風越のいま 2024年2月9日

なるべく正直に話してみる

岩瀬 直樹
投稿者 | 岩瀬 直樹

2024年2月9日

「ゴリさん、ちょっと相談したいことがあるんだけど。」
ある日の放課後にマレ(8年生)とエナ(8年生)に声をかけられた。

学校づくりのさまざまな企画に参画し、つくる楽しさを実感している2人。アウトプットデイのクロージング(閉会式)の企画運営チームにも関わっている。チームのメンバーはほかに、えっちゃん(6年生)、けんちゃん(6年生)、コウセイ(5年生)。どうやらチームがうまくいっていないらしい。

「年上だから遠慮されているのかもしれないけれど、私たちが出した案でいつも決まっちゃう。納得しているのか、言えないのか気になってるんだよ」

「最初に『私たちはどんなチームになりたい?』を話したときは、みんなが意見を言えるように、とか意見を言えるようになりたい、とか言ってたのに全然意見が出ない。振っても出てこない」

「結局、2人でつくっている感じになっちゃってる」。

2人には、前回のアウトプットデイでも企画運営チームでの後悔があった。どうしても9年生に頼ってしまう、9年生のような動きができない、と悩んでいた2人。積極的に動きたい気持ちなのに、全体が見えていないんじゃないか、これで本当にいいのかと不安がやってきて、つい動きにブレーキがかかる。そんな自分を突破したい、今回は自分たちがプロジェクトをひっぱっていくんだ、そんな気持ちをぼくは受け取っていた。そして、そんな想いとともに、プロジェクトリーダーとして責任を持って走りはじめた2人。しかし思うようにいかない。

焦りや不安からか、えっちゃん、けんちゃん、コウセイへの不満のような気持ちが生まれ始める。ホワイトボードに2人の見えていることや気持ちを十分発散してから、「そんな感じなんだね。一番困っていること、願っていることって何なの?」と聞いてみた。

最初は、3人が意見を言えるようになってほしい!と相手に向かっていた矢印が、少しずつ自分に向き始める。2人だけで進行を相談することで、結果として3人に、あの2人に任せなきゃという気持ちにさせているのではないか。そうさせてしまっているのは、大きなプロジェクトを進めたことがないから焦って2人で進めてしまっているからではないか。

この時のことをエナは後でこう振り返っている。

初めてクロージングチームで集まってミーティングをした時は正直やっていける気がしなかった。理由として、今まで9年生に頼ってしまっていたことから、チームを進めていく、引っ張っていくことに慣れていない、何から手をつけていいか分からない、時間も少ないことへの焦りがあったからだ。

この時はなんだか自己中だったんじゃないかなと今の自分ではそう感じる。

自分だけが先走っちゃったり、不満を溜めてしまったり、チームでの一体感を感じられなかった。チームの子に「これやってくれる?」「これどう思う?」と投げかけることが多かったから、自分とマレだけで作っているって感じたり。

2人が振り返り、話し合い、たどり着いた願いは、「みんなが意見を言いやすい場にするにはどうすればいいんだろう?」だった。

問いが定まったので、解決策、解消策をどんどん発散してみる。進行を3人に任せてみる、アイスブレイクを最初にする、どんどん振って意見を言う機会をつくる、環境を変えてみる、チーム内でルールをつくる、毎回「意見を3回言う」など目標を立てて付箋に書く、いっそ2人で進めちゃう、などいろいろなアイデアが出てきたところで、エナがつぶやいた。

「あのさ、今日、ここで話していることを全部言ってみたらどうかな。」

私たちはこう考えているけど、3人は違うことを考えているかもしれない。言いたいことがあるかもしれない。自分たちも前まで言いたくても言えなかった。こんなふうに悩んでいる、こんな解決策を考えているけどどうかな、と全部話してみたらどうか。そして考えを聞いてみてはどうか、という提案だった。

マレは反対した。全部話して伝わらなかったらどうするのか、どう思われるかわからないよ、と。

なるべく正直に話してみる。これはとても勇気のいることだ。マレの不安もよくわかる。

ぼくを含めた3人のやりとりを重ねるうちに、マレも「そうだね、話してみるか!」とハラが決まった。ちょうどそこにえっちゃんが通りかかった。なんという偶然。えっちゃんに声をかけ、2人はやや緊張気味に、ここまで話してきたことを話し始めた。

「正直に全部話してみたんだけど、えっちゃんどう?」とエナ。ちょっと緊張感が高まる。えっちゃんは話しはじめた。「まず、こんなに私たちのこと考えてくれてたんだなーって、ありがとうーって思った。あのね、私このチームすごい居心地いいよ。これまでの企画チームの中で一番いいよ。」

えー!!とマレ。そんなふうに感じていたんだ。「意見も言いやすいし、言いたいことは言えてるなって思う。だから言いにくいとかないよ。でも振られて意見を言う方法だと、考えがまとまっていなくて、つまっちゃうときがあるから、振られるのはやだな。ホワイトボードに書いてから言うのとかいいと思う。」

同じ場を共有していても、そこで経験されていること、感じていることは人それぞれだ。正直に話すことを通して、3人が見ている情景がひとつになった瞬間。2人はとてもとてもうれしそうだった。

マレとエナは、次の日、コウセイ、けんちゃんにも伝えるところからミーティングをスタートした。それぞれ真っ直ぐな思いを受け取りあい、ここからチームは加速した。

けんちゃんはそのときのことをこう書いている。

エナ、マレがゴリさんに相談したことを聞いて、自分の中での意見を言う事の大事さが上がった気がした。やっぱりクロージングの前半のミーティングでは「この意見言わないほうがいいかな?」とか、「これは別に言わなくてもいいだろう」みたいな気持ちとか感情が働いて、話をふられたら話すみたいな感じになってた。

でも話を聞いたあと、別にクロージングに関係あることならしょーもない意見でも言っていいんだなって感じていろんなことを言えるようになった。

ちょっとぶっ飛んでるけど実現できたらいいという意見や、タイムスケジュールとかが言えて面白かったし良かった。しょーもないことじゃなくても言えるようになったことは多くなったと思う。

前までは人が(特に年上)言った意見に違和感を持っても発しづらかったり、反対意見みたいなのがあっても言えなかったけど、自分の思ったことをズバズバ言えるようになったから、自分にとっても悔いがなかったし、そのおかげで言わないよりも良いものができたんじゃないかなって思う。

なるべく正直に話してみる。
この価値を実感した2人は、真っ直ぐな思いをエンジンに進んでいく。

1、2年生がどう参加するといいか、悩みも含めてスタッフのいくらちゃんに話にいった。

クロージング(閉会式)をこんな目的でつくってきた。だからスタッフにはこうかかわってほしい、という真っ直ぐな思いを全スタッフの前で伝えた。スタッフとも想いを共有したことが、クロージングをより素敵な場にしたと思う。

クロージングはとてもステキな場になった。5人はやりきった。前日のリハーサルはうまくいかずに悔し涙を流すシーンもあったが、私たちは泣けるようなチームになったんだと嬉しそうだった。力強い変化を自分たちでつくり出したなと思う。

プロジェクト終了後のマレの振り返りを読んでみよう。入魂の6000字の振り返りから一部を抜粋してみる。

ファシトレで学んだことを沢山生かして、みんなを引っ張る良いお手本になるんだ!と思っていたけど、思うようにいかず、マレがプロジェクトリーダーで本当にいいのか日に日に不安が増していた。はじめて自分1人でまとめたり自分の言葉で話したり、今まで9年生に頼ったりしていたから慣れていなかったからだと思う。

あんまりチームが良い感じじゃないと感じていたエナと、2人で放課後に残って話したりした。

・マレの進め方についてのアドバイス
・緊張感じゃないけど、焦りがないからダラダラしている
・どんな風に進めていくべきなのか
・どうしたらみんなが意見を出してくれるのか
・みんなが意見を言いやすい場にするにはどうしたらいいのか
・当日までのやることは何か

2人で発散はしていたけど、なかなか解決策は出なかったし、それを本人(同じメンバー)に話そうとは考えていなかった。

ゴリさんにエナと、少し相談があるから時間くださいって、頼んで放課後に3人でミーティングをしてもらった。ゴリさんがファシリをしてくれて、発散だけじゃなくて、具体的な解決策、アドバイスが出てきた。

解決策を話し合っている時に、エナが「今話している内容を正直に話ちゃえばいいんじゃない?」って言って、マレはびっくりした。話したら、「傷つかないか」「関係が悪くならないか」「反対に気を遣って悪化しちゃうんじゃないのか」デメリットばかりが頭の中に沢山浮かんだ。でも、ごりさんはいいねって、その意見に賛成していた。最初マレは反対だった。

だけど、この悩みをエナと2人だけで抱え込んで、悩むよりも本人達に伝えてみて、チーム内の達成目標に近づけたら良いなって思えるようになったし、せっかく色々挑戦してみようと思っていたから、最後は賛成をした。その直後えっちゃんに伝えることができた。話してみたら案外すんなりと受け止めてくれて、「ミニホワイトボードを一人一人持って書くのよかったよ」「前回よりも全然話しやすい」「でもまだ言っていいのか不安になる時がある」とか率直な意見を言ってくれて、話してよかったなって思った。次の日も、こうせいくんとけんちゃんに伝えたら、同じく思っていることをそのまま伝えてくれた。

その日からみんなの雰囲気が変わって、すごくいいチームに近づいた。途中まではすごくしんどかった。でもこの悩み(チームがまだいい感じって言えない時)があったからこそ今のチームがいい感じ(みんなが気軽に意見をぶつけ合える仲)になった。そこを超えてからの作業のスピードはすごかったと思う。

今回沢山の学びがあったけど、1番印象的だったのは「正直に伝える」ことだと思う。今までだったら絶対に悩みを本人に話すことを避けていた。でも今回の話し合いでは、相手に正直に思った事を伝える場面が多かった。伝えてみて失敗することだってあると思うけど、今回はほぼ100%の割合で伝えて良かったなと思っているから、迷ったら正直に伝えてみるという事を今回学んだ。

敬意をもって、なるべく正直に話してみる。簡単そうでとても難しいことだ。

話してみなければわからない、きいてみなければわからないのに、その前にぼくたちは、あれこれ推測をしたり、決めつけていたり、諦めたりしてしまいがちだ。この推測というのがやっかいで、結果としてよりよくなる可能性を狭めてしまっている。

同じ場にいても、私とあなたが経験していること、見えていること、感じていることは実はちがう。だからなるべく正直に伝えてみる。伝え合ってみる。そうすると、お互いのズレが見えてくる。そして少しずつすりあってくる。「わかりあえなさ」であったものが、じわじわと「わかりあう」にかわっていける。ここから始まることはたくさんあるはずだ。それを支えるのは相手への敬意。子どもも大人も同じだ。2人の誠実な姿を見ていると、さて自分はどうなんだと突きつけられる。

先日、9年生のアオコから、「おわりの日(終業式)」の実行委員になったんだけど、どう進めようか迷っている、自分がリーダーになりそうなんだけど経験がないから不安、という相談がぼくにあった。

「それならちょっと前にプロジェクトリーダーをやった2人に相談したらどうかな」と話してみた。早速3人でミーティング。アオコのお悩みを聞いた後、2人はこういった。

「アオコちゃん、迷いも含めて正直に話すと動きが変わるよ」

#2023 #わたしをつくる

岩瀬 直樹

投稿者岩瀬 直樹

投稿者岩瀬 直樹

幸せな子ども時代を過ごせる場とは?過去の経験や仕組みにとらわれず、新しいかたちを大胆に一緒につくっていきます。起きること、一緒につくることを「そうきたか!」おもしろがり、おもしろいと思う人たちとつながっていきたいです。

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