風越のいま 2023年3月21日

ウロウロ、ブラブラする風越のみかん

奥野 千夏
投稿者 | 奥野 千夏

2023年3月21日

風越幼稚園にはクラスはなく、学年のチームと異年齢の暮らしグループ(ホーム)がある。今年度の年少チームは子どもたちと「みかん」という名前をつけた。みかんの人たちはウロウロ、ブラブラ探索しながら、日々おもしろいことを探してきている。私自身も彼らと一緒にこの世界に出会い直し、新たな発見や今まで見えてなかったものに気がつくことが多い。

みかんの人が入園してきて間もなく1年。四季の移ろいを感じる風越の森、ライブラリーやラボがある迷路のような校舎、3歳から15歳の子どもたち、個性豊かなスタッフや保護者に出会い、彼らの世界は広がり続けている。

幼稚園は荒天でない限り、ほぼ毎日野外で過ごしている。幼稚園の人たちが日々暮らす場所は、たくさん走り回ったりすることで森の土が踏み固められ土地やそこで生きている植物への負荷も大きくなる。理由はその一つではないけれど、毎年幼稚園の暮らす場所を遊牧民のように変えてきている。

今年度はラボ前の芝生広場の環境づくりを進め、そこに拠点を作ってきた。すると、これまで中と外とくっきりと分かれていた幼稚園の人と学校の人が交わる場面が見られるようになった。コロナ対策で学校の人たちもお昼を外で食べるため、幼稚園の人たちが遊んでいる庭と校舎の間のラボ前やデッキに出てくる。すると、遊んでいるみかんの人たちがお昼を食べているお兄ちゃんたちに近づいていくのだ。思春期のお兄さま方も嫌がるでも無視するでもなく、その場を一緒に過ごしている。

混ざることをねらって作った環境や機会ではないが、こんな風景が日常になってきている。

毎日同じ場所で昼食を食べる人が多いので、すぐに顔見知りになりそばで遊んでいる

9年生のシュウゴはいつも幼児がお昼を食べている場所にお弁当を持ってやってくる

先日、あるお母さんが「年少のうちの子が中学生とすごく自然に話していて、風越でなければそういう姿は見られなかっただろうなと思ったんです。」と話してくれた。風越では、日常的な光景なので気に留めてなかったが確かにそうなのかもしれない。

生き物好きなお兄ちゃんたちがお世話している水槽エリアはみかんの人たちも大好きな場所。9年生が年少児に魚のことを教えている

ついこの前も、午前授業で帰っていく学校の人たちとお散歩から戻るみかんの人たちがすれちがった。

「おにいちゃんたちどこいくの?」「もうかえるの?」と声をかけるみかんの人たち。
「おかえり~。」「きをつけてね~。」「ばいばーい!」と挨拶する学校の人たち。

思春期真っ只中と思われるお兄さん、お姉さんも自然と声をかけてきたり、屈託なく話しかけていく小さい人にちゃんと対等に答えている。

「アルちゃん、あのおねえちゃんともだちなんだよ。名前はしらないけどね。」

秋ごろ、学校の人たちがピザ窯づくりをラボ前の庭でしていたので、そのまわりをみかんの人たちがブラブラしていたり、興味を持って近くで見たりしていた。ピザ窯に屋根をつけるために、ラボ前で板をカンナがけしている人がいた。するとその周りにもみかんの人たちが集まってきて、じっとその様子を見つめていた。こぐまさん(岡部)がカンナをかけている人に「さわって平らになってるか確かめてごらん。」と声をかけると真っ先に触りにいくみかんの人たち(笑)。

この様子を後ろから見ていて、開校前に描いた情景に近いなぁと感慨深かった。幼稚園から中学生までいる風越の日常ってどんなだろうと想像していた時に、大きい人たちがものづくりしたり、実験したりしている様子を小さい人が見ていたり、そのまわりで遊んでいたりという情景を私は思い描いていたのだ。

ラプンツェルの長い髪と魔法の杖を持って見学しているみかんの人たち

昨年度末から風越のカリキュラムのことをせっせ、せっせと考えてきているカリキュラムディレクターの私が言うのはあれですが、カリキュラムにはならない日常の小さな出来事にその人のこれからを支えてくれるものがあるんじゃないか、とみかんの人たちのウロウロ、ブラブラしている姿を見ていると思うのです。

その人の中に残っていくものって、授業で教わったことや楽しいイベントごとじゃなくて、休み時間や放課後の自分たちでつくっているすきま時間だったりするんじゃないかな。まぁ、幼稚園の人にとっては休み時間や放課後って捉え方自体がないのだけれど。

異年齢で場を共有することの良さって、今年は副産物的に私には見えているのです。
あえて、同じことを一緒にしなくても、存在を感じるくらいの近さにいること。見えるところでそれぞれ違うことをしていても、その人のタイミングで興味をもったり、関心を寄せたり、関わったりすることもある。

ブラブラしている時期の人たちにとって、見える範囲でいろんなものに出会えたり、そこにその人なりに参加出来たりする環境って大事そう。見えてるからこそ、環境から誘われることがある。おもちゃ屋時代の私のお師匠さんは、ままごとのキッチンコンロの下の収納について、「扉があって中が見えないのと、扉がないのとでは大きな違いがある。この時期の人たちには見えないものはないものと一緒。」と言っていた。

せっかく、いろんな年齢の人、おもしろいことをしている人たちが集まっている風越。小さい時からその存在を感じたり、出会える場づくりをしていきたい。

それには「間(あいだ)」がキーポイントな気がしています。

外と中の間、幼稚園と学校の間、遊びと学びには間はあるのか…。遊びの3つの間(サンマ)はよく聞くけど、それに2つプラスして5つの間(ゴマ) 空間、時間、仲間、手間、「間」というのもあるらしい。

最近、「間」が気になっています。

#2022 #幼児 #異年齢

奥野 千夏

投稿者奥野 千夏

投稿者奥野 千夏

自然体験活動・環境教育のインタープリターから保育者へ転身。絵本とおもちゃの店の店員や、保育雑誌のライティングに携わった経験も持つ。軽井沢風越学園で新しい教育づくりに関われることにワクワクしています。

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