒険したいと思います。

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