スタッフインタビュー 2022年7月24日

「心地いい」をまず大切にしたい。(橋場 美穂)

橋場 美穂
投稿者 | 橋場 美穂

2022年7月24日

保育者“らしく”振る舞うことをしない人だなというのが、私のみほさん(橋場)の印象だ。みほさんが心から感じた、嬉しい、楽しい、困った、を表現しながら、子どもと対等な存在としてそこにいるように見えるのだ。今回のスタッフインタビューは、そう感じる在り方の根源を覗かせてもらうような、そんな時間になりました。(編集部・三輪)


「みんな同じように育てているのに、みんな違うのよ」

小さい頃から保育士になりたいと思っていました。というのも、子どもが3人いる叔母が、「子どもたち、3人とも違う性格なの。みんな同じように育てているのに、みんな違うのよ。面白いのよ」と話してくれたことがあったんです。その当時、私はまだ4年生だったんですけど、「そうなんだ、子どもってみんな違うんだ」と心に残って。それから、そのイトコたちとたくさん遊ぶようになって、小さい子に興味を持つようになっていきました。

__ それで、保育の仕事に。

実は、高校を卒業してすぐに一般企業に就職してレストランでウェイターをやっていました。高校生の時に飲食店でアルバイトをして、毎日いろんなお客さんがきて、違うことが起きて面白いなと思って。

でも、結婚をしたタイミングで「私がやりたい仕事はなんだろう」って改めて考えた時に、やっぱり保育の仕事をしたいと思ったんですよね。それで、働きながら通信の大学に通って保育士の資格を取って。当時住んでいた都内の保育園で働きはじめました。

__ 実際保育士になってみて、どうでしたか。

楽しかったけど、忙しかった。私が当時働いていた保育園は、一日の流れみたいなものが決まっていて、それ通りに過ごすのにいっぱいいっぱいだったし、行事みたいなものも多くて。今思えば、この行事を子どもたちとどうこなすかとか、そういうことばかり考えて日々を過ごしていたように思います。

その保育園に7年勤めた後、夫の転勤で長野県に引っ越してきて、森のようちえんぴっぴと出会ったんです。

今でもよく覚えているんですけど、ぴっぴで働くようになったばかりの時に、2歳の子だったかな、手洗いをしながら、手のひらを上にむけてぽつぽつと水道から落ちてくる水の感触を楽しんでいたんです。その姿がとてもいいな、様子をじっくり見守りたいなと思っていたら、周りのスタッフがそれに気が付いてくれて。みほさんはここでこの子についているのねって、ごはんだよとか、手洗い済ませてきてとか急かされることなく、その子とじっくりと時間を過ごさせてくれました。その時に、保育って、こうやって一人ひとりの子どものやりたいを大事にしていいんだ、子どもを見守っていいんだって。あ、その子風越学園に通っている子なんですよ。サトミちゃん、今はもう5年生かな。

「心地いい」で後押しがしたい

__  園が変わることで、子どもたちとの関わり方が大きく変わったんですね。そうなったことで起こる子どもを見とる視点や在り方みたいなものの変化に戸惑いや葛藤はなかったんでしょうか?

ぴっぴに入って三年目くらいまでは自信もなかったし、毎日葛藤だらけでした。朝の集いひとつでも、今までは流れでやっていた部分も大きかったから、それはなんでやるの?、なんでみほさんはやりたいと思っているの?と問われた時に、最初は答えられなかった。でも、私はこう思うんですとか、こういう願いを持ってやるべきなのかなということに一つずつ向き合って、考えていって。その中で少しずつ自分が大切にしたいことが見えてきた感じかなあ。

__  みほさんが大切にしたいこと、ぜひ聞きたいです。

うーん、、、、「心地いいこと」かな。

__  心地いいこと。違う言葉で言うとしたら、なんと表現されますか?

先週末、山梨県北杜市にあるぐうたら村へ研修に行ったんですけど、そこで森の案内人をしている小西貴士さんが「行動には、強目的と弱目的がある」という話をしてくれたんです。たとえば、食事の強目的は栄養面や体づくりで、みんなとごはんを食べるのっておいしいねとか空気がいいねーっていうのが弱目的になります。小西さんは「もちろん強目的も頭の片隅には置いておきたいなというものなんだけど、弱目的のほうを大事にしてもいいよね」ともおっしゃっていて、ああ、それだって思ったんですよね。私が大事にしたいと思っている心地いいことって、ここでいう弱目的のことだなーって。

__  毎週水曜日の「スープの日」もみほさんはそういう意味で大事にされているのかな。

そうそう、そうなんです。外で友だちと一緒に食べる楽しさとか、お腹が満たされることで気持ちが切り替わるとか、そういうことをちょっとだけでも後押しできる人でいたいなと。

チームで保育をすること、集団で過ごすこと、自分らしく在ること

__  心地いいと思うことって、一人ひとり違いますよね。だから、他者と重ならないこともある。集団で過ごしていると、そこに難しさもあるんじゃないかなと思うんですけど、どうでしょう。

私が今年度一緒に過ごしている年長さんの中でも、「〇〇へ出かけない?」と提案した時に全員が「行こう!」ではないんですよ。風越学園では行きたくないと主張することが許されるということもみんな分かっているから、子どもたちは、行きたくないという声をなかったことにはしないで、とことん話し合えるんです。この子が今お出かけしたくないのはなんでだろう、何か不安があるみたいだけどそれはなんだろうって、そこにそれぞれが寄り添って、じゃあこうしてみようか、ああしてみようよって。すごいな、頼もしいなあって思います。それができるのは、日々の暮らしの中で愛子さん(坂巻)と丁寧に丁寧にそういう時間をつくってきたというのも大きい。

__  今年度は愛子さんとみほさんのお二人が中心となって、年長の子どもたちと過ごしているんでしたね。

そうです。愛子さんがいてくれるから、私は集まりに入れない子がいたりしたときに、じっくりとそこに関わることができています。愛子さんと見ているところや働きかけ方は違うけれど、ふたりで同じところを見ているというか。

たとえば、片付けの時間になったけど、そのまま遊び続けている子がいた時に、「片付けないとだめだよ」とその子が遊んでいたものを取りあげた子がいたんです。取り上げられちゃった子はイヤだったんでしょうね、奥のほうに逃げていってしまったので、私はその子の方へ関わりにいったんですけど、その間に愛子さんが「〇〇ちゃんは何がいやだったのかな」ってみんなに問いかけてくれるんです。そうすると、子どもたちも「〇〇ちゃんはとられちゃったと思っているんじゃない」、「じゃあ〇〇ちゃんはお歌が好きだから、お歌を歌って誘おうよ」って。どうしてかな、自分たちにできることはあるかなということを考えてくれるようになってきました。

そんな風に、自分のやりたいという気持ちや心地よさを大事にすることも、友だちのそれに寄り添うことも、両方できる子どもたちは本当にすごいなと思うんですよ。私は子どもの頃、強い力のほうに引っ張られるというか、与えられた枠の中で何も考えずに言われたことをやるようなタイプの子だったので。

だから今でも、自己主張とか自己表現は苦手だし、「みんながこうしているから」とか、「この立場だからこうしたほうがいいな」ということを考えて動いてしまいがちです。でもここ何年かで、自分の中にそういう強い力に引っ張られたくないという気持ちが出てきてて。

小さなことかもしれないけれど、この前のスタッフ研修日でいくつかの選択肢から一つ出たいものを選ぶ機会があった時に、自分の立場や役割から考えるのではなく、ちゃんと自分の意思を持って私自身が出たいものを選べたんです。

なんて言えばいいかわからないけど、今ようやく、堂々と自分としていられている、という感覚があって。改めて子どもたちにも、そうであってほしいなと心から思っています。

みほさんが参加したいなを優先できたスタッフ研修日の様子

インタビュー実施日:2022年6月29日

 

#2022 #スタッフ

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投稿者橋場 美穂

投稿者橋場 美穂

森で過ごす子どもたちとの時間は心地よく面白い。子どもと一緒にいろんなことを見つけてわくわくしたい、感じていきたい私です。

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