だんだん風越 2021年6月21日

「わたしをつくる」の時間って?(村上 聡恵)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2021年6月21日

(書き手・村上 聡恵/2023年3月 退職)

4月から呼び名をかえてスタートした「わたしをつくる」の時間。ブランチ(学校の校務分掌。教務・研修・生徒指導・進路指導などにあたるような領域のこと)の担当者としても、あれこれ考えながらつくっている毎日です。

どんないきさつで呼び名が変わったのか、そして、これからどんなふうに進んでいこうと思い描いているのか、ちょっと立ち止まってかぜのーとパートナーのぽん(根岸)に話してみました。

なぜ「わたしをつくる」に?

根岸

去年は「セルフビルド」という呼び名だったものが、どうして今年から「わたしをつくる」になったのか、あらためてむーちゃんに聞けたらなと思って。

 
村上

呼び名を今年の4月から変更したのは、「わたしをつくる」ブランチから子どもたちへ向けたメッセージって感じかな。昨年度、私たちスタッフと子どもたちの間でこの時間の認識にずれがあるかもと思う節もあって。そもそものマインドセットをきちんと合わせたいということが一番大きかったんだよね。

「セルフビルド」の時間って、「自分の学びを自分でつくる」時間のこと。だから、セルフビルドの中核には「探究」がある。一人ひとりが自分自身の「やりたい」という思いを大切して、探究する時間にしてほしいって私たちは考えているのだけれど、自由時間とか、やりたいことなら何をやっていてもいいんでしょ…と、この時間を捉えている子どももいるかもしれないという振り返りがあったんだよね。


だから、今年度、この時間をスタートするにあたって、子どもたちにダイレクトにこの時間の価値や意味を伝えたかった。それで「わたしをつくる」という呼び方に変えてみようということになったの。

 

なるほど~。すごく思いが込められていたんだ。

 

よく考えてみると、この「わたしをつくる」の時間って、週8時間ぐらいあるんだよね。5年生以上の子どもたちにとっては、テーマプロジェクトの時間が週6時間だから、それよりも長い。時間の長さだけではないけれど、風越のカリキュラムの中ですごく大事な時間だなぁと思う。


だからこそ、これまで1年間、この時間をどの子にとっても充実した時間にするためにはどうしたらいいんだろう?とスタッフみんなで考えながらやってきたわけだけれど、やっぱりまだ自分の中で「こうだ!」ってしっくりきた感じはなくて。ぽんはしっくりきてる?

 

うーん、きていないかも。なんでだろう?

 

4月にスタートしてからこれまで…

自分でやりたいことを見つけてどんどん充実した時間にしていっている子もいるよね。その子たちは本当に楽しそう。一方で、所在なげにしている子もいる。どんよりとホームベースでChromebookを見ていたり、友達とおしゃべりして時間をつぶしていたりね。その子たちに対して、「何する?」「何しよう?」ってさかんに投げかけたりしてきたけれど、うまくいったりいかなかったり…。悩みながら進んできたよね。

 

うん。それで4月になってからの「わたしをつくる」の時間は過ごし方を変えたんだよね。

 

そうそう。4月のスタートでは、「わたしをつくる」の時間は、マイプロジェクトと自学の時間の2つで構成することにしたの。

マイプロジェクトは、「とことん自分のやりたいことを探究する時間」で、自学は、「探究を支える学び(土台の学びなど)からの問いをもとに、さらに自分の力で探究を広げたり深めたりする時間」と定義して。マイプロジェクトは、まずそれぞれのラーニンググループで「マイプロジェクトを充実させよう」と話をしてからスタートしたこともあって、いいスタートがきれたなぁと思っていた。

 

うんうん。

 

でも、だんだんと時間が経つにつれてその熱が下がってきちゃったよね。徐々にしぼんでいった感じ。

 

それってなんでなんだろう?

 

うーん。子どもたちの様子を見ていて思ったのは、「問い」や「テーマ」が見つかって、それぞれにスタートはしたんだけど、次につながらなくて立ち止まってしまった子がいたなあと。もちろん、それから先にどんどん自分で進められる子もいたんだけど、「あれ?次どうしよう?どうすればいいかなぁ?」って立ち止まった子どもたちが、その次に橋をかけられなかったのではないかなぁ。それで、走り切る前に熱量が下がっちゃった感じがした。


そういう子どもたちの姿を目の当たりにした時に、私たちの関わり方がいけなかったかなと思ったんだよね。5,6年生で原子・分子プロジェクトに取り組んだ子たちは、ゴリさん(岩瀬)に伴走してもらって、アウトプットデイまで走り切ったじゃない?
やり切ったからすごく満足していた。


その姿を見て、パートナーやプロジェクトの担当がもう少しガッツリとプロジェクトを進めていくことに関わっていくことで変わっていくかも…と思ったの。自分でどんどん進められる子は自分の力で探究のサイクルを回していけばいい。でもまだそういう経験をしたことがない子もいて、そういう子たちにとっては、大人と一緒に”一旦のゴールにたどり着いた!”っていう経験が必要なんじゃないかなぁと考えた。

 

突破したい!

「わたしをつくる」の時間に、やり切ったと思える経験をしている子ってどれくらいいるのかなぁ。

 

きっと、子どもたちは一度でもその経験をすれば、あぁこの感じ!ってつかめるんじゃないかなぁ。自分の「やりたい」という願いから始まったことが、”一旦のゴール”にたどり着いたっていう満足感を味わうことができれば、その次につながるんじゃないかなぁと思うんだよね。

それで、改めてこれまでの「わたしをつくる」の時間の私自身の子どもたちへの関わりを振り返ったんだけど、私は子どもたちの様子をふわっと見ていたことが多かったなぁと気づいたの。去年も今年もパートナーの子が10人以上いるから、まんべんなく見て声をかけて…という感じでこの時間を過ごしていることが多かった。だから子どもたちとちょっとずつのやりとりはするけれど、プロジェクトに丸ごと関わって、一緒にガツガツと進めていくということをしていなかったんだよね。そうか…、まずそこを変えてみようと思ったの。

 

この前、むーちゃんがチヒロとジュンノスケの「ピッキオの田中さんに会いにいこう」のプロジェクトにグーッと関わっていたのはそういうことだったのかぁ。スタッフ発信のプロジェクトをやっていこうという提案もしていたけど、そことつながっているのかな?

 

そうだね。チヒロとジュンノスケのプロジェクトへの関わり方は、意識的に変えた。スタッフ発信のプロジェクトを呼びかけたのは、子どもたちの探究のきっかけづくりをしたいなぁと思ったんだよね。


去年、神戸のラーンネット・グローバルスクールを見学したとき、代表の炭谷俊樹さんから聞いたことなんだけれど、ラーンネット・グローバルスクールでも開校した当初、子どもたちが自分で動くことを大切にしようと思って、大人は引いて待っていたんだって。でも待っていれば動くわけではなかった。しばらくそういう状態が続いていたのだけれど、大人が自ら動き出すことをしてみたら、子どもたちは動き出したんだって。まず大人が楽しいことをする…。動く…。大人が動けば子どもも動く。それに気付くのに3年ぐらいかかったって話してくれたの。そんな話もつながって、スタッフの「おもしろいから一緒にやろう!」っていうプロジェクトを置いてみようということを投げかけたんだよね。

 

そうなんだ。むーちゃんは今、この時間、具体的にどんなプロジェクトを子どもたちとしているんだっけ?

 

1つめは、SDGsのプロジェクト。これはパートナーのマナが面談の時に「SDGsの本を読んで興味をもった」ということから生まれたもの。興味をもったんだったら、これからSDGsについて学ぼうよ…となり、5,6年生の子どもたちの中で声をかけ合って6人ぐらいの子が集まった。SDGs関係のコンクールもあるから、それも目指そうと話しているところ。

そうしたら、そんな時にちょうど、保護者の廣木希さんが「子どもたちと一緒に環境問題について考えたい」という声をかけてくださって、一緒に進めていくことになって。ここからもっと地域とも一緒に活動できないかなぁと考えているんだ。今回は、スタッフ発信のプロジェクトを始めてみたけれど、ゆくゆくは保護者の方発のプロジェクトも面白そう!

 

2つめは、「ピッキオの田中さんの魅力を伝える」プロジェクト。5,6年生の「人の魅力」のテーマプロジェクトは終わったんだけれど、そのまま続けたいという子もいたので、継続して続けているんだよね。このプロジェクトはチヒロとジュンノスケと一緒に進めている。熊の生態やピッキオの理念について調べたり、田中さんにお手紙を書いたりしていて、来週、一度見学に行ってくることになったの。私も子どもたちも楽しみにしている。

 

あとは、コウとコウタロウの野球プロジェクト。野球部(グリーンズ)を強くしたいんだって。どんな練習をすればいいんだろう?ということから、高校時代に野球部に入っていた人にこれまでやってきた練習メニューを聞いて、情報を集めることから始めた。最終的にグリーンズのメンバーに練習メニューのプレゼンをしてゴールにたどり着いたところ。この前「やったね!」と子どもたちと喜んで…。


それと、ずっとやりたいと思っていたてつがく対話を始めたのよ。7月のアウトプットデイでは、外部の人も参加できる対話の場をつくろうって話しているんだよね。

 

5月末からこの4つのプロジェクトを子どもたちと一緒に進めてきたの。これまで進めてきたものと、スタッフ発信のものと、テーマから広がってきたものがあって、そのプロジェクト一つ一つにグッと関わっていく。まずは自分の関わり方を変えてみようって思って。

ぽんもスタートしたじゃない?ワールドアンバサダー!

 

そうそう!結構覚悟をもって挑んだ!

 

うん。すごーく伝わってきたよ!挑んでいるなぁって。そんなふうにスタッフも自分が本当にやりたいこととか、これ一緒に子どもたちとやったら絶対に面白いというものを持ち寄れたらいいなぁと思うんだよね。

 

確かに確かに。

 

私たちも子どもと一緒にワクワクしてプロジェクトに取り組めたらいいなぁって思う。

 

入れ子構造だね!

 

そうだね。SDGsをやるってことになって、私もちゃんと学んでみようと思って、1年かけてESDを学ぶ講座に申し込んじゃった。勢いで…新しいことを学べるなぁって、新鮮な気持ちで楽しみ。そんなふうに子どもも大人もそれぞれのワクワクする気持ちが集まって、「わたしをつくる」の時間の熱量があがるといいのかなって思っているなぁ。

 

うん。突破したいなぁ。まだ突破できたぞー!って感覚はないから。

 

そうだよね。私もまだない…。だからこそ、みんなで突破したいって思ってるんだな。

 
理想を描き、その理想に近づきたいなぁとあれこれ考えながら進む日々。難しいけれど、おもしろい!……ふと気づけば、そんな気持ちでこの時間、実践に向き合えるようになってきた。私もわたしをつくっている。

#2021 #わたしをつくる #後期 #探究の学び

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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