2023年4月21日
真っ黒な表紙の本。表紙の7つのひらがなは、いまにも動き出しそうだ。
方向を指し示しているような「み」
おおきく口を開けているような「ら」
すっと立っているような「い」
どっしり座っているような「を」
何かをつかんでいるような「つ」
歩いているような「く」
力こぶのような「る」
みらいをつくる。
この本のタイトルだ。
この文字は、軽井沢風越学園の一期生がつくった。
真っ黒だと思っていた表紙は、手にとると真っ黒ではないことに気がつく。
浮かび上がる模様。模様の種類は1000、この本は一冊ずつ模様が違う。
一つとして同じ表紙はない。
一つとして同じみらいがないように。
未来は真っ暗だ。明るい未来が待っているわけではない。「いいこと」は用意されていない、希望を誰かが置いてくれているわけでもない、思い通りにならないことのほうが多いはず。そんな真っ暗な未来をどう歩んでいくか。大丈夫、これまで積み重ねてきた経験と紡いできたいろいろな人との関係が、一人ひとりの手に握られている懐中電灯みたいな光になって、暗い未来の足元を照らす。暗い未来を歩いていこう。いまこの瞬間の歩みの積み重ねが過去になる。(『みらいをつくる』P.411より)
そう、未来は真っ暗だ。だから真っ黒な表紙の本を、軽井沢風越学園のはじめての卒業生24名に贈った。
この本の制作は、一年前の2022年の春にこんなルールをベースに始まった。
・24人の9年生を読み手とした本をつくる。
・9年生が未来にこの本を手に取った時に、その日を照らす新しい発見があるような本にする。
・これまでのかぜのーとの記事を中心にし、編集する。
・スタッフにも内緒でこっそり進める。
・卒業式の日に贈る。
・書店販売はしない。
軸となるのは、もちろん「つくる」だ。そこから章立てを仮置きし、かぜのーとの記事をピックアップし、章立てを変え、またピックアップする。これをしっくりくるまで何度も繰り返す。写真を選び、全体を整えていく。僕は、「はじめに」と「おわりに」と各章のはじまりの言葉を書き、「卒業証書」という記事を書き下ろした。各章のはじまりの言葉は難産だった。いろいろブレた言葉を綴っていたのだが、「ここは何のためにあるんでしたっけ?」という惣一さん(後述)の投げかけをきっかけに、呼吸とメッセージが整えられていった。
最終的に、章立てはこうなった。
はじめに
第一章 風越がはじまる
第二章 風越をつくる
第三章 わたしをつくる
第四章 わたしたちがつくる
第五章 冒険する
第六章 みらいをつくる 「 」になる
おわりに
本の制作を進めながら、軽井沢風越学園第一回目の卒業式の日のことを何度も想像し、その度にうれしさとさびしさが絡み合った複雑な感情になった。涙もこみあげてきた。そして、いよいよ2023年3月21日、卒業の日。あさまテラスに「みらいをつくる」を並べた。卒業生たちは、表情の違う本をじっと見つめ、そっと手に取り、しっくりくる一冊を選んでいった。真っ暗な未来を一人ひとりが手元の明かりで照らして歩んでいけますように…。
この本の制作は、あさま社の坂口惣一さんが全力で支えてくれた。そして点睛開眼の装丁は、矢萩多聞さんがおもしろがりながら力を振るってくれた。1000冊をすべて違う表紙にしたいというリクエストは、長野県松本市の藤原印刷さんが快く引き受けてくれた。そして、約500のかぜのーとの記事から記事をピックアップして編集する大仕事は、かぜのーと編集部の辰巳さんとひかちゃんが担ってくれた。本当にありがとうございます。
何をしているのか、何が起こっているのか、ぱっと見てもわからないような状況がどんどん生まれるといいなと思っています。いつもゆらいでいて、その上で地に足着いている。そんな軽井沢風越学園になっていけますように…。
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