2023年11月23日
第2タームに7・8年生が行った、「繊維」を中心に置いたテーマプロジェクト。10/5のアウトプットデイで一旦区切りを迎えた今、設計をしてきたスタッフの目線から1ヶ月半のテーマプロジェクトを振り返ってみようと思う。振り返ると、書き留めておきたいことが溢れ、前編・後編に分けることにした。後編であるこの記事では、テーマプロジェクトにご協力頂いた信州大学繊維学部・パタゴニア軽井沢ストアとの実践を振り返り、「社会とつながって学ぶ」ことを話題にしてみようと思う。
「ねえねえ、もい。なんで空気は通すのに、水は通さないの?こういう繊維があるおかげで、撥水性のある衣服も通気性が良かったりするのかな?」
「ずっとコットンはいい素材だと思ってたけど、たった一着で水を二千リットルも使うんだって。オーガニックコットンで出来ているこのTシャツは84%も使用する水を減らせるらしい!」
ホンモノに出会うことで、子どもたちの中で問いや気づきがものすごいスピードで生まれていく。同時に社会の問題に直面する。そんな「社会とつながって学ぶ」力を、子どもたちの姿から感じたテーマプロジェクトだった。
繊維と聞くと、パッと思いつくのは「衣服の繊維」だ。
実際にテーマ開きとなった初回の授業でも、「繊維」と聞いて子どもたちがイメージするものの多くは、綿や絹など衣服に使われている繊維だった。
そうであるならば、信州大学繊維学部を見学させていただくことで、繊維という素材が様々なものに使われていることを感じ、繊維に対する子どもたちの視野がグッと広がるのではないかと思い、第2タームではテーマ開きを行った次の授業で見学に出かけることにした。
長野県上田市にある信州大学繊維学部は国内唯一の繊維学部だ。1910年(明治43年)に上田蚕糸専門学校として設立され、様々な分野で繊維にかかわる研究・取組をなされている。
当日は繊維に関する展示・体験ができる「疾走するファイバー展」の見学、最先端の設備を備えた「Fii(ファイバーイノベーション・インキュベーター施設)」の見学、「真綿・蚕糸館」での見学・真綿づくり体験を行わせていただいた。
学校に戻り、子どもたちとどんな場面が印象に残ったかを振り返ると、それぞれの興味関心と重ねながら、大学での1日を過ごしていたことが見えてきた。
(子どもたち振り返りより)
♦︎綿って、普通に野菜みたいな感じで育てているんだな。
♦︎アラミド繊維という火に強い生地を使って消防士の制服は出来ている。この繊維を使って、何か作ってみたい。
♦︎炭素繊維は軽くて、強度が強い。飛行機のボディーにも使われている。学校に戻ったら調べてみたい。
♦︎水の中に垂らした油だけを吸収した繊維があった。どんな素材なんだろう?
♦︎完全無響室で自分の声や周りの人の声が不思議に聞こえた。どんな繊維を使っているんだろう?
信州大学繊維学部の見学で、特に強いインスピレーションを受けたチームがあった。
シンノスケ・ミオ・マナのチームだ。見学をしながら、むくむくと後半に予定されていたチーム探究でやりたいことがはっきりしてきた3人は、「蚕を育てて、繭を作ってみたい」「繭から糸を紡いで染色してみたい」という思いをいつの間にか案内してくださっていた職員の方に伝え、相談をしていたようだ。
学校に戻ってきて行われた「暮らしをよりよくしてきた繊維」の変遷(歴史)をチームごとに調査する学習でも、この3人は「絹」を取り上げ、絹や絹を生み出す蚕・繭について調査した。そしてチーム探究に向けて、森川学部長や伊藤技術長とやりとりさせていただき、蚕と繭をいただけることになった。伊藤技術長には蚕の飼育についてもレクチャーしていただいた。
繭を使った作品製作を主に担当していたマナの振り返りには、試行錯誤を繰り返して、繭から糸を紡いだ体験が語られている。
なんと、糸がとれました!!!!!
煮繭が成功して、すごく細い糸をとることができました。
温度の変更など、気をつけなくてはいけないところが多かったけれど、(失敗をした)その前とどう違うのかよくわからなかった。次はどうやろうかな。
信州大学の皆さんにサポートいただきながら、一通りの「やってみたい」を形にしていく中で、子どもたちが絹の素材の特性(光沢がある・肌触りがよい等)に実感をもちながら学んでいること、蚕から繭ができ、その繭から糸を紡ぐことで暮らしを豊かにする物が出来上がることに気づいた様子が振り返りの記述やアウトプットデイでの発表から分かった。アウトプットデイにはお世話になった信州大学繊維学部の職員の方にも来て頂いた。ちょうどその時は9月中旬から育てていた蚕がまだ繭になっておらず、本当に繭になるかが気になっていたシンノスケは5齢を迎えた蚕の飼育について、職員の方に相談させていただく場面もあった。
そして、もうひとつ。「繊維を使って、暮らしをよりよくしている」企業と出会うと題し、パタゴニア軽井沢ストアの末永さん・松澤さんにゲスト授業をお願いした。
パタゴニア軽井沢ストアは2023年4月に軽井沢駅前にオープンしたお店である。今回、授業での連携をお願いするに至ったきっかけは、私自身が軽井沢ストアオープン記念で開催されたフィルム上映会&トークイベントに参加させていただいたことにあった。パタゴニアが環境(延いては自分たちの暮らし)のために取り組まれている活動が今回の繊維と暮らしをテーマにしたプロジェクトにリンクするのではないかと思ったのだ。
パタゴニアは子どもたちにとっても身近な存在のようで、ほとんどの生徒がパタゴニアのお店の存在を知っていた。ただ、「繊維を使って、暮らしをよりよくしている」というテーマとパタゴニアがどう結びついているのかにはピンと来ていなかったようだ。
子どもたちが座った机の上には、これからの冬に大活躍しそうなウェアや、パタゴニアのロゴマークがついたTシャツなど、様々な製品が置かれていた。
末永さんと松澤さんはその製品に使われているオーガニックコットンとリサイクルポリエステルについて話してくださった。授業の中では、子どもたちが「コットンとオーガニックコットンの違い」、「ポリエステルとリサイクルポリエステルの違い」をチームごとに調べる活動も行われた。
ゲスト授業の前の衣服選択(技術・家庭科)を取り上げた活動で、「コットン(綿)」や「ポリエステル」という繊維や、それらが「天然繊維」「化学繊維」と分類されることを学んでいた子どもたちの中からは、「コットンは天然繊維と言うくらいだから、環境に良いものだと思い込んでいた。コットンが環境に与える影響がこれほど大きいと思わなかった。」と、それまでの学びに新たな視点が加わり、自分の考えが覆されたというような声も聞こえてきた。
(その日の子どもたちの振り返りより)
◆地球温暖化には関心があって、そこにどうやって貢献するかというのを考えていたけれど、「服」という観点から貢献できるんだなと聞いて、興味深かった。あと、地球温暖化の10%の原因は衣類業界から来ているのもすごく衝撃だった。地球温暖化を改めて身近に感じることができた。
◆聞いたことはあるけど何なのかは分からなかった「オーガニックコットン」。なんとなぁーく環境にいいんだなとは思っていたけれど、詳しいことは知らなかったので知ることができてよかった。殺虫剤を大量に使うってことは、よっぽど虫に食われやすいのかな?実際に育てて試してみたい!
◆リサイクル素材を使うというのは、過程にも時間がかかるし、作るのにも手間がかかって、それを商品化というか普通にいろんな人が手に取れるようにするのは結構難しいのだなと思いました。
子どもたちがその日に書いた振り返りを読むと、衣服に使われている繊維と環境問題に繋がりがあることに気づいた様子が分かる。また、パタゴニアが取り組んでいる活動の凄さと共に、私たちが製品の情報の一つとして受け取る価格の裏には、「地球を救うためにビジネスを営む」というパタゴニアの決意が込められているのだということを受け取った子どもたちが多かったように思う。
後半のチーム探究では、繊維を使ったろ過装置など、暮らしを社会全体の環境と捉え、環境により良いものを探究するチームが生まれたことにも繋がったような気がしている。
私は風越学園に来る前に、島根大学で半年間の社会教育主事講習を受け、社会教育士という称号を得た。その講習の中で、「人と人、人と活動を丁寧につないでいくプロセス」が社会教育であるという言葉がとても印象に残っており、今回の信州大学繊維学部・パタゴニア軽井沢ストアと共に授業をつくる時間も、そんな風に子どもたちと社会、社会と学び(活動)を丁寧につないでいこうという意識をもっていたように思う。
学校の中では持ち得ないひと・もの・ことを活用しながら、より子どもたちがリアルなものに出会い、そこから生まれる問いや気づきを見つめながら学んでいくことの可能性。
さあ、次はどんな人と出会ってみる?
どんなものを五感を働かせて、味わってみようか。
そして、一緒にどんなことを起こしてみようか。
そんなことを思いながら、日々社会の中でうごめいているものと出会っていきたい。
埼玉・秩父から山を超えてやってきました。美味しいものに何度も試しながら出会っていくことと、それを美味しく食べてくれるひとを眺めることがすきな時間。風越での時間もそんな場面に沢山出会いたいな〜
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