2024年4月11日
2月27日、今年度最後のアウトプットデイ。
7,8年生の子どもたちは、第4タームのテーマプロジェクトで取り組んできた「和菓子とみる景色」の発表を行った。
テーマプロジェクト「和菓子とみる景色」とは・・・
このプロジェクトのメインの活動は「景色を深める和菓子デザイン」。子どもたちはチームごとに景色を設定し、景色からイメージされるもの(アイデア)を出し合い、そこからコンセプトを絞り、実際に調理を行いながら和菓子に落とし込んでいくというデザインのプロセスを進んでいく。そのプロセスを何度も行き来することで、景色がより深まっていく。技術家庭科(家庭分野)と美術の教科横断のプロジェクトとして設計した。
発表場所には沢山の子どもたちや保護者、地域の人、スタッフが集まって、子どもたちがデザインをした和菓子を食べたり、子どもたちの2ヶ月間の試行錯誤をまとめた発表に耳を傾けた。ここに辿り着くまでの道のりは、チームで取り組んだ子どもたちも、テーマプロジェクトを設計してきたスタッフ自身も、「共につくる」の連続だった。
その一部を紹介したい。
チームでの活動が始まると、Eチームはそれぞれがお気に入りの景色を持ち寄り、そこから共通点を探して、和菓子のコンセプトを設定していく方法で話し合いがスタートした。
最初はお互いが持ち寄った景色を良い雰囲気で聞き合っていたが、そこから1つに絞っていく話し合いが難航していた。それぞれに表現したいものがあるからだろうか。議論は平行線をたどる。「どこまでその平行線は伸びていくの〜?!」とスタッフの方が心配になるほど、進まない議論。「もう無理だよ。」という諦めの言葉も聞こえてきたり、言葉数が少なくなったり、チームがバラバラになりそうな雰囲気が漂う。
そんな状況を見かねて、私は「全員のやりたいことを詰め込んでみるのはどう?」と、今思えば解決策ではなく、妥協案のような提案をしてしまった。「いや〜、そうだよね。もうそれしか無いよね。」という子どもたちの反応を予想していたが、「それはいや。」と、全員がこちらを向く。予想外の反応に、「おお〜、それは同じ意見なのね。」とびっくりした。
その日のEチームのモミの振り返りにはこんな言葉が書かれている。子どもたちの方が、何を目指しているのかわかっていると反省しながら読んだ。
皆が集めてきた色々な素材を、1つにするってすごく難しい。混ぜ合わせれば少しずつはそれぞれの意見が通るかもしれないけれど、逆に考えると、全員の元々の形から離れてしまう。(モミ)
次の日も、その次の日も、Eチームの話し合いは続く。話し合いを可視化していた模造紙は2枚目に突入し、議論の切り口も少しずつ変化し始めていた。
ある時、「よっしゃあ〜〜!!」という雄叫びが授業をしていた部屋中に響いた。私も、他のチームの子どもたちも、声が響いた方を振り向いた。すると、Eチームのユロが立ち上がって、ガッツポーズをしていた。
その姿を見て、「話し切ったんだな。」と確信した。気のせいかもしれないけれど、みんな晴れ晴れとした表情をしている。その日のEチームの振り返りには、こんな言葉が並んでいた。
ほんとに決まったときは、やった!って感じだった。途中まで、ああーって感じだった。でも、このみんな諦めずに話したっていうのが大事。(ユロ)
コンセプトを決めるとき、チームで決めるのは難しい、と感じた。意見が合わないし、譲らないと進まないな、とか色々思っていた。でもチームはみんなが賛成できる方法を考えてなんとか決めた。意見が合わなくても工夫すればなんとかなる。そう感じさせられた。まとめてくれて助かったし、みんなの意見が入った和菓子はすごそう!って思った。(ユウ)
昨日と比べると、それぞれの意見に対する肯定も増えたと思うし、段階を進んで和菓子の形が見えてきたこともあるかもしれないが、まとまりつつあるように思う。昨日は本当に全くまとまらず大変だったけど、大変だったからこそ段階を踏む事に達成感があるし、良いものが出来ていくんだろうなとも思う。(モミ)
とことん、話し合いをし続けたEチームだからこそ、深めたい景色が共に見えてきた瞬間だった。
和菓子を提供するアウトプットデイを3週間後に控えた子どもたち。和菓子デザインの途中経過をチームを超えて共有し、フィードバックをしあうことを目的に、試食会を開こうと提案した。
Dチームは、話し合いがスタートした時から、ずっと揺るがずに水まんじゅうで「黄昏時」を表現しようと考えていた。話し合いの途中経過を表す模造紙には、コンセプトや完成イメージについてやりとりした内容が事細かく書き残されている。
試食会当日、そのDチームのメンバーの表情が浮かない。試食会のために作った水まんじゅうが思うような形や味になっておらず、試食会に必要な12人分の和菓子が完成しなかったようだ。
試食会の机の上には、Dチームがイメージしている水まんじゅうとは、色も形もかけ離れたものが並んだ。試食会を終えた時のDチームの子どもたちの内心を想像するに、残りの期間で本当にイメージしているものができるのかという不安もあっただろうし、他のチームの出来と比べて焦りもあったのではないかと思う。ただ今思えば、この試食会での失敗はDチームが本気になるために必要なストーリーだった。
ここからDチームの怒涛の追い上げが始まる。
次の日も4人で何が問題なのかを考え、どうしたらうまくできるかを考えている姿があった。試作のためにキッチンにやってきた時には、前よりもお互いに声をかけ合っていた。加熱や着色のタイミング、それぞれの役割をずいぶん話し合ってきたことがわかった。
そんな試行錯誤の末、アウトプットデイ本番では子どもたちがイメージしていた通りの水まんじゅうが完成した。
アウトプットデイでの発表を終えた次の日、Dチームのメンバーはこんな振り返りを書いていた。
初めての和菓子で、コンセプトからお菓子を作ること自体が初めてだったので、どう表現するかの頭でのイメージと技術がなくて、イメージ通りに作れないことに悔しさを感じていた。でも、失敗したところを改善して、また失敗して、改善してを繰り返していたらどんどん水まんじゅうが形になってきた。(ユイ)
チームメイトと積極的に活動していくことにより、自分の考えを打ち明け、共感やアドバイスなどをもらい、みんなと理想の和菓子作りができるようになる。これは和菓子だけでなく、他のことにも共通することだ。(ムサシ)
あの試食会での思うようにいかなさが、すでに懐かしくもあり、愛おしい経験だったようにも感じる。Dチームの誰もがあきらめず、声をかけ合い続けた末に見えた景色だったなあと思う。
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子どもたちは、自分一人で和菓子デザインをしていたらどうだっただろう?とよく口にしていた。その度に「きっと表現したいコンセプトがスムーズに決まって、もっと楽だったんじゃない?」と言うのだ。キッチンのスペースやスタッフのサポートが届く和菓子の数など、色々な要因が重なってチームでの活動としていたが、私は今、チームでの活動としてよかったと思っている。
ある日の仕事の帰り道だっただろうか。その日の子どもたちのチームの活動を思い返しながら、こんなことを思って、共同設計者であるようへい(佐々木)にメッセージを送ったことがある。
きっと、子どもたちはチームのメンバーとともに、景色を何度も何度も眺め直しているのでしょうね。見方を変えたり、メンバーの一言で見えていなかったものが見えるようになってきたり。改めて単元名「和菓子とみる景色」の良さを感じながら、それを一番繰り返しているのが子どもたちというのもいいなと思ったところです。
まさに、子どもたちはチームのメンバーとともに、景色を深め始めていた。たぶん、一人で眺める景色よりも、その景色が細部まで見えてきていたはずだ。
ここからは、スタッフの共同設計の話。
詳しい話はようへいがかぜのーとに書いてくれているので、私は共同設計を進めていく中で、印象に残っていることを書いてみようと思う。(ここでようへいの記事を読んでから先に進むか、最後まで読んでからようへいの記事に飛ぶかはあなた次第。)
振り返ると、この2枚の写真が印象に残っている。
これは、2023年の冬休み。第4タームのテーマプロジェクトを一緒につくっていくことが決まり、最初に話し合いをした時の写真。単元名を決めている時の一枚だ。かな〜〜〜り長い時間をこの単元名を決めるために使った。和菓子という材が決定しているだけで、和菓子に対して考えていることや、「こんなテーマプロジェクトになっていくのかな?」と想像していることの「同じ」と「違い」を1つずつ確認していくような時間だった。
ようへいはよく喋る。私はぽんぽんと言葉が口から出てくるタイプではないので、その違いをこの時期よく感じていた。サッカーの試合ではボール支配率が実況されるが、それに倣って「2人のどちらが話していたか率」を表すとすると、きっと6:4(場面によっては7:3)くらい。そんな話し合いの中で、ようへいの言葉に「なるほど!」と思ったり、はっとさせられることもあったし、ようへいの考えを聞くことで「私が思っていることは違うな。」と自分の考えていることに輪郭が出来ていく感じもあった。ようへいから見れば、逆もきっとあっただろう。
そして、もう一枚。こちらは授業研究として「私たちも和菓子を作ってみよう」ということになり、初めて和菓子を作ってみた時の一枚だ。子どもたちが経験している和菓子デザインのプロセスに沿って、表したいコンセプトを決め、それを表現できるように素材や見た目を考えてみた。
初回にしては形になった方だとも思うが、中から漏れ出した抹茶アイスがとてつもなく気になる。当たり前だが、アイスは溶けるものなので、上に乗せたり、横に添えるくらいだったらよいが、中に包んで調理過程の中で扱うのは非常に難しい。高度な技術を使えばアイスも扱えなくはないだろうが、風越のキッチンにあるものでは難しい。
アイスを素材として使えたら、より表したいコンセプトに近づくことに後ろ髪を引かれつつも、私の中で「もうアイスを使うのはやめたい・・・」という思いが膨らむが、ようへいはコンセプトを表すために「アイスを使いたいな〜」と、隣で結構粘っている。「いや、変えようよ。」と思い、スポンジケーキやメレンゲクッキーなどの代替案を私から提案し、次回はカステラでチャレンジすることになった。よし。
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2ヶ月半に及ぶ共同設計の節々で、私は自分とようへいとの違いをたしかに感じていた。
そんな違いを最初は同じにしなければと考えていたようにも思うけど、今はそうは思わない。でもそれは「私は私のやり方でいくわよ。」という感じともちょっと違う。
「じゃあ、どんな感じ?」と問われれば、何かを話したり、考えたりする時にその人の思考や行動の特徴が自分の考え方や行動にも自然と表れ出てくる感じだろうか。共同設計のやりとりが増えれば増えるほど、その人が何を大切にしようと思っているのか、どんな考え方をする人なのかが見えてきて、自分が何かを考える時の手札がいつの間にか増えている感じだなと思う。「いつの間にか」というのがポイントで、これを頭で考えてやろうとすると、違いを同じに寄せていこうっていう感じになるから結構苦しい。その人に合わせているっていう感じでもなくて、やりとりをする中で自然と「いいな」と思ったことが、いつの間にか自分のものにもなっていて、いつの間にかそれを使えるようになっている感じ。伝わるだろうか。
そのためには、きっと沢山やりとりすることが必要で、その過程には「違うな」という部分をまっすぐ受け取る場面もきっとあるのだと思う。
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改めて、最初と同じ写真を見てみよう。
このかぜのーとに言葉に出来たのはほんの一部だけれど、子どもたち同士、子どもたちとスタッフ、スタッフ同士が、それぞれに「共につくる」を試行錯誤してきた2ヶ月間。この写真が記録する景色は、その終わりを告げるアウトプットデイの発表だったのだ。手前のブースでは、前日に調理した和菓子が1人ずつ丁寧に提供されている。どんな景色をお客さんがイメージするか、ワクワクドキドキした子どもたちの表情が見える。奥のブースでは、和菓子に込めたコンセプトや完成までのプロセスを種明かし。語りたいことがどんどん溢れる。失敗のエピソードにどっと笑いが起きる。失敗していた時はあんなに不安そうな顔をしていたのに、今は良い顔をしてるな〜。
そんな景色をようへいと一緒に眺めた。もっと出来たなということもあるし、もっとこうしたかったなという思いもある。でも、2ヶ月前に共につくり始めたテーマプロジェクトの終わりがこんな景色になればいいなとイメージしていたものが、目の前に広がっている感じでもあった。
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「共につくる」って何なのだろう。
色んな人とつくりながら、どんどん分からなくなっているし、自信を無くすようなことも正直ある。でも、色んな人とかかわり合いながら、わたしがここにいることの意味を手放さないままに、「いつの間にか」の手札がわたしの中で増えていくよう、これを読んでくれているあなたと「共に」つくり続けたい。2024年度のはじまり、そんなことを思っている。
埼玉・秩父から山を超えてやってきました。美味しいものに何度も試しながら出会っていくことと、それを美味しく食べてくれるひとを眺めることがすきな時間。風越での時間もそんな場面に沢山出会いたいな〜
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