風越のいま 2022年12月18日

保護者といっしょに学校をつくるって、どういうこと?

辰巳 真理子
投稿者 | 辰巳 真理子

2022年12月18日

毎年1〜3月頃は、年度末に向けてなにかが盛り上がっていく子どもたちやスタッフを横目に、私はやや冬眠モードで次年度に向けた仕込みをしています。開校2年目である2021年をふりかえって、何か打ち手を考えたいなと思ったひとつが、保護者コミュニティの耕しでした。

  • 開校から2年経っても出会えていない保護者が多い。新しく出会う機会が限定的で関係性が固定化してしまっている。
  • 困ったときに助けあえたり、ちょっとしたやりとりで解決できるようなコミュニケーションがオンラインのコミュニケーションプラットフォームだけでは起きにくい。
  • 子どものトラブル時以外で保護者とスタッフがなにげなく出会って話せる機会が少ない。
  • なにかしら学校づくりに関わりたい気持ちのある保護者は多いが、「子どもを真ん中に」を優先すると、遠慮気味になる。
  • 子どもだけでなく、大人も「〜したい」が大事にされる・「わたしをつくる」機会があると、子どもの「〜したい」に伴走するヒントがあるのではないか。

こんな問題意識や仮説をスタートに、どうしたら気軽に学校で新しい大人の関係性を紡いでいけるか妄想し、2022年6月から始めたのが「裏風越」です。

ホームページの冒頭には、こんなふうに書きました。

軽井沢風越学園では設立準備の頃から、一つの学校をつくるというよりも、学校をハブとしたコミュニティや人の流れをつくる情景を描いていました。今年度の試みとして、まずは軽井沢風越学園の保護者・スタッフによる「大人が学ぶ・大人が遊ぶー裏風越」をはじめます。
誰かのお母さん・お父さん、ではなく、一人の大人としての出会いやつながりをつくりたい。
保護者のみなさんの得意や趣味、仕事、時に偏愛によって、コミュニティの広がりと深まりを生み出したい。
大人が本気で遊び、本気で学んでいる姿を子どもが横目で見ているような風景をつくりたい。
そんなことを願っています。

どんな企画が集まるだろうかと落ち着かない気持ちがありましたが、まずは待ってみようと思い、最初のうちは個別に声をかけて企画の仕込みはしないようにしようと決めました。機会や出番があれば、おもしろがってくださる保護者はきっといるはずという漠然とした信頼感はあったのです。企画する保護者(ナビゲーターと呼んでいます)にとっても、自分が差し出したものにどんな人が何人くらい参加してくれるのか、きっとドキドキだろうと思います。

じわじわと企画が増え、半年間で24の企画に約150名の参加がありました。こういうことやってみたかったんです、とナビゲーターがぽろりとつぶやいたり、参加した保護者がおもしろかったからぜひ行ってみて!と別の保護者を誘ったり、参加した後に私もこんな企画やってみたいな、という声があがったりと、裏風越によって新しい関係性の循環が生まれつつあることをうれしく思っています。

初回企画は、グラウンドの一角でテントサウナを楽しむ「ととのうのむこうがわへ」

「大人のためのおはなし会」として素話のおもしろさを広める会を継続実施中

スタッフ・りんちゃんの国語の授業を受けてみよう。私も久しぶりに暗誦し、記憶力の限界を感じました。

子どもたちもチャレンジしている岩場でロッククライミング。全力出しきって悔しがるみなさん、すてきでした。

今後も続けていく上で考えているのは、次のようなことです。

  • (当たり前ではあるが)子どもたちが校舎にいる時間に参加したり企画できるスタッフが限られていて、保護者とスタッフの出会いの場面はつくりきれていない。また大人の姿を子どもたちが横目で見るような状況もつくりづらい。
  • なるべくいろんな曜日や時間帯での実施を試したいが、どうしても平日の日中での実施が多くなる。仕事で都合がつきにくい保護者が疎外感を感じていないといいがどうだろう。
  • 今後どんなふうに運営していくと、より保護者以外の地域の人たちにも広がったり深まったりするだろう。

一方で、こういうことを起こそうとねらいすぎない、意図を持ちすぎないようにしたいなとも思っています。最低限の土壌は準備しつつ、余地があることで生まれることを信じてみたい。保護者がつくり手である実感を余計な働きかけによって奪いたくないのです。
どんな方向でよりよくしていくかを掴むためにアンケートをとってみようかと検討したのですが、裏風越はサービスを提供したいわけではないなと思い直して、やめました。企画を通じて伝わるナビゲーターの熱量は、いろんな形で参加者にじんわりと伝わり受け取ってもらえている手応えが少なからずあり、まずはやめずに続ける、をやってみようと思います。

また、もちろん裏風越以外にも、いろんな場面で保護者にプロセスを開きながら、対面での関わりの接点を増やそうとするスタッフの動きや、保護者発で定期的に集まりを呼びかける動きがあります。

1,2年生は、スタッフのミーティングの一部をオープンにしてみようという試みを今年の4月から積み重ねています。

3,4年生では、わたしをつくる時間に「わたつくサポーター」として保護者数名が子どもに伴走する取り組みを試験的に始めていたり、5,6年生では「わたつく味見の会」として、子どもたちの様子を見てフィードバックをもらう会を設けたり、7,8,9年生では9月から月1回保護者会を実施しています。

9年生の卒業探究では、それぞれの探究テーマをシェアし、そのテーマに詳しい方、愛情と情熱を持って取り組んできた保護者や保護者とつながりのある方と出会い、インタビューをしたり、アドバイスをもらったり、一緒につくったりと、様々な動きが出始め、その後の探究に繋がっていきました。
例えば、漫画制作に取り組み続けるウタロウに必要なのは、担当編集的な存在では?とサポートを名乗り出てくださった保護者がいました。他にもアロマオイル、起業、料理などさまざまなテーマに伴走する保護者が続き、好きや得意でスタッフ以外の大人と子どもが出会い生まれることに可能性を感じています。

昨年から続いている森の日(第3木曜日に実施)や、いのちのつながりづくりプロジェクトで開催するワークショップなど、外環境整備の活動に関わってくださっている保護者、これからの放課後村をどんなふうに運営していくとよいのか考えて動き続けてくださっている保護者などさまざまな動きがあります。

プロセスや起きている課題についてもっと開示してほしいという保護者がいれば、保護者の対応にエネルギーを割くよりも子どもたちとの時間やそのための準備に時間を使ってほしいと願う保護者がいて。ある動きを始めようとする保護者がいれば、その動きは不必要なんじゃないかと案じる保護者がいる。その間の調整弁的存在としてスタッフが働きかけるわけではなかったり、やってみる前に止めない、まずはやってみようとするのが風越学園の特徴かもしれません。改めて、保護者といっしょに学校をつくるって、どういうことだろう?と考えています。
お互いを知らずして、いきなり一緒にはつくれない。たとえ時間がかかったとしても、それぞれの人の存在や立体感を感じられるからこその何かが生まれるには、いろんな人が関われるいろんな場を積み重ねていくしかないんだろうなと今は思っています。

#2022 #保護者

辰巳 真理子

投稿者辰巳 真理子

投稿者辰巳 真理子

変化の大きい立ち上げ期を好み、これまで様々なプロジェクトの事務局に従事。組織は苦手だが、人は好き。おいしいものと日本酒も好き。長年の探究テーマは、聴くことについて。広報、ステークホルダー管理、各種イベント企画・運営などを担当。

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