風越のいま 2024年4月4日

どの山に登るかよりも、誰と登るか

井手 祐子
投稿者 | 井手 祐子

2024年4月4日

一歩一歩進んだ先に。こんな景色が広がっているから、また進もうと思う。

◎味わうって?

2023年度末が迫ったある日、8年生のエナとサクがやってきた。

「9年生が卒業する前に、アドベンチャー登山(2023年度は登山・クライミング・トレイルハイク・ブッシュクラフトから一つ選び、同じアドベンチャーを、同じメンバーで年に3回積み重ねた)のメンバーで、もう一度山に行きたいと話していて。いいかな?」と、突然の相談。「どうしてそんな話になったの?」と聞くと、「あのメンバーで登る山が最高だったねって話していて。山を登っている時間が味わい深かったから」とのこと。こうして急遽立ち上がった4回目の登山。スケジュール、移動手段含め条件が厳しい中、彼らの熱意で実現にこぎつけたのだった。

4回目の登山は、白銀の世界。「今までで一番ハードじゃん!」と言いながら、声も心も弾む。仲間を感じるこの距離感に1年の変化が現れている。

それにしても、味わい深いって、なかなか渋い感覚。
彼らにとって、仲間と登る山は、どんな味わいがあるのだろう。

経験するや感じるを超えて、価値や意味ともちょっと違う、彼らの中でじわっと生まれ熟成されていったものなのかなと私は捉えている。

◎いかに出会うか。

風越で登山と出会った5,6年生が、アドベンチャーの選択時に自ら登山を選んだのに対して、それぞれのバックボーンを持つ7,8,9年生は、「第一希望から外れた」「希望を出し忘れて登山になった」という人も多く、子どもたちの中にあった当初の登山のイメージは、残念ながら良くなかった。さらに、普段はお互いに関わりの少ない人たちの集まりだった。そんなバラバラな10人(途中でキヨが旅立ち9名に)が、「このメンバーで登る山が最高」と思えるまでになるとは・・・。私の言葉でうまく表現できるか自信がないけれど軌跡を残しておきたいと思う。

今年度の登山は、体力差を考慮して、5,6年生と7,8,9年生のグループに分け、下記の構成で実施した。

(今年度リニューアルしたアドベンチャープログラムと5,6年生の登山についてはこちら)

第1回(5月):山と仲間と出会い、地形・地層・動植物などいろいろな視点を持って歩く。
第2回(7月):自分たちで選んだルートを、仲間と共に歩く(1泊2日)。
第3回(11月):自分たちでチャレンジしたいことを見つけ、自分たちの登山をデザインする。

同じプログラムの構成でも、メンバーの興味関心によって、展開が変わっていくのが面白いところ。7,8,9年生は、日帰りの予定だった第3回の登山も泊まりがけで行きたいと声が上がった。第2回登山に参加したメンバーから「山小屋の夜、みんなで過ごしたあの時間が心に残っている。第2回に参加できなかった人にも、山の夜をぜひ味わってほしい」という強い思いがあったようだ。第2回に参加できなかったタイセイは、「え〜、泊まりじゃなくていいよ〜。」と最初は言っていたけど、「山小屋の夜は最高なんだよ。絶対経験した方がいい!」というみんなの熱い思いに押されて、「そんなにいいなら。」とみんなの思いに乗っかった。

◎山×○○

ルート選定と子どもたちの下見を重視した第2回目。第3回目は、「山×○○」をテーマに置き、自分と向き合うハードな山登りはもちろんのこと、歩く道中や山での滞在中にフォーカスして、山を様々な角度で味わうことにした。

◎山×山ごはん

今回のルートは、ちょうど良いお昼どきのタイミングで、調理ができる場所があるかがポイント。また、調理の時間を取っても行程に無理はないかも考慮し、計画した。山ごはんは、「エネルギーや栄養素を充足」「食中毒予防」「装備の軽量化」「短時間調理」「環境に配慮しゴミや排水を出さない」など、考慮することがたくさんある。これらは、地図読み、気象条件の考慮と同じように、水道・ガス・電気・医療機関がない山中で安全に山を登る上で欠かせない視点である。今回は、基本的な山ごはんのポイントの他に、食材費を抑えることも条件に加え、制限時間30分、3人1グループで料理対決を行った。

食材の準備、下ごしらえ、調理器具の運搬、チームの3人で話し合い協力することが山ほどあり、それぞれの個性を面白がり理解しながら、任せたり任せられたり、絶妙な信頼関係を築いていったように見えた。第2回登山の時に大きなリュックに漫画本を何冊も入れて、「なんで漫画本?!」とみんなに突っ込まれていたサイトが、予想外の小さなリュックで登場して、「サイト、鍋入らないじゃん!」とエナに本気で突っ込まれる笑いも。出発のギリギリまで調理器具を取りにキッチンへ走るタイセイやチヒロ、マユやイイナの姿もあり、事前の準備に抜かりないシズクやリョウの姿がゆったりと待つ姿もあり。様々な予定不調和が絶妙なスパイスになり、化学変化を生み、その変化を楽しめる関係性が生まれていたように思う。

「ビストロ山ごはん」の舞台は、稲子岳を臨むみどり池のほとり。

優勝は、スタッフりんちゃん&ようへいの山ごはん。各チーム工夫を凝らした山ごはんが並んだ。ガイドのたいちょーが審査員。

◎山×りんちゃんのことば

薄い夕焼けに包まれるころ、山小屋はゆったりした時間が流れる。コーヒーやお茶を飲みながらゆっくりする人、体を休める人、「今日はどちらから?」と初めて会った方とおしゃべりする人、ひんやりした空気を感じながら日が沈む空を眺めている人。山が好きな人が集い、それぞれの寛ぎ方で過ごすひととき、りんちゃん(甲斐)のことばの時間が始まった。

「谷川俊太郎さんの好きリスト。授業でやったでしょ?今日歩いてきた道のりで、見つけたこと、感じたこと、あ〜好きだなぁと思った瞬間を詩にしてみない?自分が好きって思ったものなら何でもいいのよ〜。あ!山小屋で俳句と短歌も募集してるわね。ついでに俳句もどう?」

と、柔らかなりんちゃんの言葉と一緒に、紙と鉛筆が配られた。

りんちゃんの言葉は魔法のよう。「何でもいいのよ〜」が心地よく届き、今日見てきた景色、体に残っている感覚、心が動いた瞬間がじわじわと蘇ってくる。最初はおしゃべりしながら書いていた子どもたちも、いつしか自分の感覚に浸り、言葉を紡いでいく。

山の夕暮れどき。今日の道のりをふりかえり、詩や俳句に思いをこめる。

「自分の作品、持ってきてね。」とりんちゃんの呼びかけがあり、夕食後、少し灯りを落とした談話室で、「好きリスト」の発表会を行うことになった。ちょっと照れくささもあるけれど、読む人はサングラスの力を借りて、詩人になりきって自分の言葉で表現してみる。歩きながら感じていたこと、自分の中に起きていた変化、嬉しかった仲間の働きかけ、周りの人に届けたかった思い。私もー!と共感する言葉や、へー!そう感じていたのか!とその人の別の内面に触れる言葉、クスっと笑ってしまうその人ならではの感覚など、真っ直ぐで、ピュアな感性で綴られた「好きリスト」。整った言葉ではないけれど、その人そのものが現れた真っ直ぐな表現は、他のお客さんや山小屋の大工さんたちまでもの胸を打ち、「忘れた心を取り戻したよ。」と言葉を寄せてくださった。一人一人の言葉に耳を傾け、心を寄せて、じっくり聞き入ったひとときは、言葉に表せないくらい愛おしい時間だった。

それぞれの感性や世界がたっぷり詰まったことばの作品に触れ、ファンになる。

◎山×たいちょーの星空

7,8,9年生には、ガイドの井上基(たいちょー・地輪舎代表/ネイチャーガイド/農家/菜園指導家/竹林整備家/地域活動家)が一年間伴走してくださった。たいちょーの明るい人柄や細やかな気遣い、子どもへの的確な声かけに助けられ、おかげで豊かな時間を過ごしてこられた。携帯電話も通じない、テレビもない、静かな山の夜。たいちょーの世界にも触れられたらと、星空の時間をお願いしていた。夜は何度となく外に出て空を見上げたけれど、あいにくの曇り空。でも、山の天気は変わるもの。夜明け前に起きて、もしかしたら!と外に出た人だけ、八ヶ岳の星空を見ることができた。「えー!起こしてよ〜!」というお寝坊さんの言葉も、またいい思い出。

◎「どの山に登るかよりも、誰と登るか」

第3回の登山を終えて数日後の昼休み、1年間の活動を振り返る場を持った。

いつも涼しげな顔で登っていたように見えたシズクが、実は自分と向き合いながら歩いていたこと。サイトがこの仲間と登る登山が楽しいと感じてくれていたこと。リョウが、みんなに支えられて達成できたと感じていたこと。サクが、もっと山が好きになったと感じていること。登山が好きではなかったイイナが、めちゃくちゃ楽しかったと気持ちの変化があったこと。チヒロが、このメンバーで登る山が良かったと思ったこと。タイセイのチャレンジには仲間の存在が大きいこと。マユが、この仲間との時間を楽しんでいたこと。エナがチャレンジする自分に出会えたこと。

登山を通して、それぞれがチャレンジしていたこと、それぞれの内面で起きていたことを言葉にしてみた。

そんな彼らの姿を見ていた、ガイドのたいちょーが一言。

「どの山に登るかよりも、だれと登るかが大事って感じるようになったんやなぁ。」と。

なるほどなぁ。

“味わい深かった”を言葉で説明することは難しいけれど、体験やそれぞれの感情や感性をたっぷり共有できたことが、深い何かを彼らの中に残したのかもしれない。

これまでもこれからも、新しい世界、新しい自分、自然の奥深さ、人の温かさに出会ってもらえたらと願いながら、ふりかえり、新年度の登山を考えている。

景色そのものは忘れても、共に味わった感覚はずっと残っているのかも。

 

 

#2023 #7・8年 #9年 #アドベンチャー

井手 祐子

投稿者井手 祐子

投稿者井手 祐子

生き物たちのドラマに魅せられて、軽井沢で森のガイドを15年。子どもたちと自然を見続けたくて軽井沢風越学園へ。学園の森の保全しながら、子どもたちと自然の不思議や面白さを見つけていきたい。幼少期は、近所で評判のお転婆娘。実は、冒険や探険に誰よりも心躍らせている。

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