風越のいま 2021年10月24日

「友だちが増えた」の裏側にあった暮らし

勝山 翔太
投稿者 | 勝山 翔太

2021年10月24日

「友だちが増えた!」
これは先日の面談のカンファレンス(※)で子どもから出た言葉だ。

この言葉も嬉しいが、そのベースに自分(たち)でつくる暮らしがあり、その中で共に生きる仲間に出会い、友だちと呼べる存在が増え、暮らしの中にどこか心地よさを感じている姿があることがなにより嬉しかった。

※年2回ある面談の前に子どもと対話をしながらここまでをふりかえり、それぞれの言葉で語る時間をとっている。生活や学びのことや自分が楽しかったこと、やってみたいこと、困っていることなど、じっくり話す。

”やってみたい”からはじまるのは大人も同じ

前提として伝えておくと、僕は今年度をやってみたかったことからはじめることができている。それは1,2年生とも暮らしを一緒につくること。

幼児教育の現場にいた頃は「これからこの子たちはどんな暮らしをしていくんだろう」なんて気になりながら小学生になる子どもたちを見送ってたけれど、風越学園では1年生はもちろん中学生まで自分次第でずっと関わっていくことができる。昨年度、年長児に主に関わっていたこともあり、この子たちが1年生になった時、どんな暮らしをつくっていくと幸せなのだろうか…と考えたことが、はじまりだった。

思い切って小学校の方に関わってみたい。でも昨年の1・2年やスタッフの様子をみていて、そこで起こっている試行錯誤を自分自身ができる自信はない。それに小学校で担任をしたこともなければ、学びというものもわからない。それでも、もしかしたら1・2年生の暮らしと学びを一緒につくることで、幼児の暮らしの見え方や自分に変化があるかもしれない。…と打ち寄せる波のように、あーでもないこーでもないと悩んでいたが、とりあえずやってみたい!と思い切って前期のスタッフに相談してみた。

「やってみたらいいじゃん!」
「私もそうだし、風越なら困っていることあれば助けてくれるよ」
「私は幼児の方いってみたいなって思ってるよ」

と仲間のあたたかい言葉で背中を押してもらった。そんな背景もあり、1・2年生と一緒に暮らしをつくってみようと決めた。

リョウセイ、シモン、コウタの池作り

ここまで順風満帆だったわけではなく、想像していた以上に悩み、発見し、面白がりながらも葛藤した7ヶ月だった。

でも悩んだのは大人ばかりではなく、子どもも一緒だった。今年度の前期は、暮らしを中心に据え置き、1・2年生も生活をぐっと野外に移したのだが、これによって昨年度とはまったく違った生活になった新2年生は、4月当初「中に入りたい」「外でなにしたらいいの?」とどこで何をしたらいいのか迷っていた。

そこから少しずつ「西の国のはじまり」に載っているようなことがはじまり、午前にたっぷりと遊び、午後に学ぶ。そんな一日の中で誰かと遊びを見つけ、ときに本物に出会い、心動かされる体験を通して学びの種ができていく日々を過ごしてきた。

話は、はじめの言葉に戻るが「友だちが増えた」と話したのはリョウセイ、シモン、コウタの3人だ。この3人はポケモンの話ができる!とつながったメンバーだったが、話しているうちに同じ興味で話せること、違う刺激をくれる関係がよく、とにかく毎日朝から帰りまで、ずっと一緒に過ごしていた。

夏になると、ポケモンへの思いは残しつつも、3人の興味は生き物に移りはじめ、近くのアイスパークで捕まえたオタマジャクシやヤゴ、コオイムシ、ミズスマシを飼育ケースで飼いはじめた。

そんなある日、3人は「池つくってみたい。飼育ケースじゃなくて大きい池!」と池づくりをはじめた。

「どうやって池つくる?」コウタの問いかけで、シモンもリョウセイも悩む。「ん〜、本で調べてみる?」とシモン。ひとまず、ライブラリーへ行き、手当たり次第関係しそうな本を手にとって読み漁ってみる。

「こんな池どう?」「もっと大きいほうが良い!」「植物があったほうがいいんじゃない?」…と、どうやらビオトープ的な池をつくりたいことになったらしく、イメージはなんとなく固まった。だが、つくり方がまだ、わからない。悩んだシモンが「リリー、池作つくりたいんだけど、ただ穴掘るだけだと泥水になりそうだし、汚くなるから嫌なんだけどどうしたらいい?」と相談をしてきた。『まずやってみたらいいのにな〜』と思いながらも、3人の話を聞きながらイメージを言葉と絵にしてみた。まだまだイメージの湧かない3人はとりあえず、土を堀りはじめた。そこに、どこかへ遊びに出かけていた1年生のリンが通りかかった。

「なにしてるの?」「池だよ。池つくるの」と答えるコウタ。「池つくるんだ。池はね、ビニール敷いて水入れればいいんだよ。そうすれば、きれいな水になるんだよ」以前、池をつくったことのあるリンは3人にアドバイスをくれた。「そっか!ビニール敷けばいいんだ!」と3人は顔を見合せた。

どんなビニールを敷くか調べ、池には厚手のビニールシートが良いことがわかった。ここから、スピードがぐっと上がり一気に池づくりが進む。 



見通しが持てた3人は、毎朝スコップを片手に西の国へ。池の形をイメージしながら土を堀り続ける。凹凸があると破けてしまうので、石を丁寧に拾ったり、何度も跳んだりはねたりして目一杯、土を踏み固める。さらに、シートが破けないように、いらなくなった布団を敷き、防水シートをかけた。ここまでを4日間かけ仕上げ、池の形が見えたところで、水を運びどんどんいれる(実はこれが一番大変だった…)。

さあ、ついに完成!次は生き物だ!というところで、ここまでのことを見守っていてくれた、ゆっけ(井手)が「カエルは生まれたところに戻ってくる。知らないところに急に連れてこられたら幸せかな」という話をしてくれた。

はじめは池をつくって、生き物を集めてくれば良いと思っていた三人。ゆっけの言葉から、生き物にも自分たちと同じように家族がいて暮らしがあることを感じた様子。人間の勝手で連れてくることは生き物にとって幸せなのか、といしばらく悩み続けることに「どうする?」「僕は連れてきたいけど、生き物にも家族いるし…」「でもどうやってヤゴとか入れたらいい?」3人はしばらく話し合いを重ね、生き物をどこかから連れてくるよりも、自然に生き物が集まる池をつくれるといいんじゃないかという思いに徐々に変わっていった。

「これじゃまだ生き物はこないね」「もっと長い草があった方が捕まりやすいんだって」「じゃああの草もってきて植えよう!」より自然に近い池をイメージし植物を移植し、ついに池が完成したのは、やってみたいの言葉から5日後のことだった。

「できたー!」完成した池を前に満足そうな3人。
「この池に入らないでってみんなに伝えないとね」とリョウセイ。
「ユウジロウとかはいりそうだね」と笑いながらシモン。



その後の話…
しばらく生き物が集まらず濁っていたが、久しぶりに池をのぞきにいくと…そこには透き通ったきれいな池。水面には木々がうつり込み鏡のような池に変貌を遂げていた。

池にじっと目を凝らす3人。

「…!見てみて!なんかいる!」
「どこどこ?…わっ、アメンボいるよ!」
「ミズカマキリもいる!ヤゴも!」
「どこかから来たんだね〜!」
「どうやって来たんだろ」
「飛ぶのかな?」

とその時。一匹のトンボがやってきて、尻尾を池にちょんちょんと繰り返しつける。

「卵産みに来たのかな?」
「来年はヤゴとかいっぱいかもね!」
「これ後期になっても大切にして、今度は川もつくってあげたいね」
「いいね!続きやろうよ!」

どこにも載ってないからこそ

実は面談のカンファレンスでのリョウセイの言葉には続きがある。

「友だちができたし、あれはなんか仲間って感じな。そういえば、池もすごかったよね!あれってさ、今思うと池プロジェクトだったのかも。なんかそんな感じだな。でも幸せだな〜。それに今も楽しいんだよね!あのね…」

次々に溢れてくる言葉に思わず幸せな気持ちになりつつ、これからのことをなんとなく考えている自分がいる。この子たちが後期になった時どんな暮らしをしていると幸せなんだろう…。

漫画、宇宙兄弟(小山宙哉/講談社)の中でこんなセリフがある。

知りたいことのおおよそ半分はネットや本で調べればわかることだ。どこにも載っていない”もう半分”を知るためには…自分で考え出すか経験するしかない。

今やっていることが正解かどうかわからないけれど、子どもの姿や言葉から気づかされることってたくさんある。彼らは、今もこれからも自分(たち)の暮らしをつくることで、自分の手の中にあるものを大切にしていくだろう。

「本物の池とか川つくった!水抜けてなくて成功!生き物集まってきた。来年も残したい。今年はかなりいい感じ。幸せな感じ。」
「後期になると、どんなことやるんだろう。中にいるイメージだな。中にいるだけだとつまらなそう。休み時間は外に出たい。学びで外出るとかしたいな。」
「プロジェクトをやってみたいと思ってたけど、実はもうやっているのかも。」

子どもが語る「やってみた」は面白く、溢れてくる話を聞くと、僕自身もワクワクする。そこには次の”やってみたい”のタネがもう育まれている気がする。

#1・2年 #2021 #前期

勝山 翔太

投稿者勝山 翔太

投稿者勝山 翔太

長野県生まれ。
身体や絵、色などで表現したり、つくったりすることが好きですが、これといって決まったスタイルがあるわけではありません。そのときの自分が「心地よい」とか「よりよい」と思うカタチで表現するようにしています。 風越学園にくるまでは“健康”というキーワードを軸に、ちがった分野の世界をわたり歩いてきました。学生時代からのテーマは『究極の健康づくり』、自分らしくいることで幸せな毎日を過ごしたいと思います。
ダンスを通して子ども〜大人まで伝えたり関わったり、舞台に作品を出したり、自分自身も大小様々な大会に現在もチャレンジしています。かたまった表現にならないように新しいものに出会ったり、こわしたり、つくることが好きです。

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