2023年9月17日
今年度リニューアルしたアドベンチャープログラム。
昨年の単発でプログラムを選ぶスタイルから、登山・クライミング・トレイルハイク・ブッシュクラフトから一つ選び、同じアドベンチャーを、同じメンバーで3回積み重ねるスタイルにした。PDCA(Plan-Do-Check-Action)のサイクルを子どもたち自身が回し、自分たちの成長に合わせて、チャレンジの度合いを高めていくことを大切にしている。
リニューアルを機に、プログラムの一つ(登山)を担当するようになった今年4月。「子どもたち自身が PDCAを回すプログラム」という部分は、真っ白な状態で手渡された。登山を通して子どもたちと共有したいことは何か、どんな経験を重ねられると良いか、ぐるぐる考えた。
子どもたちに手渡すところ、手渡さないところ。子どもたちの今の経験値でチャレンジできるところ、今はまだチャレンジが難しいところ。登山におけるリスクを洗い出して、子どもたち自身がチャレンジするというアドベンチャーの本質に何度も立ち戻って考えた。伴走してくれているガイドや、一緒に登山を担当するあすこま(澤田)、ようへい(佐々木)、りんちゃん(甲斐)に想いを聞いてもらい、子ども一人一人の現在地を想像しながら。
そして、
第一回(5月):山と仲間と出会い、地形・地層・動植物などいろいろな視点を持って歩く。
第二回(7月):自分たちで選んだルートを、仲間と共に歩く。
第三回:自分たちでチャレンジしたいことを見つけ、自分たちの登山をデザインする。
という構成にすることにした。
5,6年生の第一回目の登山では、ガイドのくわっち(桑田慎也さん)に浅間山山系の自然や地形・地質について事前学習をしていただいた。山で出会える景色や動植物、地形や地質と、地球レベルでダイナミックに変化してきた火山の歴史を紐づけて、解き明かしてくださった。Google Earthで俯瞰して見たり、接近して見たり。これから出会う山について、さまざまな視点を手渡してもらった。登山は、運動量を伴うスポーツでもある。実際に山を歩いている時は自分と向き合う部分も大きく、息が上がっている時に、伝えるのは難しいこともある。でも、さまざまな視点を持って山を歩くと、格段に見える世界が広がり、見えている世界だけでなく、地中から上空まで、深く山と出会うことができる。
そして、登山当日には、子どもたちに地形図を手渡し、次のように伝えた。
「夏の登山では、登山計画をみんなに作ってもらい、下見もみんなに行ってもらおうと考えています。自分たちで地形図を読んで、地図から読み取れることと、実際に歩いて感じる勾配や距離感など自分の体を通して感じることを繋げながら歩いてみて。」
「下見に行って、登山計画を作ってみたい人は、グループの他の人の様子も気にかけてみたり、ガイドさんがどんなことに気をつけて先頭を歩いているかも見てみるといいね。」
山を登り始めてみると、地形図を手にしたことで、子どもたちの意識が大きく変わったことに気がついた。「いまどこー?」「あとどのくらい?」「もう着く?」は、子ども登山の常套句と思っていたけれど、そんな言葉が出そうな時に「地形図見てみようか!」と声をかけると、そこまでの道のりも、この先の道のりも一目瞭然。緩やかな道の先に、険しい道があるとか、崖を下るようなところがあるとか、自分で地形図を読み取って、見通しを持って歩くことができる。ガイドや先頭を歩く人に連れていってもらう登山から、自らが歩く登山へ、登山との向き合い方が大きく変わった瞬間だった。プログラムの設計の仕方や、地図というアイテム、大人の関わり方で、これほどまでに子どもたちの気持ちや行動に変化があるとは、想像以上だった。登山において、「自分の足で歩く」ってこう言うことかと大きな気づきをもらい、「子どもたちの手で」に、とことん伴走すると私の覚悟が決まった。
第二回夏の登山まで2ヶ月。下記の役割に分かれて、準備を行なった。
登山計画・下見 | シンタロウ・ノブ・コウセイ・カナエ・トシ・タイガ |
しおり作り | メグ・ナコ・ハナコ・ユア・アカリ・カリン |
生き物・自然調べ | アラタ・(か)ソラ・(や)ソラ |
登山計画・下見の担当6名は、「行先は、北八ケ岳。宿泊場所は、麦草ヒュッテ」の唯一決まっている情報から、登山マップを見て、どの山に登ろうか。今回はどんなチャレンジをしようか。と考えていった。同じルートでも、どちら回りで歩くかによって難易度は変わるので、地形図とコースタイムを見て。そして、ルートが決まったら、ガイドのおすぎ(杉山隆さん)と下見へ。
日程の都合で、1泊2日の行程の半分しか下見をすることはできなかったが、おすぎの言葉に耳を傾け、「どんなことを考えながら歩けばいいのか?」「個人とグループで歩く時の違いは?気を付けることは?」「ちょうどよい休憩の頻度や時間は?」など、どんなリスクが予想され、それをどう判断していけば良いのか、実際に歩きながら考えた。
「みんなに共有する時に写真があったらいいね」と、撮影しながら歩いたトシ。ガイドや宿の方からお聞きした話をメモしていたノブやタイガ。「今日聞いたことや見たことを、今度は僕たちが伝えるんだよなぁ」と呟きながら、一人一人が、自分たちが仲間を連れて歩くんだ!という自覚が芽生えた下見だった。
夏の登山直前の共有時間。しおり担当の6名は、しおりを印刷して配布。生き物・自然調べの3名は、八ヶ岳に生息する生き物のスライドを作って、全体に共有してくれた。同じことを大人が準備しても大して響かないと思うが、仲間が時間をかけて準備してくれたことが分かるから、「ありがとう」「楽しみになってきた」「早く行きたい」など、気持ちがこもった言葉が自然と出てきたのだろう。
子どもたちを下見に連れて行くとなると、「何を子どもたちに手渡し、何は手渡さないのか」と検討を重ねたり、下見の下見に行ったりと、何倍もの手間と時間がかかった。時間とコストを考えると決して効率が良いものではないが、夏の登山までのプロセスと、実際に山で見られた子どもたちの行動や表情から、手間をかけた以上の価値があったと思う。仕事は準備8割と言うけれど、私の感覚としては、準備に9割5分くらいの熱量を注いでいた。そのぐらい準備の段階で、子どもたちの“自分ごと”になっている手応えがあったし、彼らならきっと自分たちの力で乗り越えられるだろうと信じられていた。
実際、夏の登山当日には、スタッフもガイドも必要ないのではないかと感じるくらい、下見担当の6名がリーダーシップを発揮し、仲間を気遣いながら歩いていた。6名の中でも、先頭を交代しながら、リーダーとフォロワーとして助け合いながら歩く姿が見られたし、下見以外の仲間にも、下見担当の6名をリスペクトして思いを受け止める姿があった。
どれだけシュミレーションしていても、自然の中では計画通りに行かないもので。今回も、グループの人数が増えたことで、下見よりも時間がかかり、ルートの変更を迫られた。体力に自信のあるタイガやシンタロウは、計画を達成したい思いで、「先に進みたい」と言った。一方、荷物の重さに体力を消耗していたカリンや、足に不安のあるアカリは、迂回ルートを希望した。ガイドのおすぎから提示された「全員が安全に、16時までに山小屋に到着すること」という条件と、ここまで予定より1.5倍の時間がかかっていること、この先の道のりと仲間の体調や体力を考えて、迂回ルートを行くことになった。天候や安全など誰もが納得せざるを得ない条件を共有し、時間も迫りくる中、全員が納得する答えを出した。このような意見が分かれる状況は日常でもあるけれど、自然の中では、もっと逃げも隠れもできない状況を強いられ、真っ直ぐ仲間と向き合わなければならないから、一人一人の思いや働きが試され、引き出された。
9割5分の準備をしたつもりだったけど、自然との偶然の出会いや、子どもたちの関係性の変化によって、今回もまた予想できないドラマが待っていた。迂回ルートを選択したことで、「この道を冬にスノーシューで歩いてみたい!」という考えもしなかった新たな選択肢に出会い、第3回登山は、冬の八ヶ岳にチャレンジすることに決まった。迂回することを選んでいなければ出会えなかった世界。そして、全員が納得して迂回ルートに進めなければ、冬の八ヶ岳への期待を共有することもできなかったかもしれない。計画を変更することは、挫折や失敗ではなくて、計画をその都度見直し、その時考えられる最適な答えを見つけるということ。こんな予測不能な状況を共有し、一緒に乗り越えられることも、アドベンチャーの醍醐味だ。
一人一人にドラマがあり、輝き、成長しているし、グループとしても熟成されてきている。冬のスノーシュー登山では、どんな世界が待っているのだろうか。「一緒に冒険させてくれてありがとう」そう思いながら、子どもたちと山でどっぷり過ごすひとときを味わっている。
7,8,9年生の登山も、10月の登山を終えたら書き残したいと思います。
生き物たちのドラマに魅せられて、軽井沢で森のガイドを15年。子どもたちと自然を見続けたくて軽井沢風越学園へ。学園の森の保全しながら、子どもたちと自然の不思議や面白さを見つけていきたい。幼少期は、近所で評判のお転婆娘。実は、冒険や探険に誰よりも心躍らせている。
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