風越のいま 2020年6月11日

カレー屋への道(石山 れいか)

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2020年6月11日

(書き手:石山 れいか/軽井沢西部小学校から派遣・20年度派遣終了)

4月16日にホーム「か」のみんなはオンラインで出会い、一人ひとりの「〜したい」をみんなで聞いた。料理が好き、裁縫が好き、田んぼをつくりたい、部活をつくりたい…。それぞれの「〜したい」を持って風越学園に来ている。

カレー屋をしたい!

その後、ホームの「  」の時間(自分たちで考えて活動する時間)でどんなことをしていくか話し合うと、岡しょーから「カレー屋をしたい」と提案があった。スパイスやカレールーを研究している人や、料理に興味がある人、畑で作物を育てたいと思っている人、お店を開きたいと思っている人が多かったため、そこから「カレー屋をみんなでできるのでは?」と考えたようだ。呼びかけには多くの人が賛同した。

様々な活動と並行して、カレープロジェクトの相談が始まった。

「野菜やスパイスを自分たちで育てたい」「カレー屋をする小屋も作りたい」「ナンをつくりたい」「お米も育てたい」「スパイスの研究をしたい」「エプロンをつくりたい」「器もつくりたい」「スプーンもつくりたい」「看板やメニューをつくりたい」…と、構想が広がる。

ホームのメンバーは特に、「スパイスも野菜も、できるだけ自分たちの手で育てたものでカレーをつくる」ということにこだわっていた。私が「ホームは来年変わるかもしれないよ」と言ってみたが、「変わっても大丈夫。ホームがちがっても集まればいいんだから…」と笑う。子どもたちに教えられた瞬間だった。

「畑」について繰り広げられた話し合い

学校に登校できるようになってからでも間に合うものはいいけれど、野菜は育て始めなければ間に合わないと言う。オンラインにも関わらず、どんなスパイスや野菜が必要でそれが軽井沢で育つのか、いつ植えるのか、などを7年生中心にすごい勢いで調べていった。

jamboard(オンライン上のホワイトボード)をうまく使いこなし、オンラインで相談を重ねていく姿には驚いた。


はじめのうちは大勢話し合いに参加していたが、話し合いだけでは退屈で、人数がだんだん少なくなっていった。7年生は、「活動が始まればいいけど、話し合いでは3年生とかは退屈だよね。早く畑ができるといいけど…。」「zoomだとみんながどう考えているかわからないし…。」「まだ一度も会ったことがない人たちと大きなプロジェクトをすることは本当に大変なことだと思う。」と、様々な思いを抱えながらホームのリーダーとしてがんばってくれていた。自分自身がこの環境に慣れるのに精一杯だろうに…。ホームのみんなのことを考えてくれている7年生を愛おしく思った。

「スタッフの手は借りないで自分たちだけで野菜を育てたい。」「学校に土地を見に行って畑の場所を決める。」「コロナ対策をして順番に学校に行って畑を耕して作物を植える。」というのが子どもたちの考えだった。そこで、4月22日(オンライン登校期間中)、タイガと岡しょーが学校に行き、畑にできそうな場所を調べ、次の朝、ホームのみんなに畑の候補地を報告した。




畑チームのメンバーは「学校から離れていても、一番土の栄養がありそうな場所に畑をつくりたい」という思いが強く、その場所を使っていいかしんさんに聞くことになった。

4月23日、ななみい・岡しょー・カイトはとても緊張していた。これまでのプロセス、調べてきたこと、畑の下見の報告をしんさんにどう伝えるのか考えて練習し、そして伝えた。しんさんからは「大変なプロジェクトだと思うからこそ、安易に応援しない」と、予算のことや関わる人のことなどをもう一度考えてほしいというアドバイスをもらった。終わったあと、「僕たちが学校に畑をつくると、他のホームの人も来ちゃうから迷惑をかけるかも」「もう一度ホームのみんなの気持ちを聞きたい」と振り返る。

次の朝は畑のことを言い出す人は誰もいなかった。Typhoonのチャンネルの呼びかけにも誰も返信しない。意気消沈しているのだろうか。学校に畑をつくるのは諦めた様子に見えた。

ゴールを再確認。野菜づくりスタート

次の日、プロジェクトが息を吹き返す。7年生の呼びかけで集まったメンバーで、改めて、「自分たちで育てたものでカレー屋を開くこと」がゴールであることが確認された。学校に畑をつくらなくても野菜ができる方法をいくつか考え、最終的に家でプランターか畑で育てることに決まった。

苗は自分で買ってくるという話になったが、お金を立て替えるのはよくないしレシートをなくしたら困る、お家の人に苗を買いに連れて行ってもらえない人もいるという。近所の農家にもらうというアイディアもあったが、遠くから最近引っ越してきたばかりの人は難しいと仲間を心配する。最終的に、苗はスタッフに用意してもらって校舎に取りにいき、土は手に入る人が校舎に持っていって、土がない人に譲るということになった。

5月8日に校舎に苗をとりに来る予定だったが、11日から分散登校が始まると決まったため、分散登校初日に苗を持ち帰ることにしようということになった。分散登校初日にもかかわらず、仲間に土を提供するために重たい土を家から持ってきてくれた岡しょー。それぞれが苗や土などを持ち帰り、家で育て始めた。

一ヶ月間話し合ってきたことがようやく動き始めた。分散登校初日は、プロジェクトが空想からようやく現実に変わった日だったように思う。

野菜の苗を持ち帰ったメンバーはTyphoonに成長の様子を投稿してくれるようになった。芽が出た喜びを伝えてくれたり、葉っぱの微妙な変化に気づいて知らせてくれたり…。キヨは毎日葉っぱの枚数や茎の高さを測って様子を伝えてくれている。

キヨが、「今日は帰りのつどいで、野菜の成長の発表会をするので、写真に撮ったり、その場に行ったりして画面で見せてください。」と提案し、オンラインで野菜を見せあったりした。

チーは肥料袋に、サラは畑にじゃがいもを育てている。違う方法で育てるからそれぞれの成長がワクワクする。仲間の投稿のあとには「デカ!」「大きくなってますねー」「そういうちょっとした変化がうれしいよね」などのメッセージがあり、それぞれの家で育てているのに、みんなで野菜の成長を楽しんでいるのが不思議な感じがする。

ハナコが、「レタスが他の野菜よりも早くできてしまいそうだ」と伝えると、“そのレタスを売って、売れたお金で改めてレタスを買う”と岡しょーが提案。アブラムシの心配をしていると、虫に詳しいシンノスケが「てんとう虫を放すといいよ」と教えてくれた。これからも簡単にはいかない野菜づくりをホームのみんなで楽しみたいと思う。

こういうやり取りの中で、新たに「ぼくも野菜を育てたい!」という人も出てきた。誰かと共に生きる中で自分の関心が広がる…。

あすこまがある日の朝、「昨日れいかさんがTyphoonに投稿したじゃがいもの芽を見て、うちに生えてきた葉っぱが雑草だと思っていたけど、じゃがいもだと気づきました。抜かなくてよかったー。」と話してくれた。スタッフ自身も経験したことがない道をみんなとともに歩んでいる。

田んぼから作りたい…でもそれじゃ今年は間に合わない

カレーライスの「ライス」はどうするか…という話し合いでは、「田んぼから作りたいけど、それじゃ今年は間に合わない」「発泡スチロールで育ててもいいけど、それだけじゃ少ししかできない」「お米を家から少しずつもってくればいい」「ナンをつくってもいい」…と様々な意見が出た。

でも子どもたちはできるだけ自分たちの手で育てたいという思いが強く、「わこさんに協力してもらって、わこさんの田んぼを手伝って、お米をわけてもらえるかな?」とわこさんに相談。「労働に見合った分のお米をわけてもらう」と心に決めて田んぼに向かった(わこさんは、追分で自然農の田んぼをやっている)。

田んぼチームはサクラコ、タイガ、カイト、オカショ−、シンノスケ、エリナの6人。わこさんに色々と教えてもらい5月30日に田植えをした。羊の堆肥で育った苗は骨太で、泥の感触を楽しみながら大切に植えていった。予定よりも時間を延長して最後まで植え終えたときの拍手と子どもたちの笑顔が印象的だ。

6人のメンバーは、「田植えに来られなかったホームのみんなにも、お米の成長を見てほしい」と願い、ホーム全員で田んぼまで行かれないかと計画した。田んぼまでは約8キロ。歩いても行けない距離ではないが、現地での時間の事も考えて交通機関を利用できないかカイトが調べてくれた。はじめにバスを乗り継いで行く方法を考えたがバスの本数が少なく時間を有効に活用できない。

ホームのみんなで考えあった結果、バスとしなの鉄道を利用して田んぼまで行くことになった。カイトが企画書を作成した。様々なスタッフに相談し何度も書き直して、やっとしんさんとごりさんに提出に行ったが、改めていくつか提案をもらった。複雑な思いだったと思うが、前向きに次のステップに進もうとするカイト。風越学園で初めての校外学習になるため、カイトの企画書が今後の見本になっていくだろう。

田んぼが学校から遠いため、稲の成長を身近なところで見守りたいと、学校でも発泡スチロールで育ててみることになった。せっかくならば実験してみようということになり、①わこさんの田んぼの土で2本植え  ②わこさんの田んぼの土で3本植え
 ③学校の土  ④水だけ…と4種類の植え方で植えてみた。

みんなは田んぼの土と学校の土の手触りが全く違うことに驚いて、なんで田んぼの土はこんなにヌルヌルになるんだろう…と疑問をもつ。初めて田植えをする人もいたが、田んぼチームのメンバーが手を添えて植え方を教えた。

小さい子が思わず苗を抜いてしまわぬようにと、柵を作ることになった。ラボで木を切り、色を塗って杭をつくり、周りをロープで囲った。ラボと体育館の間にできた小さな田んぼにお米はできるのかな?


大丈夫!変わってもやる!

6月1日、完全登校が始まった3度目の「始まりの日」。あらためてカレー屋のことをホームのメンバーで話し合った。

子どもたちは、「今年はコロナのこともあるし、カレー屋はできないかもしれない。でも、できるだけたくさんの作物を自分たちの手で育てたい。それで、カレーをつくってみる。できることまで今年やる!」と言った。

「来年はホームが変わってしまうかもしれないけど…」と再び聞く私に、「大丈夫!変わってもやる!」と言う。

この先、どんなストーリーを子どもたちはつくっていくのだろう。

文:石山 れいか

#2020 #ホーム #探究の学び

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かぜのーと編集部です。軽井沢風越学園のプロセスを多面的にお届けしたいと思っています。辰巳、三輪が担当。

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